表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
133/403

第112話 悔しさをバネにする

 先に自室に戻っていたシエロは、あの時間を越えて精神が疲弊していた。信じられる仲間が居るとはいえ、国民達のあの盲目的な眼はかなり堪えていた。


「敬愛なる信徒だというのに……しかし」


 しかし、やはり『妖精教』のような信仰を求めたいと、シエロは思ってしまう。自由な思想を持って笑顔で暮らすことだけを念願に置いた生き方こそ、人間のあるべき幸せの在り方の筈だと。

 それを勇者や教皇、女神や聖龍といった存在に全ての信仰を委ね、生活の一部にしてしまうことは、ただの『依存』だ。毎朝感謝すべきなのは、自らの行いであるべきなのだと。


 だが、その信仰を捨てさせるなんて発想にはならない。それはただの傲慢なのだから。


「はぁ……」

「どしたのシエロ?そんな深い溜息付いて」

「ああ、いえ。宗教って難しいものですと考えてい……アイドリー?それにアリーナも……」

「やぁ」

「やぁ♪」

「……………」


 キュッ

「おっと」


 シエロは無言で2人の妖精を手で掴むと、そのまま頬に押し当てた。アリーナ眼の近くの為、大粒の涙をその身で受け止めることになるが、嫌な顔には一切なっていない。逆に両手でその涙を掬い取りながらシエロに話し掛ける。


「泣き虫さん?泣かないで~」

「……ありがとうございます、アリーナ」

 次々に流れてくるためアワアワと繰り返している。数分してシエロは泣くのを止めたので、アイドリーは本題に入った。


「辛いことさせちゃったね」

「いえ、自分の国の現状をちゃんと知ることが出来ましたから。これで良かったと思います。それより、これからどうなされるのでしょうか?」

「それなんだけど……これ使おうかと思って」


 そう言ってアイドリーが取り出したのは、いつかの『幼獣グループ・エネクー』で使った『録画水晶』だった。


「これ使って問題児さんから言葉を引き出して反撃の材料にしよう。そんで、シエロが望むなら私がシエロと交代しても良いよ。『妖精魔法』と『人化』スキルを使ってシエロの姿になることは出来るし、重要事項だけ教えておいてくれれば問題児さん相手なら対応出来るだろうし」


 アイドリーなりの思いやりだった。国民達の目の前でジッと堪えていた姿と、今の泣いていた姿を見て、その上あれの相手をするのは精神的にかなりきている筈だ。その上それが毎日続くのだから、シエロには辛いことだろう。

 だがアイドリーならば、それ等を全てノリで受け流せると思っている。そもそも自分の事ではないので、精神構造状妖精の敵ではないのだ。



「いいえ、止めておきます」


 だが、シエロはそれを拒否してしまう。どうして?という顔をするアイドリーを、手の平の上で優しく撫でた。


「私は、私の責任を全うしなければなりません。一度は逃げ出した運命、今度は最後まで戦い抜きたいのです。ラダリアを再建した貴方やフォルナのように、ダンジョンで命を賭けて奮闘し続けた子供達のように。私も、そうでありたいのです……」

「……そっか。なら、代わりに私の分身体を置いておくよ。辛くなったらいつでも私に連絡してきて良いし、癒しの代わりに可愛がってあげて?」

「はいッ!」


 アイドリーは自分の分身体を生み出し、水晶玉を持たせた。ただしどちらも通常のものではなく、強化版の『半身』アイドリーと、録画水晶も妖精魔法を使って強化したどちらもスペシャルバージョンである。


「もしも危険な目に遭ったら、こっちの私が助けてくれるからね。それと、普段は録画水晶を持たせて問題児さんに付けとくよ」

「何から何まで……」

「良いんだよ……っと。来たみたいだからもう行くね。ああそうだ、美香達も既に助け出しているから、安心してね」

「ッ!はいッ!私は大丈夫ですとお伝え下さい」

「うん、それじゃあ1週間後に」

「シエロ~ふぁいお~♪」



 そうしてアイドリー達が姿を消すと同時に、入れ替わりで剛谷が入って来るのだった。そして肩の上で半身アイドリーが「任せろ相棒」とイケメンスマイルで録画を始めた。





「うぐぉ~ちょっと無謀だったかなぁ?」

「アイドリー、大丈夫?休む?」

「んー、宿屋に行ってからにしよう。大丈夫、すぐに痛みは消えるから」


 自分の半身を作り出すという行為は、それこそ身を引き裂くレベルの痛みが頭を襲った。一瞬だけだったからシエロの前では何事も無くいられたけど、正直痛みの余韻だけで精神力をかなり持ってかれた気分かな。

 けど日ノ本さんの事を考えると、聖剣特性が分からない以上、どんな事態になっても対応出来るだけの戦力は置いといた方が良いと考えた。私の頭痛程度で済むならやるよそりゃ。


「それに、シエロが頑張るって言ってたしね」

「サポート?」

「シエロに関してはね。私達は私達で、出来ることをしよう」

「ういなッ!」

「可愛い返事来たなペロリたい」


 あの子はちゃんと現実を受け止めて戦っていた。なら私にしてあげられるのは、戦う為の材料集めだ。頑張っている子はなんであれ助けたいからね。


「そういえば、日ノ本さんというのは何処に居るんだろう?…まぁ会うのは今日じゃなくても良いんだけどさ…」

 どうせどこかで遭遇するだろうしね。こちらから来なければ攻撃もされないんだし。今はアリーナが居るから、1人の時にしようそうしよう。




 という訳でレーベルと『同調』で繋がり皆が取った宿屋まで飛んで帰って来た、


「アイドリーッ!!シエロどうだったッ!泣いてたッ!?怪我してないッ!!??」


 というところで美香に捕まった。あばばば、妖精の身体を掴んで振るうんじゃないよあばばばば。頭痛の余韻と合わせてダブルパンチである。


「落ち着け、主が目を回しとるぞ」

「え、……あっ!!ご、ごめんアイドリー……」

「ま~わる~ま~わる~ぐ~るぐる~」

「おう、アリーナみたいになってしもうたな。ちょっと寝かせておけ」


 レーベルが止めてくれたので、暫くしてシェイクされた脳内が元に戻り『人化』して起き上がった。あー中身出るかと思った。


「じゃあ美香は床に正座ね。これからのことを話そうか」

「え?椅子……」

「私の椅子になれて嬉しくないの?」

「嬉しいですッ!!」

 ちょっとSっぽく言ったら鼻息荒く興奮された。美香椅子に座って背中を頬摺りされてるけど、構わず私話を始めた。


「レーベル、何かそれっぽい人見つけた?」

「どういう事情でなったのかも分からん連中を見つけるのは至難の業じゃったが……一応それっぽい話をしている者達は何人かおったぞ。皆他の信者には聴こえんようにかなり小さく話しておったがな」

「内容はいけた?」

「無論よ。クアッドがその声を文書に起こしてくれたしの」


 紙をこちらに差し出して一礼するクアッド。最近分かったことだけど、クアッドの在り方ってあれだ。テスタニカさんとノルンさんの究極ごっこ遊びの完成形って感じなんだね。


 で、渡された紙の内容を見ると、幾つかの単語が目に入った。


「『枢機卿』・『異端者』・『勇者』ね……」

 枢機卿はこのレーベルラッドで唯一教皇に近い権力を持った者だったのだが、その者が秘密裏に動いていたらしい、ということが一つ。そして教皇の周りに居る司教達と騎士団を勇者と一緒に排除、教皇を傀儡にすることを了承したと。話し過ぎじゃない皆さん?


 排除された人達は全員『異端者』として国を追い出され、真冬の山の中でどうなったのかは誰も分からない、ということらしい。



 この枢機卿の目的はなんだろうか?問題児がシエロと結婚すれば自動的に次の教皇は勇者になるから、その権力が枢機卿には行かない筈なのに。


「考えられる可能性は、勇者も自分が良い様に操ってしまうつもりなのか、かな?問題児さん味方の言葉なら言葉巧みに言い包められて従いそうだしね」

「甘い蜜を一緒に啜ろうという算段、ということじゃな?」

「けど、それってどんな蜜?」


 お金が必要だとも思えない。ああけど、ハーリアに税収されてるから経済的にはキツイのか。ってことは勇者の威光を使ってより信者達からお金を集めたい……ってこと?それくらいが一番臭いな。


「美香は枢機卿に会ったことある?」

「うん、あるよ。すっごい高身長なのに横幅も広いの。投げたらよく跳ねそうなぐらい。いつも色んな装飾品身に纏ってて、女性に対する接し方が剛谷君みたいな人だったかな」


 大変分かり易い説明をありがとう。その汚物さんが今この国を動かしてるのかな。後普通にお金大好きか。

 じゃああれだね。とりあえずその枢機卿の捕縛と勇者を倒せば速やかに事態が収束しそうだ。勿論国民達の前で。


「後は美香が問題児さんをぶっ倒して私が真実を公表っていうのが大体の筋書きになりそうだね。ああ美香、数日したら聖鎧取り返しに行くから」

「……なんで数日後なの?」


 どうやら今日取りに行くと思っていたらしい。椅子を止めてそのまま私を抱えながら立ち上がった。離してくれないんだ……


「意味は特に無いけど、ほら、昨日の今日だしさ。少なからず警備が厳重になってそうじゃん?多分シエロとの1週間後に控えた婚姻式に向けてってのもあるし」


 美香(偽)が捕まってるしね。問題児さんがそこまで頭を回してるなら。他の仲間が塔に忍び寄ることを考えてそうだ。『呪い』設置も増やしてそうだし。

「だからほら、出来るならシエロ救出ギリギリに取って来たいんだ。バレると厄介だから。美香達の事がバレればシエロを人質にしかねないもの」

「そっか……うん、わかった」



 ということで、今日は疲れもあるし私は早めに寝ます。今日は小規模とはいえ極大の妖精魔法使って自分の半身作ったからね。


「我等も繋がれて疲れたしのう。今日は飯を食べて早めに寝ようかのう」

「では私がご用意いたしましょう。適当に外でご飯を見繕って参ります」

「ありがとうクアッドさん。お願いするよ」


 そこでレーベルが私に『同調』を使ってきた。本人の顔を見ると、深刻そうな、それに加えて悔しさを滲ませた顔をしてこっちをみている。珍しいね、レーベルがそんな顔するなんて。

 


『主よ。寝る前に1つ良いか?」

『ん、なに?』

『我を……鍛えてくれぬか?』

『……わかった。明日からやる?』

『うむ、すまぬな』


 良いんだよ、相棒。

『難易度はどのくらいが良い?甘口・中辛・激辛・獄辛・滅殺があるけど』

『無論一番上じゃな』

『やーいドM巨乳~』

『お主を滅殺するぞ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ