第10話 狩りのお時間
レーナさんに聞いた宿を訪れ、一週間の宿泊予約をした後街に出ていた。目的は勿論ゴブリンとウルフの討伐である。帰り際に初級ランク用の魔物辞典も買ったので、討伐部位や素材の入手方法も完璧だ。練習は……必要かもだけど。
「さて、アリーナ。私はこれから討伐しに行くけどどうする?」
「手伝うー!!」
「でっすよねー」
まぁ経験を積ませるつもりもあったし全然良いけどね。さて、だとすればなるべく街から離れよう。他のパーティに見られる可能性もあるし。
「お、早速発見」
街から出て数分走ったら、早速魔物を発見した。あの毛並みと4つ足の魔物はウルフかな?ホーンウルフと違って角が無い少し大きめの狼って感じだ。牙が異様に長いけど。
名無し(2) Lv.4
種族:ウルフ
HP 170/170
MP 8/8
AK 53
DF 31
MAK 8
MDF 11
INT 9
SPD 55
スキル:固毛(D+)
ゴブリンと違ってステータスが尖ってるね。スキルの固毛っていうのは、物理攻撃に対して少し強くなるみたいだ。
「ガルァ!!」
試しに飛び掛かって来たウルフに偽装ステータスの強さで斬り掛かってみたら、剣が毛を滑った。そのまま爪を躱して通り過ぎる。対象は切れたみたいで血が出ているが、傷つけられた事に怒って顔に皺が寄っている。んー、怖い。
「なるほど、受け流せるのね。体毛を活用した戦闘方法か……」
今度は素のステータスで一気に首を切断する。後二匹のウルフもスピードで攪乱した後、一匹ずつ首を切り落としていった。直ぐに死体を収納し走り出す。
「次はアリーナに頼むね」
「お任せ!」
直ぐに三匹のウルフを発見。アリーナがフードから飛び出して『妖精魔法』を唱えた。因みに今のアリーナのステータスはこれくらい。
アリーナ(3) Lv.97
種族:フェアリー
HP 547/547
MP 3420/3420
AK 68
DF 2038
MAK 1184
MDF 3254
INT 72
SPD 530
【固有スキル】妖精魔法(水) 顕現依存
スキル:隠蔽(B)
防御特化のハイパー妖精爆誕である。やっぱりドラゴンを素材にした防具は強かった。大概の攻撃は彼女に傷一つ付けることは不可能だろうなぁ。
アリーナは妖精魔法で水球を出現させ、それをウルフに向かって飛ばす。
「グアンッ!?」
ウルフが避けるよりも早く水球はウルフに当たり、凄まじい音を鳴らして身体が弾け飛ぶ。転がるのはウルフの残骸のみ。ああ、そんな満面の笑みでブイサインなんてして。
アリーナは旅立ってからフードの中でボードゲームをするようになると、少しだがINTが上昇していた。この世界ではそういう効果とかもあるのかな?
「上手く倒せたね。流石アリーナ」
「えっへん♪」
本当はステータス差のゴリ押しなんだけど可愛いから全て許す。ウルフも綺麗な状態だしね。さぁ後はゴブリンだ。こっちは故郷でも散々戦ったからね。とっとと倒してしまおう。
「ぎゃぎっ!?」
「くひゅぃ!!」
「へげっ!」
「…ッガヘ」
「ギュギッ!?」
全員揃って魔法で一撃に処しました。さて、じゃあ討伐した魔物を一ヶ所に纏めて出して剥ぎ取りのお時間だ。前世では兎も魚も蛇も焼いて食べていた自分に嫌悪感など微塵もなく、ゴブリンの右耳とウルフの毛皮、そして目玉を剥ぎ取る。残りは燃やし、煙は水で包んで土に還した。煙の臭いで魔物が集まってくる可能性もあるしね。
妖精としてどうなのその殺生? って言われるかもしれないけれど、魔物に分別される存在は人間を必ず敵視する。見つければ即殺すし、野生状態の魔物を飼うという事はまず出来ない。最低でも知能があり、分別が利く相手でないと説得すら不可能だ。
(殺すしか無いっていうのは悲しいけどね。魔物が魔物たる所以って誰も知らないみたいだし……)
っと、終わってみてみれば、量的には大したこと無かったな。
「流石に物足りないかなぁ……」
「もっとー」
アリーナもこの通りバトルジャンキー状態である。といってもこの辺りで後何が生息してるんだろう? 魔物辞典を開いてみる。
「ふむふむ……お? オークっていうの強そう」
辞典には、顔が豚のような大男の姿が描かれている。オークって聞くと危ない妄想が思い浮かぶけど、こっちでもそういった悲劇あるのかな……深くは考えまい。しかもこのオーク食用か。豚顔だからいけるのかな?
「アリーナ、これ狩る?」
「狩るー♪」
決まりだ。アリーナに飛んで貰って、空からサーチしてもらったところ、数百メートル先に3匹発見。誘導された方向に走ると、オークが草原の真ん中で昼寝していた。おいおいそんな不用心な。
名無し(5) Lv.14
種族:オーク
HP 595/595
MP 3/3
AK 197
DF 154
MAK 2
MDF 98
INT 5
SPD 13
スキル:肉壁(C-)
確かに太った体してるけど、肉壁って酷いなぁ……。辞典によると、防御力が高く、Dランクパーティにとって最初の壁となる魔物らしい。動きが鈍いから連携さえしっかりしていれば楽に倒せる良い経験値だってさ。肉は食用で、ただ焼いても美味しいのだとか。
ただこの魔物、大きいのだ。体重は軽く300キロはありそうな程の体躯なのだ。他のパーティはどうやって運んでるんだろう? 台車でも借りてるのかな?
「……ンゴ?」
お、1体眼を覚ました。オークは私を視認すると、ゆっくりと起き上がりこん棒を手にする。悠長に見てたけど、この一連の動作に15秒も掛かっている。本当に鈍いね。これなら幾らでも倒す手段がありそうなものだけど。
「ゴァア!」
オークはこん棒を振り下ろしてきたけど、テレフォンパンチのような初期動作のおかげで全く当たらない。知能が低いのも原因っぽいな。本当にただの肉壁やん。
「アリーナ、GO」
「あいあいさー」
妖精魔法で丁度オークの頭を包める程の大きさで水球を出し、
「そいやー!」
野球投手の様に振りかぶって投げた。その動作必要なの?水球はオークの頭に直撃するが、水は飛び散らずにその場に留まった。つまりはオークの顔が水球の中にすっぽり収まる形だ。
「……?……ッ!?」
オークは自分の顔に張り付いた水を手で掻き消そうとするが、水は指をすり抜けるだけで無くならず、オークの顔はどんどん青くなっていく。最後にはガクンと膝を落とし、うつ伏せに倒れた。そこにトドメの水槍が撃ち込まれ、一回痙攣したきり動かなくなる。
オークが倒れた衝撃に目を覚ましたのか、残りの二体も起き上がってきた。仲間の死を知ると、怒り狂ってしてこちらに突っ込んでくる。
「刃よ、思いのままに切り裂け」
風の刃はオークを通り過ぎると、オークは不思議そうな顔をしながらその首を落としていった。こうしてみると、顔だけでも結構デカいね。抱えるぐらいの大きさだよ。まぁちゃっちゃと解体して収納してしまおうか。
「アリーナ、私が切り分けていくから、水で洗い流してくれる?」
「任せろーばしゃばしゃあ♪」
とりあえず部位ごとに切り分けて、内臓だけ燃やそう。脂肪は要らないしね。後は、討伐部位は舌だから、直ぐに終わるね。
「さぁーて、そろそろ帰ろっか?」
まだ日はあるけど、沈む前に帰ってギルドで換金したいしね。走って10分くらいの距離だけど、初日は慎重にいこう。私はフードを被り直し、アリーナを入れて街に帰った。
そういえば、朝門兵に渡した銀貨をまだ返して貰ってなかった。入ってきた方向と違う門から出たからなぁ。よし、ついでに取りに行こう。
夕日が沈む少し前に街の門前まで辿り着くと、何人かの冒険者が門の前で屯っていた。三人程の冒険者。全員良い年齢した男共だが、こちらを見つけると、ニタニタした顔で近寄って来た。私はなるべく深くフードを被る。
「よう嬢ちゃん。今日登録したばっかなのに、こんな時間まで討伐か?」
「そうだよ。今が帰りになるね」
「そうかい……ならそれ、俺達にくれよ?」
そういうと、三人は剣を抜いて私を囲ってくる。周りに人は居ない為見ているのは門兵の人だけだが、こちらに口を出してくる様子は無い。
「っへ、兵士に助けを求めても無駄だぜ。冒険者同士のいざこざに第三者は基本不介入。しかも街の外なら治外法権だ。お前をひん剥いて犯しても決闘の範疇で治まる。今なら討伐部位と金目の物置いて失せれば綺麗な身体のまま見逃してやるぜ? ……って何やってんだ?」
(アイドリーきこえないよー?)
(聞かなくてよろしい)
とてもそうとは思えない下卑た顔をしているので、私はその提案に乗る気は無かった。というかアリーナに聞かせるには醜い話に過ぎるので、フードの中に手を突っ込み指でアリーナの耳を挟んだ。
その間に話している1人以外は、私の後ろでジリジリと距離を詰めて来る。
「私が貴方達を倒して街まで引き摺った後、兵士に突き出せば良いんじゃないかな? 丁度そこに目撃者が居ることだし」
「へへ、口は一人前だな。だが先輩の忠告は受けるべきだったぜ……やれっ!!」
一人が突き、もう一人が振り払い、目の前の男が上段斬り。普通に殺す気満々だね。もしかしたらドロアさんと戦っていたところを見られたのかもしれない。それならこの攻撃方法も分かるけど、戦力差を見誤ったね。
ガガキンッ!!
「「「……は?」」」
繰り出した剣は柄から先を消失させ、柄のみを残した。男達は茫然とした顔で私を見る。
私の手には、あら不思議。1本の剣が握られていた。何の変哲も無い鉄の剣が……
「大方、ドロアさんとの試合を見ていたんだろうけど、貴方達は見たところDランクぐらいの剣術でしょう? 私はBランクだからね。ステータスが低くても幾らでもやりようはあるかな」
「く、クソ」
「どうすんだよオイ!」
後ろの二人が狼狽え出したけど、逃がす気無いよ?アリーナに汚い言葉を聴かせようとした罪は重いからね。
私は三人の鳩尾を打ち抜き気絶させた。そそのままロープを取り出して簀巻きにし、門兵の前まで転がす。
「ということで追い剥ぎ? 盗賊? どっちでも良いけど犯罪者だよ」
「あ、ああ見てたぜ。強いんだな嬢ちゃん。朝見た時は全然そんな風に見えなかったが」
そう、この門兵朝に出会った人である。私はギルドカードを出して見せた。
「これ、身分証作って貰ったから銀貨返して貰っていいかな?」
「おうわかった。そいつらは此処に置いといてくれ。留置所に入れておくから。つーか、なんだかんだ助けに行ってやれなくてすまなかった……」
「はいはい、おっちゃんは門だけしっかり守ってれば良いんだよ」
「お、おう。すまねえ……」
怒ってないよ。保身は大事だしね。
そうして追い剥ぎ冒険者に絡まれるイベントを終えて、私は街に帰って来た。銀貨3枚も手に入って、後はギルドで換金だけだね。また広場で串焼き2本買って、アリーナと鼻歌デュエットしながら冒険者ギルドへ向かうことにする。
ギルドに帰って来ると、やはりギルドはスッカラカンだった。
「レーナさん居るー?」
「居ますよー、おかえりなさいアイドリーさん。本当に1人で行って来たんですね」
「まぁね。今日の討伐案件は私で幾つ?」
「貴方が初です……たはは」
受付窓口にはまだレーナさんが座っていた。私はフードを少しだけ上げ笑みを浮かべると、懐からゴブリンとウルフの討伐部位の入った布袋をカウンターに置く。
「それじゃ、その初討伐の換金、お願い出来るかな?」
どっさりと布袋を机に置くと、彼女は嬉しそうに頷いてくれた。うん、頑張った甲斐があった。
「勿論! えーと……はい、確認出来ました。ゴブリン5匹、ウルフ5匹の討伐部位ですね」
「良ければウルフの素材も売りたいんだけど」
「大丈夫ですよ。こちらにお出し下さい」
私はウルフの毛皮5枚を背中から取り出す。レーナさんは眼をひん剥いてしまった。流石に怪しいかなやっぱり。
「ど、どこから出したんですか?」
「えっと……背中から?」
「……もしかして他にも何かあります?」
「え、あー……これとか?」
―――ずるんっ
「ぶほっ!!?」
背中からオークの舌を取り出す。レーナさんは噴き出しながらも一瞬でそれが何の部位かを言い当てた。
「これオークの舌じゃないですか!Dランクの魔物ですよ!?」
「うん、昼寝してたから倒しちゃった」
「な、なる……ほど。それなら納得……? です。けど今度からは気を付けて下さいね? オークはパーティで討伐するのが当たり前なんですから」
「はーい」
ということで、合計換金金額は銀貨6枚と銅貨25枚となった。初日にしては良い出だしだと思う。これで宿6日分くらいの料金だし。
最後にはレーナさんに「お疲れ様です、ゆっくり休んで下さいね」の言葉を貰い、宿屋に帰宅した。
「あふ~」
「あふ~♪」
部屋を閉めた瞬間、2人揃ってベッドにダイブ。適度に固く、適度にフカフカなベッドの上で脱力した。
「今日は色々あったね。退屈しなかった?」
「人一杯、面白さひゃくば~い♪」
どこでも楽しく生きられてるみたいで何よりですよ……私は空間魔法で貯蔵していたアリーナ用の料理を出す。
「私はこの後パッドさんの家に行くから、アリーナは先食べちゃおうか」
「ういー」
世界樹の蜜をかけたパンケーキをモショモショと食すアリーナを見ながら、今日の出来事を振り返った。
「冒険者ギルドには良い冒険者と悪い冒険者が存在するって分かったけど。結構法の穴が多いから、1人で行動するとこれからも絡まれそうだなんだよねぇ……さっさと冒険者ランクを上げてしまうのが手っ取り早いのかなぁ」
あの男達は、私が初心者だと分かって仕掛けてきた。街の外でそれが成立したということは、これからもああいう輩に狙われるのは間違い無い。
……やっぱりランクを上げよう。色々融通も効くようになるだろうし。
「んーんー?(なーにー?)」
頬一杯に入れたパンケーキをモキュモキュしながら首を傾げないでアリーナ。愛が溢れちゃうから。ほらほら、口に蜜が付いてるよ。
「忙しくなりそうだから、頑張ろうねって話。はい、えいえい」
「んー!(おー!)」
後日
「アイドリーさん、盗賊なんていつ捕まえたんです!? 今朝門兵から報奨金が出てましたよ?」
「え?……覚えてないや。まぁあるなら受け取るよ。討伐なんてしたかな……?」
(魔物と同レベルの扱いですか……)




