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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第113話 修行聞き込み地下探検

 レーベルにとっての屈辱。それは自分より遥かに強い相手に対して『本気』を出して戦えないことである。戦場に置いてであればそんなのは甘えた考え方であると思うのが普通だが、彼女にとっては己の全身全霊を賭けた戦いの中で負けた時こそ初めての敗北なのだ。


 だからこそ、その機会を他の者に奪われるという事態は決して許容出来るものではななかった。幾ら状況を読め、仲間を大切に出来ると言っても、彼女は古龍。生物の中では最も頂点に近い存在なのだから。



「あー……朝っぱらから使ったけど、4回目?だからか、まだマシかな。」

「すまんのう、主よ。朝から無理させてしまって」

「良いよ。レーベルの気持ちはなんとなく分かるし」


 アイドリーとレーベルは、レーベルラッドの外、山を越えて雪原の方まで降りて来ていた。人の通り道でもなく、魔物もそこまで出て来ないという条件で探して見つけた場所だった。

 目的は勿論修行なのだが、相手はアイドリー自身ではなく、アイドリーの作り出した無数の人化した分身体、『アイドリーズ』だった。半身程では無いが、戦闘能力は十分過ぎる程高い。



アイドリーズ(分身体)(―) Lv.1100


種族:魔力生物


HP 30万/30万

MP 30万/30万

AK   100万

DF   100万

MAK  100万

MDF  100万

INT  3000

SPD  100万


【固有スキル】通信 妖精魔法(劣化)


スキル:四属性魔法(S)剣術(S+)



 1匹でも十分驚異的なのに、それが何十体と居るのだ。しかしレーベルが自ら付けた注文であり、アイドリーもそれを素直に受けた。止められる者は誰も居ない。


「全部倒して良いのじゃな?」

「うん、こっちもある程度本気で行くけどね。ただ、宝石状態になったら魔力あげるようにしておくから、遠慮なくやって良いよ。勿論本来の姿でね」

「……いや、人型で良い。それが目的じゃからな」


 人型ではレッドドラゴンの時のようにステータスに補正は付けられない。素のステータスで自分の10倍以上の相手に戦おうと言うのだ。


「良いの?」

「いい加減自分の弱点を克服しときたかったからのう。ま、駄目だと思ったら素直に元の姿で戦うから気にするでない」

「ん、わかったよ。じゃあ、頼んだよ?」


 アイドリーは自分の分身体に後のことを任せると、自分は妖精となってレーベルラッドに向かって飛んでいった。それをレーベルは見送ると、改めてアイドリーズに向き直り、今では愛用のハルバードを構えた。


「では行くぞッ!!」


 そして、幾百の魔法と剣戟が、雪原より響き上がることになるのだった。






「ただいまー」

「アイドリーお帰り~♪」


 宿屋に戻ってみると、アリーナが人化している状態で出迎えてくれた。おう、顔にチッスの嵐だねアリーナさんや。私の顔が貴方の唾液でベトベトになりそうだよ。ご褒美だね。


「クアッドと美香は?」

「もう行った~」

「あら、ちょっと遅かったかな」

 今日の予定では、私達は枢機卿についての街の人の考えを聞こうという流れになっていた。で、クアッドの『妖精魔法』を使って2人の顔を変装させての活動になったのだ。私達は確認として三人の偽者に不備が無いかの確認後、適当に怪しい場所に突っ込む予定である。


「ほんじゃあ行ってみようか?」

「りょッ!!」



 2人で宿屋を出て途中買い食いしながら城まで向かう。今日はドネルケバブに似た物を買った。薄いパンに詰め込まれた肉と野菜を一緒に食べると、肉汁と野菜のドレッシングが合わさって非常に美味しい。しかし何の肉かは分からない。いつものことだね。



「さて……ああ、見ていて気分が良い物でもないなぁあれ」

「アイドリ~みえな~い~」

「見なくて良いのよ~」


 城の前にある台の上で、十字架に括り付けられていた3ハリボテゴーレムが居た。そしてその周りには信者の何人かが罵詈雑言の限りを言いながら石を投げたりしている。パッと見全然バレてないようだから、私は直ぐにその場から歩き去った。

 熱心だからこそ許せない、敬愛すべき相手を奪った大罪人。確かに非道な行いをした者には罰が必要だけど、ああやって晒し者にしてしまうというのは許容出来ないし、気分の良いものじゃない。私もかなり甘い方だから、ああいう人達と分かり合うのは難しいだろうなぁ。


 実際に、その光景を見て気分を悪くしたのか、周りの人は足早に去っていくし。良心も深いよなぁこの国……しっかりやらないとね。





 大通りの方に戻りそのまま路地裏辺りをひたすら散策していると、何人かの信者が一つの通りに入っていくのを見掛けた。周囲の目線を気にしているようだったけど、


「何かコソコソしてたね」

「怪しい感じー?」

「そんな感じ」


 ということで後を追ってみると、住宅に囲まれた行き止まりに着いた。信者達の姿は無い。何処行った?と思い見渡すけど、隠れられるような場所も無いしなぁ……


「アイドリー、すたっぷッ!」

「え、あ、うん」


 アリーナに言われて止まると、アリーナは、なんと地面に耳を当てた。目を閉じて自分の聴力で暫く静かな時間を過ごすと、何かを聴き取ったのか、がばっと頭を上げてこちらを見る。


「みっけたッ!!」

「……なるほど、地下に居たのね。というか地下通路あるんだこの国……」

『妖精魔法』で地下をサーチすると、1ヶ所だけ空洞になっている地面を発見。よく見ると手を引っ掛けられるようにしてあったので、そこを掴んで入口を発見する。今日から君は警察犬だねアリーナ。





「では、枢機卿の顔を見た事のある信者は本当に一部の人間だけなのですな?」

「そうだぜ。あんた勇者教なのに知らないのかい?」

「はは、これは手厳しい。まだ入ったばかりの若輩者でありましてな」


 私達はアイドリー嬢を待たずに先に宿屋を出て聞き取りをしていました。美香殿がどうしてもと自分達でやりたいと仰るので私としても手助けしたく従いましたが、美香殿がやるとどうにもボロが出てしまうので、私がこうして聞いている次第でありますな。


 今話している男性も市場で働く信者の者ですが、快くお答えしてくれるので非常に助かっております。私が話の終わりに情報量として店の物を買えば、笑顔で見送ってくれましたしな。人の営みの中というものは居心地が良いものです。


「うぅ……ありがとうクアッドさん。私、どうしても耐え切れなくて……」

「いえいえ、よろしいのですよ。美香殿にはちゃんとやるべき役割があるのですから、そちらで頑張って頂ければ良いのですぞ?」

「は、はい……」


 落ち込んでいる美香殿の髪を失礼ながら撫でさせて頂きました。黒髪というのは素晴らしく純粋な色で大変良い物だと思います。こういう発見も初めて、嬉しいですなぁ。


「……素敵なおじ様ってこんな感じなのかな?凄いカッコイイや……」

「おや、それは嬉しいですな」

「……駄目だ、凄い駄目になりそうだから行こうクアッドさん」


 撫でていた手を捕まれると、そのままズンズンある歩き始めてしまう美香殿。なるほど、美香殿も女性、もう少しスキンシップは控えた方がよろしいのでしょうか?



「そのままで良いのッ!!」

 左様でございますか。




「暗いね~♪」

「まさかこんなに長いとは思わなかったね」


 地下通路をずっと進んでいるが、坑道のように一定距離に明かりが灯っているだけの簡素な道だった。多分シエロが出たっていう場所に近い作りになってるんだろね。通れる道幅は狭くて2人で並ぶぐらいが限界だ。


 所々で信者が通り掛かるが、現在の私達は妖精なので誰の眼にも映らない。隠密行動には最強だねやっぱり。


 さてはて、暫くの間飛んでると、何人かの人の話し声が聴こえたので、人化して覗いてみる。話す内容によっては介入したいからね。



「どうするんです?まったくの想定外でしたが」

「シエロ様が帰って来たからな……計画を大幅に修正しなければ」

「枢機卿を倒し、シエロ様の派閥として我等が返り咲けば良いではないか」

「そうは言うが、戦力がまるで無いのだぞ。計画とて数十年を想定したものなのだから……」



 数人の男女、皆が勇者教のローブを来ているが、他と違うのは、そのエンブレムが切り刻まれているということだった。一様に暗い雰囲気を醸し出しているが、計画って枢機卿を倒すってことなのかな。


「なんにせよ勇者だ。シエロ様が居れば剛谷をどうにか出来る筈。奴はシエロ様に心底惚れ込んでいるからな。言うことは聞かせられるのではないか?」

「国民の至宝であるシエロ様を女として扱うつもりか?恥を知れッ!!」

「ですが、実際勇者をどうにかしなければ我々に勝ち目は無いに等しいのですよ?」

「我々司教が枢機卿に成り代われば良いのでは?騎士殿はその後我々でまた取り立てましょう」


 1人を除いてすっごい汚いことを言い始めていた。うわぁ、シエロが聞いたら泣いてしまうねこれは。私達の動きに乗じて何か始めそうだし、止めないといけないかな。


「アリーナ、妖精になってフードの中に入ってて。ちょっと軽くお話するから」

「わかった~」




「こんにちはー」

「「「ッ!!」」」


 突如現れたフードを被った少女に、その場に居た人間が一斉に振り向いた。中でも最も実力のある女、シエロの警護隊に所属していた騎士アリマニが驚愕する。


(馬鹿なッ!?一切の気配を感じなかったぞッ!!)


 しかし一瞬の驚愕後、直ぐにアリマニは剣を抜いて3人の前に立つ。少女はそれについては何のアクションも起こさなかった。


「何だ貴様は?どうやって此処まで入って来た?」

「私達はシエロを連れて来た仲間だよ。現在も作戦は実行中なんだけど、偶々此処への道を見つけて来てみれば、不穏な事言い始めている4人組を見つけたじゃない?だからちょっとお話しようかなって……」


「お前が……シエロ様の?では現在あの十字架に括り付けられているのは」

「私の仲間って訳だね。まぁ既に助けてて、あれはハリボテなんだけどさ」

「全て信じられんな」


 アリマニは全てを嘘と断じた。このままでは一向に話が進まないと判断したのか、フードを脱いで顔を見せる。その瞬間、全員の顔色が変わる。


「……驚いた、ガルアニアのヒーロー様じゃないか」


 1人の男が驚いたように言う。アイドリーとしてはこんな辺境の山奥の国で自分の事を知っている人間が居るとは思わなかったが、どうやら色々広まっているようなので話を続けた。


「私はシエロに依頼されている身でね。武闘会優勝者が、決勝で誰と戦ったかは知ってるでしょ?」

「……勇者か。なるほど、頼む相手としては最高の一手だな」


 老人がシエロの考えに感嘆するように顎髭を掻く。だがアリマニはまだ剣を降ろさなかった。


「お前がシエロ様の依頼を受けているというならば、依頼書がある筈だ」

「いやいや、出せる訳無いじゃんよ。というか個人の依頼だからギルドは通して無いよ?」

「では、何の為に受けた」

「シエロが私を『予言』で見たんだってさ。ハバルで奇跡を起こした冒険者を。で、話聞いて助けたいと思ったから受けた。それだけ」

「……ッ!!」


 それを聞いた瞬間、アリマニは剣を落として頭を下げた。


「申し訳ないッ!!分かった。君は確かにシエロ様の協力者だ。私はアリマニ、その情報は当時警護に当たっていた私と教皇様しか知らない情報なのだ。それを知っているということは、君はシエロ様に信頼されているということだ」

「なら、今度は貴方達の事を聞かせてくれる?」

「ああ、分かった」


 アリマニが他の3人にも目を向けると、了解の意志表示を受け取った。アイドリーは席に通され、4人の話を聞くことになる。

「しかしアリマニさん。騎士団全員追い出されたの?」

「全員広範囲の『呪い』を受けてな……今もまだ全員ステータスが低いのだ」

「治そうか?」

「マジかッ!?」

「言葉言葉、私の知ってる友人みたいになってる」


 全員治すことになりました。アリーナの頭ナデナデも増えました。

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