牛鬼
朝を迎えたのは今日で何千いや、きっと何万回それ以上だというのに、
私はまだ五日目だ。
四日前に私は大きな病院で目を覚ました。
お医者様の話によるとどうやら頭を強く打ったとかで血を流して倒れていたらしい、記憶がない。
名前、住まい、勿論その他自分が何者か示すものは無く、背中には首は牛に身体は蜘蛛と悪趣味なタトゥーで描かれていたが、それでもまったく私の記憶を呼び起こすこともなければ手がかりにもならなかった。
だが、お医者様は三日もすれば警察署から捜索願いがでる、身内の方や友達が直ぐに病院にくるだろう。と励ましの言葉をくれたが、四日しても誰も現れない。
それどころか、三日目から病院側が私に対してどこかよそよそしい、
看護師の方と廊下ですれ違い様に歪んだ表情で走って逃げられ、
五日目の早朝、布団を畳むと病院をあとにした。
公演のベンチは固く、お金があれば真っ先に寝袋が欲しいところだが、
そうも言えない。
私はとにかく倒れていたと聞いている場所に向かう事にした。
ここは私にとって地元の街なのかもしれない、がいわば迷子。
とりあえず足を進める、人に道を訪ねありがたい事に地図まで頂き、到着した頃には日も傾きかけていた。
一日歩き詰めで腹も少し空いた。
ここで倒れていたらしいが、立ちすくむのは見知らぬビルの暗い裏路地の一格。
記憶は消えてしまったのか呼び起こそうとしても全く思い出せない。
私はここで喧嘩でもしたのだろうか、色々と考えを巡らせていると声が聞こえた。
おーい!おーい!
私は夕日に照らされて顔は見えないが走って近づいてくる人影が見えた。
息を荒くして近づいてきた彼は私を知っているのかもしれないと半ば期待と不安が交差していた。
「いやー、どこいってたんですが、随分探しましたよ」
「.........いや、すまん」
「しゅんさん急にいなくなるんですもん、携帯持とうとしないからこんな時不便なんすもんね」
「(しゅん?それが名前?).........その、色々と事情があってな、その」
「でも、元気そうで何よりでしたよ、そんなことよりしゅんさん、預かってたアレ渡しときますね」
はいと差しだされたのは、この法治国家で誰彼持てるはずの無い武力の象徴的な黒い鉄の塊。
「拳銃......」
「どうしました?飛び出した日に限って忘れていくんですもん、今度は忘れないようにしてくださいね」
男は以前から親しくしているのだろう、全く警戒する素振りも見せなければ私の正体も知っているらしい。
「どうしました?えらくまた怖い顔をしちゃってもしかして.........」
「もしかして?」
「もしかして、しゅんさん本物の死神にあっちゃってたりして」
「死.........神?」
「もう、何とぼけてるんですか、言われるの嫌うの知ってますけどしゅんさんのあだ名じゃないですか「死神」って」
「(なんつー不吉なあだ名)そ、そうだったなあまり意識してないものだからつい」
「おかしなしゅんさんですね、まあ、しゅんさん人気者だから敵の組に目つけられすぎだし、今月だけで相棒3人も殺されてるから組から逃げ出したのかって噂になってたんですよ」
私はその名前も聞けずにいる友人の車に乗り込むと、おしゃべりなそいつの会話から情報を聞き出しながら、病院があのような態度をとったのか合点がいった。
平たくいえば私はヤクザの組員であり、
今回もヤクザの抗争で襲われたらしく、
いくつかのほかの組とは長い間緊張状態でもあるらしい、
「おかえりしゅん、無事で何よりだ」
「あ、ありがとうございます」
ここ数ヶ月は更に緊張感は高まり、今月だけでも私の相棒が三人も変わり果てた姿で見つかったらしく、身内では生き残った私に死神のあだ名が付いていた。
どこにでもある建設会社の二回に上がると柄の悪いお兄さんが五人六人いた。皆こちらを見ると嬉しそうな表情を浮かべるじゃないか、先程出会った男も嬉しそうに男達の中に入り、聞いてはいたがどうやら組の仲間らしい。
「さつに捕まったにしても報道がないからな、今まで何してた?まっそんなことより、さぁ、復帰祝いだ、パァーっとやるぞ!」
私が敵の組のスパイかも知れないなど考えたが、この人たちは私に絶大な信頼を置いているようだ。しかし私には少し気になる点がある。
「美味いか?美味いだろー!さあもっと飲め!こいつは鹿児島でも指折りの酒だお前の復帰のために開けた!」
「美味いです!こりゃあ飲みやすいですね!ところで一つ聞いていいですか?」
「なんだ?改まって?」
酒の席、なぜか私は酒が美味くもなければ酔うことも無いものだから、色々と情報を唐突に聞きだすと怪しまれる可能性もある、私は酔った人から隙をつくように聞き出すことにした。
「私が留守になってる間に私の相棒はどこ行きました?」
「ああ、アイツね、裏切り者だから縛ってそこの倉庫でお仕置き中、お前のたっての頼みでも女なんか俺はやんだよ?」
「そうでしたか、ははっ.........(私の頼み?)」
それからどれくらい、宴会しただろうか
明かりは消灯し、全員が帰ったりその場で寝たりする中、
私は相棒がお仕置きしてあるその扉を開いてみた。
そこにはロープで身動きを封じた女性が横になっていた。
女性はスタイルがよく、まるで雑誌のモデルのようなスレンダーな体型だ。
口からヨダレが溢れ、
そこで私は全ての記憶が戻った。
あの日、それは記憶を無くした日の事だ。
私はその女の新人を連れ、敵の組に偵察に行くと周りに告げ、
組を出てから誰もいない路地で二人になると相棒を襲った。
背中のタトゥーは「牛鬼」
非常に残忍・獰猛な性格で、毒を吐き、人を食い殺すことを好む。伝承では、頭が牛で首から下は鬼の胴体を持つ妖怪。
あの時は迂闊にも逃げられたがきっと私に殺されてると周りに言って信じてもらえずにこのザマなのだろう。
「美味そうだ」
「そうだな、今回は選りすぐりだからな」
言葉と共に明かりが付くとさっきまで寝てたり帰った奴らが拳銃を向けたいた。
「え?な、なにしてんです?」
「お前を今から警察に突き出す」
「へ?いや、意味わかんないんですけど」
「そうか?連続殺人犯なら当然だろ?警察から今までの遺体の損傷は明らかにおかしいと言われていた、まるで野良犬に食べられたようだと言われた」
「くそっ!」
こんなこともあろうかとさっき渡されていた拳銃をショルダーから取り出すと咄嗟にそのまま撃つ。が、音はなるものの、音だけだ。
「決定的だな、あらかじめ空砲にしてある。落とし前を償って貰う」
何とも誤読感がある作品のような気がしてならない筆者なのですが、
どうだったでしょうか、
よろしければ評価をいただければと思います。