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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第114話 何の為に生きるのか

「何か……あんまり変わらないんだね」

「それを言われると痛い……」



 あれから此処がどういった組織なのか聞いてみたんだけど、こっちはこっちでどうしようもないぐらい酷かったことが判明した。まともなのアリマニが率いる騎士団ぐらいだったよ。


 まずアリマニ以外の3人は、全員枢機卿によって廃されたシエロ・教皇派の人間だった。そして、それにかこつけて教皇に取入り税や寄付金を自由に操作していたそうだ。城の文官も自分達が用意していた者なので、シエロ・教皇派の3人と、勇者派の枢機卿で財の取り合いがほとんどだったとか。



 だから私が『妖精の眼』使って最初話してたら嘘だらけだったので指摘すると、アリマニが鬼の形相で全員ボコボコにして正座させられてた。地面岩だらけだからすっごい痛そうだねぇ。



「まさか、協力してる奴等が全員枢機卿と変わらない屑だったとは思わず……すまないアイドリー殿。今までも所々おかしい言動はあったのだが……」

「あ、ああ…うん。それは良いんだけどさ。ところでこの地下って昔からあったの?」


 今となってはそっちの方が気になるんだよね。地下基地とか凄い気になる。聞いてみたら、私達が見たのは全員騎士団員らしく、いつでも動けるようにしているらしい。



「ここは数年掛けて改造した地下空間になる。元々は国が魔物による災害の危機が陥った時の緊急避難場所、もしくは反撃用として使われていたのだが、今は我々騎士団員とこいつらの寝床として活用していた」

「勇者が居るのに避難所?」

「勇者がこの国に来たなんてもう数百年も前、それこそ国が生まれた時以来だぞ。だからこそ、昔からこの国は備えているのだ」



 なるへそ。今更だけど、ここって別に勇者発祥の地じゃなくて『勇者を信仰した人が集まって出来た国』なんだもんね。勇者が必ず居る筈もなく、戦うのも守るのも『国民達自身』でやらなければならない。

 今でこそ『勇者』そのものが存在しているけど、勇者教は勇者の為にある宗教じゃない。



「で?計画ってのが枢機卿を暗殺してのシエロによる勇者の懐柔って……肝心のシエロが来なかったらどうしてたのさ?」

「いや、シエロ様は元々戻って来るつもりはあったのだ。ただ、それが何年後になるかは丸っ切りの未定だっただけでな。だからこそ予言を信じて我等は待っていた」


 それはそれで信仰心溢れていることで。けど無謀な特攻をさせる前に来れて良かったよ。じゃあ確認しようか。


「アリマニは本来あるべきレーベルラッドをシエロと取り戻したい、ってことで良いんだよね?」


 アリマニが頷く。んー…勇者はどうにか出来る、本来あるべきレーベルラッドも取り戻すことは可能。問題は運営か。

「私としては、シエロが将来結婚するであろう相手が教皇になった時、貴方達がきっちり支えてくれる存在となってくれれば一番良いんだけどさ。居なくなられたらそれはそれで困るしね」

「それは任せろ、次横領やら何やらが発覚した場合、即座に私が首を刎ねるので」

「「「えっ!?」」」


 ギロリと睨み付けるアリマニに、苦言を言おうとした3人が黙る。


「今までの地位とかはそのままでも良いよ。必要最低限を残して没収ね。もうやらないでね?シエロの『神眼』にバレないようにやってたんだろうけど、シエロもかなり鍛えられたからね。これからは即座にバレて……ああなるから」


 剣の一撃で机を綺麗に真っ二つにするアリマニ。3人は玩具のように首を縦に何度も振って了承した。よし、これで話し合いは終了だ。


「それじゃあ私達は1週間後の婚姻式の時に本格的に動く予定だから、何かあったら私達が泊まってる宿屋に来てよ」

「ああ、そうさせていただく」



 私達は厚い握手を交わしてその日は別れた。そろそろ外の空気吸いたいわ……

「ですなッ!」






 話を聞き進め、ある程度のレーベルラッドという国を知ると、クアッドは1つの事実に行き着いた。


「私と彼等は、とても似ていますな」

「似てる?」


 クアッドは『妖精』である。歳月にして1万年1人で生きて来た『妖精』である。だからこそ自分以外の『妖精』を知らなかった。どんな風に生き、どんな風に暮らし、どんな風に笑うのかを知らなかった。


 それを知ることが出来たクアッドの最初の感情は『歓喜』、次に『好奇心』だった。半ば信仰すらしていた理想とも呼べる自分のあるべき姿。それを確かに持っていたアイドリーとアリーナ。そして自分の世界を救い、『自由』をくれた。



 なら人間はどうだろうか。『勇者』は世界を救う正しく救世主と呼べる存在。生ける伝説、神の信徒だろう。だが、その実態を知っている人間はほとんど居ない。存在はしていても、触れることの出来ない、眼にすることは許されない天上の存在だ。

 勇者教の総本山、レーベルラッドに住む人間もそれは同じこと。彼等は『世界を救った勇者』を信仰しているだけであり、その個人の『意志』に従う訳ではないのだ。本来ならば。


「数百年前、勇者の1人が訪れ、国は名を変えた。新たな龍を女神の使いとして称え、信仰も変えた。そしてそれ以来一度も勇者は訪れなかった。ならば数百年人々は焦がれた筈です。勇者の存在に、再来に」


 結果数百年後、その『信仰』が盲目的な物になったことに気付けなかった。


「私は自分の意志で、自分の思考でアイドリー嬢の旅に同行しています。それは目的があればこそです。ですが、彼等にはそれが無い。いや、あった筈なのです。ただ、歪められていることに気付いていない」

「……?つまりどういうことなの?」

「聞くべきは『勇者』の言葉ではなく『勇者教』の言葉、ということですよ」

「……?」


 結局、理想と現実は違うのだと言うことらしい、と美香は勝手に思った。





「ガッぐぁ……うぅぐ…やはりキツかったかのぅ…うおっとッ!」


 次々に自分に向かって攻撃を繰り出してくるアイドリーズに、四苦八苦しながら対応するレーベル。先程から一度も攻撃に転じる事が出来ず、ギリギリの防戦を強いられていた。


 そもそもステータス差でもほぼ差が無く、しかもそれが数十体周囲を囲んでいるのだ。普通ならば即座に殺されているところだろう。それがまだされていないのは、レーベルの戦闘経験による立ち回りと、アイドリー達の戦い方にあった。


「それでももう死にかけじゃがな……せめて1体ぐらいは倒させて貰うぞ主達よッ!!」


 ギリギリでアイドリーの剣による攻撃を躱し、自らの腕に『鱗を這わせて』思いっきり殴る。


「うらぁッ!!」


 ガツンッ!!と鉄同士が当たったかのような音と供に、1体が真横に数百m吹っ飛んだ。そのまま他の攻撃をまともに喰らいレーベルもぶっ飛ぶ。しかし顔は笑顔だった。



「けはっ……う…む。まだまだ、じゃな……」



 不完全に形成された鱗は粉々になっており、拳も割れていた。レーベルの想像している通りにはいっていない。そのままレーベルは意識を失い、額から紅い宝石が出て来る。


 アイドリーズはその宝石を手に取ると、直ぐに魔力を流し込み始めた。しばらくそうしていると、宝石は光となって形を変え、レーベルの姿となって顕現する。



「うむ。我、復活」



 今日1日で通算100回は死んでいるレーベルだったが、こうして生き返れば何度でもアイドリーズに挑み、惨敗していく有様だった。何度かアイドリーズが休みを挟もうと言うのだが、レーベルは構わず戦闘を続けた。1分1秒が惜しいというように。


「レーベル、頑張り過ぎじゃない?」


 アイドリーズ達の1人がそう言うが、レーベルは不敵な笑顔で首を横に振る。


「良いのじゃよこれで……昔祖父に聞いたのじゃが、古龍が覚醒するには、それこそ死線を何度も乗り越えねばならぬらしい。そんな事態が古龍に起こるのかどうかは分からぬが、実際に祖父は覚醒しておったからな。だから、我はそれを信じてみたいのじゃよ。新しい戦い方も極められるし、一石二鳥じゃな」


 最後の言葉を聞いてゲンナリするアイドリーズだが、レーベルは構わず武器をまた構えた。

「さぁさぁ、まだまだやるぞ主達よ。我の性根が尽き果てるぐらいまでは、付き合って貰うからのう?」

「「「えー」」」

「揃って嫌そうな顔をするでないわぶほぉッ!!??」


 そしてまた、魔法の連撃に晒されるレーベルであった……




「あれ?レーベルは?」


 暫く街を回った後、クアッド達と合流して夕食を食べて宿屋に戻って来ると、まだレーベルはまだ戻って来ていなかった。もう日も完全に落ちているのに、まだ修行してんのかな?

 と思っていたら、机の上に書置きがあったので読んでみると。


『「思いの他楽しいから永遠に戦っていたい」だそうです byアイドリーズ』


「えぇ……」

「うわぁ、戦闘狂いさんだぁ……」

「レーベル帰って来ないの~?」

「どうやら楽しいことに夢中のようです。明日お弁当を持って行って差し上げては?」

「うんッ!するッ!!」


 レーベルへの差し入れか。アリーナが甲斐甲斐しくレーベルにあーんするのかな?それを私は邪魔するべきなのかな?よし、弁当の中身の話をするんじゃない。そこには私の特性世界樹タバスコが唸りをあげるのだから。


「はい、私達は今日の話の擦り合わせしようねアイドリー」

「は~な~し~て~~~」




 ベッドに寝転がりながら、私達は今日の出来事を話し合っていた。美香はクアッドの言葉を私に全部伝えると、息を零す。


「私にはどうも理解が及ばなくて…テストいつも赤点ギリギリだったし……」

「ん~~っと。そうだなぁ、例えば、美香が好きな食べ物って何?」

「え?えっと、ありきたりだけど、カレーかな?」

「じゃあ例えば、そのカレーを信仰している国があったとするよ?カレーの作り方を日々人々に教えるのが教皇で、毎日色んなカレーを人々に教えてる訳だ」

「え……うん」

「そこに、ある日世界中に認めれたカレー作りの達人が訪れたとする。人々はその人を勿論尊敬してるし、その人のカレーを教わりたいって思うじゃん?」

「うん、確かにそうだね」


 よしよし、ちゃんと理解してるね。我ながら変な例え方だけど。けどカレーかぁ……食べたいなぁ……


「……じゅる、失礼。じゃあ更にある日、その達人は「俺はカレー作りが上手くて偉いから言う通りにしろ」と言ってきたとする。確かにカレーは信仰してるけど、カレーを作る人を信仰している訳じゃないその人達は、達人の言うことに普通は従わないでしょ?」

「……ああ、信仰する対象が違うから、その行動を縛れないってこと?」

「そういうこと。クアッドの自由性や個人の意思は、信仰によるものじゃなくて、自分の目的意識によるものだからね」


 けどこの国は違う。『勇者』こそが正しいと思い込まされてしまっている。宗教であるならば、上の人間に多少の意識の誘導はあるものだけど、その点剛谷は色々やり過ぎていた。そういうものは一度崩れれば、もう2度と戻って来ないものだというのに。


 得られる情報が少なければ、偉い者を信じるのが人の道理。もっとオープンになっていれば、疑問に思う人も出たんだと思うけどね。



「ということで、そこは教皇と私の設置しておいた物があれば何の問題も無いね。裏取りっていう意味ではこれ以上は無いかな。もう婚姻式まですること無くなっちゃったぐらい」

「えーっと……じゃあ後何すれば良いのかな?」

「美香はレーベルよりは下の辛口修行ね」

「ぎゃふんッ!!」


 え、何その古の鳴き声?あ、アリーナが凄い笑顔で返ってきた。ちくしょう分かったよ私も手伝うって。

「で、何入れるの?材料は?」

「では、この何の肉か分からない物を使いましょうか」

「そうしよ~♪」

「本当に肉の種類だけは豊富だよねこの世界……」

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