第一話「異世界転移でよくある森スタート」
「よりにもよって森かよ」
「いいじゃないですですかー、森。ん~空気が美味しいなー」
「個人的には街スタートが良かったんだがな。欲を言えばいきなりの王都とか」
「それはこちら側の都合としては困るんですですよー。神様の予見によれば、森でイイコトが起こるらしいですですよ?戦争の勝利に近づける何かが」
「なぜあいつはそれを説明しないんだ」
そう、俺が今話をしているのは神ではない。神が俺のサポートとして寄越した天使だ。
喋り方に少し特徴があるが、俺の見立てではかなり強い。俺ほどじゃないが。
そういえば、先程俺は中学以来、久々の負けを味わった。相手は神だ。さすがに世界を統治するものなだけあって強かったな。機会があればまた戦いたいものだ。
<回想>
「なあ、俺と一つ、手合わせをしてくれないか?」
「え?な、なに言ってるんですかー。そんなのだめに決まってるじゃないですか~」
「でもあんた神だろ?それならそこそこ強いんじゃないか?わくわくすっぞ」
「何ですかそれ~。というより、そこそこどころじゃありませんよ。こう見えて私、すっごく強いんですからー!」
「そうか、なら十分だ。」
「キメ顔しないで下さいよお~、まあ構いませんけど、トージさんはいいんですか?素手で」
「あー、そういやここには棒も何にもないからな。あんた俺の部屋にある刀召喚できるか?」
「お安い御用です~」
そういって神は先程見た光から今度は俺の部屋にある刀を取り出した。それも三本も。
「どれを持ってきたらいいかわからなかったので、全部持ってきちゃいました~」
「お、おう」
渡された刀を見てみる。木刀と模擬刀と真剣だ。後は竹刀も持っているが、そういやアレは玄関に置きっ放しだったな。まあいいか。
「よし、これを使おう」
「え?それでいいんですか?こっちの方が武器として適しているのでは?」
「ん?ああ、別に殺し合いをするってわけじゃないし、全力であんたに挑みはするが、大怪我するリスクは少しでも減らしたいだろ。もっとも、模擬刀でも十分なダメージは与えられるけどな」
「そういうもんですか。これで準備はできましたね!」
「ああ!」
「それじゃあ、始めましょうか!!!」
――――――武田刀冶 V.S 神――――――
「っ!!!」
「どうされました?」
おいおいマジかよこいつ、かなり強いぞ。今の俺より強いやつを見るのは初めてだ。どう攻める?中段は剣道の試合でしか使わない。ようし、ここは...
「おや?面白い構えをされますね」
「面白いかどうかは分からんが、これが俺のベストな構えだ。」
刀を両手で持ち、腰の位置に構える。「脇構え」と呼ばれるこの構えは、俺が最も得意とする構えだ。
試合で使ってもいいが、この構えは実戦向きの構えだ。試合は個人的に中段の構えが最も向いている構えだと思ってる。だから、脇構えが得意だとしても試合には使わない。俺は試合において妥協をしないからな、より勝つ確率の高い構えを選ぶ。
「さあ、やろうぜ」
「お、おや?トージさんどうしました?先程と随分面持が違うようですけど...」
そう。俺が試合で脇構えを使わない理由はもう一つある。なぜかは分からないが、昔からこの構えで全力を出そうとすると、本能に忠実になってしまう癖があるからだ。そうなると相手が倒れるまで、最悪の場合倒れた後も襲ってしまう。そうなると剣道をやめなければならない可能性が生じるかもしれないからな。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「わああああああああああああああああああああああああああああああああ」
全力で神のもとへ駆け、そのまま上へ振り上げる。しかし神もなかなかの反応で、それを左に避けてかわすと、そのまま光の弾を放ってくる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「え!?斬れるんですか!?嘘ぉ!!!」
どうやら常人には今の弾を切ることはできないようだが、俺には関係ない。驚いた神に一瞬の硬直が生まれる。俺は神の腹に向けて思い切り突きをくらわす。
「ううっ!」
「まだまだぁ!」
一撃、二撃、三撃と追撃を止めない。この瞬間を逃す訳にはいかない。おそらくこの後こいつは全力を出す。そうなれば俺は負けるだろう。だが、そうなる前に仕留めてしまえばいい。だが...
「ええいっ!」
「ぐはあっ!」
神のグ―パンが俺の顔面にクリーンヒットする。さっきとは比べ物にならない痛みが俺を襲う。だがまだ負けたわけではない。
「なんのぉ!」
「神連打ぁ!」
「ズガガガガガガガガガガガガガガガ...」
神の先程のパンチが高速で飛んでくる。いくつか流せるがほとんどくらってしまう。まずい...このままでは......!
「とどめの一撃!神光線≪ゴッドビーム≫!」
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
こうして俺は、神に負けた。
目が覚めると俺の顔を女の子が覗かせている。超どストライク。ホームランにならない方がおかしい。
いやいや、そんなことは問題ではない。後頭部にあたるこの感触、もしや...!?
「あ、起きましたですですか?」
「膝枕だあああああああああああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああ」
なんという幸運。こんな美少女に膝枕をしてもらえるとは、高校の友達の谷口に言ったら呪われそうだ。
「いや、ちょっと待て、あんたは誰だ。俺は確か神と戦って負けてそれで...」
「はい!私はその後のトージさんのサポートを、神様から直々に仰せつかっているのですです!」
「てことは、天使か何かか?」
「よく分かりましたですですね~。その通り!私の名前は天使ミケ!神様に仕えている天使の中では、自分で言うのもなんですが、一番の実力者なのですです!」
「そんなすごいやつが、なぜ俺のサポートを?」
「それはトージさんが、神様にとってひっじょ~うに、特別な存在だからですです!」
「え?なんだって?ヴェ○タースがどうしたって?」
「今のをどう聞いたらそんな意味不明の解釈になるんですですかー!」
失敬な、俺の世界じゃ当然のリアクションとして受け取られるはずだ、多分。
「冗談は置いといて、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「はい!その点に関してはご心配なくなのですです!神様からこれを預かっているのですです!」
「ん?なんだこれ?見覚えあるってか...おもっきしタブレットPCじゃねーか!」
「これそういう名前なんですですね~」
「しかもこれ俺のじゃねーか!神の野郎勝手に持ち出しやがったな!」
「神様から伝言です。その中にある一番新しい動画を見てくれだそうです。後、女子高生ものから人妻ものまで、幅広いですね。と、仰ってましたですです!どういう意味ですですか?」
「性癖までバレたし!もう嫌!お嫁に行けない!」
「トージさんは男性なのですですよね?」
「ジョークだよジョーク。察してくれ」
「んー、難しいですですね!そちらの世界のジョークは!」
ああ、まともに会話したい...。こういう時、高校の友達の谷口だったら、「何言ってんだ。そんなら俺のとこに来い!(ゲス顔)」ていう反応を示してくれたというのに。悲しいものだ。
「仕方ないよな、そこんところは諦めるしか...」
「どうしましたですですか?」
「いや、何でもないよ」
現状はこんな可愛い娘と一緒にいられるだけで十分だ。しかも、これからサポートもしてくれるという。
これからが楽しみだぜ!
おっと、話が逸れてしまった。なんだっけ?動画を見ろだっけか。おっ、これだな。
『パンパカパーン!おーはようございますトージさん!よく寝られましたか?まずは私がその場にいられない非礼をお許しください。神にもいろいろあるのです!忙しいんですよね~、神』
うぜえ、いちいちドヤ顔してきやがる。
『それはそうと、今回のトージさんへの指示...と言うと語弊が生じますね~。いや~、普段から神というのは指示しかしないものなので、つい...』
あれ?こいつこんなうざいキャラだったっけ。
『神からのお願いですね!はい!今回トージさんには、これから転生する大陸にある国の王都へ向かっていただきます!以上です!頑張ってくださーい!』
え?これだけ...?実に抽象的、さすが神というかなんというか。
「もう終わりなのか?」
「そうみたいですですねー」
「もっとこう...具体的な何か、ないのか?こうして欲しいとかああして欲しいとか」
「神様は戦争に勝てさえすればそれでいいと考えているので、そこら辺は自由ですです!もちろん、神様に相談したいときは私を通して相談できますですですよ?」
「そういうものなのか...」
「そういうものなのですです♪」
「まあいい、それじゃあここにいてもらちが明かないだろ。さっさと異世界に行こうぜ」
「かしこまりましたのですですー!じゃあ、私の腕に掴まって下さい!」
「え?姿○ましでもするのか?」
「なんですか?それ。とにかく、はい!掴んだ掴んだ!」
「お、おう」
戸惑いながらもミケの腕を掴む。すると...
「......あれ?」
気が付くと、俺は森の中にいた。
ミケはニケをもとにして付けてみました。特に深い意味はありません。




