第45話 一手のための一手
ヴォー……書く時間をクレー……。
今現在、僕とクルスは先程の、ルーンさんとフラァルさんが賢龍様と話をしていた、聖域に足を踏み入れていた。幸いにもクルスは方向音痴というわけではなかったため、僕らは迷わず同じ場所に来れていた。
僕はぽっかりと開いた洞穴の前で立ち止まり、ついこの間ルーンさんが行った時と同じように、膝をついて恭しく礼の姿勢を取る。この場に来たのは先程ラウゼルさんに言ったように、突破口を開くため。そしてその為に、賢龍様と話をする為だ。
「賢龍様、いらっしゃられますか!?」
相手への礼儀を示すために、僕は慣れない大仰な話し方を演じて、賢龍様に呼びかける。緊張で鼓動は早まり、ただ只管にボロが出ないことだけを強く祈る。
因みに、クルスは僕が殺されそうになった時か、僕が合図した時以外は動かないようにとお願いしておいた。普段はそういったことはないが、クルスにだって感情はあるし、当然怒りだってするわけだ。それは別に自然なことで、当たり前のことだから別に良い。
ただ問題は、ディムシーさんでの一件といい、今回の件といい、そう少なくない頻度でクルスが怒りだしてしまうということ。クルスの怒りのツボというものを、僕は未だに把握しきれていないこと。極めつけは、どうにもクルスは頭に血が上ると喧嘩っ早くなってしまう人格らしい事だ。
この場でそんなことをされては僕の目論見が潰えるどころか、淫魔達も滅んでしまいかねない。なのでこの場は抑えておいてもらうようにと頼み込んで、クルスも渋々ながら了承してくれた。
数秒の沈黙が流れ、それらしい反応も、気配も一切が無い。僕の声は届かなかったのだろうかと思い、再度声を掛けようとした時、頭上から重々しくのしかかるような、厳粛ささえ感じさせる声が浴びせかけられた。
『何用か、人間の小僧よ』
来た。同じ声。間違いない、賢龍様だ。
僕はそれだけで緊張が更に高まる。のしかかる重圧が、後戻りは出来ないと告げてくる。けれど、これからが本番なのだ。気合を入れろ、真月介斗。
「はい! 実は今、僕は旅をしている最中でして、淫魔達の村に滞在しているのですが、耳に挟んだのです。 近々賢龍様による贄の儀が行われるということを」
『いかにも。して? だから何だという?』
「もし許されるのであれば、賢龍様による贄の儀が、どのようにして行われるものかご教授頂きたくこの場に参上致しました!」
『断る。そのようなことをして、このワシに何の得がある?』
「もちろん、お礼はさせて頂くつもりです! しかし長きに渡る時を経た賢龍様のみが持ちうる聡慧さ、是非とも拝聴させて頂きたいのです!!」
『…………ほう?』
食い付いた。確かな手応えとともに、僕はそう確信していた。
自分の世界で散々虐められてきたがために、それを切り抜ける為の、一種の処世術のようなものがいつの間にか磨き上げられていたらしく、絶対的な強者を相手に、ご機嫌を取る事に関しては多少の自信があった。要は『ゴマすり』だ。全くこんなスキルばかり身について、情けなくはないのかと自問したくなる上、意外と早く食いついてきた賢龍様が意外とチョロいなと一瞬だけ拍子抜けしてしまいそうにもなったが、今は抑えて目の前の事だけに集中する。
『だが、知ってどうする? 何が望みだ?』
自分のことを持ち上げる相手に興味を持ったのか、賢龍様はそんなことを尋ねてくる。自分にどのような形であれ、興味を持ってくれるというのは好都合だ。この機は逃せないと、慎重に言葉を選びながら賢龍様に告げていく。
「僕はただ、賢龍様の知を披露して頂きたく、あわよくば、その返礼としては些か不十分かもしれませんが、微力ながら賢龍様の一助となれればと」
『一助とな?』
「はい! ですので、是非ともこの僕に、契約の儀についての知恵を授かりたく」
『ふむ。……面白い。よかろう』
「チョロむぐ……」
余計なことを口走ろうとするクルスをぎゅむ、と押さえて口を閉じさせている内に、賢龍様はズズン、と僕らの前に落下してくる。それに伴い突風が生じるが、地面に右手を付いていたので、クルスが地面に触手を突き刺し、僕の身体が吹き飛ばないよう固定してくれている。少しして風が止んだ頃、賢龍様は機嫌の良さそうな軽やかな声で続けた。
『まずワシは今現在、不死の術、いや呪いだな、このようなもの。それをこの身にかけられている。だが、この不死の呪い、確かに心の臓による寿命を無くす働きは持っておる。しかし、真に不死になれるわけではなかった。単に心の臓を体内から無くし、代わりにこの身に流れる魔力を生気、寿命に変換するだけのものだ。確かに、魔力は食や呼吸を行うことで摂取することもできる。寿命の源と言える生気は生命の体内でしか、心の臓の働きによってしか生み出し得ず、その量は限られている。その分、純粋な生のエネルギーであるというだけあって良質ではあるがな。それに対し、魔力は質は落ちるが摂取方法はいくらでもある上、摂取量に上限はない。であれば、確かにワシは不死の身体を手に入れたと言えよう。だが――』
賢龍様は一頻り言い終えると、次いだ言葉は苦々しい声で放たれた。
『肉体が強靭であればあるほど、必然一日を生きるために必要となる生気の量は増え、魔力量は言わずもがなだ。一日に必要となる魔力量は膨大なものだった。それを摂取するには魔力源である人類魔種、生命を喰わねばならなかったが、魔力は動力源だ。動けばそれだけ魔力を消費し、ワシが動くに見合うだけの強力な魔力を秘めた魔種はおらず、ワシは結局この森で諦めかけていた。それが丁度千年程前のこと」
賢龍様の声が一瞬だけ暗く沈む。無念を孕んだ悲しい声。しかし、それは次に紡がれた言葉によって、明るく転じる事になった。
「そんな時だ。淫魔族というものが紛れ込み、その果てに契約を交わした。幸い相手は魔力の源、生気に関する力に長け、尚且つ力はそれ程無い。まさにうってつけの相手だったというわけだ。そして百年が過ぎた頃、我ら龍族と並び、魔種最強と謳われるヴァンパイア族との混血が生まれた。莫大な魔力に、優れた生気の生産力。ワシは喜びに震えた。何せ、ワシに喰われ、生かす為に生まれてきたような者だったのだからなぁ』
「……野郎」
「クルス……抑えて」
恍惚とさえしながら、賢龍様が告げた言葉に、クルスが怒り暴れだしそうになるのを抑える。賢龍様には聞こえないよう、掠れるような小さな声で。
「そ、それで……『贄の儀』はどのようにして……?」
僕は少々急かすように、その先を促す。賢龍様はいやらしさを含ませた粘り気のある声で、その先を続ける。
『まぁ慌てるな。これより話すところなのだ。まず小僧、生気は感情が昂ぶる事によって放出されるということは知っておろうな?』
ようやくクルスも落ち着きを取り戻してくれたので、僕は深呼吸をしてから、「はい」と返事をした。すると賢龍様は、さも当然であるかのように、同時に自分の知恵に浸る様に、くつくつと笑いながら、予想し得た答えに、更に悪どさを上乗せした答えを返してきた。
『ならば分かろう? 『贄の儀』とはな、ワシが贄を喰らい、腹の中で犯すのよ。だが、ただ犯すだけでは与えられる快楽は限られてくる。ならばどうするか? どうすればより多くの生気を吸い出すことができるのか? 答えは簡単よ。犯すと同時に、『溶かし』てやるのよ。痛みが十全に伝わるように、存分に苦しみぬくようになぁ』
さぁっと音を立てて、僕は血の気が引いたのを感じてしまった。そんな僕を他所に、賢龍様は尚も続ける。
『強烈な”痛み”と、死が近づく”絶望”。これによって生じる感情の起伏も激しく、放出される生気の量もそれだけに凄まじいものでなぁ? 快楽によるものに比べ、多少質は落ちるものの生気であることに、魔力の源であることに変わりはない。一石三鳥。死や痛み、その恐怖。それらを十全に理解した、ワシならではの儀式の手法。どうだ? 贄にしてみても、無駄のない”使い方”であろう?』
頭が真っ白になる。つまりルーンさんのお母さんも、ロードノートの淫魔達は死ぬ時でさえも苦しんでいたというのか――――。
『あぁ、だが先代のロードノートは使えなかったな。最期まで痛みに苦しむこともなく、満足そうにして死んでいったな。ただでさえ血が薄れ、魔力も落ち込んできているというのに、生気もロクに生み出さず、そのせいで自分の娘を予定よりも早く死なせることとなるのだからなぁ』
くすんだ瞳から放たれる賢龍様の心ない言葉。所詮貴様らは道具にすぎないと、喰らった淫魔達を『使えなかった』と悪評を下す彼に、クルスはやはりというべきか、とうに限界を迎えていた。
「ブッ殺す――――」
クルスの箍が完全に外れる。堪忍袋の緒は燃え去り、盛り狂う殺意は彼の全身、右腕全体を覆うようにして漲り、眼前の悪龍を決して許さないと、その鉾を向けようとする。しかし、その怒りは――――。
「クルス!!!!!!!!!!」
僕がいきなり何処までも響くかのような大絶叫を放ち、クルスも、そして恐らく賢龍様までもが、突然のことに一瞬だけ放心状態となる。僕はクルスに何も言わず、ただ右腕をぎゅ、と握りしめる。こらえてクルス。ここで暴れたら、全部台無しになってしまうから――――。
『……なんだ、それは?』
訝るような、纏わりつくような殺気が賢龍様から放たれる。クルスはというと、すぐに落ち着きを取り戻し、バツが悪そうにそっぽを向くと殺気を放つ賢龍様に警戒しながらも、この場を僕に譲ってくれた。
僕はほっと吐息を漏らし、再び誤魔化すような大仰な態度で、賢龍様に受け答える。
「もも、申し訳ありません! 僕の生まれ育った地ではあまりにも感動してしまった時に『クルス』と叫んで感動を露わにする習わしがございまして! 賢龍様のあまりの思考の深さに、思わず感服してしまいました! 何卒ご容赦を!」
『む、そう……なのか?』
もちろん嘘だ。かなり苦しい方の。けれど、運良く、賢龍様もそれを信じてくれたようなので、僕は再び安堵の息を漏らした。クルスは納得行かないように「やっぱチョロいんじゃ……」と漏らしていたが、僕は彼をきゅ、と掴み、どうどうと宥めた。
「ところで、一つお伺いしたいことが」
『何だ? 言ってみよ』
「ありがとうございます。では、賢龍様が贄を、生を求める理由をお聞かせ願えますか?」
『ぬ?』
賢龍様は低く唸る。何か怪しまれるようなことを言ってしまっただろうかとも思ったが、しかし次の瞬間にはくつくつと僕をバカにしたような笑い声と共に当たり前のことだと言うように答えた。
『異な事を。死にたがる生命などおるまい? ワシはただ生きたいだけよ。生きて、そして――――』
途切れた声に、僕は思わず気になって頭を上げてしまいそうになる。しかし、その寸前で賢龍様から再び声を掛けられビクリと身体を跳ね上がらせながら再び靴を見るような形で頭を垂れた。
『いや、何でもない。それより、そんなことを訊いてどうする?』
「い、いえ! ただ、そうなると賢龍様は少しでも長い寿命を得るために、少しでも多くの生気と魔力を吸い出せるよう、『贄の儀』を行っているということでよろしいでしょうか?」
『その通りだ。して? 先程言ったな小僧? 貴様は一体どのようにしてワシの一助となるつもりだ?』
こちらから振ろうと思っていた話題を向こうから振られたことに、僕はあまりの緊張に止まらない冷や汗で額を濡らしながらもニヤリと不敵に笑んでしまう。けれど、それをおくびにも出さない様に冷静を装って口を開き直す。
「はい! 実は僕、その『贄の儀』の存在を知り、偉大なる賢龍様の為、儀のお手伝い、いえ、『贄の儀』を代行させていただきたいと考えているのです!!」
『ほう? 『贄の儀』の代行とな?』
賢龍様は、きっと顎があれば撫でていたであろう声を上げ、僕にじっと視線を叩きつける。やがて、興味が湧いたのか、ふん、と鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。
『面白い。何をするのかは知らんが、やってみるが良い。ただし、妙な真似をしようとすれば』
「承知しております! 賢龍様にそのような無礼を働くつもりは毛頭ございません!」
『ククク、ならばよい。精々ワシを満足させてみよ』
満足気にその気配を重々しい足音とともに遠ざけていく賢龍様。けれど、肝心なことをまだ尋ねていない。僕は慌てて、その背に礼をしたまま声を掛けた。
「お、お待ち下さい賢龍様!」
『何だ? まだワシに何か用か?』
「恐縮ですが、少々確認と、お願いがございます!」
『ほう?』
立ち止まり、再び僕に注意を向ける賢龍様。
『構わん。申してみるがいい。今のワシは気分が良いのでな。ありがたく思えよ?』
「もちろんでございます! 賢龍様は、今回の『贄の儀』においても向こう三百年分の寿命を贄から吸いだされるおつもりなのですよね」
『その通りだ。もしそれに足るだけの生気を当代のロードノートも吐き出せなければ、その分だけ早く他の贄を喰らうことになるがな』
「で、ではその……贄の際に与える快楽というのは……どういったもので……?」
必要なことだというのに、どうしても恥じらってしまう僕が情けない。そんな僕を見透かすように、いやらしく笑いながら賢龍様も答えた。
『くく、好き者だな小僧。そうだな、ワシの腹に収め、体内の肉を操り、丁度淫魔族が好んでいる、人類のまぐわいに似せた行為を、絶頂まで七度。その性の高まりによって寿命百年程は稼げる。が、それ以上行っても身体が快楽に慣れてしまうようでな、生気を吐き出さなくなるのだ。とは言え、七度も保たせられるのも、一重にワシが技巧者であるが故か。くはは!』
「――――――」
『どうかしたか小僧?』
「ハッ!? い、いえ! 何でもありません!!」
『しかし解せぬ。小僧そのような事を訊いて何になる? 一体何が望みだ?』
賢龍様は我慢の限界だと、いい加減に僕に結論を求めてくる。
賢龍様の言葉にちょっとした衝撃を受けてしまっていた僕だが、しかしこれで聞くべきことは全て聞けた。なら、後は突き進むだけだ。道を切り拓けるかどうかは、全て僕に掛かっているというプレッシャー。けれど、後には引けない。ルーンさんが、皆が待っているのだから。
「はい。では賢龍様、一つお願いが。僕が『贄の儀』を代行させて頂き、もしも賢龍様が必要とされている寿命三百年以上を生み出すことが出来た時は――――」
僕に打てる、最良の一手。次の一手へと繋げるための、一手を。今僕は傍らのクルスに見守られながら、堂々と告げた。
「今回の『贄の儀』にて当代の贄、リューネイジュ・フレウル。ロードノートの命を、奪わないで頂きたいのです」
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「なんで止めんだよカイトー!!」
「ご、ごめんって……。でもクルスだってわかってるだろう? 賢龍様はこの村にとっていなきゃいけない存在なんだ。経緯とか意志はどうあれ、契約を守ってこれまで村を守ってきたのは確かなんだから」
「んでも……」
納得の行かない様子のクルスは、今は遥か後方にある聖域、そこに今も居るであろう賢龍様へと視線を向けていた。
結局、僕の願いは保留となった。賢龍様曰く、「『贄の儀』を執り行う時に答えてやる」とのことだ。まぁ「ワシに出来なかったことを貴様のような小僧が成すとな?」と大笑いされてしまう程だから致し方ないことと言える。寧ろ怒りを買わなかっただけマシというものか。今だけは外見も実も酷く弱々しい事に感謝するしか無い。
クルスは舌打ちをして、納得がいかないとぷいとそっぽを向いた。
「やっぱオレ様、アイツ嫌いだわぶっ殺してやりてー」
「あ、あはは。どうどう。それにクルス、僕は――」
「わーってるよ。必要以上の殺しはしない、だろ?」
「……それ以上に、キミに誰かを殺してほしくなんて無いんだよ……」
「何で?」
「んー……。キミが大好きだから、かな?」
「……ふーん」
クルスの目玉を、感謝を表して優しく撫ぜる。クルスは訳がわからないという声で、少しだけ恥ずかしそうにしながら眼を逸らすものの、しかし身体をどけようとはしなかった。それがどうにも嬉しくて、僕も撫でるのを続行してしまう。
「それにね、クルス。何となく、なんだけどさ。賢龍様のことはそこまで邪険にしないであげて欲しいんだ」
「はー? なんでよ?」
「わからないけど……何となく……」
「? ふーん?」
「もちろん強制はしないけどね。クルスにはクルスの価値観があるわけだし」
「ハイハイ。わーってますよっと」
クルスはぶっきらぼうに言い放ち、やはり納得がいかないと、頬を膨らませている。いや、それが本当に頬なのかは不明だが。けれどクルスの事だ。僕の言葉を本気で真に受けて、本気で考えてくれていることだろう。なら、今はそれで十分だ。
「んでー? これからどーすんだよ?」
「そうだね。フラァルさんの方はどう?」
「んー……少ししたら止まったけど、そっから全然動いてねーな」
先程、フラァルさんに胸ぐらを掴まれた時に、クルスは彼の小さな魔晶をフラァルさんに仕込んでくれていた。クルスの魔晶は、クルスの魔力の波が含まれているので、魔晶そのものがクルスへの道標にもなるし、クルスにとっての発信機となっているのだ。本当に便利機能満載の触手君だよ本当に。
「そっか。ならまだそっとしておこう。今は何を言っても刺激するだけになっちゃうかもしれないから」
「まーそのへんは任せるわ。そんならどうすんだ?」
「そうだね、村に着いたらクルスは早めに眠って、起きたらまたすぐに眠ってもらえるかな?」
「? 構わねーけど、何でだよ?」
現在時刻から見て、この分なら午後七時までには村に戻れるだろう。何故そんなことを気にするのかと訊かれれば、クルスの行動時間が関わってくるのだが、とりあえず『夜は長い』とだけ答えておこう。
「カイトくん。オレ様なんかものすごーく嫌な予感するよ」
「大丈夫。大丈夫だよクルス」
僕は意味深な笑みを浮かべて、不穏な空気を察知して不安げに瞼を薄めるクルスの頭にぽんと手を置いた。そして、ゆっくりと、クルスを不安にさせないように告げた。
「安心してクルス。キミが例え全てを捨てることになったって、僕はキミの友達だから」
「ありがとうよカイト。お前のお陰ですっげー不安になってきた。一周回って安心できそうなくらいだわ」
「それは何よりだよクルス」
「ゴメン、やっぱ無理」
汗だくになるクルスから放たれてくる言葉を全て軽く流しながら、僕は村へと歩を進めていった。こういうのは土壇場で言ったほうが踏ん切りがつくというものだ。頼むよクルス。漢を見せる時だぞ。
「か、カイト~……。なんなの~? なにさせんのよ~アンタ~……」
不安がトップギアを上回り、クルスの口調が何故かオネエ口調になってしまっていた。これはこれで有りだが、可哀想過ぎるので少しは控えよう。僕は罪悪感を誤魔化しながらクルスの言葉を躱し続け、彼の虚しい呟きだけが霧の深い森を揺らしていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!! ブクマ等々もありがとうございます!!
なんだろう……言い訳と謝罪の言葉しか浮かんでこないこの感じ……。
え、ええい! 進行重視で行かせていただきますよ!!(開き直り)