プロローグ2
目が覚める。
目の前にはいつもと変わらない天井、横には目覚まし時計、時刻はまだ4時だ。
俺は昨日の疲れによる重い体を無理やり起こす。
昨日の試合は実につまらなかった。
俺が人生で敗北を喫したのは二人。親父と爺さんだ。小学生だった頃までは、どんな作戦を使ったとしてもあの二人に勝つことはできなかった。でもそれも中学生になると少しずつ差が埋まり始め、中学三年になる頃には、親父ですらろくに勝ったことのない爺さんを相手に多少の余裕が生まれるほどであった。
だが俺は一切の妥協をしなかった。
『試合は常に真剣に』
これが剣道をやる上での、我が家の絶対的家訓であった。
「ふぁ~あ」
まだ寝たりない。だがそういう訳にもいかないので、渋々布団から出る。
俺には朝起きて必ずしなければならないことがある。
朝練だ。
俺は毎日約一時間、ひたすら素振りをすることにしている。
素振りこそ、最高の一撃を放つための最短の道だと信じているからだ。
「ブンッブンッブンッ」
ひたすら、地道に、着実に強くなる。俺はいつか出会えると信じている俺でも勝てないような強敵の為に、一秒も無駄せずに木刀を振る。
この木刀には鉄心が入っている。だから普通の木刀よりも重いが、日本刀は1㎏は超えるので、もっと重さが欲しいくらいだ。
「ピピピピピピ」
スマートフォンのアラームが鳴る。
「もう一時間か...」
素振りは良い、無心になれる。一心不乱に振り続ければ、悩みごとも忘れることができる。
朝練を終えた後、することは一つ。
風呂だ。
汗をかいた体をさっぱりさせるには風呂が一番良い。気持ちも落ち着く。
俺は脱衣所で汗びっしょりな服を脱ぎ、浴室に入る。
「ガラララララッ」
俺の眼前に広がるのは、湯気の立ち込める癒しの空間―-―-―-
ではなかった。
そこには、真っ白な光に包まれた何もない空間が広がっていた。
「へっ?」
何がどうなってる?ここは浴室のはずだ。だがおかしい、本来見えるはずの浴槽とシャワーがない。
シャンプーも、リンスも、石鹸も、ケ○リンも.........ない!
「ん?だれだ...?」
遠くから何かが近づいてくる。光?いや大きい。人か?いや翼が生えてる、鳥?取りにしては大きすぎる気がするが。
「ああ~止まれない~~~ストップストップー!」
「えっ!?いやっちょ待て、え?女の子?嘘だろ、もふぁあ!」
次の瞬間、柔らかい何かがが俺の顔にぶつかる。
「なんだ...これ......」
2、3度揉んでみる。ん?待てよ...この感触は、もしや...!?
「ど、どこ触ってるんですかー!!!」
「ごふぁ!」
謎の女の子のグ―パンが俺の顔面に直撃する。高校の友達の谷口に言ったら羨ましがられるだろう。
いやいや、そんなことより大事なことがある。
「お前は誰で、ここはどこなんだ。本来なら俺の家の浴室のはずだ」
「あっ、そうですね、まずはその説明からしなきゃなんですが...」
「どうした?」
「いや、あのですね、一応私の性別は女なので、その、裸でいられると目のやり場に困るというかなんというかゴニョゴニョ」
「え?あっ!」
下を見ると、先ほどの接触によってか少しばかり大きくなっている俺の元気なゾウさんが顔を覗かせていた。
「いや、ちょっと待て、服なんてあるわけないだろ!出口もいつの間にか消えてるし。」
「それなら問題はありません、今用意しますので~」
そう言い謎の女が両手を上げると、そこから光が溢れ出し、やがて服に変わった。
「はいどうぞ」
「っ!こ、これ...」
「はいっ!あなたの部屋から適当なものを召喚させました!」
「どうなってるんだ?現状が全く理解できん...」
「んー、何から説明すればいいですかね~」
「とりあえず、お前の素性と、ここがどこか、なぜおれがここに俺がいるのかを教えてくれ」
冷静に振る舞っているが、内心ものすごい焦りを感じている。
夢であって欲しいが、さっき殴られた痛みがまだ残っているところを考えると、夢じゃないみたいだし。
とりあえず服着よう、服。
「それでは、まず私の説明からしましょう!私の名前はありません!」
「えっ?」
「私は神です!もっとも、昔は名前があったのですが、神になるには名前を捨てなければいけないので、ポイッと捨てちゃいました!」
「あんたが神だと...!?」
「はい、ちなみにここは『神の間』と呼ばれる場所で、あなたにはあるお願いをするために私がここに呼びました!」
「お願い?」
何をお願いされるんだ?まさか世界救えとか言い出すんじゃないだろうな。
「私の治める世界で起こっている戦争で、人間に勝利をもたらしてください!」
「............は?」
「どうか、どうかお願いします!人間を助けてほしいんです!」
「いやいや待てよ、それじゃまるで人間が、人間とは違う別の何かと戦っているみたいな、そういう言い方じゃないか」
「はい...」
「はい...って、何と戦ってるんだ、宇宙人か?猿か?プ○デターか?」
「魔族です!」
「いやいやいやいや訳分かんないって、だいたい魔族なんてものが、この世に存在する訳...」
「あなたのいる世界ではありません。私の治める別の世界です」
「なんだよそれ、異世界ってことか?」
全然理解できん。こいつは何を言ってるんだ。だがさっき服を出したとき、確かに訳の分からない力を使ってた、そんなのこの世界じゃ当然見られない。てことはこいつはこの世界の人間(かどうかも分からないが、翼生えてるし)じゃないってことだ。つまりこいつの世界、異世界で起こっている人と魔族の戦争に参加しろってことか?マジで訳わかんねえよ。
「なあ、なんであんたは俺にそんな大それたことを頼むんだ?もっと他に適任がいるんじゃないか?」
「それはですね、転移というのは、適性がないとダメなんですね。その点トージさん!あなたの転移に対する適性はパーフェクト!おまけに何でも持って来ることもできますよ」
「てことは、俺が家を持ってきたいって言ったら持って来れるのか?」
「モチのロンです!」
「マジかよ...」
「で、どうですか?私の願い、叶えて下さいますか?」
異世界か...考えたこともなかったが、そっちなら強いやつに出会えるかもしれない。この世界に俺より強いやつは見つからなかったし、面白そうだな...
「よし、決めた!その戦争、俺が勝たしてやるよ!」
「ほ、本当ですかー!」
「ああ、異世界で強いやつと戦って、それで死ねるなら本望だ!」
「えっ!し、死なないででくださいね?あなたは私の切り札と言っても過言ではないんですから」
「任せとけよ!」
こうして俺は、神の為に異世界に転移することにした