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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第七章 ダンジョン都市アモーネ
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第106話 立つ鳥跡を吹き飛ばす

「本当に一緒に行って良いのか?」

「問題無いよ。大人が居てくれた方が話が進み易いだろうしね。そっちも1人増えるけどよろしくね?」

『任された。早く乗れ人間よ』

「お、おう…何か変な気分だぜ。ドラゴンと話すってのは」


 話し合った結果、ジェスさんは子供達と一緒にラダリアに行くことになりましたの巻。アモーネには家族もおらず、あるのはボロ屋の家が一軒だけなんだとか。それさえも必要最低限の物以外何も残ってないらしく、本当に子供達の為にしか生活してなかったんだってさ。


「けど良いのか?俺みたいな孤児院の管理運営なんてやらせてよ」

「良いんです。貴方なら安心して任せられますから」

 向こうでの仕事の際、シエロが孤児院の管理者をやって欲しいと願い出たのだ。子供達の為を第一に考えてくれるジェスさんならこれ以上無い適任だと思うよ。獣人に偏見も持ってないし、きっと上手く折り合いを付けてやってくれることだろう。


「それじゃあジェスさん、皆を任せたよ」

「お、おうッ!」

「アシア達も、獣人の子達と仲良くね?」

「うんッ!!」

「「「わかったッ!!」」」



 今度こそジェスと子供達がラダリアに向かって出発したのを見届けると、私達は都市の方に戻っていった。まだ、やり残した事があるからね。





 現在のアモーネは、混沌を極めようとしていた。



 まず、冒険者達は何がどうなっているのかちっとも理解出来ていなかった。突然消えた派閥のリーダーであるギルド長ルクレツェ。この街の冒険者は皆その男の指示に従って動いている。甘い汁を吸わせ、商人に我が物顔をさせなくした男に冒険者達は喜々として付き従っていたのだから、居無くなれば烏合の衆と化すのは必然だと言える。


 逆に大商人達はこれを機会に都市の機能を取り返す気でいた。


 そもそもの始まり。数年前から商人達は魔物の素材を買い叩く癖があった。それは後を継いだ若き大商人達の意向でもあったが、冒険者達にしてみれば堪ったものではない。


 誰もがこの都市から出て行こうと考えていたが、そこにルクレツェがギルド長に就任し、大商人達をどうやってか分からないが黙らせたのだ。

 そして結果商人達は買い叩きを止めた。それどころか、以前よりも何割増しか高い値段で売れるようになったのだ。これを喜んだ冒険者達は、それ以降活気を取り戻してダンジョンでの魔物狩りを積極的に行うようになった。


 逆に商人達はどうか?彼等はアモーネで商売を始めてしまい、更にそこを拠点としていた為に離れることが出来ない。まともな値段にしようとしても、ギルドに干渉されて割高で取引に応じざるを得なくなってしまった。なのでほとんどは必要最低限での商売しか望めず、苦い思いをし続けている。



 その関係が、ルクレツェのギルド長の座を追われるという事件によって崩れ去った今、最後に残った問題。それは当人達のプライドだけだった。




(まぁ粉々にするんだけどね……)




「それで、君達がルクレツェを失脚させた冒険者達か?」

「ええ、そうです」

「ふむ……それで要件は?」


 アイドリー達は今、アモーネの大商人達が集う建物の会議室に来ていた。何しに来たかと言えば、勿論この都市のこれからについてである。商人ギルドの代行として動く彼等大商人達にも情報網がある為、ルクレツェが居なくなった原因が彼女達であることを知っていた。

 というより、その一部始終を見ている冒険者達に助けを求められて知ったのだ。



 そしてアイドリーは、1枚の紙を大商人達に見せる。


「こちらに皆さんの判子を貰いに来ました。頂けるならば、私達は大人しくこの都市を出て行きます。貰えない場合は、この紙の内容通りに動きます」


 そう言って、紙を渡す。大商人達がその紙を脂っこい顔で睨み付けるように読むと、真っ青になって悲鳴を挙げるかのように了承した。


「わ、わかったッ!!押す、押すから止めてくれッ!!!」

「では判子を」


 ニコやかに笑うアイドリー御一行だが、紙の内容は鬼畜そのものだった。



『アモーネを統治し、これまで通りの価値で素材を冒険者から買い取る事、認められない場合、再びルクレツェを呼び戻し、ギルド長として従事させるものとする』



 やっと目の上のタンコブが消えたというのに、こうされては何も言えなかった。大商人達はルクレツェの正体を知っていた。そして、喋れば殺されるということも。だからこそずっと我慢してきたというのに、これでは本末転倒である。

 買い叩きは出来ないが、商人主体でまた都市を運営出来るし、ルクレツェの指示に従う必要は無いのだから、大商人達はアイドリーの提案を仕方がなく受け入れる。書類の判子を確認し、アイドリーは別れを告げた。


「今度は安心安全な商いをどうぞ♪」





「おい、あれって今朝の…?」

「……何やってんだありゃあ?」


 冒険者ギルドのある道沿いにて、アイドリーは地面に丸い円を描いてその上に立った。そして、その横ではアリーナ達が看板を立て掛けて呼び込みをやっていた。



「この冒険者に勝ったら、金貨1000枚ですッ!!」

「負けたらこの契約書にサインせよッ!!」

「円から出せても金貨100枚だよッ!!」

「いらっしゃーい♪」



 いつかのアリーナ商法だった。しかし、今回は桁が違う。勝てば賞金10億円である。円から出せても1億円。どちらで勝っても一生暮らしていける大金だった。しかし、『負けたら契約書』という部分で全員が引っ掛かる。


「なんだその契約書ってのは?」

「これじゃ」

「うわっぷ……どれどれ」


 顔に押し付けられた紙を受け取り呼んでみると、大商人達に書かせた物と同じ内容だった。ただし、ルクレツェの件は抜いてある状態で。


「てめ、あいつらの回しもんかよッ!!」


 途端に険悪にある冒険者達だが、アイドリーは挑発的な仕草で男達を誘った。


「お兄さん、自信無いの?」

「ああっ!?んなことねぇよッ!!ただまたあいつらに牛耳られるのは嫌だぜ。こんな契約書があっても、またいつ買い叩かれるかわからねぇからな」

「それは大丈夫。既に書類に判子を貰ってるからね」

「なんだってッ!?」


 あの業突張りの大商人達が、この書類の内容を認めたことに心底驚く冒険者達。しかしアイドリーはその判子の押された書類を見せて証明してしまう。


「ということだよ。これでもまだ納得出来ない?」

「……上等だッ!!」


 言い争っていた男は、遂に剣を抜いた。冒険者達はそれにテンションを上げて応援をし始める。



「ルールは一対一で私を倒せたら金貨1000枚。円から出せたら金貨100枚だよ。逆に、1分以内にどちらかの条件を満たせなかったらそっちの負け。魔法は無しで、飛び道具は有りね。途中でそっちが戦闘不能になっても負けだから」



 アリーナが砂時計を見せた。男はそれを確認して頷く。



「そしてこれが肝心。チャレンジは1人に付き1回まで。そしてやるのは今日1日限りだよ。そして、1人が受けたら、今この都市に居る全ての冒険者にチャレンジして貰うよ。それでも……やる勇気はある?」


 ドシャァっと、用意した机の上に1000枚分の金貨を出して不敵に笑った。


 アイドリーは、最大級の挑発行為に、これだけの条件で、この都市全ての冒険者に勝つと言っているのだ。



 小娘1人にそんな挑発をされた男達は当然怒りのボルテージが上がり、全員が宣言する。


「「「その挑戦受けたぁぁ~~~~ッ!!!」」」


 そして、戦いは始まった。




「おらぁッ!!」


 1人目の男の上段切りを剣で捌き弾く。勿論本気じゃないよ。本気で振ったら剣ごとぶった斬っちゃうからね。使ってるのも鉄の剣だし。懐かしいな鉄の剣。あれから手加減のスキルも上がったし、この数なら数本駄目にする程度で済むだろう。


「っと、ほらほら当たらな~い」

「て、てめぇ~~~!!」


 私の挑発に乗せられて顔を真っ赤にした男が横切りをしてきたので、それをジャンプで躱すと、

「今だッ!!喰らえッ!!」


 空中に居る私に蹴りを繰り出してきたのだ。ほーん、だが甘いね。それじゃあ私を出すことは出来ないよ。私はその足首を掴み、力で無理やり捻じった。


「いてぇぇーーーー!!?」

「ほーら顔がお留守だぞ?」

「あ、ぎゃぶッ!!」

 痛みで足首を抑えていた男の顔に、鉄の剣を平にしてスイング。鈍い音と供に転がってノックダウンした。アリーナが捻じられてない方の足首を掴み連れて行く。おつかれちーす。



「はい、次」



 それからは矢継ぎ早にどんどん冒険者達が挑んでいった。作戦としては色んな戦い方で様子を見て弱点を探すことと、アイドリーに休みを与えず疲れさせることだった。当初は何人かが不意打ちで金貨を奪おうとしていたが、それは美香とレーベルが力の恐怖を教え込んで黙らせた。


 なので無理やりは諦めてアイドリーを攻略しようとするのだが…


「くっそ、当たらねぇぞ全然ッ!?」

「おっと、危ない。ほら、足元もつれるよー?」

「あっふぎゃッ!!」


 アイドリーは男達の攻撃を全てトリッキーな動きで避けていた。そして中々に危なっかしいのだ。だから当たりそうだと錯覚する。してしまう。なので冒険者達はどんどん挑み続けていく。そしてどんどん負けていく。

 あらゆる攻撃方法は試されたが、男達の技量とステータスでは、どう足掻いてもアイドリーには勝てないのだ。




 そして数時間の後、数百人の屍を築き上げながらも息一つ切らす事なく戦い抜いたアイドリーに、最後の1人が相対したが……剣を向けることなくレーベルから紙を貰ってサインすると、早々に逃げ出してしまった。



「あっけない幕切れじゃのう。サソリに比べればなんてことは無いじゃろうが」

「それはそうですよ…」


 サソリはこの冒険者達よりも強く、そして遥か多く居たのだ。それをほぼ1人で相手にしていたアイドリーからしてみれば、たかだが数百人程度の冒険者など話にもならなかった。本人にしてみれば骨のある者が居なくて少し残念だったが。


「後はこの書類をギルドの職員に渡して処理して貰おう。これも決闘の範疇に入るんだし、双方が納得の上でやってるから効力は発揮するでしょ」


アイドリーは呻き声を上げている冒険者達に声を張り上げる。



「これで私の勝ちだ。もしもこの契約書の事項を守らなかったら、貴方達にはこうなって貰うから覚悟してね。……氷華よ、世界を覆い隠せッ!!」


 魔法詠唱をし、手から『都市を丸々包む程の氷の華』を咲かせた。



「「「………」」」



 何人かの者は、それに見覚えがあった。ガルアニアの王都、そこで行われた武闘会で行われた伝説と瓜二つのその氷華を。


「……桃源郷の、氷華?武闘会で、勇者を倒して優勝したあの?」


『勇者を倒した』という単語を聞いて、倒れていた冒険者達が一斉にアイドリーを見た。アイドリーは、自身のフードを取り、冒険者達に顔を見せる。ピンク色の髪に虹の瞳。特徴は完全に一致していた事を知り、悲鳴を上げて数人が逃げ出した。


「勇者を倒した奴に喧嘩売ったのか俺等……」

「こ、殺される……」

「いや、殺さないから」


 アイドリーはまたフードを被っていつもの調子にすぐ戻った。


「私達はこの都市を出るけど、勝手なことはもうしないって約束してくれればもう何もしないよ。だから皆、これからは商人達と仲良くね。私に負けたんだから、守らなかったら、あれをまた作って落とすから……いいね?」


「「「……」」」


「返事をしないと落とすよ?え、落として欲しいの?」

「「「全て従いますッ!!!」」」



「……そう」


 上を指差すと、一瞬で巨大な氷華は雪に変わり、都市中に静かに降り注ぎ始めた。冒険者達は無言で首を縦にブンブン振ると、アイドリーは満足したように頷き、シエロと美香に振り返る。



「じゃ、ついでを果たしに行こうか」

次回、新章に突入です。

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