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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第119話 決戦前日

 婚姻式まで後1日。聖鎧を奪還したことがバレてないってことは、どうやら気付いてはいないらしい。まぁ警備の人を気絶させず、物音1つせず、誰の眼に映ること無くやったからね。警備の人が塔の上まで確認しに来ない限りは誰にもバレないだろう。登った瞬間『呪い』を受けるし。


 そして今日の朝。雨が降る中美香にお弁当を渡しに行ってみると、大の字で鼻提灯出しながら寝ている美香の姿を発見した。


「ぽよ~ん♪」


 こらこら、汚いから提灯を触らないの。しかしアイドリーズの姿が見当たらないのを見ると、どうやら無事倒しきったらしい。やっぱり聖鎧があるとかなり違うのかな。アイドリーズの攻撃では全て防がれるだろうから、割りと楽に勝てたことだろうしね。


「ほら、美香~終わったんなら帰るよー」

「ん~~~……、後地球一回転……」


 それ丸1日ってことじゃん。後ここ地球じゃなくてアルヴァーナだから他の人には通じないよ?


「しょうがない、このまま持って帰ろうか」

「では、私がやりましょう」


 クアッドの妖精魔法で美香が浮遊し、またいつものようにレーベルラッドへ帰っていく。今日は徹夜になりそうだから頑張らないとね。



 


 アイドリーは、全ての分身と半身を集めた。そして持っていた『録画水晶』に『妖精魔法』を掛け、その全てを融合させていく。更に『妖精魔法』を使い、水晶の中に妖精の姿で手を突っ込みながらコネコネと何かを始めた。


 アリーナが興味深そうにそれを横で見ているので、アイドリーは今やっていることを説明し始め、皆もそれに耳を傾ける。



「これは今まで撮った映像を、全部繋いで編集してるんだよ。明日これ使って全ての国民に真実を伝える予定だからね。まぁ楽しみにしててよ。きっと楽しいと思うから」

「とんでもなくえげつない物作りそうな気がするのは気の所為かのう?」

「大丈夫、ノリだから悪いものは出来上がらないよ、多分」


 まぁ流石に1週間分だからそう簡単には終わらないけど、そこは私の『空間魔法』と『妖精魔法』を使って私の知覚スピードを速めれば良いだけである。しばらく使ってると頭痛が発生してすぐにボンッといくので、

「ということでよろしくアリーナ」

「んふぃ~♪」


 ダキッ


 秘技、「あすなろ抱き、愛の言葉を囁いて~」が完成した。本当に何故だか分からないけど、アリーナが頭を撫ででくれたり抱き締めてくれてたりすると頭の痛みが取れるから、今日1日はこうやって過ごす予定である。

 耳元に聞こえて来る至近距離のアリーナの「がんばれ♪がんばれ♪」が私の色んなボルテージを上げてノリ力が増していくのが分かるよ。




 その様子を見ていて、美香は心底思ったことを口に出す。


「……アイドリーって本当に妖精なのかなぁ?」

「知らん。まぁ我等は明日に向けて英気を養うべきじゃからな、美香も今日は寝ておけ。まだ身体が怠いのではないか?」

「んーまぁ、ね。じゃあそうさせて貰うよ。おやすみ~」


 そう言って布団でまた鼻提灯を出して寝始める美香。レーベルはどうするかと考えを巡らせると、横から紅茶の入ったティーカップが出て来た。


「レーベル殿、よろしければいかがですかな?」

「おうクアッドよ。良いタイミングじゃな……うむ、美味い。よし、今日は囲碁で勝負するとするかのう?」

「ええ、お相手仕りましょう」


 そうして2人は紅茶を飲みながら盤を囲んで一礼し、優雅な午後が開始された。






「巫女さん、今日は彼と一緒ではないんだね」

「ええ、静かな1日を過ごさせて頂いております。貴方は……お疲れのようですね」


 明日は婚姻式だというのに、剛谷は遂にシエロの前に現れなくなった。躾をしようと殴っても、一向に折れる気配の無いシエロに恐怖を抱き逃げたのである。そもそも自分の好きな女に暴力を振るうという行為ですら昔の彼には出来なかったのだから、後から来た罪悪感で逆に自分が苛まれていたぐらいだった。


 そこに、遂に聖書の作成が終わった日ノ本が姿を現す。顔の半分が髪に隠れてしまっているが、見えている眼の下が真っ黒なので、ほとんど寝ていないことが分かる。シエロは彼女を椅子に座らせ、紅茶の準備を始めた。


「まぁね。君が帰って来てからが一番疲れたかな。まぁそれも終わったから、明日の婚姻式が終われば暫くは寝ていられるよ」

「……1つ、聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

「ん、何かな?」


 2人分の紅茶を入れながらシエロは質問する。



「貴方は、それを外せる存在が近くに居て、外してくれたならどうされますか?」

「……………へぇ」

「ッ!!?」



 初めて、日ノ本はシエロに向けて威圧感を発した。部屋が軋み始め、ティーカップに一筋の罅が入る。豹変したその雰囲気に、シエロは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「それは、出来ると判断して良いということかな?だとして、そんなことを聞いてどうするんだい?」

「……私の仲間の1人。貴方のそれを解除することが出来る人物が居ます。確定事項ではありますが、彼女は明日行動を起こすでしょう。その時、立ちはだかった貴方のそれを迷わず外すと思います。そうすれば貴方は自由の身になれ「駄目だ」えっ?」


 椅子を立ち、シエロを見下ろす日ノ本の顔は、悲しい笑みを浮かべていた。



「ありがとう、君のその言葉は一瞬でも僕の心に安らぎをくれた。けど勘違いがあるから訂正しておこうと思う。僕のこれは確かに『縛り』でもあるが、同時に『抑制』でもあるんだよ」

「……抑制」

「これ以上は言えない。けど、もし連絡が取り合えるなら今すぐ止めるのをお勧めするかな。もしこれを外せば、レーベルラッドは即座に滅ぶからね……じゃ、紅茶美味しかったよ。お休み」

「ま、待って下さいッ!!それはどういうことなのですッ!!」


 しかしその答えは返って来ることなく、日ノ本は笑顔を貼り付けたまま、逃げるようにしてシエロから姿を消した。



「……一口も飲んでないじゃないですか」

 扉が閉まったと同時に、ティーカップは真っ二つに割れた……




「ん~ふ~ふふ~んふ~ふ♪」


 日ノ本は廊下を鼻歌交じりに歩いて、さっきの彼女の言葉を思い返していた。


(外したらどうするか、か……そうだなぁ、とりあえず誰も居ないとこに行って静かに暮らしたい。綺麗な花畑と湖があれば尚良い。そこに小屋を建てて、木の下で椅子に座って本を読みたい。そこで残りの余生を過ごせれば文句無しだね)


 既に老後の計画のような考え方だったが、それが絶望的に無理だということは本人が一番良く分かっていた。先程の言葉は脅しではなく、純粋にそうなると確信を持っていたからだった。だからこそ、出来ればその人物と会わないことを切に願っていた。


「それが『縛り』だけだったなら……あるいは果たせただろうにね……」





「くそぉ……ちくしょうぅ……なんで上手くいかねぇんだよぉ……」


 その頃、雷が鳴り響く中、剛谷は自室に引き籠って泣いていた。何をしてもシエロを自分の好きなように出来ず、何を言っても否定された。いや、否定というよりは直すべき場所を、自分の駄目な場所をひたすら指摘され諭されるを繰り返すだけだった。


 耐え切れなくなって逃げ出したが、明日は婚姻式なので必ず顔を合わせなければならない。此処に来て剛谷は、やっと自分から袋小路に入ってしまったのだと気付き後悔する。綺麗な女を好きにすることだけを念頭に生きてきただけに、全てにおいて穴だらけだったことを恥じる。

 だが、それでも彼は止まれない。社会人経験すら無い彼に、仕事の日々など耐え切れない。だからこそ異世界転移した時、彼は大いに喜んだのだから。


 しかし現実は何もかもが甘くない。結局どこに行って何をやっても彼には一緒だった。


 こんなことをしていたくないと思っていたのは確かだ。しかし、それでも完全に折れていないのは、やはりシエロが居るからだ。


「大丈夫……まだ、まだ大丈夫だ……」

 あの日の光に当たって輝く人間離れした銀髪も、聴いただけけ魅了されそうなあの美しい声も、一度みれば目を離さずにはいられないあの美貌も、全て手に入るのだから。あれを好きに出来るようになるのだから。



 だが、そこに彼女の人格は入っていない。




 

「出来た~っ!!」

「しぃ~」

「おっと失礼。あー……今何時?」

「まよなか~」


 あらそんなに?アリーナもずっとその態勢でいたから疲れたでしょう?ありがとうね。


 でもこれで準備は終わった。1週間無駄に動きまくったけど、ようやく明日でこの国での仕事も終わりになる。はぁ、早くラダリアに帰ってアシア達の様子も確認したい。


 というか、ハバルでの1ヶ月を思い出したから、暫くは何もせずに遊んでいたい。


「それに、そろそろ『妖精魔法』使い過ぎて本当に頭がどうにかなりそうだしね~」

「おやすみ、しよ?」

「うん、そうする。おやすみ~~~……」

「おやしゅみ~~……zz……」


 今日もお疲れ様、アリーナ……zz




 そうして、神聖皇国レーベルラッドの、最も長い1日が始まろうとしていた。

レーベルVSクアッドの一局


「……クアッドよ。待ったは後何回じゃ?」

「幾らでも」(ニコニコ)

「ふ、ふぐぅ~~~ぐやじいのじゃ~~~」


 優雅な午後の一時でした。

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