第9話 冒険者ギルド
門の先は広場になっていた。荷馬車が多く止まっているのを見ると、此処が出発の拠点みたいだね。広場の脇には屋台が多く出ているし、多くが冒険者の為の片手で食べれて軽い腹ごなしが出来るって感じの物だね。私もその中の屋台の1つに肉の串焼きを見つけたので、試しに買いに行くことにした。
アリーナさんや、涎が……
「おっとー」
「おばさん、串2本頂戴」
「あいよ!おや、あんた見ない顔だね」
活発な笑顔でお出迎えしてくれたおばさん。やっぱりそういうの分かるものなんだね。
「旅人なんだ。ちょっと世界を見て回りたくてね」
「はっはっは、面白い子だね!! ほら2本、お代は銅貨8枚だよ」
「はいこれ」
「どうも、また来てくんなぁ」
何の肉か聞かなかったけど、お肉はジューシーな油と独特な香辛料の匂いを発していてとても食欲をそそる。タレも良い匂いだ。味も……中々噛み応えがあって美味しい。何の肉か気になるけど。
「アイドリーっ、アイドリーっ」
「わかってるよ、ほら」
私は広場を抜けて路地に入ると、一切れだけ串から外してフードの中に入れた。フードの中の空間を拡張してあるので汚れる心配は無い。
「美味しい?」
「やみー!!」
「ふふ、さよで」
さて、街に来たからにはまず身分証を作りたいけど、自由に動けて稼ぎも良いなら冒険者だ。逆に安全重視でいきたいなら商人になる。ただ私の場合元手が無いからこっちは難しい。こっちの事知らないのは一緒だけれど、多分私に商才って無いし。
そういうのは後で他の人に任せよう。私達妖精は椅子に長時間座ると爆発しちゃうから。多分。
「やっぱりなるなら冒険者かなぁ。お金はなるべく早い段階で稼いでおきたいし」
「ひつよ~?」
「私達は旅ガラスなんでね。先立つ物が無いとなんとも」
「せちがらし!」
「人って大変よね……しみじみ」
ドラゴン程の魔物には中々遭遇しないだろうから、基本危険は無い。ということで冒険者ギルドに向かおう。道はパッドから聞いてるので、迷いなく進んで行けた。というか真っ直ぐ行けばあるんだよね。
道々には商人や冒険者の姿、走っていく子供も多いし、活気に溢れている。一見するとそこまで問題があるようには見えないけれど、一つの現場を見て眉間に皺が寄ってしまう。
(首輪の……獣人)
筋骨隆々の獣人達が、親方っぽい人の指示で建築中の家への資材を運んでいる姿を見掛けた。ある道沿いの商店では、荷馬車に鎖で繋がれた犬耳の少女が居た。檻の中に何人もの女性獣人が居た。それを周囲の人間は気にもせず、さも当然のように通り過ぎていく……風景。
不当な扱い……の様にも見えるが、彼等は一様に諦めの表情一色で。傷つけられている様子も無かったし、暴力的に罵倒されているなんてことも無かった。あくまで商売という名目で扱われている『商品』という感じだった。
(実際に見ると、前世の記憶のある私から見れば嫌悪感の塊だね……)
フードで顔を隠しているから私の表情を見られることは無いけど、こっちの人達には私の感覚はやっぱり変に映るのかな。だからって受け入れられないけどさ。
さて、その様子をアリーナには見せない様にして街の中心部に冒険者ギルドを見つけたが、予想外に大きいね。通常の一軒家の3倍はあるよこれ?
地震とか無いのかなこの大陸。まぁ驚いていてもしょうがないし中に入ってみよう。
「心の準備は?」
「ばっちこい!」
ガチャ……
中に入ると、真っ直ぐ行った所に受付を見つけた。左側は酒場になっているようだね。後でマスターにジュースでも貰おう。受付の人の所まで歩いて行く間に何人かの冒険者から視線を感じたが、値踏みのような感じなので放っておこう。
窓口では、綺麗なお姉さんが柔和な笑みを浮かべて出迎えてくれた。薄化粧がバッチリ似合ったブロンド髪だ。ちょっと甘い匂いもするし、これは正しく受付嬢だね。
「こんにちはー」
「ようこそお嬢さん。御用は?」
「冒険者登録がしたいの。山間の村からの出で身分証が無くてね」
「なるほど……登録にはいくつかの説明と試験がありますが、よろしいですか?」
「大丈夫だよ」
受付さんは一枚の紙を差し出してくる。
「文字の読み書きは大丈夫ですか?」
「うん、村で教えて貰ったから大丈夫」
「なら安心ですね。そちらは登録申込書になります。試験によって受けた怪我等が発生した場合、銀貨一枚で回復を請け負えるので、記入をお薦めしますが、どうしますか?」
今の私は人間だからね。勿論ここは受けておくよ。
「勿論お願いします。万が一もありますから」
「あら、自信があるんですね。それでは試験官を呼んで参りますので、こちらの魔道具でステータスの発行をしておいて下さい。自分のステータスを把握しておく必要もあると思いますので」
指さした方向には、水晶の下に箱のような物が付いた置物があった。
「ステータスの開示は自由ですが、大体の人が隠すのでよく判断してくださいね。では」
そう言ってお姉さんは奥の方に引っ込んでいった。
「……まぁ、やってみようか」
物は試し、私は水晶に手を当ててみた。すると水晶が光り、微量だが魔力が吸い取られた感覚がする。すると箱に空いている細長い穴から、銅色のカードが出てきた。なるほど、こういう機構なのね。
アイドリー(15) Lv.7
種族:人間
HP 260/260
MP 140/140
AK 73
DF 30
MAK 56
MDF 67
INT 81
SPD 54
スキル:剣術(D+)四属性魔法(D-)料理(C+)
料理のスキル以外は全て『隠蔽』効果で偽装したステータスだ。ゴブリンぐらいなら倒せるってぐらいだから、駆け出し冒険者のステータスとしては十分だと思う。剣術はちょっと心得があるぐらいであれば初心者っぽいし。魔法も生活に使ってたとでも言えば良い。
「お嬢さん、試験官の準備が出来たのでこちらにどうぞ。ステータスの発行は出来ましたか?」
「はい、問題無く。私自分のステータスとか余り気にしないんで、これ見せますよ」
「えっ、良いんですか? ……じゃあこれはギルドで保管しておきますね。では、こちらです」
連れて来られた場所は、ギルドの地下。え、これ構造的に大丈夫なの?建物沈まない?
「ここは冒険者達の訓練所や災害時の避難所として使われる場所です。貴方も試験に合格すればいつでも此処が使えるので、頑張って下さいね」
「おう、お前が相手か。こりゃまたちんまりした嬢ちゃんだなおい?」
訓練所の地面で座っていた一人の男がこちらに気付いて立ち上がったと思ったら、こちらに歩み寄ってきた。軽装備だけど、それが霞むぐらい肉々しい肉体だ。見た目はかなり強そう。顔も強面だし。
「貴方が試験官?」
「おう、とっとと始めようぜ。ああ、心配しなくても手加減は上手い方だから安心しろ。俺も長いことやってんでな。試験内容は俺と3分間戦い続けること。その際お嬢ちゃんは10回以上俺と剣を合わせるか魔法を撃て。これが守られていれば合格になる。質問は?」
「勝ち負けは無いってこと?」
「ああ、だから存分にかかってこいよ。頑張る姿勢も評価してんだから」
「武器は訓練用?」
「いや、自分のを使え。回復をしてもらえるから怪我をしても即死じゃなきゃ問題無いしな」
真っ当だね。私は一つ頷くと、剣を抜いて構えた。レーナさんが真ん中に立つ。
「では試験を始めます。私が終わりの合図を出した時点で終了ですのであしからず……では、始め!!」
こうして最初の対人戦が始まった。まずは試験官のステータスを見てみようか。
ドロア(35) Lv.83
種族:人間
HP 1023/1023
MP 587/587
AK 731
DF 710
MAK 352
MDF 277
INT 54
SPD 411
スキル:剣術(B+)四属性魔法(C+)俊足(B)鉄壁(C)手加減(B+)格闘術(B-)
これ結構強くない?こんな人が試験官とは、これだけステータスが高ければそりゃあ余裕綽々だよね。手加減のランクも高いし、遠慮なく力を抜けそうだ。
「てりゃあ!!」
とりあえず無難に突っ込んで剣を振る。何倍も違うステータス設定だし、初心溢れる戦い方をしないとね。
「おっと、思い切りが良いじゃないか!」
試験官は私の攻撃を軽くいなすと、返しで剣を横に振り抜いた。それをしゃがんで避けて後ろに跳ぶ。スピードもこちらに合わせてくれてるから有難い。そのまま私は魔法を唱えた。
「風の槍よ、穿て!!」
1本の風の槍が形成され、いつもの十倍は遅いスピードで試験官に射出する。
「ほう、魔法も使えるとは将来有望だな!剣と合わせて10回でも良いからな!!」
「それは有難い!!」
風の槍を腕を振ってかき消される。私は多少動揺した顔をしておいた。すぐに駆け出し、剣を当てに行く。
「恐れず立ち向かうのは良いことだ!だが危機には十分注意しろ!!」
剣を打ち合わせた瞬間、今度は肘打ちが顎に向かって放たれた。それを紙一重で顔を後ろに反らして避けると、更に剣が上段から振り下ろされる。少し『俊足』を使われているなこれ。その攻撃も剣で受け、吹っ飛ばれて地面を転がった。
アリーナがフードの中でてんやわんやになってるけど、楽しそうにきゃっきゃしてるし平気か。
「手加減しているとはいえ躱したか!中々やるじゃないか!!」
試験官もテンションが多少上がっているようで、すぐに追撃してきた。私は後方へ跳びながら魔法を放つ。
「土壁よ、全てを防げ!!」
試験官の目の前に出てきた壁で追撃を避けようとするが、試験官は壁をものともせず破壊して突っ込んで来た。けどそれで良いんだよね。
「そんなものじゃ止められんなぁってうお!?」
その壁が少しでも眼くらましになれば良いから。私は低空状態で試験官の足を掴み、思いっきり引いた。尻餅付いたところに起き上がりの蹴りを浴びせるが、試験官はそのまま後ろに回りバク転しながら下がる。もうちょいで掠ったんだけど駄目か。格闘術も厄介だね。
「危ねぇ危ねぇ。一撃入れられるところだったぞ。フェイントや戦いの勘も良いとは、初心者にしては戦い慣れし過ぎだろ。どこの出身だお前?」
「田舎出身でね。狩りはいつもやってたんだよ」
「なるほど、にしちゃあ対人慣れし過ぎだぜ小娘!!」
最そうな理由だけど納得してくれてこっちはなによりだよ。さて、現状じゃもう打つ手が無いから、後は、躱して打ち合わせて偶に当たる感じで流そう。そろそろ2分ぐらいだろうし。
「そこまで!!」
3分、双方剣を重ねた状態で終わりの時が来た。試験官は一息付くと、握手を所望されたので応える。
「ドロアだ。ステータスはまだまだだが、レベルを上げていけば俺を越えるぐらい強くなるだろうよ。これからよろしくな」
「アイドリーだよ、よろしくね」
どうやら無事合格を貰えたようだ。まぁ途中からひたすら打ち合ってたしね。何故かドロアさんこっちのフードを取ろうと躍起になってたし。
「おめでとうございますアイドリーさん。私はレーナと申します。これからよろしくお願いしますね」
「うん、よろしく」
「それじゃあとっとと登録して冒険者規定を説明してやんな。俺は帰っからよ」
「はい、ドロアさんもお疲れ様でした。ではアイドリーさんどうぞ」
ドロアさんは手を振ってとっとと歩いて行ってしまった。私はまたレーナさんに案内され、個室に通される。
「それでは、こちらが登録申請書になります」
それを受け取って、さっさと項目を埋めてしまう。名前、年齢、出身地、得意なポジション、特技等々。
「はい、ありがとうございます。それでは初心者ランクの規定について説明しますね」
「お願いします」
アリーナさん。フードの中でフンスフンスしないで、耳が幸せにくすぐったい。
「冒険者登録をした場合、一律でFランクからのスタートになります。その後、依頼の達成度、魔物の討伐数と街や国への貢献度に寄ってランクが上がっていきます。明確な基準はありませんが、公平に行われるのでご了承下さい。初級ランクはF~Dになります。Cランクへの昇格は試験も入りますので、レベルとスキルは積極的に上げるのをお薦めします。Cランクに昇格しますと、そこからC-・C・C+が中級ランクとなります。その後更に試験を受け、いくつかの功績を重ねると上級ランクへ昇格する流れです。ここまで質問はありますか?」
「大丈夫、続きを」
「はい、次に初級ランク冒険者は、期間を設けた制約が発生します。それは最低でも1ヶ月に1回は依頼を受けるというものです。内容はなんでも構いません。ゴブリンやウルフはいつでも依頼として出されているので討伐数と変わりませんし。そして依頼には常時依頼、指定依頼、緊急依頼の3つに別れます。常時依頼は先程言った周辺に居る魔物の討伐等です。指定依頼は、商人の護衛や薬草系の採取等があります。こちらはDランクの冒険者に人気ですね。緊急依頼は災害が発生した際の招集になります。冒険者は例外なく参加する義務が発生しますのでご注意下さい。また、指定依頼は未達成になると違約金が発生する場合もあるので、力量をよく考えて受けて下さい。以上になります」
うん、特に理不尽なことは無いね。割りと優しい規定だし、問題行動さえ起こさなければ自由に動ける。
「後は犯罪についてですが、ギルドは関与せず、その街や国の法に則る形になります」
「冒険者同士のいざこざは?」
「基本は当人同士の喧嘩に分類されるので、よっぽどの事が無ければギルドは関与しません。決闘等は罪にならないので自己責任ですね。回復を依頼されれば正規の料金で請け負いますが」
つまり個々のモラルで判断して下さいってことね……ならいっか。
「では身分証を発行して来ますので、座って休んでて下さいね」
「わっかりましたー」
きぃ…バタン
「……待っている間暇だね。アリーナ、しりとりしよう?」
「うい~♪」
「では、こちらが冒険者カードになります」
渡されたのは一枚の金属板。私の名前とランクが刻まれていた。これだけ? 簡素なんだね。
「これって何か特別なんですか?」
「その板は、魔力を通すとギルドの印が確認出来るようになっているんです。ギルドでしか使われないのでそれが身分証となります。あ、紛失したら罪に問われるのでくれぐれも注意して下さいさいね?」
「わかりました。宝物にしときます」
「そ、そこまでじゃなくて良いですから……」
はーい。これは空間魔法で収納しとけば無くす心配は無い。これにて無事冒険者か。案外早く終わって良かったよ。試しに依頼も受けてみたかったし。
「早速常時依頼受けたいんだけど」
「え、さっきドロアさんと戦ったのに大丈夫ですか?」
「問題無いですよ。体力にも自信がありますから」
ということで、ゴブリンとウルフの常時依頼を受けた。どっちも5匹ずつだしすぐ終わるだろう。
「ああそうだ、最後に1つ」
「なんでしょう?」
「お薦めの宿屋ってあります?」
紹介された宿屋
「すいませーん一人で1週間泊まりたいんですけどー」
「はーい。えっと、冒険者さんですか?お一人なら一日銀貨1枚……ど、どうしたんですか?」
「………え、ううん、何でもないよ?」
「そ、そうですか?」(め、眼が何か怖い~~)
(小動物系三つ編みソバカス少女……マーベラス)




