第86話 アモーネまで
まず私達が目指したのはガルアニアだ。アモーネはガルアニアをグルっと迂回して行かないと、山と森に阻まれて道が無いのだ。レーベルに乗っていけって?レーベルが泣きそうな顔して弱々しく拒否したのでアリーナと一緒になってヨシヨシしたんだよ?それぐらい勇者教の人間に纏わりつかれるのが嫌なんだって。
まぁ偶にはちゃんとした旅をしておかないと色々と鈍りそうだし。なんだかんだ私この半年でほとんど戦ってないからね。帰りはレーベルに乗って帰る予定だし、のんびりとした旅路を楽しみたいかな。
「「「~~~~~~~~~♪」」」
今は丁度そのガルアニアの横を過ぎてる辺りだね。妖精魔法と四属性魔法使ってゴーレムみたいな馬を作ったんだけど、前世のサラブレット想像して作ったから凄い早い。しかも生き物じゃないから私の魔力が続く限り走り続ける。だから通常の期間を大幅に短縮して1週間掛からないぐらいだ。
ただ車揺れが昼夜問わず半端ないけど、自動で目的地に向かってくれるから楽だね。人が前方に出たら止まってくれるし。
「「「~~~~~♪ ~~~~♪」」」
そういえば、ステータスに新しくスキルが追加されたことに気付いた。アリーナも持ってた『複数思考』なんだけど、レベルが上がらないからほとんど見てなくて全然気づいてなかった。ランクも高かったから試しに使ってみたんだけど、凄い変な感じになった。頭の中で思考を分割していくのにゴチャゴチャにならないんだよね。
「「「~~~~~♪ ~~~~~~♪ ~♪ ~~~♪」」」
ということで、さっさとこの調子でアモーネに行ってしまいたい。魔力は妖精魔法で変換してあるから、後2週間はこのままでも問題無い。夜になったら寝るし。魔物は轢いていくスタイルなので。
「「~~~♪ ~~~♪ ~~♪ ~~~~~~~♪♪」」」
さて、私とアリーナ、レーベルによる暇潰しの童謡ももう何曲目か分からないけど歌い終わった。次は楽器でも弾きながら民族音楽でもやろうかと思っていたところに、
顔を青くして死にそうな巫女と勇者が懇願してくる。
「おね…がい……休憩…をウプッ!?」
「こ、これ以上、は……死んじゃうぇッ」
「あーごめんごめん。もうちょっとしたら川があるからそこで休もう」
馬車の中で妖精化していた私とアリーナは人化をして御者を変わってあげた。馬車の中でアリーナが妖精魔法を使いウォーターベッドを作ってくれたよ。2人は安らかな顔して気絶したけど。
そうして、久しぶりの休憩を取った。川の水で顔を洗う2人を横目に私達はお弁当を出して食べ始める。これ、城の食堂で大量に貰ったんだよね。おばちゃんの眼差しが熱過ぎて拒否出来なかった。美味しいから拒否る必要無いんだけどさ。
「あー死ぬかと思った……こんな調子で走ったら馬車壊れない?」
「行く前に魔法で補強しといたから問題無いと思うよ?あむ」
美香に馬車の心配をされたが、妖精魔法は万能さんだからね。耐久度を魔力消費で上げたから、そうそう壊れないのよね。
「アリーナよ。これも美味いぞ?ほれ、あーん」
「あーーむッ♪」
「あ、ズルい。レーベル私も」
「しょうがないのう。ほれ、あーん」
「あむっ」
平和である。いや、ラダリアも平和だったけどね。こうやって旅をして適当な場所でご飯食べる時間を付けるのも久しぶりだったからなぁ。なんというか、一瞬だけど肩の力が抜ける。和かだねぇ~~
「美香はアモーネって行ったことある?」
「私はないよ。何人かの勇者が暇潰しに行ったって話は聞いたけど、攻略は出来なかったって言ってたし」
「勇者でも無理なの?」
「単純な武力なら簡単だったかもしれないけど、20層辺りで罠だらけのフロアがあったらしいのよ。そこで足止め喰らいまくって行けなかったんだって。ああ、ダンジョン自体は確認されてるだけで50層はあるらしいよ。かなり昔行ったっきりみたいだけど」
トラップフロアか。ザ・ダンジョンだね。しかしそうなると誰も最奥までは行けなかったのか。魔物の強さがどの程度が知らないけど、出来るだけ強いのとやりたいから、進めるとこまで行ってしまおう。
「お~い、お前さんら冒険者かね?」
「おん?そーだよー」
突然呼びかけられたので振り向くと、少し離れたところで同じく休憩していた商人達の護衛がこちらに来ていた。50代ぐらいの年配さんだね。髭が3つ編みなのがチャームポイントだ
「俺は『夕焼老』のモンジャという。あんたは?」
「私は『妖精の宴』のアイドリー。それで、どうしたの?」
自己紹介したけど、別段驚かれなかったな。どうやらガルアニアの人じゃないっぽいね。
「よろしく。それでお前さん等、もしかして行先はアモーネかね?」
「うん、ちょっとダンジョンに入ってみたくてね」
「ほう、そうか……なら、今のアモーネは止めた方が良いぞ?」
「え、どして?」
モンジャは一度周りを見渡すと、小声で私の耳にそっと打ち明けて来た。
「表沙汰にはなってないが、今アモーネは冒険者ギルドに乗っ取られておるんだ。俺達はそこから商人護衛の名目で一緒に逃げて来たんだよ」
「争いでも起きてるの?」
「いや、そこまでには至っておらん。何年か前からあそこは商人と冒険者の仲が悪くなってたしな。ただ、どうにも今の都市は雰囲気が悪い」
「じゃあダンジョンには入れない?」
「入れはするが、素材を売れんぞ?ギルドが介入してくるから、商人達がまともに買いたがらないんだ」
「あーそれなら良いよ。ダンジョンに入ることそれ自体が目的だから」
変な顔をされたが、素材は全部収納するしね。特に問題無い無い。ギルドにも向かうつもり無いし。多少買い物して見て回ったら、宿屋に一泊してそれからはずっとダンジョンに潜るから関係無いね。
「奇特な奴だな。まぁ大丈夫だと言うならこれ以上は止めておこう。冒険者の自由性に反するしな」
「うん、ご忠告ありがとうモンジャさん。これ、情報料にどうぞ」
私は銀貨を一枚投げ渡すと、「ありがとよ嬢ちゃん」と笑顔で自分達の休憩場所に戻っていった。ああいう気の良い冒険者に出会ったのはスビアやモリアロ以来かな。
「都市内のいざこざか。無視しても良いかな?」
「アイドリーに任せるよ私は。関わって利用されるの嫌だし」
「私は……迷います。困っている人達が居るならば助けたいと思うのですが…」
「まぁシエロはレーベルラッドが優先だよね」
話し合いの結果、内容次第では介入することに決定した。まぁといっても絡まれたらだけどね。そうでなきゃ無駄な時間を使いたくないし。
「まぁまずはダンジョンだよ。私達の目的が終わってからでも良いし。殺し合いをしている訳じゃないなら放置しとこう。当人同士の問題に口出すのいくない」
「いくな~い♪」
「我も面倒だから嫌じゃ」
「ということで出発しようか。まずは着いてからね」
((またあの揺れ地獄に……))
あらあら、まだ乗ってないよ?
それから幾つかの街を巡り、何度か美少女達の嘔吐シーンを見ながら楽器を弾いて歌を歌って偶に魔物を倒して2週間。
「「「到着」」」」
「「つ、着いた………」」
『ダンジョン都市アモーネ』に足を踏み入れたのだ。
複数思考&同調中の2人
アイドリー1『えーと、そこがそーなってあっちがこう動いたらそうなるからえー…と、あれ?詰んだった?』
アイドリー2『……9七銀』
アイドリー3『今日もアリーナを脳内で愛でる会始めるよー』
アイドリー4『よしきた』
アイドリー5『任せろ』
アイドリー6『アリーナたんハスハス』
アリーナ1『同銀』『ふぬぅッ!?』
アリーナ2『……』以下3.4.5.6まで先読み




