第108話 美香side 呪いの勇者
「もう、酷いよぉ。まだ顔が痛いし~……」
「これに懲りたら主のパンツを見るのは止めることじゃな」
「ジャナ」
「うぅぅ~~~」
レーベルと分身アイドリーに呆れられた表情で言われて私は肩を落とした。けど違うんだよ?ほら、フィギュアとかってこう造形とか気になってどうしても全体を見ちゃうじゃん?あれ向こうの世界で話してるの聞いてて最初は理解出来なかったけど、アイドリーって可愛いから……妖精の姿とかもっと可愛いし……何か見ちゃったんだよ!不可抗力だよ!!
「それより美香よ、ここら辺はどこか分かるかのう?」
「あっ……うん。大丈夫、分かるよ」
私は周りの景色を見渡して、自分達の大体の位置を把握した。良かった、大聖堂近くだね。城にも近いし、ささっと取りに行けそう。
「あっちの方向が城だね。ここは国の端っこだから、壁伝いに移動して城を目指そう。私の聖鎧は城の一番高い階にあるから、外から近付いて登ってこう」
「うむ、了解じゃ。では連絡しとくかのう。主Ⅱ世よ」
「ガッテン」
(主Ⅱ世……?)
レーベルが分身体に不思議な名前を付けて通信を頼むと、分身体は頷いてレーベルの耳に張り付いた。え、なにそれ可愛いッ!次私やりたいッ!
「主よ、無事降り立ったぞ」
『わかった。シエロ達もちょっと離れたけど大聖堂近くには降りたみたいだよ。私達は門から行くから、そっちは速やかに行動開始で。危ないと思ったら私の自家製転移石を迷わず使って良いからね』
「分かったのじゃ。ではまた後でのう」
『うん、気をつけてね。そいじゃ』
通信が切れると、分身体は耳から離れてまた肩の上に乗った。
「試しに使ってみたが、我は『同調』の方が慣れておるから要らんかったな。美香よ、主Ⅱ世はお主が持っておれ」
「じゃあ最初っから使わせてよ!?」
「うむ、すまん」
気を取り直して寝静まった夜の中、レーベルラッドの隅っこを走り、見回りの人を避けながらどんどん進んでいく。街中の音はほぼ無い為、足音をなるべく消して進まなきゃいけないのは大変だよ。
「夜がこれだけ静かじゃとは思わなかったのう」
「レーベルラッドは酒場ですら太陽が完全に沈んだ後は閉まるよ。灯りが付いてるのは宿屋ぐらいじゃないかな?」
「それも勇者教の決まりか。面倒じゃな」
「あはは、私もそう思うよ」
レーベルとそんな話をしながら、城内の壁まで辿り着いた。見張りは……そこまで多くないね。私は『隠蔽』を使って姿を隠す。レーベルも隠蔽の魔道具は持ってるから、そのまま壁をジャンプで越えた。
「ん?………気のせい、か……」
少し音がして見張りのお兄さんが振り向かれたけど、姿は見えてないからバレなかった。一息吐いて、私は聖剣を取り出した。
「なんで聖剣出したんじゃ?」
「ダウジングみたいなものだよ。聖鎧が近くにあれば呼応出来るから………よし、あるね。行こう」
「便利じゃのう……」
まさか同じ場所にそのまま放置されているとは思わなかったけど、それならそれで好都合だよ。あれがあれば私の特性が使える。そう思うと、自然に足が速くなった。
塔近くを巡回している見張りが退くのを待って、私達は塔の中に入った。塔はシンプルな構造で、頂上の部屋まで一直線の螺旋階段だ。元々は大罪人を収容する為の場所だったけど、私の聖鎧をそこに入れておくと剛谷君は言ってたし……たし……
私は、そこである事を思い出し足を止めてしまった。
「どうした美香よ。もうすぐ頂上の部屋じゃぞ?」
「そうだよ……剛谷君が何のトラップも仕掛けていない訳ないもん……レーベル。魔法、今使える?」
「む?……使えんな。この感じは……ダンジョン20階層の時に似ておる」
「Ⅱ世ちゃん、通信は出来る?」
分身体は首を横に振った。駄目だ……逃げないと。
「レーベル、此処は塔全体が魔道具になってて、発動している間は魔法が使えないようになってるの。それに、剛谷君は『呪い』を設置することも出来るから、部屋に入った瞬間に私達が『呪い』の付与を受ける可能性があるの。だからアイドリーが居ないと」
「無理、という訳じゃな。なら一端外に出ようぞ。此処では転移石に魔力も流せんしな。しかし我の『同調』も使えんとは。従魔契約すら縛るなど、20層以上の効力じゃぞ……というか美香よ、減点じゃぞー」
「うぅ~~~ごめんなさい……」
レーベルは怒りながらもデコピンだけで済ませてくれたよ……私達はまた『隠蔽』を使って塔から出ようとしたんだけど、
そこで、私達は遭遇してしまった。
「呼ばれて来てみたら、誰だお前等?」
「ッ!?」
美香とレーベルの前に立っていた男は、勇者の聖鎧を身に着け、既に抜刀している聖剣を片手に持ちながらこちらを見据えていた。
「此処に来たってことは聖鎧の存在を知ってんだろ?どっかの勇者の間者か?顔見せろや」
「……久しぶりだね、剛谷」
「あん?……桜田、か?」
美香がフードを取って顔を見せると、剛谷と呼ばれた男は顔を輝かせて子供のようにはしゃぎ始めた。
「おいおい久しぶりじゃねえかッ!あれから元気だったのかよお前?いやぁ、シエロちゃんに『呪い』掛けてお前みたいな役立たずに任せたんじゃ危ねえんじゃねぇかって心配してたんだよッ!!ん?ってことはそっちの子はシエロちゃんなのか!!?」
「違うよ。この人は私に協力してくれているの。此処まで来る為にね」
「へぇ、あっそ」
シエロではないということを知ると、途端に興味を無くした顔になり素っ気なく返事をする剛谷。だが、その異常性を知っている美香は反応せずに話を続ける。
「どうして此処に?」
「あ?んなもん、お前の聖鎧を他の奴に奪われねぇ為に決まってんだろ。だから俺の『呪い』をしこたま設置しておいたんだぜ?引っ掛かるのがお前だとは思っていなかったけどな。此処まで来たってことは、どうせ俺の特性が設置されていることに今更気付いたんだろ?お前っていっつもそうだもんな」
「そ、そんな……」
剛谷の言葉に美香は顔を青くし、急いで自分とレーベルのステータスを確認する。
桜田 美香(20) Lv.387
種族:人間(覚醒)
・呪いスキルによりステータス低下・
HP 1万4561/1万4561
MP 3万3335/3万3335
AK 3147
DF 2240
MAK 5678
MDF 5110
INT 4200
SPD 5390
【固有スキル】自動回復 聖剣 自動翻訳 マジックボックス 精神耐性
ステータス制限(呪) 限定呼び鈴(呪)
スキル:剣術スキル(B+)隠蔽(C+)鑑定(―)
称号:勇者 転移者 女神に祝福された者
レーベル(1653)♀ Lv.1085
固有種族:レッドドラゴン(古龍):人間状態
・呪いスキルによりステータス低下・
HP 4030/4030
MP 2102/2102
AK 5268
DF 8687
MAK 1万3088
MDF 1万3269
INT 2200
SPD 2万5798
【固有スキル】龍鱗 炎獄 超同調
ステータス制限(呪) 限定呼び鈴(呪)
スキル:龍魔法(S)火属性魔法(S+)体格差補正(A+)
称号:古龍の子孫
・ステータス制限(呪)
『ステータスをINT以外全て1/10にする』
・限定呼び鈴(呪)
『特定の人間に居場所を知らせ続ける』
「いつも朝比奈が言ってたじゃねぇか?ステータスはこまめに見ておくべきだってよ。お前、何も学んでないのな……」
「……ッ!!」
口から血が出るほど噛みしめ、その言葉に耐える美香。自分の落ち度だと悔やみ、その通りだと思ってしまう。あれだけアイドリーに手伝って貰い、強くなったというのに。爪が甘過ぎた自分に腹が立つ。
だが、それでも僅かながら希望はあった。
「で、シエロちゃんはどこだよ?」
「……さぁ、ね」
剛谷がこちらに居るということは、シエロ達は障害無く教皇を助けに行けたということ。ただし、そちらに剛谷が『呪い』を仕掛けていなければの話だが。
「しらばっくれて良いことあんのか?……ああ、そうか。後ろの奴は協力者って言ってたな。どうせシエロちゃんに親父を助けさせる間に、自分が聖鎧取り戻して俺を倒そうと思ったんだろ?聖鎧があれば確かに俺の攻撃も特性もお前なら防げるもんな……忌々しいことによ」
「だとしたら何?今頃シエロ達はとっくに教皇を助け出している筈だよ」
「……くく、何だよお前。本当に何も知らねぇんだな」
こちらを嘲る剛谷に、苛立ちを隠し切れない美香が聖剣を開放しようとするが、レーベルがそれを止めて、美香の前に立った。
「レーベル……」
「此処で抜くでないぞ美香。どうせ今の我等では勝てん。それより小僧、その笑いの意味はなんじゃ?」
「ああ?なんだお前女だったのかよ。まぁ良いか、教えてやるよ。今、この国にはもう1人勇者が居るんだぜ?俺と、桜田と……もう1人な」
「うそ……」
「嘘なもんかよ。俺が「役立たずが死んだから1人こちらに寄越してくれ」って朝比奈に頼んだら、喜んで派遣してくれたぜ?で、そいつには教皇の方を頼んである。ってことはだ……わかるだろ?くひ、くひははッ」
どこまでもこちらの嫌なことをしてくる剛谷に、もう美香は自分を抑えきれず、聖剣開放して剛谷に斬り掛かった。
「ご~お~た~にぃぃぃいいーーーーーーッッ!!!!!!」
「あ~行ってしもうのう」
剛谷は斬り掛かって来た美香の聖剣を軽く振るって叩き落とすと、そのまま持ち手で腹を殴った。レーベルを横切って壁に叩き付けられ、肺の空気を全て失い美香は失神する。レーベルは、ただそれを静かに見ているのみ。
「は、バーカ、『呪い』受けた状態でステータス上げても雑魚は雑魚だろうがよ……で、お前は怖気付かねぇんだな。そういう訓練でもされてんのか?」
「そういう訳ではない。無駄な足掻きはせんだけじゃよ。それで小僧、我等を捕まえたとして、その後どうするつもりじゃ?」
「あ?……あーそうだな。シエロちゃん以外の賊は処刑で良いだろ。桜田ももう要らねぇし。良かったなぁお前?勇者と一緒に死ねるなんて歴史に名を残せるぜ?」
「……そうじゃな」
レーベルはその言葉を聞いて何故か笑みを浮かべて両手を挙げた。投降のサインなのだが、剛谷はその顔が気に食わず、レーベルも美香と同じように殴った。
「ぐッ……ぬぅ…」
「……ふん、負け惜しみか」
最後まで笑みを崩さないまま、レーベルの意識は落ちて行った。
次回、シエロside