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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第121話 解除の勇者

 剛谷は、国民達からの信用がバラバラに砕けていくのを感じていた。だからこそ、何としてでもあのふざけた生物を殺さなくてはならない。それを止める美香に更に怒りを燃やしているのだが、



「がぁッ!!てめッどうやって俺の聖剣特性を掻い潜って聖鎧を……しかもなんで聖鎧に張り付けてた『呪い』が無くなってやがんだ!?」

「情けないけど、友達に手助けして貰ったんだよッ!はぁッ!!」

「ぐぁ、くっそがぁッ!!」


 剛谷が振るう剣は、前まで力任せに振るっていた美香と同じものだった。なんせ彼はラダリア侵攻が終わった時から自分をまったく鍛えていない。使っていない剣技は、幾らランクが高かろうが、鍛え、修行している人間の同ランクとは違う。

 彼が美香に押されているのはステータス差もあるが、圧倒的な戦闘経験値の差が2人の戦闘に多大な影響を出していたのだ。



 勇者である剛谷が同じく勇者だった美香に押されているのを見ている信者達。出来ることならば彼等も微力でも良いから手助けをしたかったが、日々普通の生活を歩む彼等には、2人の戦闘はとてもじゃないが数の暴力でどうにかなるものではなかった。そして、



「巫女様ッ!!どうして我等の前に……」

「何故止められるのですッ!!」

「貴方達には見て頂かなくてはならないからです。他の人達と同様、あの映像を」

「そんな……真実なのですかあれはッ!?」


 その言葉に、シエロは眼を見開き信者達を再度見つめた。『神眼』のスキルを発動したその眼は、金色の波紋を映している。



「私と女神、そして聖龍の名に懸けて真実だと誓います」


「「「……」」」


『神眼』を持つ巫女の言葉は、この世の誰よりも信用に値するスキルだ。そして、巫女であるシエロの人望はこの国で誰よりも、教皇よりも厚い。確かな意志を感じるその眼光に晒され、信者達は冷や汗を流しながら頷く他無かった。



 そしてそれ等のやり取りがされている間も、アイドリーによる公開処刑は続く。


『そっかー剛谷君も辛かったんだねぇ、けど、だからって癇癪で国を自分の自由にしちゃいけないよ?国民さん達だって自分の生活があるんだから。あ、あっちの紙に何か書いてあるね。えっとなになに?「勇者剛谷の銅像の建設計画」?そういうのは偉人的な政策をしてからだと思うなぁ。それに勇者の銅像って自分のだけ?皆頑張ってたんだから皆の分を建てるべきだよッ!!』


「やめろぉぉぉおおーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!」



 自分で考えた物の筈だが、こういう紹介のされ方をされて顔が赤く染まる剛谷。焦って慌ててまともに美香との戦闘に集中出来てない。



 それでも叫ばずにはいられない。完全に黒歴史ノートの一文を見られている気分なのだから。


「がぁあああ聖剣特性ッ!!!」

「させないッ!!聖剣特性ッ!!」


 お互いが聖剣特性を発動し、式場が眩い光に覆われて行く。クアッドは被害が国民達に出ないよう、『S.A.T』モードのアリーナと協力して攻撃を弾く透明な結界を広場全面に張っていた。




 レーベルはとりあえず教皇の隣で観戦中だった。教皇はレーベルをジロジロと見るが、まったく気にしている様子は無い。


「お、お主達は何者なのだ?」

「なーに、ただの雇われじゃよ。まぁ今はこのパーティを楽しむが良い、我が許す」

「……そうか。ならばそうさせて貰う「教皇よッ!!」……マクゲイルか」

「なんじゃあの駄肉の塊は、マズそうじゃのう……」


 騒ぎを聞きつけ飛び散る汗に気にする暇なく走って来た枢機卿は、ゼーハーと息を整えながら、教皇に詰め寄っていく。


「げひ……げひ……なぜ、なぜこの事態を止めないのですッ!?貴方は未だ国を導く存在の筈、こんな混乱の中で動けずして何が国を背負って立つ男かッ!!」

「そうは言ってもな枢機卿……ほれ、これがあってな」


 チラっと見せた奴隷の首輪を見て、ならばその首輪に命令しようとする枢機卿だったが、



「おじいちゃん、これ邪魔でしょ?外してあげますね♪」



 横からアリーナが来て指で触れると、カチャっという音と供に首輪が外れ、地面に落ちた。


「……ひっ…ひっ…!?」


 真っ赤になっていた顔色が青白く変わりながらガラクタになった首輪を目が飛び出る勢いで見る枢機卿。そのまま目線を教皇に向けると、教皇は非常に嬉しそうな顔になりながら首輪を取った少女を見ていた。


「ありがとうお嬢さん。とても開放された気分だ」

「なら良かったです。良ければ、シエロと一緒になって国民達にあの子の映像を見させて欲しいんだけど、お願いできますか?」

「ああ、勿論だ」

「なぁッ―!?なにを言っ『あーーーーッ!!見て下さい、枢機卿が何か変な物を見ていますッ!!』ふげッ!?」


 教皇の言葉に反論しようとしたが、映像の中のアイドリーの言葉に思わず視線がそっちに行き、今度こそ息が止まる。



『あれは……なななんとッ!?裏帳簿ですッ!!うわぁ~これは酷いですね。えーと…教会の寄付金の2割?各国からの支援金もかなり貯め込んでいたようです。駄目だよ枢機卿さん?皆が頑張って働いたお金なんだから、ちゃんと国民の為に使わないと。勇者教は皆が幸せを目指す宗教なんでしょ?』



 映し出された肉ダルマの男を物理的に殺しそうな氷河の視線という槍で突き刺していく信者達。枢機卿は袋叩きにされると思い逃げ出そうとするが、肩を凄い勢いで掴まれ、痛みで膝を落とした。その手の主を見ると、


「どこへ行くのだ?……ランド・マクゲイル枢機卿殿?」

「ま、ま、ま、マリアニ…なんで……それにき、貴様等まで、魔物にく、く」

「喰われたと思ったか?そうだな、お前は勇者と共に我等騎士団と、貴様と同じムジナの司教達が雪山に消えて行く光景を見ていたのだからな……文字通り地の底から這い戻って来たぞ、この守銭奴がッ!!」

「げびぃッ!!」


 なんと縄に繋がれた状態の司教達が他の騎士団員に連れて来られ、全員揃って地面に膝を付かされた。アリマニは教皇の前で膝を付く。


「教皇様……大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした……」

「謝るでない……良くぞ無事に戻ってくれた。お前達も一緒にあれを見ろ。こんなに愉快な気持ちになったのは初めてだ」

「は、はいッ!!」


 そこにアリーナが音声拡大の出来るマイクを作り出し、教皇に渡した。教皇はそれを持ってシエロの横に立ち、国民達に、信者達に一言、「皆、あれを静かに見よ……」と言って黙る。


「お父様……首輪が……」

「見守ろう。話はその後に……」

「……はいッ!」



『はい、こちらは地下探検隊のアイドリーでありますッ!ただいまアリマニ聖騎士団長様へのインタビューをしていたのですが、なんと、枢機卿だけでなく、司教達も横領をしていたようなのですッ!!アリマニ様、本当でしょうか?』

『ええ、この者達は全員白状いたしました。我々は枢機卿と勇者剛谷の乗っ取りにより雪山への追放をされましたが、昔から存在する国の地下施設に逃げ込んでいたのです。当初は協力して教皇を奪還する姿勢でしたが、アイドリーさんの協力により司教達の罪が発覚しました』

『だそうですッ!!以上、地下探検隊からでしたッ!』


 まさかインタビューを受けて出演しているとは思わなかった教皇とシエロは、しっかり薄化粧をしているアリマニの映像を見て、実際のアリマニに目を向ける。


「出てたの?」

「出ておったのか?」

「……出てました」


 テレッテレの彼女の顔を見てクスリと2人で笑い合い、また画面に目を向けた。次に映し出されたのは、シエロのスパルタマナー教室だった。白いテーブルの上に出された料理の数々に、一向に手を付けられない剛谷に、シエロがひたすら指摘をしている場面が国民の眼に映った。


『これは、剛谷君が次期教皇になる為に、シエロちゃんが心を鬼にして指導しているところですね。教皇になる為にはまだまだ沢山覚えなければならないことがあるそうなのですが、剛谷君は既に辟易としていますッ!!気持ちは分かるけど貴方は未来の国民信者達を率いて行くんだから、このぐらい涼しい顔してこなさないとッ!がんばッ!!』


 2人が言い合う場面で、遂に言ってはならない事を彼は口走ってしまった。


『夫を支えるのも妻の役目なのです。これから結婚する相手と言うならば尚のこと私は言わねばなりません。でなければ周りが納得しないのです。貴方が何か一つミスを犯せば、笑われるのは国民全員なのですから。貴方は国の顔となる以上、全てに置いて完璧であろうとしなければならない。それは私と婚姻を結ぶ上で避けては通れない道です。拒否をすると言うならば、私も拒否せざる負えなくなります』

『んなっ……く、国がどうなっても良いのかよッ!!教皇も殺すぞッ!!』


「嘘だッ!!そんなこと俺は言ってねぇッッ!!!」

「黙ってなさいッ!!」

「テメェも邪魔なんだよこの役立たずッ!!ちくしょうがぁーーーーッ!!!」



 美香にどれだけ『呪い』を飛ばしても、美香に触れる前に『呪い』は全て消えて行く。それが美香の聖剣特性、『解除』の力だった。


『解除』の効力は主に2つ。1つは『状態異常』と『スキル』の解除。状態異常の解除はその名の通りだが、『スキル』とは、その効果を『解除』することが出来る。これは剛谷にとって最も刺さる。何故なら『呪い』スキルは常時発動型であり、一度解除されるとスキル欄から消えてしまうからだ。


 元々は朝比奈が決めた派遣の際の組み合わせ。美香には、いざという時の抑止力として動いて貰う為ということだった。だからこそ、それは彼女の理想通りに発揮されることになる。そしてもう1つ。


「あぁあああああッ!!!」


 ッカ……シィィィィン……



「……何度やっても一緒だよ」



 型もへったくれもない剣の一撃は、当たる前に『解除』されてしまう。


 もう一つの効果、それは『物理無力化』である。美香は相手の攻撃を物理に限り完全に防ぐことが出来るのだ。物理攻撃は『解除』されてしまうと、その攻撃の結果生み出される衝撃は全て無かったことになる。

 その為、剛谷は美香に対して魔法でダメージを与えるしかない。だが、美香の動きに付いて行けず、まともな詠唱さえする暇も無い。ステータス差でも勝てず、近接でも劣勢。


 完全に詰みだった。

 

「ぐっ……はぁ…はぁ……てめ、なんで、そんなに……」

「この半年余り、私がどれだけ鍛えたと思ってるのよ。貴方を倒す為に、私はずっと戦ってきたの。もう、クラスの皆が戦ってた時に怯えていた私じゃない。もう役立たずじゃないッ!!」


 美香は、シエロと逃げてアイドリーと出会ったあの日から、一度として訓練を欠かした事は無い。それに比べて、剛谷はレーベルラッドに来てからの数年、高いステータスの為に胡坐を掻き、体力が激減していた。


 美香の強さや体力は、旅路の間、ラダリア、アモーネのダンジョン、そしてアイドリーズとの修行によって培った強靭な経験と共に蓄積されている。負ける筈が無かった。覚えたての技すら使う必要も無い。



「てめぇが……てめぇが俺を見下すなぁぁーーーーーッッ!!!」


「いい加減に正気に戻りなさいよこの馬鹿ッ!!」



 美香のは遂に剛谷の聖剣を弾き飛ばし、スキルが切れた状態の彼に顔面を、殺さない程度に思いっきり顎に向かって、拳を振り抜く。


 ガッコォォォンッ!!


「おごッ!!」


 頭を揺らされ、視界がぶらつく。何とか意識を保とうと感情の力で美香を睨み付けようとするが、限界だったのか、糸が切れたように、倒れた。


 美香はそれを見届けることなく背を向け、親友の顔を見ながら高らかに拳を突き挙げる。



「勝ったよッ!シエロッ!!」

「はい……私の勇者様ッ!!」




 そして剛谷の横で、何故かクアッドがゴングを打ち鳴らし、レーベルと教皇が飲み物をぶちまけながら喜んでいた。



『それでは以上、わたくしアイドリーからの放送でしたッ!!』

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