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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第120話 挙手から始まる公開処刑

 その日、街中には1人として国民は居なかった。国の門は閉じられ、何者も入る事を拒んでいる。それは、今日この日を国民達は何よりも待ち詫びていたからだ。


 再び勇者の血を迎え入れる、この記念すべき日を。



「「……」」

 シエロと剛谷は、お互い一言も発することなくお互いが着るべき服を着てお互いを見ていた。黒髪黒目、この1週間で更に眼が濁った剛谷は不釣り合いな程の白いタキシードを着て髪をオールバックにしていた。

 シエロはシエロで、マーメイドラインのウェディングドレスとレースを完璧に着こなし、その唇にはサンライトレッドの口紅が塗られていた。剛谷にとっては黙っていればこれ以上無い程自分には勿体ない美少女だった。シエロの歳は15歳。前の世界なら犯罪である。


「綺麗……だ。へへ、何だよ、やっぱ可愛いなぁシエロちゃんは……」

「そう言って頂けると嬉しいです。今日は記念すべき国の新たな門出ですから、剛谷様の浮かれる気持ちも分かります。その御姿も、勇者特有の色合いと合わさってお似合いですよ?」

「そ、そうかッ!そっかぁ嬉しいなぁ~~♪」

 昨日の事はなんだったのか、剛谷はシエロの言葉に今までの苦しみを全て無かったことにしてしまいそうになる。今日は多少だが、彼女は笑顔だったからなのも大きいが。


 だが、やはり釘は刺される。


「しかし、国民の前では威厳ある顔付きをお願いしますね。1週間前の時の様に……」

「ああ、勿論だッ!!」


 そこに枢機卿が短い足でチョコチョコ歩きながら姿を現した。今日は特に宝飾品で身体を固めており、歩く度にジャラジャラとした音を立てている。その音が不愉快に思ったのか、2人は顔を顰めてその姿を眼に収める。

 枢機卿はその音を立てながら深く……腹が邪魔で腰が曲がらないが、とにかく礼をしながら言葉を吐く。

「勇者殿、時間にございます……」

「あ、ああ……そうか。じゃあ行こうぜ、シエロちゃん?」

「……ええ」


 剛谷が腕を出すと、シエロは控え目に手を掛けて歩き出した。






 大聖堂の前には、国民や観光客で溢れ返っていた。入口前には特設の式場があり、各国の大使が参列し。その間を神父が歩き、国民達の前に出て来る。



「これより、婚姻式を執り行うことを宣言する。まずは新郎。勇者、剛谷・千次様のご入場となります」



 静まり返る式場の中、神父の声と共に1人の男が堂々とした振舞いでその姿を現した。国民達のヒーロー、『剛谷 千次』である。参列者達からは拍手が、そして国民達から祈りが送られてきた。神父がそれを手で治めると、次を呼ぶ。



「続きましては新婦。巫女、シエロ・フォルブラナド・レーベルラッド様のご入場です。付き添いは、現教皇。カイルス・フォルブラナド・レーベルラッド様になります」



 今度は参列者も立ち上がり、国民達は全員跪く。全国民が初めて見た、教皇の顔は、シエロと同じ銀髪で、短く整えられていた。髭はなく、瞳の色も娘と同じである。教皇は微妙に足元がふら付いているが、シエロに支えながらしっかりバージンロードを歩んでいく。その顔は、どこまでも険しいままだったが。



 その道の中、父カイルスはシエロに目を合わす事なく言葉を交わす。


「つくづく……済まぬな」

「いえ、お父様は何も……私も謝らねばなりません。もっと、彼と向き合うべきでした。予言に頼らずとも……」

「いや、あれは性急過ぎた。私もまともに対応出来んかったしな。次は、もっと対策を練ろうと思う……」

「ええ、そうしましょう……それと、多分これから荒れますが、ご容赦を……」

「…………お前を信じるさ。関係無き者達は守れよ、いいな?」

「無論です、では……行って参ります」



 それで親子の会話が終わる。だが、それだけで良かった。2人は、共に重い使命を背負っていきてきた親子であり、敬虔なる信者の2人なのだ。誰よりもその絆は厚く、強固故に、気持ちは少ない言葉でも十分に伝わる。


 そして、父の手を離れシエロは勇者の隣に立つ。神父はそれを確認すると、静かに聖書の一節を朗読し、続けて、結婚の誓いが始まった。



「汝。新郎、千次よ。あなたは新婦シエロが病めるときも、健やかなる時も、嘆きの底に居ようとも、生涯その愛を持って支え合い、死が2人を別つその日まで、共に生きることを此処に誓いますか?」


「誓います」


 剛谷は緊張で身体が震えながらも、何とかその言葉を吐き出した。次に神父は、シエロに目を向ける。



「汝。新婦、シエロよ。あなたは新郎、千次が病めるときも、健やかなる時も、嘆きの底に居ようとも、生涯その愛を持って支え合い、死が2人を別つその日まで、共に生きることを此処に誓いますか?」


「………誓います」

「ッ!!」


 多少躊躇ったが、その言葉が出たことにより剛谷は心の中でガッツポーズを決めた。これでもう邪魔出来る者は居ない。後は夜に散々分からせてやるだけであると下卑た考えが浮かび始める。


 そして神父が、この誓いを国民達に問うた。



「今日この場に参列する皆の中に、この結婚に正当な理由を伴って異議申し立てのある者は居ますか。もしあるのならば挙手を、無いのならば沈黙を…………」


 当然のように沈黙を選ぶ民衆。誰1人として音は発さず、今か今かとその契約が結ばれることを望んでいた。時間にして1分。静寂を破る者は居ないと判断した神父はそのまま進もうと目線を下に移そうとするが、





「異議あーり」





 そこに1人、手を挙げる者が現れた。見間違えでもない。聞き間違えでもない。女性の声と共に静かに挙げられたその手は。国民達の間からであり、一斉にその手に従い、式場までの道が開いていく。

 全員が唖然とする中、その人物は白いローブを見に纏い、深々とフードを被った状態でその中を歩いていく。早くも無く、遅くもなく、数多の視線に晒されながら歩き、式場まで上がって来たその人物は、バージンロードの入り口で立ち止まった。


 神父は、初めての経験ではあったが、努めて冷静に問い掛ける。


「汝の名を申せ。そして、異議の理由を述べよ……」



 その問い掛けに、彼女はまずフードを脱いだ。


「「「おぉ…」」」


 その人間離れした美しさと愛らしさに思わず感嘆の声を上げる国民達。しかし信者の多くは親の仇のように睨み付けている。この式を荒らさんとする者へ。



「私の名はアイドリー。シエロ・フォンブラナド・レーベルラッドの願いにより、今日此処に参上した者です。そして異議の理由ですが……こちらを見て頂ければその理由が分かります」



 取り出したるは、大玉の水晶だった。その言葉と出した道具に、その場に居合わせていた何人かの商人が、それが何なのか理解した。


 だが、勿論のこと、その上映を邪魔しようとする者が居た。


「待てッ!!貴様は巫女を誑かした大罪人の仲間だろうッ!!!」


 剛谷にそう言われ、国民達はその場に連れて来られて地面に跪いていた3人に目を向ける。そしてもう一度人物に目を向けると、更にその眼をぎらつかせた。



 だが彼女は慌てない。決して揺るがず、そよ風の様に受け流して続ける。



「今から見せる物は、その誤解を解く為の物でもあります。なので、是非一度見て頂きたいのです……そして」



 フッ……とアイドリーの姿がその場から消えた。どこに行ったと騒めきながら全員が探すと、頭上から光が当てられている事に気付き、顔を上げて行く。



 大聖堂のステンドグラスの中心に、光り輝く何かが居た。それは水晶の上に立っており、ピンク色の粒子を放ちながら全てを見渡している。



 そして一際大きい光を放つと、水晶から青い光が溢れ、巨大な画面となって空中に出現した。その画面には、人々のまったく知らない生物の姿が映し出されている。だが、それがあの小さな生物なのだと、誰もが思った。その生物の眼は渦を巻くような虹色のグラデーションをしており、国民達の眼を釘付けにしてしまった。剛谷も眼を離せず、茫然としている。


 そして、画面の中の彼女が、自らをその記憶に焼き付けさせるように、言葉は脳の隅々まで届くように、極めて良い笑顔で言った。



「もう一度自己紹介をしましょう。私の名はアイドリー、予言の巫女を不当な婚姻より救出しに来た『妖精』です」



 拡大された声が響き渡る。そしてアイドリーは、水晶の録画を再生した。よく見えるようにする為なのか、幾つもの画面がいたるところに発生し、


 そして、タイトルが出た。




『ドキドキ♪勇者様の実態に迫るアイドリーの1週間ッ!!枢機卿も出るよ♪』




 公開処刑の始まりである。



 ポップな感じの背景音楽と共に、アニメ調のアイドリーが姿を現し、あろうことかナレーション付きで編集した映像を流し始めたのだ。当然ハッと正気を取り戻した剛谷が大声でそれを止めろと抗議をするが、音声拡大された音の所為で全て消される。



『こんにちわ皆ッ!私妖精アイドリーっていうの、よろしくね♪今日は友達のシエロちゃんが困ってるって言うから、私『ちょっと』頑張ってそのお困りっちゃう原因を調べてみたんだ♪まずはこれッ!!』



 映像が切り替わった。場面はシエロ達が教皇の救出に失敗した時だ。クアッドの提供でちゃんと音声付きである。


『会いたかったぜ~シエロちゃん?……大方そのおっさんを救出して俺から国を取り戻そうなんて考えてたんだろうけど、ただの冒険者やら傭兵風情が、しかも桜田如きが俺に勝てる訳じゃんッ!!あ~~~もう再開のサプライズとしてはさいっこうだったぜシエロちゃんよッ!!』


 一気に剛谷の顔が青くなった。勇者に国を奪われた?っと国民達は錯乱する。


 そこにアニメ版アイドリーが補足説明を始めた。この番組は全編通してこんな感じらしい。



『シエロちゃんは勇者に結婚を迫れて、嫌なら呪って魔物の慰み者にしてやるって追い出したんだってさ?酷いよ、純粋な女の子にそんな呪いを掛けるなんて!!だからシエロちゃんは美香ちゃんに助けて貰って、ガルアニアに居た私の下まで来たんだよ?だから私が妖精の力を使ってその呪いを解いてあげたのッ!』



 パラパラと紙が落ちて来たことに気付く国民達。その紙を広げると、ギルドが発行しているステータス表だった。そこにはシエロの呪いの解かれる前と後の表記が載っている。


 無論、アイドリー製である。


『それで私の仲間と一緒に教皇様を救出しに来たのがこれってことだね。おじいちゃんを捕まえた人がとっても強くて失敗しちゃったけど。皆もう助けたからモーマンタイ♪』


「はぁぁーーーーッッ!?!?!?!?」



 指を1回転すれば、ハリボテゴーレムの3人の姿が消え、ドロンとピンク色の煙と共に式場の特設ステージの上にフードを被った4人組が登場した。


 しかも1人は『聖鎧』を見に纏っているのだから、顎が外れるぐらい開いて驚く。


 次の場面では、教皇の椅子を蹴り飛ばし、新しい聖書の作成と剛谷の慟哭が映った。その瞬間剛谷が完璧にキレて『聖剣』を発動し、マジックボックスから『聖鎧』を呼び出し身に纏ったが、


「行かせないよ。剛谷ッ!!」

「桜田……てんめぇえええええええええええええええッ!!!!」


 美香は、今度こそ剛谷と相対する。





 その頃、その事態を見守っていた日ノ本は、奴隷の首輪を通して誰かと話していた。


「何故介入しなきゃならないんだい?あれは正当性を持っている。あのまま終わればレーベルラッドは本当の意味で平和を取り戻すと思うんだけど……ああ……っち、分かったよ。仰せの通りに第一位様、死ね」


 そう言って通信を切り、日ノ本は大聖堂の屋根の上から、アイドリーに向けて聖剣を溜息ながらに解き放つ。


「はぁ……見事なジョーカーだけど、どうやら上は許してはくれないらしい。ハッピーエンドに出来ない僕をどうか恨んでくれ……」


「まぁまぁお姉さん。そんな怖いこと言わないで私と遊ばない?」

「……おや?」


 何故か先程消えていた筈の『本体の』人間アイドリーが日ノ本のすぐ横に立っていた。というより音も無く隣に現れていた。日ノ本は肩を掴まれていることに気付き、聖剣特性を発動しようとしたが、


「……お……っと?」


 視界がいきなり切り替わり、何故か雪原のど真ん中に自分が立っている事に気付く。


 瞬きはしていない。本当にいきなりだったのだ。呆気に取られるが此処は異世界。すぐに頭を振り状況判断をする。

(さっきのは転移系の魔法、もしくはスキルを使ったのかな?だとするなら彼女の目的は足止め?いや、あの老人から僕のステータスの事は聞いている筈だ……)



「まさか……タイマン張ろうって気なのかい?」

「そのまさか、かな」



 アイドリーは真正面に現れた。光輝く剣を構えて。そして、そのステータスはただ一つの『スキル』以外は、一つも隠されることなく日ノ本の『鑑定』に晒されていく。


 

アイドリー(3) Lv.1340


固有種族:次元妖精(覚醒+):聖剣開放(ステータス×10倍)


HP 3億0665万9980/3億0665万9980

MP 6億3600万0230/6億3600万0230

AK   34億2803万9000

DF   31億1009万0100

MAK  5兆4226億9990万4440

MDF  5兆2308億7703万4000

INT   7100

SPD   2兆0122億6905万5000


【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存 

       聖剣(第2段階)真・聖鎧(休眠状態)


スキル:歌(S+)剣術(EX)人化(S+)四属性魔法(EX)手加減(S+)

    隠蔽(S+)従魔契約(―)複数思考(S+)

    

称号:ドラゴンキラー 古龍の主 反逆者 バトルマスター  ●・●●

   ダンジョンルーラー



 息を呑む程のステータス。自分の知らないスキルの数々。聖剣や聖鎧も通常の物とは違うことにも驚いた。それでも日ノ本は余裕をまだ崩さない。


「……あー…なんというか。色々ツッコミどころ満載なステータス、だね?」

「うん、そういう反応されるとは思ってたよ。けど、貴方も強いね」

「ああ、まぁこれでも一応は3番目に強い勇者だからね……けど、僕の強さはステータスじゃなくてスキルなんだよ。さっさと止めに行かないといけないから、残念だけど自慢のステータスを発揮させずに終わらせて貰うよ」

「話し合う気は?」

「残念ながら」



 この時、日ノ本は分かっていなかった。自分が相手にしている存在がどれだけ理不尽かを。


「聖剣特性……発動」


 そして……半径100m以内の空間が―――――――止まる。

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