第四話「異世界転移でよくある老人が歴戦の人物」
ミケが馬車を連れてやって来る。まさか向こうから来るとは予想外だったな。
俺が殺られてこいつらが追ってくる可能性があるかもしれないのに。
まあラッキーだったと言うべきか。あの爺さんに話を聞けるしな。
「トージさーん!連れて来ちゃいましたけど大丈夫でしたかー?」
「ああ大丈夫だ!こっちはもう片付いた!」
俺がこの人数を片付けたのが珍しかったのか、老人が目を見開き口を開く。
「なんと、見事なることか」
見た感じ御者って感じじゃあねえな。スーツを着てる。
いや、馬車の中にいるのが身分の高い人物だと仮定すると、あの爺さんが着てるのはスーツじゃなく執事服。
てかスーツかどうかはどうでもいいんだが。あの爺さんは執事か。
「トージ殿...でしたかな?」
「ん?ああ、失礼。ちゃんと自己紹介をしなければなりませんね。俺の名は武田刀冶。そこにいるミケと共に旅をしております」
出会ったばかりの人物に神様やらなんやら話す必要はないだろう。今はそんなことよりも爺さんについて聞きたいからな。
「それはそれは、旅の御仁でございましたか。私の名は...」
爺さんに一瞬の沈黙が訪れる。
「どうしました?」
「いやはや失礼、正直なところを申しますと、私は今偽名を名乗ろうとしたのです。あなたを信頼できると見込んで本当の名を名乗るべきでしょうな。助けて頂いた御礼に。」
偽名だと?ということはこの爺さんは素性がバレるとマズイ人物なのか?正直名乗られても来たばっかりの俺には誰だか分からないだろうが。
「私の名前は、『ペルトル・アストルフ』に御座います」
「ええええええええええええええええええええええ!!!」
ミケがやけに驚いてるな。そんなに凄い人物なのだろうか。
「失礼、私はあなたが誰なのが存じません。もしよろしければ、教えてくれませんか?」
「おや、私もまだまだですな。この程度の知名度とは。」
「いやぁ、俺が無知なだけですよ」
「ご謙遜なさらなくとも。話が逸れてしまいましたな。私はこのリッティア王国の軍にて将軍の職に就いており、特殊な加護の一つである『英雄の加護』を所持しているからか、大将軍などと大それた名で呼ばれておりまする」
マジかよ、この爺さんがミケの言ってた特殊な加護持ちの一人、しかも大将軍。
でもなんでそんな人物が逃げてたんだ?
「あなたがその大将軍だとして、何故逃げていたのですか?あの程度の敵、圧倒的な戦闘力を持つあなたなら余裕で撃退できたでしょうに」
「仰る通りで御座います。しかしながら、私には彼らと交戦する許可が下りなかったものですから」
「許可、ですか...」
「ええ、トージ殿程の御仁ならばもうお気付きかもしれませぬが、この馬車の中におられるお方はとても高貴なお方で御座います。それ故、大将軍と呼ばれる私が護衛をしていたので御座います」
「そこから先は私が自ら話そう!」
耳心地の良い通った声が馬車の中から聞こえる。
女性だろうか、今の一言だけでも余程の人物であることがうかがえる。
自ら話してくれるのはありがたいな、出来過ぎているくらいだ。
女性は馬車から出て来ると、品のある佇まいで俺の方を向く。
若いな。それでいて気品が漂っている。貴族の娘か?
「助けて頂き、お礼を申し上げます。私はリッティア王国第一王女、エナ・リッティア。
アストルフ翁の事をご存じでないのであれば、私の事も既知ではないでしょう。
以後、お見知りおきを」
「お、王女様でいらっしゃいましたか...。これは、ご無礼を致しました」
「いえ、無礼なのは私の方、この状況で何も差し上げられないのは、王家の恥となりましょう」
「いえいえ滅相もない。俺は褒美が目的が動いたのではありませんから」
「あなたのような素晴らしい志の持ち主が、貴族共にもあればよいのですが...。まあその話は今は良いでしょう。あなたが知りたいのは、何故私がアストルフ翁に戦闘の許可を与えなかったか...ですか?」
「それも含みますが、俺が知りたいのはもっと広い範囲の事。ブランドン・ポルティージョが何故王女であるあなたを誘拐しようとしたのかということです」
「ほう、そこまで知っているのですか。なら話は早いですね。実は私は小父上をこの国から追放しようと考えていたのです。それに気付いた小父上は、私を隣国へ留学と称して飛ばそうとしたのです。そして移動中に私を暗殺するという計画を立てた。陛下は今魔族に対しての事で頭がいっぱいなので相談できず、私一人でこの難局を乗り越えようと考えました。そこで、移動中に大将軍であるアストルフ翁に護衛をしていただ紅と思い、協力を要請。アストルフ翁は快く承諾してくれましたが、王国軍に対して、小父上は陛下以上の影響力を持っています。アストルフ翁の立場を悪くするわけにもいかず、戦闘の許可を与えずにあくまで無事に私を送り届けることのみを頼んだのです。そして出発し、森に入ったところで案の定敵に遭遇。逃げていたところをあなた方に救われ、今に至るというわけです」
なるほどな、王国ってのも大変だな。だが、これをむしろ好機と見よう。
王女に加勢してポルティージョを追放することができれば、俺はこの国で名をあげることができる。
そしたら、俺の今考えてることも叶うってわけだ。
「話は分かりました、王女様。この武田刀冶。全身全霊を持って、ポルティージョ追放にご助力致しましょう!」
「!!!」
「ミケ!異論は認めないぞ!」
「はい!私は刀冶さんに賛成ですです!」
「よろしいのですかな?あなたはただの旅人に過ぎない。できることは少ないと思うのですが...」
「そう言う事なら問題ない。そこにいるミケはその翼を見て分かる通り天使だ。神の使いと共に旅をしてるってんならただの旅人じゃあねえだろ」
「天使!私、天使は初めてではないのですのよ。十歳の時、誕生日祝賀パーティで降臨して下さったのです」
「それは恐らくラフティ先輩ですですね!先輩は王族の開くパーティーが大好きなんですですよ!」
「話が逸れておりますぞ、お二人共。ミケ殿が天使と分かれば、国王とも謁見が叶うかもしれませぬな」
「じゃあまずは王都に行こう。王女様には、謁見の準備とほかの王族貴族をこちら側へ引き入れて頂きたいのですが」
「分かりました。小父上追放のため、必ず成功させて見せましょう」
いい流れになって来たぞ。ようやく王都まで行ける。道中何事もなければいいが...。
できれば暗殺部隊を味方にしたいな、部下共は弱いがボスはなかなかのものだった。
仲間になってくれれば、だいぶ心強い。
気が付けば夜になっていた。俺たちは森の中で野営をすることにした。




