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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第七章 ダンジョン都市アモーネ
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第93話 小さな勇気に誇りを持って

 最初のタイラントスコーピオンの大群と戦い始めて……からこれ10時間程経過した。あれからサソリ共のレベルが徐々に上がっていくということもあったけど、私の剣は更におかしなことになり始めていた。


「これで3回目の脱皮かなッ!!」


 そう、あれからも数時間ごとに剣の皮が剥がれていくのだ。その度に無骨な形をしていた剣は、剥がれる度にその重量が減り、刀身が洗練されていく。斬れ味は最早鉄を空気如く裂くのと同じぐらいになっている。

 それに幾ら振っても疲れなくなったね。私が戦い過ぎてハイテンションになってるってのもあるけど。


「子供達の方はどうかなッ!?」

「まだ終わってないみたい!けど凄い奥まで進んでるよッ!!」


 一瞬だけ目を向けると、確かに子供達の姿が豆粒のように小さかった。しっかり確実にやってるなら、こっちの仕事に私達も集中出来るというものだ。



「なら良いさ。皆まだ平気!?」

「「「もーまんたいッ!!!」」」



 美香もシエロもへとへとな様子だけど声を張り上げて戦う意志を見せる。じゃあこのまま行こうか。何か剣から斬撃も出るようになったしね。そういえば魔剣だったねこれ。進化でもしたのだろうか?




 子供達は、最後の罠に辿り着いていた。通路の先、出口の目の前だった。だが此処でかれこれ数時間、子供達は立往生をしている。


「どうすれば……どれが……」


 恨めしそうな眼で子供達が見る先で、アシアはその仕掛けに頭を悩ましていた。罠は、単純な物で、そのブロック内全体が罠の宝庫だったのだ。足場全てがそれぞれの罠を発動させるのだ。どれを踏んでもアウトであり、おそらく正しいのは一つだけ。


 その一つが分からない。足場の1つ1つの石全てに魔力が集中しており、どれかがブラフの筈なのだ。そこまで突き止めているのに、そのブラフが分からない。罠が一律過ぎて検討が付かない。


 まるで行かせるつもりが感じられなかった。此処で絶対に殺すというダンジョンの意志が感じられることに、子供達は恐怖を覚える。


(此処まで来たのに、来させて貰ったのに……ッ!)

「お兄ちゃん……」

「ルン……」


 アシアの握りしめていた手を優しく包むルン。見れば、子供達もアシアのすぐ後ろでアシアを見ていた。


「皆で、決めよう?」


 ルンの言葉に全員が頷く。皆で頑張って来たのだ。最後も、皆が納得するようにと、例え間違えても後悔の無いようにと……アシアもそれに従った。





 そして半日が過ぎた辺りで、遂にその時が訪れる。


「終わったよッ!!」


 足が一番速い子供が目一杯の声を上げてこちらにやってきた。一同、眼の色が変わり、即座に行動を始める。


「レーベルッ!!」

『皆が通路に入れば戻るッ!!』

「なら私が殿をするッ!!美香、子供を背負って走ってッ!!」

「分かったッ!!」


 アリーナ、シエロ、子供を背負った美香が通路に入ったのを確認し、レーベルが人型に戻った。アイドリーも戦闘を一度止めて真ん中の通路に入り、そこで仁王立ちする。


「じゃあ最後の攻防やってるから、全員が次の階層に言ったら『同調』で教えてッ!」

「分かった、気張れよ主よッ!!」


 レーベルが塞いでいた通路から波のようにサソリが山になって雪崩れ込んで来た。黒と鋼色のサソリが入り乱れてもう見たくないな。興奮具合も最高潮のようで、よっぽど先に行かせたくないらしい。




「「「ギチギチギチギチ」」」

「さぁ、通らせて貰うよ」




 レーベル達が通路の奥まで進むと、子供達が待っていた。扉の向こうにアシアだけ1人立っている。


「何故まだ行っておらんのじゃ!?」

「レーベルさんッ!あれが唯一通れる地面の位置なんだ。僕は印を付けてなんとか行けたけど、他の子達じゃ無理だッ!!」


 見れば扉までの間、その地面に出っ張った石が幾つもあり、その中の一つだけが赤い印がされていた。一目見てレーベルは分かった。あれは血で塗られた印だと。丁度自分達の居る位置と扉までの中間辺りにあるその石は、確かに子供ではギリギリ届くか届かないかの距離である。



「ごめん、ごめんなさい……皆で一生懸命考えて、出した答えを僕が確かめたんだ。正解だったけど……他の子がもう……疲労で動けなくて……」



 子供達は皆座り込んでいた。極度に集中し、極限まで研ぎ澄ませた感覚に全てを賭けて見つけた答えが正解だったことに、精神が限界を迎えていたのだ。


 だからこそ、レーベルは高らかに言ってみせる。



「よくぞやったッ!!後は我等に任せよッッ!!」

「皆私達に捕まってッ!!」

「一気に行くよッ!」



 レーベル達は子供を抱えられるだけ抱えていき、その石の上を寸分違わず乗って扉の向こうへ運んでいく。シエロも美香も、アリーナも続き、数往復で全ての子供を運び終わった。レーベルは『同調』を使う。


『全て終わったぞッ!!来い、主よッ!!』

『時間掛かってたけど何かあった?』

『小さな勇者達を労っていただけじゃ。石に印があるからそこを踏めッ!!』

『わかった、レーベルは準備よろしく』

『任せいッ!!』


 途端に聞こえて来る大量の音と壁を通して伝わる轟音、振動。


 地獄が体現したかのような光景が、子供達の眼に映る。そして、その中を走って来る1人の少女。その手に持っていた剣は輝きに満ち満ちていたが、そんなことは今誰も気にする暇は無かった。



「「「アイドリーッ!!」」」

「「「お姉ちゃんッ!!!」」」


「みんなッ!!そこ開けてッ!!!でっかいの行くよーッ!!!!」


 アイドリーがスピードを上げて魔物達を引き離す。赤い印を踏み砕き、一瞬で扉の中に入り込む。後ろを振り向けば、閉まり始めた扉の向こうから、通路全てを埋め尽くす地獄が迫っていた。

 

 このままではサソリ達は扉を越えて来ることなど誰にでも予想出来る。




「そんなことは分かり切ってたさ……準備は?」


 扉の中から、地獄を炭に返す業火を吐こうと、最強のドラゴンが大口を開けた頭を見せた。



『万全ッ!!全て消し飛べッッッ!!!!』



 紅い光線が、視界を遮る。


 通路全てを埋め尽くし、地獄を白に染めていく……そして、扉は閉まった。








 草原の中に、私達は居た。


「あー…疲れた。皆平気?……おっと」

「寝ておるな……」

「うん、お疲れ様だね」


 『妖精の宴』以外、皆眠っていた。やりきった、後悔の無い笑顔だ。私達も背中を合わせて座り込む。しばらく身体は疲労で動かないだろうなぁ。


「剣の輝きも消えたね……あー…レベルアップの音が止まないし、疲れたし、お腹も空いた……魔法は…使えるか」


 水の結界が発動し。私達を包み込む。これでもう安心。剣は……まぁ起きたら聞こうか。



「アイドリー、お疲れ様」

「うむ、良くぞ耐え切ったの」

「2人もね。誰か欠けてても乗り越えられなかったよ」


 あれは1パーティで行けるような生易しいものじゃなかった。勇者でも罠が多過ぎて突破なんて不可能だ。正規のバッカーでも乗り越えられるとは思えなかった。このメンバーだからこそ行けたんだ。


「子供達は、絶対に全員生きて返すよ。外に戻っても、強く生きていけるように……」

「大丈夫じゃよ。こんなにも頼もしいのじゃから」

「うん、みんな将来立派な人になってくれるよ。私達が保証する」


 アリーナとレーベルの保証済みか。なら将来は英傑間違いなしだね。さーて、私達も寝ようかねぇ。


「モーリス、ベッド~」


 モーリスを召喚し、妖精になって寝っ転がる。アリーナもそこに入って来た。すると、レーベルがモーリスごと私達を持って子供達の方に来る。どったの?



「我も偶には元の姿で寝るとするよ。囲うように寝とるから、ぐっすり眠るが良い」

「わかったよ……まぁ私達ももう正体バラしてもいいや」

「子供達なら問題無いもんね。それじゃ、おやふ~……zZZ」

「「……クスクス」」



 

「今日はマジで吸わないでね。お願いだから……」

プルッ!

「…うん。おやすみ……」

……ズズ

「消化もね」

……プルッ

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