第六話「異世界転移でよくある王都」
『王都バルバロン』
初代国王バルバロン・リッティアの名が付けられたこの都市は、人口五十万を超える大陸最大級の都市である。
すぐ近くのローベリオ運河から水を引いているため、王都内は海上交通が発達している。
防衛にも優れており、かの有名な隣国の将軍ドドリス・ダダリスに、「リッティアの三大副都市全て陥落させるまでは容易かろう。しかし、あの王都だけは私が残りの生涯の全てを費やしたとして、はたして落とせるのだろうか」と言わしめたほどである。
王都は六層に分かれている。一層目が兵舎区、二層目が平民区、三層目が冒険区、四層目が商業区、五層目が貴族区、そして六層目が王城である。
兵舎区は王都の中で最も広大だが、兵士以外が行動できる範囲が狭い。
平民区は貴族、王族を除く王都の全住民が住んでいる。
冒険区はギルドや旅人のための宿場、そして王国軍本部がある。
商業区は大陸で最も栄えている交易所を有している。
貴族区は貴族の他、王族の分家が住んでいる。
王城は防衛機能は皆無だが、英雄の加護を持つ大将軍、ペルトル・アストルフが、王国軍の将軍五十名の内、特に優れた十名を選び交代で二十四時間警護を行っているため、国王を暗殺しようとする者は全て返り討ちに遭っている。
そんな素晴らしい王都に、一度は訪れるべきだと私は思う。
—————チャーリー・マッケン著、リッティア王国の賢い歩き方より—————
「ほー、面白いなこの本」
「その本は、旅人の間でだけでなく王国の民にも人気なんですですよ?」
「そうなのか、この国には印刷する技術はあるのか?」
「はい、まだそちらの世界のように、電気というものは見つかってはおりませんので、そちらが羨ましいですですよ」
「加護とかいう訳分かんねえ力があるだけでこっちから見れば十分羨ましいよ」
「そういうものですですか」
「ああ」
俺は今王都の一層目、兵舎区の中を移動している。
兵舎区は兵士以外が通れるのは、二層目へと続く一本道しかない。
周りを見渡すと、訓練をしている兵士を見ることができる。
アストルフさんによると、リッティア王国軍の規模はこの大陸で最大らしい。
王都の人口五十万人の内、約五万人が兵士なのだそうだ。
王都の全人口を移しても余るほど広大な一層目を利用できるのが、最大の強みらしい。
ちなみに兵士が最も多いのは、国境近くにある三大副都市のひとつであるラバナンだそうだ。(十万人ほど)
「国王はどんな人なんですか?」
「陛下は、身分よりも能力を重んじるお方で御座います。げんに私は平民の出ですが、英雄の加護を持っていたこともあり、今では貴族の方から挨拶をしてくることもあります」
これは朗報と考えるべきだな。俺は特殊な加護持ちの上、王女を助けている。
まず謁見は叶うと考えて良いだろう。
「兵士は皆屈強そうですね」
「ええ、私が大将軍になってから、訓練の内容を一新しましてな。初めは方々で不満の声がありましたが、徐々に兵たちも自分が強くなっていると感じたんでしょうな。今では進んで訓練に励んでいてくれております」
「凄い功績ですね」
「いえ、まだまだこの軍には改善の余地があります」
「これほどそろった動きができていてもですか?」
「確かに、対人戦ならリッティア軍は間違いなく無敗でしょう。しかし、相手が魔族ともなると、そう簡単にはいきません。魔族には、加護に加えて種族ごとに備わっている特殊な能力があります。
魔王はゾーリュ族という種族ですが、あの種族は自分の攻撃に合わせて爆発を起こすことができます。
その威力すさまじく、魔王クラスともなると一撃で小さな街ならば消してしまえます」
マジかよ、魔王。
「魔王というのは、やはりとても強いのですね」
「ええ、若い頃の私なら、互角の戦いができたかもしれませんが、この歳ともなると...。
魔王は私よりも年上ですが、魔族は一部の種族を除いて基本的に長寿です。私は数年前、一度魔王と邂逅したことがありますが、見た目は二十代でした。」
「ちなみに失礼ですがアストルフさんは...」
「私ですか?私は今年で七十八になります」
おぅ、てっきりまだ六十前半かと思ったぜ。
「おや、二層への門が見えましたぞ」
「次は...平民区ですね」
「平民区には私の家があります。トージ殿とミケ殿は、そこで待っていて下され。私は王女と共に、謁見のお願いをしに行かなければなりませぬ」
「分かりました。色々ありがとうございます」
「ありがとうございますですですっ♪」
さて、これで一息つけるのかな。まあ慣れない土地だ。何が起こるか分からないから一応警戒はしておくか。
——————十数分後
「ここが私の家に御座います」
「はえー」
でかいな、さすが大将軍。平民区なのに豪邸が建ってるよ。てかこの辺は豪邸が多いな。平民の中でも金持ちが多い場所なのかな。
「凄いですです!トージさん!早く家に入りましょう!」
「お前ちょっとは遠慮しろよ」
「いえいえ、お気遣いなく。私は家の者に事の次第を伝えたら、すぐに王城に向かいますので。さあどうぞ、入って下さい」
「お邪魔します」
「お邪魔します♪」
家の中も美しいな。床にレッドカーペット敷いてあるよ。こんな豪邸に、一度でいいから住んでみたいものだ。
「お帰りですか?」
家の奥から声がする。もしかしてもしかすると、アストルフさんの奥さんかな?
「ああ、今帰った。頼みがあるんだが...」
「どうしました?」
「この二人をしばらく家に客人といて迎えたいのだ」
「お初にお目にかかります。武田刀冶と申します」
「ミケですです!」
若いな、娘さんかな?凄い美人だ。谷口のタイプなSっぽい雰囲気漂う人だ。
「初めまして、ペルトル・アストルフの妻。サーシャ・アストルフです」
「奥様でしたか」
「トージ殿それは嘘に御座います。サーシャは私の娘、私の妻は今隣の都市に出掛けておりましてな。
私が留守の間、娘が代わりに家を守っていたのでございます」
「父上!本当のことを言わないでください!つまらない!」
「何を言うか、トージ殿は私と王女の命の恩人。そのような方に嘘などついてよいはずがなかろう!」
このひと、最初偽名名乗ろうとしたんだよな。まあ未遂だからセーフか。
「トージ殿、申し訳ない。娘は私が大将軍という立場故、生まれたころより貴族の子らと共に遊んだりしておりましたので、少々どころかかなりじゃじゃ馬になってしまったのです」
「父上!私の評価を下げるようなことをこのように格好の良い御方に言わないでください!
あ!もしかして父上、この方と私の縁談を持ってきたのではありませんか?」
「残念ながらサーシャさん。僕がここに来たのは縁談が目的ではありません」
「ええー、そうなのですか?残念です。父上!決めました!私はトージさんと結婚がしたいです!」
「はい?」
なんで?なんでそうなるの?出会ってまだ五分と経ってないのに、結婚だなんて。この娘はあれか?理性がないのか?格好良いとか思ったらすぐにそんなこと言っちゃう娘なのか?
「サーシャさん!急にそんなことを言われても困ります。トージさんは、ミケと結ばれる運命にあるのですです!」
お前は何を言ってるんだ。
「二人共落ち着こう。まず俺が了承していないだろう?」
「そんなの、父上の力でどうとでもなります!」
「私は、神様の力をお借りしてゴニョゴニョ」
どうするんだこの状況。どうにかして収めたい...。
「二人共」
その時、アストルフさんの渋く低い声が響いた。
「トージ殿は困っておりまする。サーシャよ、私の娘として恥ずかしいぞ、そのような我儘はまかり通らん。ミケ殿、恩人にこういうことを言うのは気が引けるが、今大事なのはもっと別の事ではないのですかな?」
ナイスフォロー!アストルフさん!惚れちまうぜ!!!
「アストルフさんの言う通りです。サーシャさん。俺は恐らくしばらくはこの王都に留まることになるので、また別の機会にいろいろ話しましょう。ミケはとりあえず引っ込んでろ」
「仕方ありませんわ。今日のところは引き下がりましょう」
「いいですですけど、なんか私の扱い酷くないですですか?」
サーシャさんから、まるで明日からガンガン来るようなことを言われた気もしたが、まあいいだろう。
まずは、謁見が最重要案件だ。
「それでは、私は王城に行ってまいります。明日中には連絡ができると思います。サーシャ、留守の間、くれぐれもな」
「分かりました」
「お気をつけて、アストルフさん。王女様も(小声)」
王女はここにいることを知られるとマズいらしいし(てかよく一度も声を出さずにいられたな)、俺も配慮をした。
さて、とりあえずはここで待っていよう。明日になれば進展もあるし、てか疲れたな。
「サーシャさん。寝られる部屋はありますか?」
「ええ!父上がいなくなったからって、そんなに大胆にならなくとも、私は最初からそのつもりでしたよ?」
「トージさん!私もご一緒するですです!」
「いや、単純に睡眠をとりたいだけなんだが...。」
「あら、トージさんたら勘違いするようなことを...。私はいつでも待ってますからね?夜這い」
「万が一にもないでしょう」
全然引き下がる気配なし...か。やれやれ、寝るのはもう少し後になりそうだな...。




