第98話 妖精VSエルダーアーマー(聖鎧)
「レーベル、『超同調』は全て防御に回して。私が妖精魔法でスキルの持続時間をなるべく伸ばす。そしたら出来るだけ細かく火属性魔法を空中に散布して子供達の前方10m前に浮かせて。出来る?」
『造作も無い』
アリーナは頷いてシエロの所に来た。シエロは子供達の中心で必死に宥めていたが、本人も恐怖からかその声が震えている。
「シエロ?」
「あ……あ、アリーナ。わた、しは……」
「良いの。シエロは此処で子供達の心を支えてあげて。此処は殺気が濃密過ぎる。アイドリーが水の結界でギリギリ防いでるけど、微量でも子供達には悪影響だから。貴方が安心させてあげて?」
「は、はいッ!」
決意の籠った瞳を見てアリーナは勇気付けるようにニコっと笑った。
「皆、絶対に大丈夫。私達は地獄と呼べるような場所を一度潜り抜けた。あれに比べればこんな所、ちょっと暗くて気持ち悪い魔物が来てるだけだよ。何の心配も要らない。だから、どうかアイドリーに応援の願いを込めて祈って欲しいの」
子供達はアリーナに顔を向けた。一心の曇りも無い言葉に、恐怖よりも安堵が一瞬上回る。アリーナの笑顔は、生きる者全てに活力を与えていく。
「私達妖精は人の笑顔が何よりも好きなの。そしてそんな人達が頑張れって願ってくれたら、すっごく頑張れちゃうんだ。だから、祈って……?」
そして、1人ずつ両手を組んで、祈りを捧げ始めた。自分達を守ってくれる者達の為に、自分達を此処まで導いてくれた者達の為に。それにシエロも続く。もう誰も恐怖をその身に宿してはいなかった。
「ありがとう……」
「美香ッ!大丈夫ッ!?」
「グロくて気持ち悪くて異臭で吐きそうだけど大丈夫ッ!!」
魔物達を聖剣で消滅させていく美香の顔は、先程のテンションが一回りしてハイになっていた。自分が今最も戦力になっているのを理解していた為に、無意識に身体は動いているのだが、その均衡はとても不安定であり、いつ崩れるか分からないようにも見える。
「じゃあそんな貴方にプレゼントだよ」
アリーナは美香に妖精魔法を使った。途端に美香は滅茶苦茶になりそうだった思考にクリアになり、正気に戻った顔になった。アリーナは、美香のステータスに『精神耐性』を付与したのだ。
「本当に万能過ぎないッ!?」
「少しの間だけだよ。けど倒せるのは貴方だけだからお願いッ!フォローするからなんとか粘ってねッ!!」
「これなら幾らでも行けるから任せてッ!!」
美香は更に勢いを増して敵を聖剣の一撃で消滅させていく。アリーナはその後ろから炎の刃を妖精魔法で出し、グール達の足や手を斬り焼いて回復を阻害し、行動を制限していく。これで暫くの間は持つだろう。サソリに比べればまだまだ余裕だとアリーナも考えた。この分なら全滅も容易だろう。
心配ごとは一つだけ。だが、アリーナは手助けに行こうなんて野暮は思わなった。
「終わったら思いっきり抱きしめてあげるよ、だから頑張って、アイドリー」
レーベルが塞いだ通路の向こうでは、無数の剣戟の打ち合いがされていた。お互いが生物の枠組みを完全に超えた個同士の戦い。レーベルが『超同調』でアイドリーのステータスとリンクしていなければ、即座に細切れなるような攻撃の応酬。
名無し Lv.500
種族:エルダーアーマー(覚醒+)
真・聖鎧(呪)・狂気発動(ステータス×1000倍)
HP 600億0000万/600億0000万
MP 0/0
AK 508億0000万
DF 1200億0000万
MAK 0
MDF 1780億0000万
INT 7000
SPD 1000億0000万
【固有スキル】狂気(呪)不死付与 真・聖鎧(呪)
スキル:狂化(S)剣術(SS+)盾術(SS+)
アイドリー(3) Lv.1065
固有種族:次元妖精(覚醒+)
・妖精魔法によりステータス改変中・
HP 1055万0350/1055万0350
MP 4263万9989/4263万9989
AK 3001億0003万5472(+3000億)
DF 2001億0004万6981(+2000億)
MAK 750億5100万0911(-3000億)
MDF 1670億7866万5400(-2000億)
INT 7100
SPD 997億0029万1000
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存
概念耐性 聖剣(第1段階)
スキル:歌(S)剣術(SS+)人化(S+)四属性魔法(EX)手加減(S+)隠蔽(S+)
従魔契約(―)複数思考(B-)
称号:ドラゴンキラー 古龍の主 反逆者 バトルマスター
「た、っと、おぉっとぉ~~ッ!!?くっそ速くて嫌になるねッ!!」
剣術は互角に見えて、向こうは生前相当な腕前だったのだろう、まったく持って剣が追い付かなかった。やっぱり経験の差って重いわ。
最初は『聖剣』の聖属性魔法も使ったが、流石は元聖鎧だっただけはある。まったく効果が無くてこれも嫌になるよ。
「けどこっちもそれなりに修羅場は潜ってるッ!妖精魔法ッ!!」
「ッ!!」
魔法による攻撃はしない。妖精魔法はステータスに差が無い相手に対しては攻撃による効果は薄いからね。だから、
(床全てを泥濘にしろッ!)
瞬間、私達の床は全て泥のように足を取る。お互い行動が制限されるが、『私は奴の後ろに移動した』
「らぁッ!!」
「ッッ!!!!」
『空間魔法』と『妖精魔法』による短距離転移により、相手の足だけ奪った状態での不意を突いた一撃。だが、
ズガギギィイッ!!!
「かったいなッ!!??」
「ッ!」
「やば、くぅッ!」
剣は鎧を軽く凹ませるだけに留まり、吹っ飛ばすことさえ出来なかった。力を集中させたにも拘わらず結果がこれか。手が微妙に痺れたよ。
即座に反応した鎧は、ゲンカクが繰り出す居合の何千倍も速い一撃でカウンターを繰り出すが、ギリギリで転移しそれを躱す。最初に立っていた位置に着地ししたが、鎧さんはこっちを見据えて動かない。釣られもせず、か。
凹むならば数で攻めれば良いと、今度は短距離転移を連続で行い常時鎧の死角を探って攻撃を仕掛けたけど、
「鎧にも第六感とかあるのかな!!?」
後ろに出て振り向かれた瞬間まだその後ろに動いて剣を振ってもそれにも反応してカウンターを合わせられる。しかも身体は向こうの方が大きいから、リーチ差でこっちの攻撃が届かない。
そして何とか相手の知覚する速さを超えようとするが、転移以上の速さでは動けない以上、どうしても攻撃が通らない。逆に向こうの攻撃が真面に当たれば、体格差的に死にかねない。
「はぁ………参った。博打を打たないと勝てそうに無いね……」
命を懸けるのは簡単だ。決まれば一撃で勝負は決まるだろう。だが、失敗すれば私が即死する。
前世なら、何も失う物が存在しなかった私ならば、それが出来た……けど。
「けど、今はアリーナや皆が居るんでね。簡単に命は投げ出せない。それに……今の私は人間じゃない」
私は人の姿を止めた。本来の姿で、妖精アイドリーとして戦わせて貰うよ。
「……おん?」
何故か剣も一緒に縮んだ。丁度良い、これから使う『妖精魔法』には必要だ。
(ステータス改変、イメージは神速の自分、退呪の剣、全てを救う祈り………?)
エルダーアーマーはこちらに走り出していた。泥濘など物ともせずに。コンマ1秒にも満たない世界の中での出来事だったが、私はそれを見ていながら、
祈りを感じていた。
レーベルの身体の向こう側で、何かの声が、小さな声が幾重にも聞こえて来るのを。
(………疲れが消えていく)
身体の疲れが頭の痛みが消えていくのを感じた。ああ、これは覚えがある。ハバルでのコンサートの時、王都での武闘会の時、あれに似ている。全てがノリと笑顔によって成されたあの時と。
鎧の剣が私の身体を斬殺せんと迫って来る。今までで一番強い踏み込み、早い振り。どうでも良い。もうその攻撃は『遅い』のだから。
今一度輝く邪を打ち払う剣。けど今回斬るのは実体じゃない。
アイドリー(3) Lv.1065
固有種族:次元妖精(覚醒+)
・妖精魔法によりステータス改変中・
HP 1055万0350/1055万0350
MP 4263万9989/4263万9989
AK 1001億0003万5472(+1000億)
DF 1億0004万6981
MAK 750億5100万0911(-3000億)
MDF 670億7866万5400(-3000億)
INT 7100
SPD 5997億0029万1000(+5000億)
物理的攻撃は要らないから、最低限だけを振って、後は全て速さに全振りした。斬るのは1つだけで良い。出来るかどうかは私のノリ次第だ。理屈も糞も知ったことじゃない。そして、
「ッッッ!?」
「もう転移の必要も無いッ!!」
迫り来る剣に、私の剣が『入り込む』。そのまま剣を走らせ、糸を巻き付かせるように、私は『エルダーアーマーを地面にして』走り出した。此処からは私と集中力の戦いだ。
「いッッけぇええええぇぇえぇぇぇッッーーーーーーーーーーー!!!!!!」
光り輝く剣の軌跡が高速で鎧を包み始める。だがそれは鎧を斬っているんじゃない。鎧に纏わりついている『呪』だけを斬っているのだ。鎧は私を引き剥がそうともがくが、決して私は捕まらない。
猛烈な勢いで光の闇が混在していく鎧。しかし闇は一方的に光の線に蹂躙され、その色を塗りつぶされていくのみ。
『Guuuuuu………』
唸り声のように音を鳴らす鎧は眩い光に覆われ、その邪気が全て払われた……
「はぁ……はぁ……『ピロン♪』おっと」
レベルアップしたってことは、向こうも含めて全部倒せたようだね。走ってる間ずっと頭痛かったけど……人化しておこうか。息は荒いけど、体調は問題無い。ただ戦闘内容が濃密だったから、サソリの時より疲れたよ……
ガシャァン、と音を立てて鎧も崩れ落ちた。後に残るのは、勇者が装備していたような純白の鎧だけ。装備になったってことかな?廊下も元の綺麗な場所に戻ってくね。
『レーベル……こっちも終わったよ』
『うむ。あの濃密な殺気が無くなったのう。主は平気か?』
『ちょこっと死にかけたけど平気かな。そっちは?』
『ちょこっとってなんじゃ……こっちは美香とアリーナが頑張ってくれて全滅させることに成功したわい。今通路を開けるから待て』
レーベルが元に戻ると、座っていた子供達が私の姿を見た途端ダッシュで駆け寄って来た。その後ろからアリーナもすっ飛んで来る。シエロは美香に抱き着いて泣いてるし、美香はやりきった笑顔でシエロを抱き締め返していた、友情。
「「「お姉ちゃん大丈夫ッ!?」」」
「おぉう…うん、平気だよ、ちょっと疲れただけだから。魔物は全部倒したから、もう大丈夫」
その言葉に子供達は安心したのか、また座り込んだ。
アリーナが子供を掻き分けて私を抱き締める。癒しの到着である。
「お疲れ様アイドリー……」
「アリーナもね……子供達の祈りはアリーナが言ったの?」
「うん、少しでもアイドリーの力になってくれると思って。届いた?」
「そりゃあもう……ちゃんと届いたよ」
あれが無かったら途中で集中が途切れたと思うしね。あー眠い。
「私、少しだけ仮眠するね?」
「うん、しっかりこうしててあげるから、ゆっくりお休みして?」
「じゃあお言葉に甘えて………」
アイドリー私の腕の中で眠り始めたので、私はそのままアイドリーをお姫様抱っこしてモーリスを呼び出す。最近寝る前にモーリスに魔力を与え続けていた為か、モーリスは実際もっと大きくなれるようになっていた。
「モーリス。皆が眠れるぐらい平たく広くなれる?」
モーリスは一度プルンと震えると、身体を巨大化させて廊下に広がった。私は皆にそのモーリスベッドで寝るように指示する。戦闘の疲れが精神にも来てる為、一度全員で仮眠を取るべきだと思ったからそうした。
皆がモーリスの上で眠り始める中。私だけはアイドリーを腕枕して、それ以外は周囲の警戒に時間を費やした。可愛い親友の寝顔を、ずっと見ていたかったから……
カタカタカタッ……ッヒュ……スチャッ……
「……おぉー」