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第6話 逃走の果てに

新キャラ登場します……します……。


 あれからどれくらい走ったのだろう。運動も出来ない上にここ数年まともにやっていなかったというのに、気がつけば日もすっかり落ちきり、周囲の景色も人々の生活等全く垣間見えないような鬱蒼とした木々に変わっていた。


 足の疲労感から、明日は筋肉痛だろうな、等と考えていたが、自分の置かれた状況を冷静に省みると、僕はどんどん血の気が引いていくのを感じた。


 まず、空腹感と喉の渇き。これに関してはそこまで問題ではない。一食分くらい、水と食事を抜いたところで人は死にはしない。もっと根本的な問題。僕は今、『どこにいる』んだ?


 「ここ、どこだろう……?」


 改めて周囲を確認する。見渡す限り、木、木、木。加えて陽が落ちきった今の時間では心許ない月の光だけが光源であり、視界は最悪。更には、僕はこの森、ひいてはこの世界についての土地勘も、地図も持ち合わせていない上、あったとしても僕は方向音痴。恐らく分かりはしなかっただろう。


 帰れるのか? 誰か助けに来てくれるのか? そんな不安が、僕の心を一瞬にして支配する。


 「ひぃっ!!」


 そんなことを考えた矢先だった。バサバサと聞く限り大型のものと思われる鳥類の羽音が森に木霊し、心臓が破裂するような思いをした僕はその場に縮こまってしまっていた。見知らぬ森に、日が沈んでから、その場でじっとしているのが辛かったという勝手極まりない理由で勝手に森に迷い込み、挙句このザマか。あまりの情けなさに僕は自虐の笑みを涙ぐみながら浮かべることしか出来ない。


 「は、ははは……。ホント……何しに来たんだろう……ぼく……」


 何故ゼニアグラスは僕を選んだのだろうか。僕よりも、世界の危機を救う、なんてことであればきっと匡也くんの方が適任だったと考えざるを得ない。僕のような無能でも選ばれるのだから、彼が選ばれない理由がない。そんなことを、この期に及んで尚考えてしまう。たられば話など、この場では何の意味も為さないというのに。


 「誰か……助けて……」


 無能だから、縋ることしか出来ない。誰かがいてくれなければ、僕は呼吸することさえ出来ない。自分の意志も貫き通せず、自分の足で立つことも出来ない。情けなさで死んでしまいたいのに、ただ死ぬのは死ぬほど怖い。そんな惰弱で、脆弱で、矛盾していて、どうしようもない人間が真月介斗という人間なのだ。欠陥だらけで何もない、生きる価値の無い屑、それが僕だ。


 そんな、今まで生きてきて幾度と無く繰り返してきた自虐ではあったが、同時に祈りでもあった声。それを呟いた、まさにその時だった。


 何か、聞こえる――――?


 これは、足音だろうか? 今はまだ弱々しいが、こちらへ向かってきているのか、段々と強まってきているし、複数聞こえるような気がする。それを裏付けるかのように、段々と笑い声のようなものも聞こえてくる。野太いそれは、男のものだろう。大体四~五人程が、愉快そうに笑いながら歩いて近づいてきているようだった。そんな状況に置かれ、僕の取った行動は――――。


 「な、なんで僕は隠れてるんだよ……」


 近くの茂みに蹲り、隠れることにした。


 我ながら、何をやっているのかと、自分の正気を疑いたくなる。こんな夜気の深まった、普通ならば足を踏み入れたくもなくなる様な森の中に入り込み、呑気に談笑なんかできるほど、夜の森に慣れた人物たち。そんな人達に上手く付いて行くことができれば、僕もこの森から無事に出ることができるだろう。そんな千載一遇のチャンスに、しかし僕は別の可能性を考えてしまっていた。


 『最近盗賊の活動が活発になってきている』


 そんなユーリさんの一言が、脳裏を過ぎっていた。確かに、今この森に人がいるなど、通常ならば考えにくい。冷静になって考えてみれば、僕のように『迷ってしまった』人間でもなければ、この時間この森の中で行動しているというのは、少々でも怪しむべきだと思える。


 だから、一旦様子を見よう。様子を見て、安全そうな人達だと判断したら、土下座してでも何をしてでも森を出るまでは同行させてもらおう。もしそうでなければ――――。


 そんな事を考える暇もなく、男たちの会話が耳に届いてしまうほどの距離まで、彼らは接近してきていた。


 「しっかし、まぁた儲けましたねぇ兄貴ィ」

「おうよ。へへっ、笑いが止まらんぜ」

「すぐそこの村、コル村でしたっけ? 王都の近郊にあるからか、思いの外貯めこんでましたしね。それに意外と若くてイイ女も居ましたし」


 下品な笑い声を上げながら、四人の男たちのはっきりとした会話が聞こえてくる。どうやら、僕の悪い方の読みが的中したらしい。今回ばかりは僕の悪い癖が僕の命を救ってくれそうだった。ならばあと少し、あと少しだけ、彼らが過ぎ去っていくのを待とう。


 「お前は盛り過ぎなんだよ。にしても、王都からさして離れてないってぇのに、冒険者の一人も送り込んでこねぇとはなぁ」

「ま、なんだっていいじゃないすか。稼げる時に稼ぐ。金も、命も、女も奪い放題ヤリたい放題。それでいいじゃないっすか」

「だな。ギャハハハ」

 下卑た笑い声を上げて、男たちの足音がどんどん遠ざかっていく。すぐそこまで足音が聞こえてきた時には心臓の鼓動の音でバレてしまうのではないかと思ってしまうほど鼓動が激しくてどうにかなりそうだったが、一先ず脅威を乗り越えたことに僕は安堵の息を漏らしていた。


 しかし、やはり盗賊なのか、聞き過ごせない言葉がいくつも出てきた。金を盗むだの、命を取るだの、女は犯すだの。人としてのモラルが欠如している。


 「女の子とはラブラブが一番に決まってるだろ。無理矢理にしたって、ちゃんと女の子に合意を得た上でのあまあまな感じで……いけないいけない」


 安心したせいか、妙なテンションに変調してしまった事に遅れて気付き、頭を振って僕は早々に盗賊達の進んでいく方向とは逆の方向へと進んでいこうとする。もちろん、盗賊達から逃げおおせるためだ。しかし――――。


 パキッ。


 本当に運が悪かった。そうとしか言いようがなかった。

 

 「誰だッ!!??」


 当然、今の音で盗賊に気付かれる。だから僕は、言うが早いか、本日二度目となる全力疾走に身を投じた。今度は、命懸けで、だ。


 「ガキィ!? おい!!」

「い、いや、ちゃんと『見てた』っすよ兄貴ィ!! 全然見えなかったのに何で……」

「チッ! んなことより、兄貴!! 追いかけましょう!! アイツ、もしかしたら俺達の話を聞いてたかもしれねぇ!!!!」

「たりめぇだ!! とっとと追え!! ぶっ殺せ!!」


 背後でそんな話が聞こえてきて、一斉に盗賊達も走りだす。追い付かれれば死ぬ、死神の足音がいくつも追いかけてくる。あぁ、ゲームならもう少しでマップが切り替わって、撒いたか、なんて台詞と一緒に盗賊達から逃げ切れるんだろう。だが、これは現実だ。マップは切り替わらないし、彼らも足を止めたりはしない。そう、これは現実なのだから――――。


 「現実?」


 その言葉に、僕はふと違和感を覚えた。僕は今まで、布団に包まるか、ゲームをするかしか無かった人間だ。それがいきなり別の世界へ呼びだされて、世界を救えだの、盗賊に追われるだの、散々な目にあっている。


 これが、僕の現実――――?


 「はは、ハハハハハハハ!!」

 そう疑問に思った瞬間、僕は狂ったように笑い出すことしか出来なかった。


 そうさ、僕が世界なんて救えるわけがないんだ。だから『英雄候補』なんてものに選ばれる訳もないんだ。だから、これは全部夢。よくある話だ。自分が殺されかけて追い掛け回される夢なんて言うものは。だからこれもその一つ。ありふれた夢の、その中の一つに過ぎない。だから、夢が覚めれば、またいつものようにベッドの上で目が覚めて、またいつものように引きこもってゲームをする。そんな日々が待っていて、だから――――。



 だから、何だというのだろう――――?




 不意に、足に力が入らなくなった。疲労はあるものの、これ以上動けないという程ではない。まして命が懸かっているのだからなおさらだ。だけど、動かない。おまけに腹の辺りがやたらと熱いし、瞼もなんだか重くなってきた。盛大に転び、仰向けに寝てしまった僕の腹に手が当たる。ぬるりとした感触がしたので、鉄のように固く重くなった腕を動かして、手を顔の前まで持ってくる。そこには、まるでペンキでもぶちまけたかのように手全体を覆うようにして赤黒い粘性のある液体が熱を急速に失いながらまとわりついていた。そういえば、ヒュン、なんて音を、直前に聞いたかもしれないが。


 「残念。もうちょっとで逃げ切れたかもしんねぇのになぁ」


 視界の端に、盗賊のリーダー格らしき男の顔が映る。その手にはボウガンらしき形状の武器。更に僕を取り囲むようにして残る三人の男たちが僕を取り囲むように立ち、僕を見下ろしてきた。


 「おい、どうだ?」

「……やっぱりだ。こいつ、俺の『探知』に引っかからねぇよ兄貴」

「なるほどなぁ。そいつは珍しい。奴隷商の奴らに売り渡せばもしかしたら稼げるかもしれねぇが……」


 意識が朦朧としていく中、盗賊達が何か言っている。けれど、もう眼を開けているのも辛くなってきた。今まで感じたことのない程の眠気に、抗う術を持たず、僕の意識は闇に落ちていく。


 あぁ、これが死ぬっていうことなんだ―――――。


 思っていたよりも、安らかなものなんだな、等と考えながら、向けられる刃物を霞む視界に捉えて――――。


 「ん? なっ!? ……いっ!! なん……!!」

「し……!!?? ……んで……に!!!!」


 遠くで木霊するように断片的に届く声。その顔が驚愕に染まる様が、僕の生涯最後に見る光景となったと、この時は本気でそう思っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「ん……」

 ぼやけた頭で、僕は眼を覚ました。


 瞼を開ければ、そこに広がるのは田舎でも中々お目にかかれない程の高さと太さを持つ木々の森。夜の帳を照らすのは天蓋に映る月の光のみであり、梟の鳴き声と、何かの虫のものと思われる鳴き声以外は、静寂が森を支配していた。


 はてさて、僕は一体ここで何をしていたのだろうか。寝起きであまり血も巡っていない脳に無理に火を入れようとするが、中々上手く行かず、思考は全て空回りしてしまう。仕方がないのでもう少しだけ自然に頭がすっきりするのを待とうとした、まさにその時だった。



 「へー。意外と早く起きるもんなんだな」



 そんな声が、不意に背後から聞こえてきた。僕は思わずビクッと体を跳ね上げ、恐る恐る振り返ってみた。そこにいたのは――――。


 「お目覚めか? って言っても、聞こえてないか」


 そこには、僕のよく知る生物がいた。いや、果たしてこれを生物と分類していいのだろうか。空想上の存在であり、様々な形があるとされながら、基本的にはうねる肉の蔓をいくつも持つとされる、あの生物。

 

所謂触手が、僕の目の前にいた――――。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

触手君、来ましたねぇ……。彼のキャラ付けは実は結構苦労した、というか悩みました。

次の話は彼とのお話回です!


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