第99話 ダンジョン妖精
眼を覚ましたらこちらを聖母の顔で撫で続けながら腕枕をしてくれているアリーナの顔が目に入った。え、マリア様?
「おはよう、アリーナ寝てなかったの?」
「おはよ、アイドリーを見てたかったからね。それに、私はそこまで疲れてなかったから。美香が沢山頑張ったんだよ?」
「そっか……時間は?」
「あれから3時間くらい経ったかな。ほら、時計動き出したんだよ?」
ほんとだ、鬼畜ギミックさんだった時計の針が振り子に合わせて時間を刻んでいる。廊下に目を向けると、永遠だと思っていた空間の先が無くなり、白木の扉が現れていた。
「あれ、何処に繋がってると思う?」
「さぁ?それよりアイドリー。ちょっとチクチクするから離れて良い?」
「チクチク?……え、なにこれ?」
何か、私の身体に白いのが付いてる。いや、これは鎧だ。私の身体にフィットしていて、動き易いように軽装化されてるけど。エルダーアーマーが倒れた場所を見ると、最初から何も無かったかのように姿が消えていた。
「アイドリー達が寝てからしばらくして、あの鎧が光ったと思ったらアイドリーの身体に装着されてたの」
「えぇー……邪魔なんだけど。あ、外せた」
アリーナが嫌がる物など身体に着けていたくなかったんだけど、鎧は簡単に外れてくれた。良かった、呪いの装備じゃないや。外れなくなってたら無理やり破壊しなくちゃいけないくて面倒だからね。
鎧を次々に外して収納に仕舞っていくが、剣の時のように一瞬で戻ってまた装着されるという事態にはならなかった。これも助かったよ。
「こんなの装備してたら目立ってしょうがないもん」
「今更じゃないかなぁ……?」
「フードで顔隠してもこれ付けてたら目立つよ?」
「どっちにしろフード外しちゃうでしょ?」
「うぅ~~~アリーナがいじめる~~~」
「あーごめんごめん。ほら、おいでおいで」
アリーナが腕を広げて誘って来たのでまた抱き付いた。このアリーナが相手だと自分が子供になってしまうからだろうか、感情が凄く出易いな。しかし癒されるなぁこれ。
しばらくそうやって揺れた後、私は自分のステータスを確認した。聖鎧を手に入れてしまったなら、聖剣の時のようにスキルが増えてるかもしれないしね。
アイドリー(3) Lv.1340
固有種族:次元妖精(覚醒+)
HP 3066万5998/3066万5998
MP 6360万0023/6360万0023
AK 3億4280万3900
DF 3億1100万9010
MAK 5422億6999万0444
MDF 5230億8770万3400
INT 7100
SPD 2012億2690万5500
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存 概念耐性
聖剣(第2段階) 真・聖鎧(休眠状態)
スキル:歌(S)剣術(EX)人化(S+)四属性魔法(EX)手加減(S+)
隠蔽(S+)従魔契約(―)複数思考(A)
称号:ドラゴンキラー 古龍の主 反逆者 バトルマスター ●・●●
・聖剣(第2段階)
『開放時にステータスを10倍にし、『聖属性魔法』の行使を可能とする。――――――――――――」
・真・聖鎧(休眠状態)
『DF・MDFを10倍まで引き上げる。状態異常を無効化する。この固有スキルを獲得した場合、聖剣特性の媒体になる際に大幅な補正が掛かる。現在休眠状態にある為、スキルは使用不可』
・●・●●
『表示出来ません』
上2つは良いや。最後の称号のやつ、表示出来ませんじゃないよ。なんでバグってんのさ怖いわ。うぅ……勇者のスキルなんて要らないのに。
……まぁ、種族は変わらないから良いか。
「おし、起きよっか」
「そうしよー」
皆起こしてモーリスを元の大きさに戻した後、私達は扉の前まで来た。
「次からはこんな感じの廊下がずっと続くんじゃろうか?」
「止めてよ~精神耐性があってももう会いたくないって……」
「私もです……」
「もうあんなヤバいのは出ないでしょ。ということで」
「ゴー、だね」
扉を開けて皆で入ると、『私が皆の前から消えた』
「……んん?」
何か、神殿みたいな場所に私は立っていた。これはあれだ。『お前は行かせねーよバーカ』ってやつだ。『君は特別だから重役と話そう』ってやつだ。『同調』は使えるかな?
『アリーナオーバー?』
『おーアイドリー。どしたのいきなり消えて?オーバー』
いつも私のノリに合わせてくれるアリーナ大天使に内心感動しながら、私は今の場所をとりあえず言ってみる。
『何か変な神殿に跳ばされた。変な銅像がズラッとな感じ。そっちはどう?』
『皆が座れる円卓室に着いたよ。机の上に沢山の魔道具が置いてあるね』
『了解。何となくノリと根性の名の下にそっちへ帰るからよろしく』
『りょうかーい』
『というかノリと根性ってなんじゃあr』ブツッ
慌てた様子もなくやり取りをして、レーベルのは無視して『同調』を切る。向こうが無事ならまぁ良いや。さて、奥の方で何かが開く音が聞こえたので。とりあえずそっちの方向に向かってみようか。
銅像を見ていくと、皆魔法使い?魔女?の姿が象られていた。歴代のダンジョン経営者とかそんなんかな?だとして何故魔女?
そして開いた扉を入っていくと、1人の男が待ち構えていた。
黒いタキシードに深緑の髪をオールバックにしている60代程に見えるおじいさんが私を出迎えてくれたよ。おじいさんは爽やかな笑みで話し掛けて来る。
「始めまして可愛らしいお嬢さん。私はこのダンジョンの管理を担当している者です。貴方の名を伺っても?」
「あ……はい。アイドリーだよ。貴方は?」
「ではアイドリー嬢、私に名はありません。このダンジョンを管理をしている頃から」
おじいさんの後ろには、謎の装置と、そこに嵌められている巨大な宝石。私が作った特性転移石に似てるね。中心から魔力が溢れている。
「さて、色々と気になる事があると思われますが、、まずは質問をしながらで良いので、お話を聞いて頂けますかな?初めての客人なので、ちょっと気分が高揚しているのですよ」
「ああ、うん。私も色々聞きたかったし、是非」
「ありがとう、では紅茶とお菓子はいかがですかな?」
おじいさんが指を振ると、白い机と椅子が現れ紅茶の注がれたティーカップが出て来た。沢山の種類のお菓子も出て机の上を彩っていく。おじいさん活き活きとしながら指を振っていくね。余程嬉しかったらしい。
「ではお話を始めましょう。まず大前提として、このダンジョンは51階層で終わりとなります。皆様方が数多の困難を越えて無事ダンジョン攻略を果たした事に、心からの敬意と称賛を贈らせて頂きたい。賞品も、今頃貴方の仲間達が確認している筈です。心配なら様子を見せましょうか?」
「ううん、さっき確認したから大丈夫だよ」
「ほう、他人と意志の疎通が出来るのですか。それは羨ましい、とても……」
少し寂しそうに笑い手を擦ると、ティーポットで私のカップにまた新しい紅茶を注いでいく。お、香りが変わった。アップルティーだね。
「私はこんな姿をしていますが、人間ではありません。もう生まれてから1万年は過ぎています。人間のように感情も存在しますが、それは長過ぎる時間の中で、人間達をダンジョンを通して学んだものになります」
「貴方は先程管理を『担当』していると言ったけど。じゃあ貴方は何なの?」
私はさっきから『妖精の眼』を発動しているが、一向にこのおじいさんのステータスが見えないのだ。こんなことは初めてだったから、ちょっと動揺していた。
けどおじいさんは、もっと凄い爆弾を落としてきた。
「私は、このダンジョンの媒介にして生まれた『妖精』ですよ。ただし、通常の妖精と違い、この部屋から出ることは出来ませんが」
「……本当に?本当に、妖精?」
「おや、『妖精』の存在を知っているのですか?ほら、そこに嵌っている宝石は『ダンジョンコア』と呼ばれる物。そこに『私』が居ます、覗いてみて下さい」
そう言って、子供の悪戯が成功したような笑みを浮かべたおじいさん。嘘は言ってなかった。私は魅惑の輝きを発するそのダンジョンコアに近づき、よく見てみると…
魔力溢れるその中心に、おじいさんが居た。
名無し(1万2998) Lv.1
固有種族:ダンジョン妖精
HP 1/1
MP ・表示出来ません・
AK 1
DF 1
MAK 1
MDF 1
INT ・表示出来ません・
SPD 1
【固有スキル】ダンジョンコア(劣化) 妖精魔法 顕現依存 妖精の眼
スキル:人化(EX)
称号:ダンジョン管理者
・ダンジョンコア(劣化)
『ダンジョン内で一部の権限を有する事が出来る。ただし、このスキルを持つ者はダンジョンコアから出ることが出来なくなる』
言葉が出なかった。まるで部品の一部かのように組み込まれているおじいさんのステータスは、生きている『だけ』の物だ。これっぽっちも『生物』としての機能を残していない。そうか、この今飲んでいる紅茶や机も全部『妖精魔法』で出していたものだったんだね。
宝石の中に居るおじいさんは、丸まって寝ているような様子だった。おそらく、眼を覚ますことも出来ないんだろう。おじいさんは私の隣まで来た。ダンジョンコアの中に居る自分を静かに見ていた。
私は、肩を震わせながら、ゆっくりとおじいさんの顔を見る。
「……寂しかったの?だから、私を呼んだの?」
「……知識の中でしか知らなかった。自分以外の『妖精』が存在することを。だからもし此処まで来たら、会って話をしてみたかった……本物の妖精がどういった物なのかを知りたくて……そんなところです」
「~~~~~ッ!!!!」
もう耐えられなかった。私はおじいさんの腰に抱き着く。こんな酷い仕打ちがあってたまるものか。
「馬鹿だよおじいさん……こんな場所に独りぼっちだなんて……悲し過ぎるよ」
「はは、これは…手厳しい……私の為に泣いてくれるのですか?」
「当たり前じゃんか~~~」
「……ありがとうございます、アイドリー嬢」
私の涙は、ちょっとの間止まりそうになかった。そんな私を、おじいさんは優しく頭を撫でてくれていた……




