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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第二章 冒険者になってみた
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第11話 お宅訪問とお願い

 夕陽が落ちて、色の変わった街並み。屋台が姿を消して暫くすると、所々の酒場から一際大きな冒険者達の声が聞こえて来る。みんな働いてないけどしっかりお金は落としていくんだね。にしても……この喧騒は少し気持ち良いかな。


「夜の街明かりってちょっと良いよね……見ててあったかい感じするよ」

「……んぅ……あい……どり~……♪」

「そして耳元が幸せ過ぎる……」


 お腹一杯になって眠ってしまったアリーナをフードの中に寝かせて、私はパッドさんの家に向かっていた。家は壁沿いにあるらしく、ちょっと迷ってしまったけど家の特徴を聞いといて正解だったね。無事に赤レンガの壁で白屋根の家を発見出来たよ。


 ドアを叩くと、中からパッドさんが顔を見せる。ふわっと笑う顔がなんだかおかしい。


「やぁ、首を長くして待っていたよ」

「ごめん。ちょっと迷っちゃって」

「多分そうなるだろうって思ってたから大丈夫。妻も今料理を作り終わったところだから、皆で暖かい団欒といこう」

「うん、お邪魔するね」


 中に入ると、小さいシャンデリアに火が灯っている廊下を見る。あれも魔道具かな?火から魔力を感じる。結構裕福な暮らしなのかな。

 パッドさんにリビングに案内されると、一人の女性と目が合った。ニコっと笑うと、こちらにパタパタ小走りで寄って来る。こちらもふわっとしているね。似た者同士かな?


「あらあら、貴方がアイドリーさんですね。私はマエルと申します。本日は夫を助けて頂き、本当にありがとうございました」


 そう言って深々と頭を下げられてしまった。止めて、助けたのは偶々だし、次いでの意味もあったんだから。


「私はちゃんと彼から代価を頂いているし、そんなに畏まらないで良いよ。美味しいご飯、楽しみにしてたしさ」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれてありがとう。じゃあアイドリーちゃんって呼ぶわね。ほら、ヤエも挨拶しなさいな?」


 マエルさんが声を掛けると、後ろからヒョコっと女の子が顔を出した。大体5歳くらいかな。アリーナよりお姉さんだね。


「ヤエ、です。パパを助けてくれてありがとう。お姉ちゃん」


 私は即座にヤエちゃんの頭を撫でてパッドさんに顔を向ける。


「パッドさん。娘さんを下さい」

「女の子だよ!?」

「愛に性別も年齢も関係無いと思うの」

「だとしても犯罪だよ!!」

「あらあら、面白い子ね貴方」


 だって撫でられて気持ちよさそうに笑う女の子は人類の至宝だよ? どんな金銀財宝にも勝るんだよ?



 椅子に座り、改めて作り立ての料理を見た。大きな魚のムニエルと、果物、肉のシチュー、そして飲み物。4人で食べるには十分な量である。しかしこの組み合わせ、ご飯が欲しくなるなぁ。


「それでは頂きましょうか。アイドリーちゃん、腕によりをかけて作ったから、一杯食べてね」

「任せて、お腹はペコペコだよ」


 まずはムニエルの身を解して口に運ぶ。ほくほく柔らかな身が舌でほろっと崩れた。


「それはセネガルという魚なんだけど、今日の市場に並んでたんだ。この街に来るには珍しい湖魚でね、身が柔らかく、肉みたいにジューシーだから王都では人気なんだよ」


 むむ、これは美味しい。レモンソースの掛かった身は口に入った瞬間崩れていき、見事に溶け合っていく。喉に通るまでの間味の幸福感が続いた……よし、次はシチューだ。


「そっちは今朝君から貰ったベアウルフの一番大きい奴の肉を使ったシチューだよ。ベアウルフは市場でも一番売れている肉の1つなんだけど、それはその中でも更に上等な奴だったから、その肉だけ持って帰って来たんだ」


 肉は余計な油を付けておらず、シチューのトロみと良く合う。味も格別だ。前世で食べていたレトルトのホワイトシチューを思い出すけど、あれとは比べ物にならないぐらい美味しかった……いや、あれとは比べちゃダメだな。


 ああけど、どれも暖かいから身体がポカポカする。うん、やはり妖精郷から出て来て本当に良かった。こういうのに出会えると、旅を決意した甲斐があるというものだ。



「凄く……美味しいよ。故郷の味に少しだけ似てる」


「本当? ならなによりだわ。奮発した甲斐があったわね貴方?」

「ああ。僕も嬉しいよ」


 2人から生暖かい視線を浴びながら食べるのは流石に照れてしまうんだけど……と思っていたら、腰部分を掴まれる感触が。顔を向けたらヤエちゃんが私を見上げていた。



「お姉ちゃん、強い冒険者さんなの?」

「うん? うーん、うん。君のお父さんを助けられる程度には強い冒険者だよ」

「ああ、冒険者になったんだねアイドリーさん」


 そして、ヤエちゃんがぶっ込んだ。


「私も将来、お姉ちゃんみたいな冒険者になりたいです!!」

「「えっ!?」」

「お姉ちゃんみたいな強い冒険者になって、一杯お金稼いでパパとママに大きな家をプレゼントしたいんです!!」

「「「……」」」


 どうやら強い女性に憧れを抱いてしまったようだ。けどヤエちゃん。パッドさんは君を商人の跡取り用の娘として育てるつもりだったと思うよ?そんなに狭い家でもないと思うし。

 二人は私に引き止めてくれと顔で促しているので、おそらくそのつもりだろう。私はしょうがなくその意を汲み取ろうと思う。


「ヤエちゃん。女性で冒険者はとっても怖くて辛いお仕事でもある。魔物と戦うし、冒険者同士で喧嘩もするし、戦争に行く人だって居る。ヤエちゃんは、そんなのでパパとママを悲しませたくないでしょう?お金を稼ぐのも大事だけど、今のままでも、ヤエちゃん達家族はとても幸せそうに見えるから、それはもっと大人になってから考えても遅く無いと思うの」


「けど……」


 パッドが娘を抱き抱えて、私に頭を下げた。


「すいません、アイドリーさん。この子はまた僕は魔物に襲われないか心配なんだと思う。だから、自分が強くなって将来僕を守れるようにもなりたかった。そうだろ?」

「……うん」


 なるほど、朝言ってた冒険者の独占か。それについてはまだ詳しく聞いてなかったね。


「結局それって、何の依頼で冒険者が取られてたの? 街が傾くレベルなのに」

「それを補って余りあるんだよ。なんせ竜種の討伐だからね。相手はなんと……レッドドラゴンだ」


 なんと、って言われても分からないよ。私は初心者ランクの冒険者なんだから。


「それってどんなドラゴンなの? 私普通の奴しか見たことなくて……」

「名の通り赤いんだけど、火属性のブレス攻撃が強いドラゴンでね。最近街と街を繋ぐ丘に住み着いてしまって、そっち方面の道が封鎖されたんだ。で、領主が依頼を出して冒険者を集めているんだよ。数日後には討伐しに行くらしい」


 なるほど、だからあの時間帯にギルドの中は空っぽだったのか。皆既に依頼を受けた後だったんだね。


「その依頼が成功すれば一人頭金貨5枚という破格の報酬らしくてね。だから皆こぞって依頼を受けてしまい、他の依頼をこなせなくなった。これが真相だよ」


 金貨5枚。前世の価値に例えるなら、参加するだけで500万円ということになる。そりゃあ眼の色変えるよね。特に冒険者は危険が多いから、一度に大金を得られるなら安いものだろう。


(だからといってあまり褒められたものじゃないからなぁ……必ずしも討伐出来るとは限らないだろうし……といっても私は混ざれないし。低ランクだから)


「けど、数日後に討伐に行く予定ならもう少しの辛抱じゃない? パッドさんもそれまでの間街から出ないでしょ?」

「僕はそうだね。ただ、知り合いに一人緊急で行かなけばならない商人がいて焦ってるんだ。今日も何人かの冒険者に頼んでたけれど、断られていたし……」

「その人も依頼出してるの?」

「ああ。指定依頼でね」

「それ、私が受けようか?」


 確か依頼を受けるのにランクは関係無かった筈だ。よっぽど高いものだとギルドに止められるけど、護衛ぐらいなら私のランクでも許して貰えるだろう。


 けど、パッドさんは驚きに染まった眼で私を見た。


「け、けど君は冒険者になったばかりだろう? それにパーティも組んでないし」

「確かにそうだけど、私の腕前は見たでしょ? 護衛ぐらいならやれると思うんだけど」

「そうなの?」


 マエルさんがパッドに確認をすると、パッドさんはブツブツと何事か言い始め、判断をしているようだった。


「……確かにそうだ。ベアウルフ複数を単体で倒せるんだから、ランクで言うならC+はある」


 え、あれでそんなランクなの?なら尚更大丈夫だろう。街の半径数キロ以内にあれ以上に強い魔物はオークぐらいだし。それも提示しておこうか。


「実はオークも3匹倒したんだよ。ちょっと私には多いからあげるね」


 椅子の横に四角い布を引いて、そこにさも背中から肉を出したように見せかける。肉が一切れ出て来るごとにヤエちゃんのテンションが上がっていくので、少し多めに出す。ニコニコしながら出しちゃうよいやしんぼめ。


「い、今どこから出したんです!!?」

「驚いたな……本当にオークの肉だ」

「これで、私なら大丈夫ってことにならないかな?」


 オークの肉は人気だと聞くから、喜んでくれているみたいだ。パッドさんは納得した顔で、私を見る。


「出来れば明日の早朝に依頼を受けて欲しい。頼めるかい?」

「このお肉でお弁当作ってくれるなら、喜んで」

「感謝するよ」


 マエルさんはお肉を持って決意の籠った顔になる。


「任せて。私がこれ以上は無いってぐらい美味しい肉弁当あげるわ」

「私も手伝います!!」

「じゃあ交渉成立だね。ご飯、御馳走様でした」


 とりあえず依頼人の名前と特徴ぐらいは聞いて帰るとしよう。明日は早起きしないとだしね。私はご飯のお礼を言って、宿屋に帰った。


 これは私の自己満足に過ぎない。ああいう幸せな家族が困ってたりすると無性に助けたくなるのは、やっぱり私の前世の所為だけど。




「あー星が綺麗だなぁ」


 こっちはどこでも星が良く見える。というか明るい。光が無くても全然回りが見えるのだ。こんな日にはセンチに浸って星を見ながら歩くのが格別だね。





「マエル。僕はこれからあいつのところに行って来るよ。2人は先に休んでてくれ」

「わかったわ。さぁヤエ、パパにお休みをしましょう」

「うん。パパおやすみなさい」

「ああ、おやすみヤエ」


 僕は家族との挨拶を終えて、急いであいつのところに向かった。多分最初は疑われるだろうが、彼女の強さを知ればきっと快く行ってくれることだろうと願って。近所でもあるので直ぐに到着し、玄関ドアを叩く。


「アルバ! 開けてくれ!! 遂に見つかったぞお前の助け主が!!!」


 しばらくすると、ごわごわな髪と無精髭を生やした男が、酒気を帯ながら荒々しい声で僕を出迎えた。こいつ、まだ飲んでいたのか……


「なんだパッド、俺は人生最後の酒を死ぬまで飲むのに忙しいんだが……?」

「馬鹿! お前の護衛を引き受けてくれる冒険者が見つかったんだよ!! 急いで馬車の準備とその顔どうにかしてこい!!」

「……マジか!!わかった待ってろ!!!」


 今はまだ夜だが、こいつの荷の場合、今から準備しないと明日の朝に間に合わないからね。しかしこれで明日は安心だ。



「おい、パッド。喜んだは良いがそいつ強いのか?」


 洗面台からアルバの疑問の声が聞こえるが、僕はその言葉に胸を張って答えた。



「僕を救った恩人さ。とっても強い女の子だよ」 

パッドは28歳

アルバは32歳


商人としてお互い同時期にギルドに登録し意気投合した仲である。

「パッド、待て、あとこれだけ飲ませろ!!」

「馬鹿野郎!仕事前に酒を飲む奴があるか!!!」


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