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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第111話 戦う相手

ツンツン

「……ん~?」


 ベッドの上で朝の陽ざしを浴びている中、何かに肩を突かれている感触で眼が覚めた。後ろを見ると、アリーナの寝顔と、私似の妖精が2匹グスグスと泣きながら立っていた。おやおや、どうしたの?


「やっぱり、『新しい勇者』が居たの?」


 そう聞くと、妖精達は大きく頷いた。そして私が手の平を翳すと、その中にピョンリョンと入って戻って行く。すると、頭の中に何か入り込んで来た。


「………………なるほどね。クアッド、流石だなぁ」


 妖精達には通信と意志疎通しか出来ないようにしていたけど、クアッドがそこに『録音』と『映像記録』を施していた。美香達の方は分からないけど、クアッドが戦った勇者の記録はバッチリ残されていた。勇者を足止めすると見せ掛けて妖精が見えていないことを確認して逃がす時間を稼いでみせたからねあの老紳士。敏腕過ぎるね。


「ん~アイドリ~おあよ~」

「はいはい、おはよ~」

「ふにゅ~」


 ダルマさんの様にフラフラしているアリーナの頭をグシグシしながら、今日することを考える。日ノ本さんの口振りだとどうやらあまり気乗りしている訳じゃなさそうだ。もしかしたら話し合いでどうにか出来るかもしれないね。


 武闘会とかならまだしも、狭い場所で戦闘になったら色んな物壊しそうだし。


「よし、アリーナ。今日は妖精の状態で過ごそっか?」

「ほんとッ!?良いのッ!?」

「うん、レーベル達にも会わなきゃだしね」

「やったーッ!!」


 おーおー、そうだね。最近はよく妖精になってたけど、2人きりで行動するの久しぶりだもんね。嬉しくもなるか。アモーネの時はほとんど見て回れなかったし。ゲームも『複数思考』で目隠し将棋するだけだったからなぁ。


「レーベル達が心配だし、国の様子も見ながら色んな人の話を盗み聞ぎして行こう。ということで、」

「「れっつごー♪」」


 さて、どんな感じかなぁレーベルラッド。




 曇り空から見下ろすレーベルラッドは、なんというか周囲の雪山と同じ白色の建物しか無い。そして、雪ばかり降る国だからなのか、屋根の傾斜が高い。泊まった宿屋も全体的に細長かったし。縦に4階建てとかがザラだった。


 ただ、赤い龍の上に女神が座っている……国旗?かな。が所々に挙げられていた。うーん、ああいう扱いなのかレーベル。そりゃあ逃げるよね。


 じゃあちょっと人々の話を聞いてみよう。


 

「今朝は驚いたな。普段は全員招集の勅令が無くとも、毎日教皇様の朝のお言葉へは皆赴くというのに」

「いつもの経典の話じゃないんじゃないか?もしかして巫女様の件とか?」

「ああ…在り得るな。シエロ様……攫われてから大分経つが、無事だろうか…」

「馬鹿、勇者様が捜索してくれているんだ。大丈夫に決まってるッ!!」

「あ、ああ…そうだな」



 ほう、朝のお言葉か。普段は無い招集があったってことは、シエロ関連かもしれないね。飴舐めて付いてきているアリーナと手を繋ぎながら、城の方に歩いていく信者達の話を聞きながら周囲の様子に眼を向けた。


 信者っぽい人達は皆白と赤のラインが入ったローブを身に纏い、そうじゃない人も皆同じ『本』を持って歩いていた。本ってかなり高価だと思ったんだけど、この国では全員に配られるぐらいには必須な辺り、あれは聖書なのかもね。

 口々に出る言葉は『勇者』『巫女』の話題ばかりだった。巫女の心配と、勇者への日々の感謝等がほとんで、悪口は1個も聞かない。当たり前か。


「こうしてると、由緒正しき『勇者教』って感じだね。確かに『妖精教』とはまったく違うや」

「おごそか~」

「まぁノリで弾けてはないよね」



 さて、信者の皆さんが集まる城までやって来ると、城からせり出している場所に人影が見えた。途端に信者達が頭を下げる。ああ、あれが教皇か。更にその前に男が1人姿を現した。


腰に剣を、身には白い鎧か……『妖精の眼』で見ると、今回の問題児さんだった。



剛谷 千次(21) Lv.390


種族:人間(覚醒)


HP 15万3550/15万3550

MP 24万6531/24万6531

AK   2万9566

DF   2万3900

MAK  6万0010

MDF  4万8900

INT   1500

SPD   4万3872


【固有スキル】自動回復 聖剣 自動翻訳 マジックボックス 聖鎧


スキル:剣術(SS)隠蔽(S+)手加減(B+)鑑定(―)


称号:勇者 転移者 女神に祝福された者 



 んー美香でも頑張れば勝てそうだね。聖剣特性があれば完封出来そうだし、私としては是非戦わせてあげたい。その為には聖鎧が美香の手に戻らないといけないからね。近い内に取りに行かないと。


「はじまったよ~?」

「お、本当だ。うわぁ、シエロがアカン感じになってる……」



 剛谷の言葉で出て来るシエロの顔は、何かもう色んな艱難辛苦を味わった挙句無我の境地に至ったような顔になっていた。どんな顔だって言われれば、つまり真顔だった。後で慰めに行かないとなぁ。


 そして予想通りに婚姻式の話をすると、レーベル達が布袋を被せられた状態で連れてこられ、十字架に括り付けられてしまう。どうでも良いけど上から腕通すだけなんだね。首には奴隷の首輪が見えるから、多分『同調』が使えないのはあれが原因か。



『アリーナ、レーベル達に挨拶と行こうか』

『ういす~』


 ということで罵声を浴びているレーベルに近付くと、レーベルがこちらを発見。口をパクパクしながら眼を首元に向ける。はいはい、ちょっと待ってね。


 私はレーベル達の奴隷の首輪を『妖精魔法』で操作し、全ての制約を解いた。しかし首輪は付けたままにしておく。よし、『同調』が繋がったね。


『やっほーレーベル。昨日振り?』

『おう、待っておったぞ主達よ』

『おはよ~レーベル~』




 ということで、その後の事を色々聞こうとしたんだけど。クアッドが私と同じように妖精の分身を出していて、シエロの方から回収し私に渡してきた。用意周到っていうかタイミングが絶妙過ぎよおじ様。



 それでシエロの様子を見せて貰ったんだけど。そっか、日ノ本さんも奴隷の首輪を付けてんだね。何の理由でそうなっているかは分からないけど、どうやら問題児さんに不利益になる行動は取れないみたいだ。それでもシエロをある程度はフォローする辺り悪い人ではないんだね。


「セっちゃんは私を助けてくれたこともあるの。基本中立で面倒事には関わらない派なんだけど、特性が強かったからいつも朝比奈君のパーティに入ってたんだ」


 バレないように顔を俯かせ、小声で美香はそう言った。なら、説得は出来そうだね。問題は、その特性を退けて話し合いに持って行けるかだ。まだステータス見てないからどれくらい強いか分からないし。


 クアッド曰く、「私が本気でやっても勝てませんな」と言うぐらいなので相当なものだろうね。


『じゃあレーベル、今から全員助け出すね』

『おい主よ、そんなことしたら大混乱に陥るのではないか?』

『大丈夫、皆のハリボテ重ねてそれっぽくするよ。全員に重ねた状態でアリーナと私で妖精の不可視性を2人に『妖精魔法』で纏わせるから、それで抜け出せるし』

『相変わらず滅茶苦茶じゃな』


 うん、私もそう思う。けどクアッドの経験値を得てから更に色んなことが出来るようになったからしょうがないのよ。今は理性で使ってるからそうでもないけど、『ノリ』に身を任せたら武闘会の時よりとんでもないことが起きる気がする。



 とうことで実行。ハリボテだけど実体が無いといけないからね。ゴーレムのようにしておこう。そこに3人の顔、体形、服装を転写するようなイメージして…実行。


「……よしよし、そっくりさんが出来たね」


 無表情ではあるけど、しっかりそれっぽく動くように出来てるから問題無いだろう。じゃあ次は、信者達から見えないように光を操作して幻惑を作ろうか。その状態で3人を抜け出させ、ハリボテゴーレムを同じポーズ、同じ配置にした。

 そして私とアリーナの不可視性を纏わせ、幻惑を解除。これで誰にバレることなく逃走が出来るようになった。


「あの、最初からこうしてれば全部上手くいったんじゃ…」

「日ノ本さんっていうイレギュラーが必ずあると思ってたからね。それに聞いてる限り、あの問題児さんが美香達を殺すとは思えなかった。必ずシエロとの結婚の為に利用する筈だもの。で、予想は全部的中したからこうして来たんだよ」

「もう~~~~ばか~~~不安だったんだよ~~~?」


 ほら、泣いてないで行くよ。隠しててごめんて。私はいつもの白いローブを取り出し、信者達の物に加工して皆に渡した。

「ほら、これ着てな。深く被ってればまぁバレないでしょ?私達はちょっとシエロのところに行って来るから、皆は適当に噂の『反乱分子』って感じの人達を探しておいてよ。クアッドは、引き続きレーベル達と行動してくれると助かるかな。じゃあ行くよアリーナ~」

「また後で~♪」

「ええ、行ってらっしゃいませ御二方」

「宿取っておく故安心せい。帰らん時は『同調』で知らせるんじゃぞ~」

「はいは~い」



「じ、自由過ぎる……んも!?」


 どんどん事態が進んでいく中、何も出来ずに流されていく自分にガックシとする美香。だが、そこに戻って来たアイドリーが美香の頬を小さな手で挟む。


「美香。1週間後までに聖鎧は取り戻すから、剛谷は貴方に任せる。良いね?」

「……うんッ!!任せてッ!!!」

「よし、良い返事だ。それじゃ」


 綺麗な笑顔で今度こそアイドリー達は飛び立っていった。なんだかんだ決着をちゃんと付けさせるつもりでいてくれたアイドリーに、改めて美香は心の仲でお礼を述べる。


 そして、自分が倒すべき相手をもう一度ちゃんと確認し意気込むのだった。

「とりあえずシエロに慰めの品として自作飴玉(失敗作)を沢山あげよう」

「やめよ?」

「……はい」

 流石にアリーナに止められました。

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