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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第七章 ダンジョン都市アモーネ
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第88話 野良バッカー雇います

 次の日の朝、私達は準備を完了させて宿屋を引き払うと、ダンジョンの入り口でとんでもないものを見てしまった。


「お願いします、連れてって下さい!!」

「役に立つから雇って!!」

「銀貨1枚で何処までも付いていきますッ!!」


 身形の汚れた子供達が、ダンジョンに入ろうとしている冒険者達に雇われようと必死に縋り付いていたのだ。どの子も身体に不釣り合いな程大きなバックを背中に背負っているが、どこもかしこもボロボロだった。

 だが冒険者達は既に派閥で雇ったバッカ―が居たらしく、皆子供達を無理やり蹴ったり殴ったりしながら追い払うと、それを笑いながらダンジョンに入っていってしまった。


「これは……」

「あれが、『野良バッカー』という者か?皆子供ではないか…」

「酷い……」

「あんなの知らなかった…」


 大体5歳から10歳ぐらいの子供達が数十人。更に壁に座り込んでいる子も小さい子ばかりだ。全員で……50人は居るね。



「アイドリ~」

「ん?ああ、連れて来たの?」



 アリーナは見かねたのか、先程蹴られて泣いていた女の子を1人こちらに連れて来た。私は蹴られた箇所を魔法で治そうとすると、女の子が途端に拒否してくる。


「お、お金……無いですッ!!だから良い、ですッ!!」

「要らないよ。だから暴れないで」

「大丈夫ですよ」


 シエロが優しく抱き抱えて抑える。女の子はまだ怯えているが、私はさっさと怪我を治して離してあげた。「ほら、行きな」と言うと、女の子は何度もお辞儀をして仲間達の下に走っていく。


 そして、その中から一番身長の大きい男の子がこちらに近付いてきた。


「ルンを治してくれてありがとう。貴方達は、来たばかり冒険者さん達だよね?僕はアシア。孤児のまとめ役なんだ」

「そう、私はアイドリーだよ。それで、どうして野良バッカ―なんてやってるか聞いても良い?見たところ皆生活に苦しいみたいだけど」

「……同情を誘いたい訳じゃないけど」


 アシアは俯き気味に話してくれた。まずアシア達は、皆元々は娼婦の子らしい。最初は育ててくれていたんだけど、冒険者が娼婦を見受けしたり、歳を得て娼館を辞めされられるとほとんどの場合路地に捨てられてしまうのだとか。


 そういった子供達は魔物とも戦えないし、出来ることも少ない。唯一の働き口は『野良バッカー』になってダンジョンに入るしか無いという話だった。シンプルに屑がはびこっているのかこの都市。



「バックはそこらへんに落ちてる布切れのツギハギだし、稼いだお金は日々の食糧で消える。何日も出て来ないパーティに入ったら死んでしまう子も居た。けどこれしか僕達に出来ることが無いんだ。中には衰弱していたり、赤ちゃんも居るから、それも食べさせていかなきゃならないし……」

「孤児院は無いの?」

「こんな都市にそんなの無いよ。孤児院なんて金食い虫だから……」


 そうか、国じゃないから保護施設なんて無いのか。商人が孤児院の為に土地を空ける意味も無いし。彼等は子供の事より利益優先だということが知れただけで私としてはこの都市の評価が決まったけど。


「じゃあ、なんでアシアは皆のまとめ役に?」

「……昔僕より上のリーダーが居たんだけど、その人はダンジョンの中で……死んじゃったんだ。だから、今は僕が代わりを務めてる。その人みたいに上手くはいかないけど……」


 そう言って少しだけ涙を見せると、気付いてすぐに拭う。んーこれはまた……ヘビーだねぇ。



「そいつ等の言ってることは本当だぜ嬢ちゃん」



 そこに話し掛けて来たのは、昨日あったおっちゃんだった。


「あれ?ジェスさん。小屋は?」

「今はもう1人にやらせてる。それよりだ。俺はその死んだ奴とは仲が良かったんで口出しした。だが、だからこそ今の話を聞いて安易に雇おうとは思うなよ?冒険者は利益があってなんぼだ。甘い情で雇ってダンジョン内で死なせてみろ。後味が悪いなんてもんじゃないぜ」


 言っていることは正論だけど、どこまでもお人好しだね。けど残念ながら、私はその上を行く馬鹿だったりするのよ。



「アリーナ、レーベル、シエロ、美香。私が今からやること、何か分かる?」

「無論じゃ」

「もっち♪」

「……?」

「あー…なんとなく分かった……」


 シエロは分からないか。ならしょうがない、妖精さんのノリを見せてあげよう。


「アシア、今孤児達は全員此処に居るの?」

「え、うん。置いてけないしね」

「よしアシア。全員私達の所に集合させて。はいダッシュッ!」

「え、あ、はいッ!!」


 アシアは驚きながらも皆を集めに走った。数分で全員来ることだろう。ジェスさんが心配そうな顔をする。

「おい、何する気だ?」

「ちょっとした良い企画を思い付いただけだよ。」


 そんな無意味なことをしないよ。一見無謀な事なら毎度してきたけどさ。さて、アシアが沢山の子供を連れて戻ってきたね。ひぃふぅみぃよぉ……53人か。何人かはまだ赤子だけど、お姉ちゃんお兄ちゃんが布に包めて背負ってるね。

 


「それじゃあ発表するよ。今日から貴方達は全員私が雇います。赤子も含めて全員ね。この現状から脱出させるつもりで行くので覚悟を決めるように」

「「えっ?」」

「そんでもって1人に付き金貨1枚払うので、全員一緒にダンジョンに入ります。その際、私の言うことには絶対遵守すること。痛いことは無いし危ない真似もさせないのが大前提ね」



 言っている意味は分かったが、突拍子が無さ過ぎて反応に困る子供達。アイドリーをよく知る者達は、揃って苦笑いだった。レーベルとアリーナに至ってはいつも通りである。


 そして唯一剣呑な雰囲気のジェスが私に詰め寄って来た。


「てめぇ、自分が何言ってるか分かってんのか?」

「分かってて言ってるし、可能だからやってるんだよ」

「いや、分かってねぇ。集団で、しかも足手纏いを50人連れてダンジョンに入るなんざ完全に正気の沙汰じゃねぇぞ。しかも1人に付き金貨1枚だ?そんな大金を払う意味はなんだ?というかあんのか?」


前半が子供達への心配、後半が私達への疑心か。んー半ば保護者なのかな?


「まず金貨1枚については、単純に私達が1日じゃダンジョンから帰って来ないからかな。延長料金ってやつ。後はきちんと動いて貰う為だよ」


 私は懐から金貨の入った袋を出して中身を見せる。ジェスの目の色がまず変わった。


「次に、どうして一度に全員かと言えば、これは秘密かな。子供達だけに教えたいことだし。間違っても怪我はさせないけどね。最後に、私達にはそれを成せるだけの力があるからだよ。レーベル」

「うむ」



 私はレーベルと一緒に冒険者ギルドのランクカードを見せた。ジェスがそのランクを見た瞬間、カードと私達の顔を二度見する。私は少しだけフードを上げて顔を見せた。


「これが理由だよ。他に問題は?」

「……確実に、目を付けられるぞ」


 その言葉の意味は冒険者ギルドのことだろうけど、私はそんなのに関わる気無いし、子供達を放置してるんだから言われたところで、ね。


「どうせ一度入ったら何も売らずに出て行くから問題無いよ」


 それでジェスは諦めたように顔を項垂れさせた。じゃあ後は子供達だね。アシアはようやく事態を飲み込めたのか、私を遠慮がちに見ている。




「アイドリーさん。どうしてこんなことを?」


 どうしてと言われてもね。ノリとしか言いようが無いんだよね。まぁ一応適当な言い訳をしてみようか。アリーナが放って置く訳が無いし。


「まず、私の親友が貴方のとこのルンちゃん……だっけ?を連れてきたから。ついでに全員助けて雇って色々してみようかなと。それに貴方達もある程度の罠解除の知識があるんでしょ?皆で行けば知識を出し合ってより安全に進めると思うんだ。魔物は私達が全部請け負うし、守りきれるだけの実力も雇い切るだけの財力もあった。理由なんてそんなもんだよ」



「け、けど、それじゃあアイドリーさん達に何のメリットも無いじゃないか」

「メリットが無きゃ子供を助けちゃいけないの?」

「えっ?」



 惚けた返事をするけど、君達は子供なんだよ?皆がまだ外で元気に遊んでいるような歳なのに、日々の生き死にの中を彷徨うような生活、ありえないからね?


「まぁ強いて言うメリットがあるとするなら、子供は誰かが導いて未来を作り出せる大人にしなきゃならない。それを放棄した親達のような存在に、私がなりたくないだけだよ。で、どうする?未来への片道キップだけど」


 

「私、行く」

「ルンッ!?」

 先程アリーナに連れて来られた子が手を挙げた。その顔は悲壮に彩られているが、決意が篭っているね。良い眼だ。


「だって、この人は悪い人達じゃないもん。そんな人達が助けてくれるって言うなら、私頑張れるもんッ!!」

 


 1人の少女の決意が、他の子供達も動かし始める。それぞれが「僕も」「私も」と手を上げ始めた。


 最後に残ったのは。リーダーのアシア。皆を纏める者として、全員を危険に晒す為中々煮え切らないようだ。

「……本当に、大丈夫なんですか?騙しては、いないんですか?」

「そういうまどろっこしいのは好かないかな……それに、君達には他に必要な物もあるから。アリーナ」

「うん」

「え?……わっ」

 私はアリーナのフードを取ってアシアの前に出す、アリーナは聖母のような笑顔でアシアを軽く抱きしめた。


「大丈夫…大丈夫……」


 アリーナは、冒険者になってから自分の稼いだお金は大体子供が居る施設に寄付する様にしている。それは単に恵まれない子供達の為という訳じゃなく、端に子供が大好きで、一杯居る場所では皆が笑顔でいて欲しいからだそうだ。


 聞いた時は私も全額寄付しそうになったけど、自分で好きにやっていることだと止められたんだよね。



 しばらくそうやって頭を撫でられたアシアは、アリーナを抱きしめ返して泣き出してしまう。他の子供達もそれに呼応して、レーベルやシエロ、美香に頭を撫でられたり抱きしめられていた。私も何人かの子達の頭を撫でた。


 そしてその中から目線を動かし、ジェスに最後の確認をとる。人数分の入場料の入った袋を手に乗せて。

「良いよね?」

「………………勝手にしな」


 ジェスは顔を上げずに、その袋を粗ただしく掴み取って小屋の方に戻って行った。お許しは……出たみたいだね。もう1人が抗議しているようだけど、あ、ぶん殴って黙らせた。それじゃあさっさと中に入るとしようかな。




「みんな、今日からよろしくね」

「「「はいッ!!!」」」

「じゃ、冒険にしゅっぱーつッ!!」

「「「おーッ!!」」」


 こうして、私達の初めてのダンジョン探索が始まった。

Q.子供の好きな部分を述べて下さい。


アイドリー:「子供の服を掴む仕草かな」


美香:「上目遣いの涙目が正義だよ」


アリーナ:「えがお~♪」


シエロ:「純粋な眼、ですかね?」


レーベル:「全てじゃ」

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