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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第七章 ダンジョン都市アモーネ
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第105話 「ありがとう」を言いたくて

 レーベルは『ブルードラゴン』ことルクレツェに命令し、冒険者達を解散させた。ルクレツェもまさか彼女が居るとは知らなかったようで、一連の出来事に関して全てを洗い浚い話すことになる。まぁ私達皆フード被ってたしね。分からなかったのはしょうがない。



「えーっと、どこから話そうか。はは……」

「何笑っておるんじゃ?あッ?」

「っひぃッ!!」


 …とても同じ古龍とは思えないけど、とりあえずレーベルが居ると話にならないので、レーベルの膝にアリーナを座らせた。これで良し。


「それで、結局私達に何の用だったの?」


「勿論、野良バッカー達のことさ。もしも全員死んでいるなら、無謀で不用意な行動をした君達は危険人物だからね。早々にギルドとしては追放したいと思ったまでさ。それが嫌なら手ゴマにでもなってもらうつもりだったんだけど……それは止めたよ」


「ジェスさんに暴行を加えた訳は?」


「子供を殺す手伝いをしたかもしれないんだ。多少強引な手を使って吐かせないと。情報は命だからね」

「今まで子供が死のうが気にしなかったのに?」

「喜々として殺していた訳じゃないだろ?」


 ……言い逃れが露骨だなぁ。レッドドラゴン達がダンジョンから子供を運び出した事ぐらい知ってるだろうにね。ジェスさんを痛めつけたのは警告の意味を込めたポーズか。権力上は自分の方が上だと見せつける為に。



ルクレツェは勝ち誇った顔をしながら話題を変える。


「それにしても驚いたよ。まさかあの暴力ドラゴンが弱者である人間と行動を共にするなんてね。どうやって手懐けたんだい?」

「我が倒されただけじゃよ」


 それにレーベルがアリーナを撫でながら答えた。ルクレツェは手を叩いて笑い始める。信じられない喜劇を見ているかのように。

「あははは、これは驚いたッ!嘘まで付くようになったんだね。これはもう僕寄りじゃないかな?人間には関わらないとあれほど言っていたというのに」

「人間では無いからのう」

「……なんだって?」


 ルクレツェは改めて私をジッと見つめた。


「……確かに魔力の流れが違う……というか、力の底が見えない?ど、どういうことだい?」


「言っておくぞ馬鹿者か。そこのは我が何百匹居たとしてももはや傷すら付かない化け物じゃ。欺き茶を濁して有耶無耶に終わらそうとしてみよ……存在を消滅させられるぞ」


 その言葉に便乗して、一瞬だけルクレツェにガチの殺気をぶつけてみた。いや、殺す気は無いけどね。


「れ、れ、レーベル。親並みにヤバい殺気は初めて感じたんだけど……」

「それより話を進めたいんだけど。もう1回初めから……良いよね?」

「は、はい何でも喋りますッ!!」



 はい、暴露大会開始です。ルクレツェは数十年程前からアモーネで冒険者をやり始めたらしく、数年で大手柄を手にギルド長に就任。それからは色んな人間を誘導して子供を沢山生ませるようにしたんだとか。

 けどこの都市に子供を育てるような場所は無く、大概の子供は捨てられてしまう。当然生きてはいけない子供達に対して、ルクレツェは冒険者にこう言わせたらしい。



「野良バッカーとして生きていけば良い。そうすれば冒険者が雇ってくれる」と。



 事実、長年アモーネにはバッカーが足りていなかった。だから子供の為、冒険者にすることは出来ないが、バッカーとして連れて行くことなら可能だと言ったのだ。


「それを、そこの男に言わせたのさ。当時から子供達を心配していたみたいだったからね」


 指差されたのは、ジェスだった。なるほどね、だからあんな言い方して立ち去ったのか。自分がそうさせてしまった罪悪感があったから。

 そして子供達の日銭を稼ぐ地獄が始まった。確かにバッカーは足りなかったが、子供に頼るぐらいならと冒険者達は思っていた。しかしギルド長が「偶にで良いから使え」という言葉もあったので、嫌々ながらも雇っていたらしい。

 命を賭ける稼業だ。子供を守りながらのダンジョンはかなり難しい。それで死なせれば罪悪感も沸くだろう。そこをルクレツェは消したのだ。



「『野良バッカーは備品だ。所詮は娼婦の子、生きていても何の役にも立たないなら、自分達で使ってやれば生きた意味にはなるだろう』ってね。後は御覧の通りさ。彼等の負のサイクルや心が汚れていく様は見ていて最高だったね」



 悪びれもせずに言い切ったゴミを、私は冷たい目で見る。レーベルは吐き捨てるようにして私に言った。



「主よ。こやつはこういう奴じゃ。こやつは人のそういう姿を見るのが好きで人間の世界に居座っておるからな。我はな。祖父から、いつでも良いから連れ戻すか殺すことを仰せつかっておったのじゃよ。古龍とも思えぬ鬼畜外道を放っておくなと言われてのう。昔は国すら巻き込んで戦争ゲームをしようとしたぐらいじゃからな」



 その事実は初めて知ったのか、ルクレツェはまた青い顔して震え始める。なるほど罪状は数えきれない程あるみたいだね。というか、愉悦にさえ浸れれば何でもするのか。


「い、良いのかい?ここは人間の世界だ。僕はギルド長、殺せば冒険者である君達は問題になる。今は人間の世界で生きているんだろ?ほら、君も何か言ってくれ」


 そんな逃げ口上を述べるが、残念だけど逃がす気は無いよ。


「確かに、ギルド長が死ねば冒険者ギルドとしては問題行為だね。けど、それは貴方がギルド長なら、の話だよ」

「おいおい、僕は名実共にこの都市のギルド長だよ?」

「ならその鏡の中に映る人物に確認してみようか」

「……え?」



 私は一度だけ、その魔道具を見た事があった。ギルド長だけが使える、『通信鏡』を。この部屋に入った瞬間から、私はそれを妖精魔法で起動させたのだ。消音も擬態もさせていたから、動いているようには見えなかったことだろう。



 そして合わせたチャンネルは、


『おう。全部聞かせて貰ったぜ、アモーネのギルド長さんよ』


 ハバルのギルド長室だった。



「久しぶりドロア。そういうことだから報告よろしくね」

『任せろ。本部にはしっかり言っておく。アモーネのギルド長は子供を食い物にする鬼畜外道で冒険者の風上にも置けないゴミだってな。しかし相変わらずだなお前。ハバルの事といい王都の事といい、巻き込まれ過ぎだろ』

「顔見れて嬉しい癖に」

『うっせぇ!!……はぁ、しっかりやれよ?じゃあな』


 そして通信は切れた。私は清々した顔でルクレツェに向き直る。



「さて、ギルド長がなんだっけ?」



 もはや遠慮をする必要は無くなった。私は聖剣を出して全力で発動させる。ルクレツェはギョッとした表情になった。


「何で人間じゃないのに聖剣が使えるのさッ!!??」

「安心せい、もう1人は普通の人間じゃ。そうじゃろう美香?」

「うん、聖剣開放ッ!」

「ふ、2人ッ!!?くそッ!!」


 私達に斬り殺されると思ったのか、ルクレツェの行動は早かった。部屋の窓から身を投げ、即座に本来の姿になった。藍色の鱗を輝かせ、空に飛び立つブルードラゴン。

 冒険者達や商人が驚愕の表情を浮かべるが、そんなことお構いなしにルクレツェは全力で逃げてた。レーベルのしつこさと勇者の恐ろしさをよく知っていただけに、その顔は本気である。


 で、当の私達は、聖剣仕舞ってただそれを見送っていた。レーベルが私の頭に自分の頭を乗っけて問い掛けて来る。


「追わぬのか?」

「追う必要は無いかな。だって」



 屋根の上から断末魔が上がった。数分すると、1匹の妖精が部屋に入って来て老紳士に人化する。



「お帰りクアッド」

「ええ、ただいま戻りました。ところでアイドリー嬢、いきなり珍しい種のドラゴンが出没したので処理したのですが、本体の宝石を妖精魔法で固めて取って参りました。どうされますかな?」


 ニコやかに宝石を見せるナイスミドルな老紳士クアッド。多分ちょっと強い魔物程度にしか思ってないんだろうなぁ。哀れとは微塵も思わないけど。


「ありがとうクアッド。こっちで処理するから頂戴」

「ええ、どうぞ」

「肉体の方は?」

「使った妖精魔法の効果で、水となって消えてしまいましたな」


 い、一体どんなイメージで使ったんだろうか……


 宝石は小瓶に入れた。これも妖精魔法でかなり頑丈にしてあるので、そう簡単には壊れない。そしてその小瓶に紐を通す。水で小瓶を満たし、超高密度の魔力を水に混ぜて蓋をして……よし、これで死ぬことは無いだろう。


「レーベル、これあげるね」

「うむ、頂戴しよう」

 悪い顔笑み浮かべてそれを受け取るレーベル。アリーナはクアッドに肩車されにいったところ見ると、妥当な罰だと判断したみたいだね。そして肩車したまま、クアッドはまだ話があるようだった。


「後、お耳を拝借しても?」

「はいはい……ほーん。分かった、ありがとうね」

「いえいえ、お安い御用ですよ」




 さて、ここまで全部前振りだからね。当初の目的を果たそうか。私はジェスさんの頬をピシパシとビンタして起こす。


「……んぐっ……何だ?まだ殴りたりないのか……って、何でお前等此処にいんだッ!?ってなんだこの惨状はッ!!?」

「まぁまぁ。ちょっとギルド長がギルド長じゃなくなってそこの小瓶に閉じ込めただけだから」

「説明になってねぇんだよッ!!」




 何とか落ち着いて事の顛末を説明し納得して貰い、私はあの話題を改めて聞いた。


「貴方が素直に子供達のお礼を受け取れなかったのは、ギルド長に唆されてバッカーを進めたから?」

「……アシアの前に、子供達のリーダーをしていた奴の話はしたな」

「うん」

「俺はな、そいつに野良バッカーの案を話したんだ。それでそいつは喜んで子供達を集めて全員野良バッカーにしちまった……いつか大人になったら、皆でバッカー専用のギルドを作って大儲けしようって夢を語ってな。俺も、そうなれたらと馬鹿みたいな夢を一緒に見てた」


 だが死んだ。その子はダンジョン内で死んだのだ。夢を語って、夢を見続けて。


「あのゴミ野郎が言っていた。反乱をする可能性があるから、ダンジョン内で殺させたと。そんなことを望む奴じゃねぇって分かってたんだ。だから反発して冒険者を止めた。近くで子供達を見守る為にな」


 二度と、そんなことが起こらないようにする為に。ジェスがやれた最後の贖罪だった。

 

「毎日冒険者達に邪険にされているあいつらを見ていた。頭がどうにかなりそうになりながらな。それでも俺にはこれしか出来なかった。だから、お礼を言われるなんてことは絶対に無いんだよ。そんなことはあっちゃならねぇ……俺は、死んじまったあいつに顔向けなんて二度と出来ねぇんだから…」


 死んだ原因を、苦しめる原因を作った自分にそんな資格は無いと、ただ顔を俯かせるばかりだった。



 よし、弱音は吐き切ったね。



「レーベル、運んで」

「うむ」

「は?え、おい何をッ!?」


 レーベルに担がせて、私達はギルドを出た。先程から都市の外で待ってるんだよね。まったく、どうやってレッドドラゴン達にお願いしたんだか。レーベルの肩の上で暴れるジェスさんが怒鳴る。


「おい、何処に連れてこうってんだッ!!」

「ちょっと外まで」




 都市の外まで連れて行き、レーベルにジェスを降ろさせた。アイドリーは空に向かって合図をすると、一斉に『レッドドラゴン達が降りて来る』。


「うぉぉおおぉおぉ!???!?」

 ジェスさんが驚いて腰を抜かすが、その後ろに乗っていた者達を見て、直ぐに正気を取り戻した。そして、その子達もジェスを見て直ぐ降りて来る。


「「「ジェスおじさんッ!!」」」

「ジェスさんッ!!」

「お、お前等………なんで」


 アシア達は、どうしてもジェスにお礼が言いたかった。自分達を見守ってくれていた人に。空腹で死にそうになった子には自らのお金を使って不器用に隠して持って来てくれたことや、赤子の為に自分の家の毛布を持って置いてってくれたことや、いつだってダンジョンに行く時『死んでも帰って来い』と言ってくれたこと全部含めて。だから、



「知ってたよ。僕達は全部知ってた。ジェスさんが、ギルド長に言わされたことを」

「……え?」



 アシア達は、自分達のリーダーが死んだ翌日、直接ギルド長に聞かされていたのだ。野良バッカーを始めさせたのはジェスであることを。リーダーが死んだのは、ジェスがリーダーに夢を見させて、商売敵になろうとしたからだと。



「けど、僕達はあの時そうやって働かなきゃ生きていけなかった。確かにあの人は酷い事をしたけど、ジェスさんは全部良かれと思ってやってくれたんじゃないかッ!!リーダーだって、そうなる可能性を知ってたに決まってるよッ!!」


 子供達は考える力もアイドリーが出したボードゲームで得ていた。だからこそ、ジェスが悪人ではないと、今考えても思えたのだ。何故なら、リーダーはいつだって笑顔だったのだから。


「それでもリーダーはいつもジェスさんに感謝してたんだッ!僕達もそうだよッ!!」

「う……っぐ……あぁ」


 子供達に囲まれて、ジェスは膝立ちのままそれを聞いていた。反論の言葉が出て来ない。否定しなければならない筈なのに。自分を許してはならない筈なのに。憎まれて当たり前だと思っていたのに。言葉が喉を通って出てくれない。涙だけが、流れて来る。



「ジェスおじさん……これ」


 そして、ルンはポケットから一枚のボロボロの紙を出した。


「もし、ジェスおじさんが泣いてたら渡して欲しいって、リーダーに……」

「……あいつのか?」


 ジェスは、渡された紙を見る。そこには、下手な字でこう書かれていた。見覚えのある字だった。




『あんたは俺達の恩人だ  野良バッカーのリーダー ラスタル』




「……あの……あの、大馬鹿野郎……ガキがッ……なんで…なんでッ!!」


 ボロボロと涙が溢れて止まらない。ルンも、アシアも、子供達全員、涙が止まらない。寒空だと言うのに、心が暖かくて仕方が無かった。


「ジェスさん……」




「「「ありがとうッッ!!!!!!」」」




「……ああ。こちらこそ……ありがとうよぉ……」


 その言葉は、凍っていた男の心を確かに溶かしたのだった。

「最高の終着点だね……」

「ええ話じゃのう……」

「グス……本当に良かったです」

「無事、ハッピーエンドかな?」

「100点満点ッ!!」

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