第96話 同族 地下31~50階層
「美香、妖精は気候の変化に左右されないって覚えてる?」
「……うん」
「がんば」
「ず~る~い~よ~~~~」
31階層からは砂漠でした。照り付ける太陽が殺しに掛かってるね。皆にローブを着てフードを被るけど凄い辛そうだ。
「……」
「い、生きよシエロよ……」
「……レーベル、私はもう駄目そうです」
もうすっかりマブダチになりつつあるシエロとレーベル。シエロはレーベルを呼び捨てするようになった。レーベルも嬉しそうではあるが、女がしてはいけない顔で友に諦めの言葉を零している姿はまるでゾンビようだった。
レーベルは元々火が主体の龍なので寒いのは苦手だが暑いのはまったく問題にならないのでシエロに睨まれる。
「レーベル……ずるい」
「えぇ……」
けどこのままだと皆が熱さで参ってしまうから、対策を講じないといけないね。
「んじゃあいつもやってる水の結界に風を追加しようか。多少は違うんじゃないかな?」
冷えた水の結界を張って更に風を流すと、結界内がクーラーのような涼しさで包まれていく。ホッとした顔で皆の顔に生気が戻っていくね。レベル上がって多分一ヶ月くらい張ったままでも動けるから大丈夫かな。
「そんじゃあ改めて行ってみよー」
「「「はーいッ!!」」」
砂漠フロアは子供達にとってかなり辛い道のりになった。足が短い為、砂に足を取られるとまともに歩けないのだ。なので怪我はしないが転ぶ子供が続出する。
「ていうかレーベル。もう隠す必要無くなったから飛ぶ?」
「ああ、そうじゃったな。子供達よ、我の背中に乗るが良い」
私が大量の魔力を使ってレーベルを巨大なレッドドラゴンにして召喚する。レーベルは翼を広げて階段代わりに地面に降ろす。アシアを先頭に子供達がその翼を登って背中に全員乗った。
「今回は2倍ぐらいの大きさになったね」
『魔力が多くてお腹一杯じゃな…』
「私頭に乗る~♪」
「あ、私も行きたいですッ」
「私も私も~♪」
アリーナ、シエロ、美香はレーベルの頭に陣取ったので、私はアシアの隣に座って子供達が落ちないようにレーベルの龍鱗を変形して貰った。龍鱗の壁と椅子、そして持ち手が出来上がる。器用だなレーベル。
『龍魔法の応用じゃな。いつもはちょっとむず痒くなるから鱗の変形はしておらんのじゃよ』
「今日1日は頑張ってくれる?」
『うむ、後で蜜酒を寄越すのじゃ』
「はいはい。皆、ちゃんと捕まった?」
全員元気な返事を返したので、レーベルは大きく羽ばたいた。大興奮の声と共に、景色がグングン上がって行く。風とかは結界で遮断してるから問題無いね。ただ、空を飛ぶ魔物に来られたらレーベルは大きく動けないから、私と、アリーナ、そして美香で対処しようか。
『アイドリ~何かいる~』
『ん?魔物?』
『そのようだの』
なんだろうか。私は妖精魔法を発動。親指と人差し指で輪っかを作り、対象に向かって『望遠鏡』のようにして見た。残念ながらこの状態だと『妖精の眼』が使えないんだよね。さてさてお相手は~…
「これはまた。レーベル、同族のようだよ?」
『では黙らせるとするかの』
「ちょっと待ち」
相手はレッドドラゴン達だった。体長は本来のレーベルの大きさの半分ぐらいだけど、数がこれまでで一番多い。レッドドラゴンで群れで行動するんだね。向こうもこちらに気付いたみたいだ。
「あれ狩ったら怒る?」
『襲ってくるならば覚悟の上よ。我もそうであったであろう?』
「確かに。じゃあちょっと妖精になってステータス見たいから行ってくるね」
子供達への防護はそのままにして私はレッドドラゴンの群れまで飛んでいく。見た目はレーベルそっくりだね。今更ながらハバルの討伐隊の皆さんが可哀想になってきたよ。普通のレッドドラゴンだったら何とか勝てたろうに……
名無し Lv.160
種族:レッドドラゴン
HP 8741/8741
MP 4600/4600
AK 3591
DF 4735
MAK 3300
MDF 4782
INT 140
SPD 7006
【固有スキル】竜鱗
スキル:竜魔法(B+)火属性魔法(A)体格差補正(C+)
固有スキルが『龍鱗』じゃなくて『竜鱗』になってるし、スキルも『龍魔法』が『竜魔法』だね。これが古龍との大きな違いか。ステータス的にはメタルスコーピオン程じゃないけど、数が60匹は居るね。
私が近づくと、レッドドラゴン達は急停止して空中で止まった。交戦の意志は無いの?と、その中で一番大きいレッドドラゴンが私の前までやって来て話掛けて来た。
『古に伝わりし妖精よ、その後ろにおられる方は、古龍の子孫様であられるか?』
「そうだよ。貴方達は?」
『このフロアに入って来た者達の中に我等の上位存在を感じたので、こうして馳せ参じた次第だ』
『だってさ』
『なるほどの。同族であるが故に種族の本能に従ったんじゃろうなぁ』
そういうことならとレーベルはゆっくりとレッドドラゴンの目前まで近づく。私は頭に乗ってるアリーナの頭の上に乗った。というか妖精の存在知ってるんだね。古い繋がりがあるのは知ってたけど。
『お前達、我等はこのダンジョンを踏破せんとする者じゃ。ダンジョンの者であるお前達には我等を排除せんとする意志があった筈じゃが、そうはせんのか?』
『人間であったならばそれも義務として果たした事でしょう。我等の一団もまたこのダンジョンとの共存関係である限り、その勤めは果たさねばなりません。しかし我等の尊きお方ならばその義務は失われる。貴方に牙を向けるのが義務ならば、我等は死を選びます』
『ならば通すのか?』
『ご尊顔を拝見させて頂けただけで、我等が生きて来た竜生に悔い無くこれからも歩んでいけることでしょう』
『………つまらん』
『はっ?』
レーベルはイラついた顔でレッドドラゴン達の顔を見渡した。どれもこれも、昔の自分を見ているかのような、そんな同族嫌悪の感情が心に現れているようだった。
『お前達、もしも我等がこのダンジョンを出る際、供に来いと言えば来るか?』
『貴方様が望まれるならば喜んで行きましょう。眷属となれるのならば至上の喜び』
『よし決めた。主よ、我こいつら眷属にする』
何か勝手に決まったね。いや、止めやしないけどさ。しかしレッドドラゴンか。また凄いのが仲間になったね。いや、レーベルの眷属になるだけで人間の味方って訳じゃないのか。
『お前達。我は強き者、尊ぶ者を好む。決して自分よりも弱き者を蔑まず、虐げぬと言うならば、その翼に従い誓いを立てよッ!!』
レーベルが翼を広げて言い放つと、それに合わせてレッドドラゴン達も広げ、軍隊のように寸分違わぬ誓いを立てた。
『我等は決して弱き者を蔑まず、虐げぬ事を此処に誓い、御身への忠誠を捧げる者達でありますッ!!』
ということで、レッドドラゴン達にはフロア内の全ての同族に話を付けに行って貰った。どのくらいの数になるか分からないけど、ダンジョンを出る時は大所帯になりそうだね…
それとこのフロアについて何か注意事項は無いかと聞いてみたところ、このフロア、なんと20階層分に渡って永遠に砂漠らしい。50層までずっとなの?レーベル仲間にしてなかったら砂漠を永遠と歩きながらレッドドラゴン達に襲われてたのね。サソリより酷いな……
『奴等は全員『竜魔法』で人化出来るからのう。まぁ問題はあるまい。入口のジェスに入場料を追加で払うぐらいじゃろ』
「そのお金私達持ちなんだけどね。とりあえずあの子達は全員レーベルラッドのゴタゴタが片付くまでは一緒に行動する?」
『いや、ラダリアまで飛んで貰おう。人化して我と主の名前を出せばフォルナが気付くじゃろうて。戦力の強化にも役立つしのう』
なるほどね。確かにレッドドラゴン達がラダリアの防衛に回ってくれたら心強いしね。なのでシエロ、そんな残念そうな顔をしないの。
「あの…1匹ぐらい一緒に来させることは出来ない?」
と思ったら美香がそんなことを言い出した。まさかそのレッドドラゴンを新しく祀ろうとか考えてないよね?
「いや、そういうんじゃなくてさ。むしろレッドドラゴン使って聖龍の偶像崇拝を止めさせたいんだよね。ほら、今あそこって剛谷に支配されてるからさ。皆勇者教に盲目的になってると思うんだ」
だからレッドドラゴンの人化を使ってその宗教観念をぶち壊したい、というのが美香の言い分だった。………んーやりようによっては出来るけど、その壊した宗教の後に、今度はどんな宗教を打ち立てるつもりなのかな?教えてくれるとうーれしーなー
「勿論妖精教を布教します。ね、アリーナ?」
「うんッ!!」
「な、なんだとッ!?」
し、シエロめ。まさか先程レーベルの頭の上で三人で居たのはアリーナを懐柔する為か。一体何を吹き込んだ女狐め。ピュア―フェアリーを捕まえて私を抑えこもうとは笑止千万よ。
「いや、お菓子を上げたら賛成してくれましたよ?その方が妖精が浸透し易いからって」
「アリーナさん、チョロ過ぎない?飴食べる?」
「たべるー♪」
いいや。可愛いからいいや。許す許す。
「美香、私の顔を使わないと言うならそれは認めるよ。どうせ私がノリで何か引き起こすだろうし、妖精の姿は多分皆見ると思うよ。私のノリ的には」
「すっごい意味分からないけどなんとなく納得出来ますね」
「出来るんだシエロ……」
今回はシエロの方が私を理解しているようだね。そうだとも、その剛谷って勇者にはガルアニアの時のように完全敗北して貰う予定だからね。まぁ今のところどうなるかはまだ分からないけど。
「まぁ勇者教だってシエロにとっては大切な物なんだから、そっちも大事にしなよ?」
「勿論ですッ!!」
無事50層まで付くと、日は落ちて辺りは闇夜に覆われていた。このフロアでは月が出ないようで、真っ暗な世界だけが広がっている。そして砂漠の夜はとてつもなく寒いのだ。今度はレーベルも青い顔してブルブル震えている。
「しゃむい…のじゃ……」
「皆、レーベルに纏わり付いてあげて。固まってれば少しは暖かいよ。シエロ、暖かいお湯を魔法で出せる?」
「な、何とか」
「じゃあ私が焚火用意するから、皆のコップに入れてあげて」
収納から乾いた木の枝を大量に出していき、山にして魔法で火を付けていくと、子供達がワラワラと焚火の周りに集まって手を翳し始めた。レーベルも子供に抱き着かれながらこっちに来る。鼻水が出てるよ美人さん。
それから、その焚火に巨大鍋を設置し、ささっとお肉がゴロゴロ入った野菜スープを完成させた。今日のお肉はミノタウロスだよ。霜降りではないけど柔らかくてアッサリしているね。口の中であっという間に細かくなっていくよ。
「むみーもままみまー(主ーおかわりじゃー)」
「「「もままみー(おかわりー)」」」
これが古龍の子孫か……威厳とは一体…子供達も真似しないの。メ、だよ。
「やっぱりああいうのって上下関係があるんだね」
「古龍はそういうの嫌うんじゃがのう……奴等が勝手に言っておるだけじゃよ」
「ハーレムにしないの?」
「せんわッ!!」