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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第109話 シエロside 新たな勇者

「シエロ嬢、大丈夫ですかな?」

「うぅ……クアッドおじ様が居て助かりました。あんなの人に見られたらもう巫女として生きていけません……」


 空から落ちて来る際に色々と漏らしてしまったシエロだったが、それらはクアッドの妖精魔法により即座に分解されていき、何の染みも無い純白の下着を履いていられることに心底安堵していた。

 漏らしたままの自分の姿で父に会う勇気などシエロだけではなく、大抵の人間は持ち合わせていないことだろうが。




「さて、シエロ嬢。貴方の御父上殿はどこに囚われておられるのですかな?」

「は、はい。えっと……」


 周囲を見渡すと、少し離れた所に所に大聖堂の建物が見えました。良かった、そこまで遠くではないみたいですね。


「位置は把握しました。見張りの者が居ると思いますので、身を隠しながら向かいましょう」

「承知致しました。では私はシエロ嬢のフォローに回りましょう」


 おじ様は妖精になると、私のフードの中に入ってきました。少しくすぐったいですが、おじ様の体温を近くに感じることが出来て、心細い思いは軽減されました。


「それでは参りましょうか」

「あひゅいッ!」

「おっと、失礼」


 けど、耳に掛かる吐息がこそばゆいです……



 私達は大聖堂の見張りをクアッドおじ様の妖精魔法で潜り抜けながら通路を歩いていき、お父様の捉えられているであろう部屋まで参りました。先程アイドリーに通信を試みたのですが、耳に分身さんが身体ごと掴まれた時は驚いて変な声が出てしまいました……


 私が迷い無く進んでいると、おじ様から質問が飛んできます。


「聞いてもよろしいですかなシエロ嬢?何故御父上殿の居場所を特定出来るのです。牢に捉えられている訳でもない様ですが」

「ちゃんと理由はあるんです。教皇専用の部屋があるのですが、そこは正当後継者、つまり父にしか入れない場所であり、そこにある物は部屋から持ち出せないようになっています。教皇としての仕事も基本そこで行われるので、お父様が捕まっているなら、そこに軟禁していつでも部屋に入れるようにする筈です。

「つまり、御父上殿自身が部屋の鍵、という訳ですな?」

「そういう事です……そして、着きましたね」



 通路の最奥、教皇の自室の前まで無事到着出来たことにそっと胸を撫で下ろすと、私はおじ様に向き直ります。


「おじ様、中にどんな仕掛けがあるか分かりません。妖精魔法で何か分かりませんか?」

「お任せあれ」


 恭しく綺麗なお辞儀をすると、おじ様は扉の前まで歩いていき、指を小さく振りました。すると、扉の上部の壁に、緑色の光る横線が入り、それが下まで下がっていき……消えました。な、何をしたのでしょうか?


 おじ様は笑顔で振り返って、安心させるような声で言ってくれます。



「只今お調べしたところ、怪しい類の罠、スキル等は見当たりませんでしたな」

「今ので分かったのですか?」

「ええ、あの緑色の線に『索敵』のスキルを付与しましたので、それで調べたのですよ」



 いとも簡単にそんなことを言うおじ様に、私は動揺せずに声を発することが精一杯でした。


「……妖精魔法とは、そのようなことも出来るのですか?スキルの付与など、まるで神の力ではありませんか……」

「神……なるほど、考えたこともありませんでしたが……ふむ。しかしこれはそこまで万能な魔法ではありませんよ。使えば負担が生まれますし、膨大な事を成そうとすれば一度の行使で限界を迎えてしまうのです。確かに他の種族から見れば凄い力ですが、そこまで生易しくは出来てはおりません。それこそ、神の御業のように自由に何もかもを……とはね。シエロ嬢」


 私は、それを聞いてあの時のことを思い出しました。アイドリーが私の『呪い』を消した時に負担を感じていたようですし、美香の称号を消そうとした時も、血を流す程大変だったと聞いていました。


 おじ様も、決して無反動で使ってはいないということに気付き、私は安易に『妖精魔法』を使わせてはならなかったと思い反省せざる負えません。



「……すいません、これからは不用意にお願いすることは避けたいと思います」

「いえ、良いのですよ。私は慣れの所為か大概の事は負担無く出来ますしな。それに、それを惜しんでも尽くしたいと思える程、妖精は人が好きなのだとアイドリー嬢も言っておりましたし、私も事実、そう思いますから。貴方に純粋に頼っていただけたのが、私は嬉しい……」


「……は、はいッ!…それでは行きましょうか」

「ええ、そういたしましょう」


 な、何故か顔が赤くなってしまいましたが、私は気を取り直してお父様が居るであろう扉を開けます。そして中を覗いて、




「おっと、誰かな?」



 1人の女性と眼が合いました。同時に、椅子に座っているお父様も見つけます。昔から見ていたその背中に、私は構わず声を掛けました。おじ様はその瞬間飛び出し、女性の眼前に立ちはだかってくれます。


「お父様ッ!!」

「……な、シエロッ!?馬鹿な、何故戻って来たのだッ!!」

「おやおや、感動の再開かい?」

「ええ、出来ればその時間は与えて頂けますかな?」

「そこまで野暮じゃないさ、時間はまだあるからね」


 お父様は私に怒鳴りながらも、力強く抱きしめてくれました。私は、久しぶりの父の温もりと臭いに涙を流さずには入られず、そのまま泣き出してしまいます。しかし、女性はその猶予は与えてくれるようで、暫し、それに甘えることとしました……




「さて、君達が何者か……ああ、そっちの女の子は教皇の娘さん、だろ?君の事が聞きたいな。ダンディな老紳士さん?教えてくれるならだけど」

「いえ、お答えしましょう。私の名はクアッド・セルベリカ。ダンジョン都市アモーネ出身の者です。貴方のお名前をお聞かせ願えますかな?『黒髪』のレディ?」


 クアッドは間も置かず答えたので、女性は呆気に取られた顔になる。だが嘘は言っていなかった。クアッドは自分を自己紹介出来るという経験も初めてなので、意気揚々なのである。




 黒髪黒目であり、片方の眼だけを髪で隠しているその女性の名は。


「やけにあっさり答えてくれたね……ま、自己紹介されたなら僕も応えよう……僕の名は日ノ本 刹那。異世界人であり、序列3位の勇者だよ」




「ゆ、勇者ッ!?ヒッ!!」

 勇者という単語を聞いてスキルを使ったシエロは、そのステータスを垣間見てしまいか悲鳴を上げてしまう。


「そうか、君は巫女だったね。私のステータスを『神眼』で見てしまったか。すまない、驚かせたようだ」



 少しだけ目線をシエロに映し会釈する日ノ本。身体はクアッドの方を向いたままな辺り、警戒されているであろうことを悟ったクアッドは、しかし楽しそうに言葉を続ける。


「自己紹介ありがとうございます。なるほど、勇者は40人居ると聞いておりますが、3位となると、相当お強いのでしょうな。良ければ私もステータスを見ても?」

「本当に面白い人だね。こっちはまったくステータスが見えないのに。まぁ、見れるなら良いよ?」

「では………ほうほう、これはこれは」


 どこまでも素直なクアッドに呆れた笑みを浮かべる日ノ本は、どうぞと手で合図してきた。その申し出を受けて貰えたことに喜ぶクアッドは、『妖精の眼』を発動させ、感嘆する。



日ノ本 刹那(21) Lv.4680


種族:人間(覚醒+)


HP 6億0840万2755/6億0840万2755

MP 131億0400万6812/131億0400万6812

AK   3億2577万6630

DF   3億5368万1110

MAK  6億3997万4577

MDF  5億2200万0054

INT   5500

SPD   7億0401万0870


【固有スキル】自動回復 聖剣 自動翻訳 マジックボックス 聖鎧

 

スキル:剣術(EX)隠蔽(EX)手加減(EX)鑑定(―)投擲術(EX)

    四属性魔法(EX)


称号:勇者 転移者 女神に祝福された者 



「なるほど、凄まじいステータスですな」

「あれ、見れたのかい?驚いた。『隠蔽』が効かないのか君は。新しい発見だね」


 そのステータスを見て尚も笑顔を崩さないクアッドに大いに興味を引かれた日ノ本だったが、シエロはそれを見て恐怖を抱いた。アイドリーには及ばないにしろ、美香とはとてもじゃないが比べ物にならない強さだった。



「まぁそこの老紳士には惹かれるけど、今は仕事の話をしようか。そっちも、そろそろ感動の再開は良いかい?仕事を済ませないと剛谷がこっちに来て五月蝿くしそうなんでね。君もそれは嫌だろう?」

「……そうです、ね」

「さて、君達は言わずもがな、教皇を助け出しに来たんだろう。だが僕はそれを阻止しないといけない。けど弱い物虐めをする趣味を持ち合わせていないんだ。下種なあいつの喜ぶ顔を見るのも癪なんで、出来ることなら何事も無かったかのようにここから立ち去り、二度とこの国に顔を見せないなら見逃そうとも思う。どうだい?」



「……」


 シエロは迷った。戦えば、自分など何も出来ずに負けるだろう。アイドリーを呼べば対抗は十分可能だろうが、戦闘の余波で自分達が死にかねないリスクが発生する。


 クアッドが防いでくれるだろうが、あのステータスでやられたらそれも持つかは分からない。



「……ふむ。ところで日ノ本殿……とお呼びしても?」

「勿論」


「では失礼して……貴方は『妖精』という存在をご存知ですかな?」

「……妖精?ああ、知ってはいるよ。こちらの世界では見たことは無いし、向こうの世界では神話、フィクションの存在だったけどね。それが?」

「いえ、私は妖精を探し続けておりましてな。勇者ともなればその存在を確認したこともあるのか……とも思ったのですよ。私は彼等に出会ってみたかったものですから」


「それは……残念?だったね。けど、何故そんな話をするんだい?時間稼ぎなら無駄だと言わざる負えないんだがね」

「単純な好奇心でございますよ。私では貴方には勝てませんからな。聞きたいことを聞いておいただけのこと」


 おどけるように笑うクアッドは、指を振りながらシエロの方を向いた。



「……さて、私としてはシエロ嬢が捕まる、というのは勘弁したいのですよ。しかし、同時にシエロ嬢の御父上殿も救わねばならないという目的もあります」

「そのようだね。で、どうするのかな?」

「こうしましょう」

「ッ!!」



 クアッドが最後に指を振ると、部屋のあちこちがまるで波のように波紋を立てて動き出した。そして波紋が走った先から壁が棘の山を突き出し、一斉に日ノ本へと向かっていく。

 日ノ本は一瞬驚きはしたが、所詮はただの壁の素材で出来た攻撃の為、聖剣によりどんどん斬っていくが、それが邪魔でシエロ達に近付けなかった。


「おじ様ッ!?」

「シエロ嬢、お逃げください。私が適当に足止めしておきますので」

「そんな、貴方も一緒にッ!!」



 次の瞬間、何の脈絡もなくシエロと教皇は縄で縛られていた。

「……え?」

「シエロ嬢ッ!!……おっと?」

 そして駆け寄ろうとしたクアッドも、突然うつ伏せに倒されていた。その背中に、



「残念、もう逃がせなくなったよ」



 日ノ本が足を乗せ、首に聖剣の平を触れさせていた。哀れみの眼を向けてクアッドを一瞥もせずシエロだけを見つめていた。



「……」


 静かに自分が攻撃をした方を見るクアッド。そこには、今さっきまで戦っていたであろう痕跡が残っている。


(あそこに居たことは間違いないですな。こちらが知覚出来ないスピードで動いた?それならばその痕跡が残っていなければならない。だがそのような事象は起きなかった……)


「気になるかい?どうしてこんなことが出来たのか?」

「ええ、参考までに教えて頂ければ幸いですな」

「ふふ……秘密さ」

「ほほ、それは素敵ですな」


 お互い立場は逆だが、何だか親近感を感じている双方。だが、転がされている2人は絶望の表情を浮かべるのみだった。そこに…



「お~、終わってたかよ日ノ本」

「……ああ、終わったよ」


 シエロがもっとも会いたくなかった男。剛谷が姿を見せた。剛谷はシエロの姿を目に収めると、口元を歪ませその名を呼ぶ。




「会いたかったぜぇ?俺のシエロちゃん?」



 そして今夜、『4人』は勇者達に捕まった。

「おうクアッドよ、お互い不運じゃったな」

「いえ、良き出会いがありましたのでそうでもありませんぞ」

「ほう、詳しく聞こうぞ?」

(……なん、で、楽しそうなのよ……がくっ)

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