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第5話 無能の烙印

投稿させていただきます!

今回も若干説明回を含んでます

 「そこの椅子に掛けて下さい。すぐに済みますので」


 彼女の後をついていって、通されたのは小さな個室だった。椅子が二つあるから、ひょっとしたら応接室も兼ねているのかもしれない。


 ちらりと見えたガンマンが出てきそうな内装の酒場の店内とは打って変わり、中はホテルを思わせるようなほんのりと赤い壁が、蝋燭の火によって照らされ、反射した光が趣きのある部屋の色を演出していた。


 僕は引き出しを開けて何かを探しているらしい彼女に促されるまま、恐る恐る椅子に腰掛けて、メリゼさんの背中に声を掛けた。


 「あのー……メリゼさん……ですよね?」

「気安く名前で呼ばないで下さい。馴れ馴れしい上に気持ち悪いです」


 スッパリと、拒絶されてしまった。どうやら僕は彼女に声をかけるだけで彼女の攻性防壁に引っかかり、心に甚大なダメージを負わなければならないらしい。


 「ご、ごめんなさい……。ただその……これから何をされるのかなぁと思いましてですね……」

「『鑑定』です」

「は、はぁ……」


 それだけ言うと、少女は目当ての物を探し当てたのか、その手に赤茶けたスクロールと思しきものを持って僕の前まで歩み寄ってくる。


 「すぐ終わりますので、じっとしててください。ついでに息もしないでくれると助かります。永久に」

「あ、あの……、僕、何か失礼なことを……?」

「別に。ただ話しかけられると個人的に不愉快ですので、あまり話しかけないでいただけると有り難いですね」

「ご、ごめんなさい……」

「本当です。お姉様の頼みでもなければ私がこうして時間を割くなどありえません。どうせすぐ居なくなるくせに……」

「えっ?」


 それは、一体どういう意味だったのだろうか。だがメリゼさんはスクロールを開いて僕の前まで自分の椅子を持ってくると、なんでもありません、と強い口調で一蹴し、僕の頭に左手を、開いたスクロールに右手を翳した。


 「では、じっとしていて下さい。すぐに済ませます」


 淡白にそう言って、何事か早口で呟くと、僕に翳された左手が淡く青色に発光を始め、一瞬遅れるようにして右手も同じ色の発光が始まった。

だが、左手の光はすぐに収まり、メリゼさんもそれに合わせて静かに瞼を開いた。


 「はいお疲れ様でした。カウンターでお姉様と一緒に待っていて下さい」


 それだけ言うと、僕に興味を無くしたのか、未だに発光を続けている右手に集中していた。


 「ありがとう、ございました……?」


 あまりに唐突過ぎて思考が追い付かず、何がなんだかわからないまま僕は部屋を後にした。

けれど、最後の一言がどうしても気になった僕は、その言葉を知らず反芻していた。


 「すぐに居なくなる、か……」

 足りない頭で考えてはみるものの、結局その言葉の意味を僕が理解できることはなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「や、お帰り」


 先程のフロアまで戻ると、ユーリさんが木製の樽のような容器で何かしらを飲んでいた。いやまぁ、酒場という場所を考えればお酒を飲んでいるのだろうが。


 そして、ユーリさんの姿を確認すると同時に、先程は慌ただしくて気付かなかったが、飲めや歌えやで騒いでいた冒険者達と思われる強面の男たちの居心地の悪い視線が向けられている事に気付き、いち早くそれらから眼を逸らし、逃げるようにユーリさんの隣に座った。


 「どうだった?」

「どう、と言われましても……まず僕自身、何をしに行ったのかわかってませんし……」


 僕の言葉に、思い出したようにあぁ、と短く呟くと、コップを傾けた。


 「そうだった、説明を忘れていたな。ふむ、ではかいつまんで説明をしようか。まず、この場は『ギルド』の支部の一つであることは分かってもらえたと思う。ファズグランにはギルドの本部があるといったが、それとは別の、通常冒険者達が利用する場だ。普通の酒場としても機能しているが、まぁこっちは深く考えないでいい。単なる飲食の為の施設だ」

「はぁ……」

「そして、どんな仕事をするためにも身分を届け出る必要があるわけだが、その身分の代わりとなるのが『鑑定』スキルから得られるステータスになるわけだ。つまるところ、キミは採用試験を受けに行ったようなもの、というわけだ」


 いきなりそんなことを言われて、僕は途端に青ざめる。


 「ちょ、そんな大事なことさせられてたなんて聞いてませんよ!!」

「はは、そんなに気負うことはないよ。確かに、採用試験とは言ったが、そんな大層なものではないよ。冒険者になる上で必要になる身分なんて、精々が『冒険者として一定の功績を見込めるか否か』、つまり成長の見込みがある程度あるかどうか、そのくらいだ。滅多なことでは不合格、なんてことにはならないし気負ったところでどうしようもないのが現実だ。待つしか無いだろうさ。さて、待ってる間何もしないというのも手持ち無沙汰だし、まだこのギルドのシステムについて何も話していなかっただろう? メリゼが結果を出すまでに、軽く説明でもしておこうか」


 言って、ユーリさんは腕につけた鉄製のバングルを取り外し、すぐ側のカウンターに置いた。バングルは幅が二センチほど、特にこれといった装飾や彫り込みはない、女性がおしゃれとして付けるにはやや無骨なデザインだ。そんなバングルの中心部には、美しい紫色に輝く宝石のような石が、キラキラと輝いていた。


 「綺麗な石ですね……これは?」

「ああ、これは『証明石』という、名前の通り冒険者にとって自分の身分証明に使える貴重な石だ。冒険者達は皆これを持っている。これは魔力には一人一人全く異なる波を出す性質を利用するためのもので、魔力を一定量保管することが出来る石なんだ」

「魔力を保管……?」


 魔力の貯蔵庫のようなものだろうか? だとしたら、かなり有用そうな石だが、しかしユーリさんはけろっとしながら首を横に振った。

「あぁ、確かにその通りではあるが、サイズの問題で大した量は保管できないんだ。少なくとも、一番弱い魔法を発動する程度にも保管しておくことは出来ないよ」

「そう上手くはいかないものなんですね……」

「あぁ。だが、それにしてもこの石は有用だ。これだけで二つの機能を備えているからな」

「二つ、ですか?」


 ユーリさんは鷹揚に頷くと、指を立てながら一つずつ解説し始める。


 「一つは、身分証明だ。これはさっき言った個人による魔力の波を、個人のステータスや功績なんかとともにギルドに保存しておき、石に含まれている魔力の波を読み込む。これで、波が一致するかどうかを見て、本人かどうかの特定と、それがどの程度の冒険者かを知ることが出来るんだ」

「なるほど……生体認証みたいなものってことですね……」

「セ、セイ……ニ……? ちょっと私には分からないが、キミが理解してくれたのならいいんだ。それで、次の機能は救難信号だ。この石は砕くと保管されている魔力の波を強めて放出する機能が付いているんだ。それによって、誰が危機に陥っているのかが分かるようになっている。ただし、信号を出した場所が特定できないことと、魔力が妨害、あるいは無効化されるような場所では掻き消えてしまうから、そう言った場所では使えないという欠点を持つがな」

「なるほど……ラジオみたいなものなんですね」

「ら、らじお?」


 ユーリさんは首を傾げて僕の言葉を理解しようとしているようだった。


 しかし、確かにそれは便利な石だ。冒険者の証明書と、救難信号用の魔力放出能力。それを発見した人と、このシステムを開発した人は、世紀の天才なのだろうと、素人目に見ても思えるレベルだ。


 そんなことを考えながら『証明石』を見ていると、僕はあることに気がついて、ユーリさんにそのことを尋ねようとした、その時だった。


 「いようユーリ。なんだ? 面白そうなもん連れてんじゃねぇか」


 そんな内容で、渋みのある男性の声が、僕らに向けて放たれていた。見れば、精悍な体つきで黒い髪をオールバックに流している、中年の男性が僕らの元へと歩み寄ってきていた。男性は面白いものを見つけたと言わんばかりに目を細めながら僕をまじまじと見下ろし、その視線に僕は思わず萎縮してしまう。口ぶりからして、ユーリさんとは面識があるようだが……。


 「バルザ、カイトくんが怯えている。あまり人をジロジロと見るものではないぞ」


 ユーリさんの呆れたような声によって、バルザと呼ばれた男性からの視線が僕から外れ、ほっと一息吐いた。


 「いぃやぁ、悪い悪い。珍しく仲良さそうにしてるみたいだったからよ。気になっちまった。坊主も悪かったな」


 ヘラヘラと笑いながら、全く気負った様子なく、バルザさんは僕にその逞しい手を差し出してくる。


 「俺はバルザってんだ。コイツとは、昔ちょいと組んでてな。そのよしみだ」

「あ、か、カイトって言います。真月介斗」

「分かっているとは思うが、彼は『英雄候補』だ」

「おう、お前が連れてるって時点で、ある程度予想はしてたさ。よろしくな坊主」


 手を握られた力が思いのほか強く、痛みに顔を顰めるのも申し訳ないので苦笑で誤魔化す。やがて手を離したバルザさんはユーリさんの方を向いた。


 「それで? 何の話してたんだよ?」

「あぁ、『証明石』の使い方についてな」

「へー……俺はてっきり今後について相談してたのかと……」

「今後? 何のことだ?」

「式とか?」


 メギッ、と恐らく人体から発されてはいけないような音が、バルザさんの足元から響き、蹲るバルザさんを見てユーリさんが容赦なく脛を蹴り飛ばしたと、即座に理解した。これには、僕のみならず、ギルド内に設けられたテーブルを囲む冒険者達も、苦笑いしていたり、顔を青くしていたりと、様々な反応を見せていた。ユーリさんの顔を見ると、割りと本気でお怒りになられているらしく、この件から意識を逸らすためにも、僕は先程からしようと思っていた質問をユーリさんにすることにした。

 

 「あ、あのユーリさん!」

「ん? 何かなカイトくん」

「その『証明石』なんですけど、皆さん色が違いますよね? これってどういう意味なんですか?」


 そう訊ねながら、他の冒険者達の失礼にならない程度にすっと周囲を見渡す。やはり、全ての冒険者が同じように『証明石』を埋め込んだバングルをしていたが、どれも緑色だったり青色だったり黄色だったりと様々だった。ユーリさんと同じ紫色の石は他には居なかったが。そんな言葉に、ユーリさんはほう、と感心したようなつぶやきを漏らした。だが、それよりも先に反応したのはバルザさんだった。顔だけは涼しげに、ただ足元で蹴られた脛を抱えながら。


 「意外と目はいいみたいじゃねぇか。良いぞ坊主。したら俺が教えてやろう。よく聞け」


 僕としては回復するまで安静にしてたほうが良いんじゃないだろうかと思ったんだが、ユーリさんがやらせてやれと目で合図してきたので、そのままバルザさんにお願いすることにした。


 「冒険者は功績やら実力やらに合わせて格付けがされる。パッと見てそいつがどの程度の実力を持ってんのかって指標にもなるが、一番の理由は受けられるクエストの難易度だな。素人に最難関クエストなんか受けさせりゃあ、どうなるか分かるだろ?」

「……想像したくありませんね……」

「奇遇だな。俺もさ」


 言いながら、完全に回復したのかバルザさんはすっくと立ち上がる。立ち上がり方からして、実はそれほどダメージを負っていなかったんじゃなかろうかとも思ったが、痛々しく赤く染まる脛を見て、そんな疑念は奥深くに沈み込んだ。


 「それじゃあ、順番とかってどうなってるんです?」

「そいつは……」


 バルザさんが僕の質問に応えようとしてくれた時、バン! と凄まじい音を立てて、カウンター奥の扉が開き、そこからメリゼさんが姿を表した。それまで喧騒に包まれていた酒場は突然の衝撃音に何事かと静まり返り、全員がメリゼさんを注視していた。


 メリゼさんはそのまま僕らの元へズンズンと威圧するように歩み寄り、そして勢い良く、先程の、恐らく僕の『鑑定』の結果が出ているであろうスクロールを僕の前に突き出した。


 その行動の意味が読み取れず、僕が何か口にしようとした、その時だった。


 「お姉様、人類の平均成長上限はいくつまででしょうか?」


 有無を言わさないような、力の篭った低い声。その威圧感に半ば気圧されたように、ユーリさんも珍しく慌てた様子で受け応えた。


 「い、一般的には二百から三百。英雄級の器なら七百程度と言われているな……」

「平均アビリティ数は?」

「通常アビリティならば四種程度。バッドアビリティは一種か二種程度だが……」

「では、十七歳時点での平均レベルはいくつでしょうか?」

「一体どうしたと言うんだ……。まちまちだが、大体五十程度と言われているな。鍛えていれば七十か八十といったところか」

「流石はお姉様。全て正解です」

「メリゼ、一体どうしたんだ?」


 ユーリさんの言葉が届いていないかのように、メリゼさんは肩を震わせると、キッ、と僕を睨みつけて、冷たく語りだした。


 「あなたの現在のステータスは、レベル七に成長上限が十。基本値は全てがステージⅠのランクC、つまりは最底辺に毛が生えた程度ですね。アビリティはわかっているのは『睡眠適正』がSランク。あぁよかったですねぇ、これなら何処でだって十分な休息を取れます。冒険者にとっては重宝するアビリティでしょうね。それに、『全統神の知慧』。名前から察して、ゼニアグラス様から賜ったアビリティでしょう。えぇ、認めます。貴方は紛れも無く『英雄候補』です。ですが、貴方、バッドアビリティってご存知ですか? 持ってしまった以上、一生関わり続けなければいけない、生物にとっての致命的な欠点、弱点。それがバッドアビリティです。いいですか? 『欠点』なんです。そんなものが、『成長不良』『運動音痴』『成度下限』『武装不可』と、この他含めて計十種類以上。オマケに、あぁ、やっぱり『童貞』だったんですねぇ」


 最後に、メリゼさんは僕に死刑宣告でもするかのように、スクロールを勢い良く叩いて、冷たく言い放った。


 

 「あなた、ここに昼寝にでもしに来たんですか?」



 しん、と静まり返る酒場。だが、それも束の間で、直後に巻き起こったのは冒険者たちの野太い大爆笑だった。


 「どわははははははははは!!!!」

「バッドアビリティ十種以上って!! 聞いたこともねぇよ!! ある意味奇跡じゃねぇかよ!! ギャハハハハハ!!」

「しかも童貞かその歳で!! 傑作だ、千年に一度の逸材だな!!」

「よっ!! 『英雄候補』殿っ!! まずは女でも引っ掛けてみたらどうだ!? わははははは!!」


 嘲笑の渦に飲み込まれて、僕の意識が暗いところに沈んでいくような感覚を覚える。そうだ、一体僕は何を高望みしていたのだろうか。ゼニアグラスは、素質があるといった。生きることがどういうことか、探すチャンスをくれた。そうして、僕は生きることがどういうことか、それを知ることが出来た。



 僕が生きる意味は、この世界にも存在しないのだと――――――。



 喪失感、絶望感、そう言った重く苦々しい負の感情がごちゃまぜになり、訳もわからずその場から逃げるように走りだしていた。


 「カイトくん!!!!」


 ユーリさんが追いかけようとしてくれた気がする。けれど、それでも僕の足は、止まれなかった。運動なんか全くしなかった一年間。運動音痴な僕だから、走れずに転んでしまってもおかしくはなかった。いや、恐らくもう何度か転んでしまっているのだろう。


 それでも、膝の痛みよりも何よりも、胸をのたうつ痛みから逃れなければと、それしか考えることができず、僕は只管走り続けることしかできないでいた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「どういうつもりだメリゼ。今回ばかりは少々度が過ぎるぞ」


 ユーリの心境はあまり穏やかではなかった。彼女はメリゼの事情も、そこから来るゼニアグラスに選ばれた『英雄候補』達に対して友好的とはいえない感情を持つようになったことも知っている。だからこれまでの他の『英雄候補』達に対するメリゼの言動については多少眼を瞑ってきたし、その後彼女に貶された者達のフォローも怠らなかった。


 だが、先程の一件については、流石に看過するわけには行かなかった。


 メリゼが愚かでないことをユーリはよく知っている。数多くの冒険者を管理するという形で、命を預かる職についているのだ。対面した人物がどのような人物か、一目見ただけで大凡の見当がつく程の観察眼の持ち主だと評価している。


 それだけに、今回の彼女の行動は解せなかった。ユーリの目から見ても、あのカイトという少年は精神的には脆く、下手に突けばそのまま崩れ去ってしまう危うさを孕んだように見えた。


 そんな少年に、彼自身が無能であること、そしてそれを周囲に晒され、結果笑いものにされる。そして最終的にあの反応だ。恐らく、『突いてはいけない』所を突いてしまったのだろう。最悪、もうこの場所に戻ってこないという可能性も考えられるが、それだけならばユーリもこうして浮足立ちはしなかっただろう。


 だが、もし彼が外に出てしまっていたら? 外には人に危害を加える魔種や、出現頻度は低くとも肉食の猛獣も出る。加えて、最近は盗賊の活動が増えてきたと聞いている。今日彼女が盗賊の捕獲に出ていたのも、増加しているらしい盗賊対策の一環だ。そんなところに、つい先程無能を証明された少年が一人武器も持たずに出て行く。ならばどのようなことが起こるか、予想を立てるのは難しくない。

 だから当然、ユーリはすぐに彼を追いかけようとした。追いかけようとして、メリゼに止められ、そして今は先程カイトも通された応接室に招かれていた。


 「お姉様、私は、お姉様がお優しいことも、お姉様がどうしてゼニアグラス様が連れてきた『英雄候補』のみならず新米の冒険者達に優しいのかも知っています。私は、そんなお姉様が大好きで、尊敬もしています。だからこそ――――」

 

メリゼは引き出しからスクロールを取り出すと、それをユーリに手渡した。いつになく、真剣な眼差しを向けながら。


 「彼とは、あまり関わって欲しくありません」


 それだけ言って、ユーリは押し黙った。ただ、視線だけは逸らさずに。


 スクロールを受け取ったユーリは、僅かに訝りながらそのスクロールを開く。そこには、先程メリゼが酒場の冒険者達に晒したも同然な、カイトのステータスが載っていた。

 メリゼが読み上げた通り、先程のスクロールにも書かれてた通りのバッドアビリティがいくつも見つかり、成長上限もたったの十まで、ステータスも平均を大きく下回り、確かにこれでは冒険者としてモノになる可能性はおろか、そもそも本当に『英雄候補』として選ばれているのか疑わしいとさえ考えてしまう。だが――――。


 「む?」


 いくつも存在するバッドアビリティの一覧、その最下段に、ユーリは違和感を覚えた。


 アビリティが書かれている筈のその場所は、通常ならば四つほどアビリティが書かれている筈のスペースが、『何も書かれていなかった』から。


 「これは……」

「えぇ。アビリティは存在しているが、その内容まではわからない、というものです。ですが、ご存知ですよね? お姉様は私の『鑑定』アビリティ」


 アビリティ『鑑定』は、羊皮紙などを媒体として、相手のレベルやステータス、アビリティなどを読み取り媒体に表示させる効果を発揮するものだ。そして、それが高位のランクであればあるほど、読み取れるアビリティの種類が増えるが、一般的にそのアビリティのランクを上回るランクのアビリティは正確に読み取ることが出来ないとされている。


 「無論だ。アビリティランクSSに及ぶ『鑑定』スキル保有者。お前ほどの『鑑定』スキルを持つ人間はそうそう居ないだろう。だからこそ、『ギルド』の本部があるファズグランのお膝元にお前が居る。そして、そのメリゼが鑑定することが出来ないとなればつまり……」

「はい」


 何処かからそよぐ隙間風に、蝋燭の火が揺らめく。その火は神妙な面持ちのメリゼを照らし、やがてメリゼは重々しくその口を開いた。『最上位ランクの一つ下位』の『鑑定』で読むことの出来ないアビリティが、一体どのような代物であるかを。


 「彼は、私の『鑑定』のランクを上回る、最上ランクのアビリティを複数所有しているということになります。だから私は、彼と関わるには、危険が大きすぎると、判断しました」


 ユーリはメリゼを全面的に信頼している。恐らく、彼女がこの街で真の意味で信頼を寄せるのは、先程のバルザと、メリゼ位なものだろう。だからこそ、彼女はメリゼの言葉を受け止め、吟味する。そして、二人の間には信頼があるからこそ、彼女はメリゼを窘めるように告げた。


 「嘘だな」


 その言葉に、まるでメリゼは図星を突かれたように、ビクッ、と肩を跳ね上がらせた。


 「う、嘘だなんて……」

「いや、お前のいうことは正しい。お前は理知的な子だ。彼の持つ危険性が考慮されるべきであること、私に危険が及ばないよう配慮してくれていること。確かに、それらに関しては私はお前を疑ってなどいないさ。だが、お前が私の事を知ってくれているように、私もお前の事は多少はわかっているつもりだよ」


 メリゼは肯定する代わりに、何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。彼女が何を思ったのか、おおよその見当が既についているユーリは優しくその肩を叩き、そして力強く言い放った。


 「彼は必ず連れて帰る。戻ってきたら、ちゃんと彼と話し合って、ちゃんと謝るんだぞ」


 そう言って、ユーリは青の髪を靡かせながら、部屋を後にする。一人部屋に残されたメリゼは、その手を固く握りしめながら、その場に佇むことしかできないでいた。


読んでくださり、ありがとうございます!

自分の文が読みにくいだとか、表現が伝わりにくいだとかのご感想も是非是非いただければと……(平伏)

次の話でも新しいキャラを出します!

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