第44話 『こえ』
ヤバイ……ストックが追いついてしまう……
僕らが村に帰ってきた時、広場には沈痛な面持ちで地面を見つめながら、ただ佇んでいた淫魔達の姿があった。それはさながら日本でのお通夜のムードと酷く似通っていて、それだけで僕は何があったのかを察した。
中には啜り泣く淫魔も居る中に、ルーンさんの姿は何処にも見当たらない。恐らくは、話すべきことを話し終えて、屋敷に戻ってしまったのだろう。皆集まっているからもしやと思ったが、どうやら一足遅かったらしい。僕は慌てて踵を返して、ルーンさんの屋敷へ急行しようと駆け出そうとした瞬間、聞き慣れた声が僕のことを呼び止めた。
「カイト様!」
僕の名を呼びながら、駆け寄ってきたのはラウゼルさんだった。しんとした広場にその声が波紋となって広がり、その場の全員の視線が僕らに集中することとなった。
「お、お嬢様が……」
「えぇ……、聞いています」
先程までいつもの爽やかな笑顔を浮かべていたラウゼルさんも、ルーンさんの話を聞いてやつれたような酷い顔をしていた。それは他の淫魔達も同じことで、皆一様に、余命宣告を受けた病人のように、青ざめた、思いつめたような重苦しい表情を浮かべている。
そして、急にラウゼルさんががばっと勢い良く僕に向けて深々とお辞儀をしてきた。そして、恥を忍ぶように苦々しい声を放った。
「か、カイト様! クルス様! お願い致します! どうかお嬢様を! お嬢様をお助け下さい!!」
その声を皮切りに、次々と淫魔達が僕らに向けて頭を下げてくる。
「お願いします!! 今更なのも、恥知らずなのも、身勝手なのも分かっています! けれど、私達は恩知らずではないつもりです!!」
「今まで散々私達はお嬢様に、歴代の御当主方にあらゆる重責を肩代わりしていただいてきました!! でも、本当は嫌だったんです! どうにかしたかった……! 御当主方だけが辛い目に遭わなければならないなんて……! でも……」
「怖かったんです……俺達。お嬢様方が『贄』となってくれているから、俺達は暮らしていけている。もしお嬢様方が『贄』を降りてしまわれたら、何れにしろ俺達に未来なんてありませんでしたから……」
「本当は、僕達にとても良くしてくださったソニア様に報いるためにも、村の皆で勇気を出して外へ逃げようって話にだってなったんです……! でも、やっぱり怖くて、ソニア様は『十分に幸せだったからいい』と……。外にも出れたと、愛する人にも巡り会えたからと……。結局僕達は卑怯者で……、その優しさに甘えることしか出来なかったんです……」
「でも、もう逃げたくないんです! 見捨てたくないんです!! あの子は、お嬢様は全部これからだったんです!! 思い出も、成長も、幸せも――――。これから探して、拾い上げていく筈だったんです!! 何も始まってないまま終わってしまうなんて……こんなの……」
「だからカイト様、クルス様! どうか、どうかお嬢様を!!」
再び頭を下げる淫魔達。しかし、ほとんどの淫魔達は小刻みに震えていた。やはり、それでも怖いのだろう。下手をすれば全員死ぬかもしれないという死の恐怖がのしかかり、今にも彼らの膝を折ろうと嘲るように揺さぶりを掛けている。
けれど、それでも淫魔達は膝を折らなかった。けれど頭を上げもしなかった。一心に、自分たちの願いを、想いを、支えと力に変えて。『私達』ではなく『お嬢様』を助けてと、ただそれだけを僕らに願う。
僕はその光景が眩しすぎて、まっすぐ見つめ返すことができなくなって、ゆっくりと踵を返した。
「ッ!! お願いします!!」
「お願いします! カイト様! クルス様!!」
僕らの背に、尚もそんな言葉が何度も何度も浴びせられる。けれど、それに応えるわけには行かなかった。僕らの『賭け』は未だ続行中だ。下手に返事をして、ボロが出てしまっては意味が無くなってしまう。
僕は悲痛なまでの想いにすぐに答えられないもどかしさに胸を軋ませながら、しかし歩みは決して止めなかった。
「……」
「? どうしたのクルス?」
歩いていると、クルスが何故か僕の腕から出てきて、背後で只管叫び続ける淫魔達に眼を向けていた。
「カイトはさ、あいつらがどういう風に見える?」
「? 見える?」
唐突な質問に、僕は思わず質問で返してしまった。珍しいな、クルスがそんな風に何かを訊いてくるなんて。そんなことを考えていると、僕の疑問に対するクルスの答えは、すぐに返ってきた。
「いやさ、カイトはあの連中をどういう風に思ってるのか、ってさ」
「難しいことを訊くね……。じゃあ、参考までにクルスはどう思ってるのか聞かせてくれないかな?」
「自分勝手で、情けなくて、どうしようもない連中、かな?」
「お、おおう……結構厳しい評価だね……。理由は、訊いてもいいかな?」
珍しく棘のある言い方をするクルスに、思わず一瞬たじろいでしまう。そしてクルスは特に言い淀むでもなく、僕の問いかけに対してすぐに答えを返してくれた。
「んー……だってさ、結局連中が言ってる事って全部オレ様達任せじゃねーか。ルーンとルーンのかーちゃんに擦り付けてきた次はオレ様達かよってよ。そんなトコだな……」
「け、結構厳しいねぇクルス……。うーん、そうだねぇ」
もしかして、意外とそういうタイプが嫌いだったりするのだろうかクルスは。そんなことを考えながら、クルスの意見を尊重しつつ、しかし出来る限り淫魔の皆に対して敵対的な意識を持ってほしくない僕は、慎重に言葉を選んで、クルスに言って聞かせた。
「じゃあさクルス。僕はどう? 僕は君にとって、どんな人間に見える?」
「んー? ダチ。大切」
「あはは、ありがと。それはつまり、好きって意味で取っていいんだよね?」
「んー」
クルスは恥ずかしそうにそっぽを向きながら、肯定の意味で短く返事をした。僅かに身体が赤らんでいるのが、なんだか可愛らしい。
「でもさクルス。僕は結局、ほとんど危険な事はクルスに丸投げなんだよ? 戦いとか、とっても危険なこととかね。もしかしたらそのせいでクルスは死んじゃうかもしれない。それでも、クルスは僕のことを好きでいてくれる?」
「んー……。言われてみれば……。でもそう言われてもカイト嫌いになれねーし、離れたいとも思えねーな」
「ふふ。嬉しいよ、クルス。けどさ、それならクルスはもう答えを持ってるじゃないか」
「?」
僕の言っている意味が分かりかねると、クルスは僕を見上げてくる。そんな困惑気味のクルスに微笑み掛けると、僕はクルスの眼を見ながら言った。
「結局人がどう見えるかじゃなくってさ、一番大事なのはその人をどう見たいのかだって、僕は思うんだ」
「どう見たいか……ねー……」
「クルスは、あの人達をどう見たいの?」
「んー……わかんね」
ちらりと背後に目をやって、未だに礼を続ける彼らを見るクルス。しかしクルスは答えを得られず宙ぶらりんのまま、首を横に振った。
「なら、いつかわかるといいね。あの人達を、クルスがどう見たいのか。もちろん、好意的に見てほしいけれど、それはクルスの意志次第だからね。全部キミに任せるよ」
「…………おー」
クルスは自信なさげにうなずいて、もう一度淫魔達の方を見やる。その眼で彼らをどう見ようと思うのか、それはわからない。ただそれがクルスにとっていいものであるようにと願いながら、僕はたどり着いた屋敷の扉に手を掛けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつの間にか寝てしまっていたらしい。着替えもせず、ベッドの端に寄りかかりながら寝てしまうなどというだらしない格好で。淑女らしくないとフラァルに叱られてしまう。
けれど、それも意味のないこと。もうすぐ自分は終わるのだからと、ルーンは起き抜けにそんな言い訳を自分にして、力なく笑った。今や彼女が持ちうる気品や優雅さはその顔から剥がれ落ち、ただただ目の前に急に訪れた死に、絶望に沈む暗く淀んだ表情が刻まれていた。
「風邪、引きますよ」
そんな声に、ルーンは驚いてゆっくりと振り返る。そこには彼女の目覚めを待ちわびていたかのように、カイトが椅子に座っていた。カイトは彼の緑のコートは着ておらず、そこでようやく、自分の肩に彼のコートが肩から掛けられていることに気がついた。
「ありがとうございます、カイト。どれくらい眠っていましたか?」
「大体一時間位ですかね。陽も暮れ始めてきましたし」
「そう、ですか……」
つまり私は、何もしないで自分の死に一時間また近づいたわけだと、自嘲気味に笑う。しかし、それでいいとも思ってしまう。村の淫魔達には別れは済ませた。何かすべきこともあったかもと思ったが、思いつかないならば、別段大したことではなかったのだろう。
彼女はこれまでこの村を守る者として、母の死を境に必要以上の事をすることを避けてきた。日々結界を維持し、母に言われた勉学やら魔法の扱いやらを習得するのに勤しんできたが、それも退屈を紛らわせる程度のものであると割りきってきた。誰かと親密に接するような事は極力避け、時に賢龍様の元へ行く。その程度の、彼女にとっては実に面白みのない人生を歩むことを決めた。必要以上に意味のある人生を歩まないことを選んだ。それ故に彼女は、人生に意味を得る事を恐れる。自分の人生に意味が生じてしまったら、きっと未練が生まれてしまうから、と。
彼女は高潔で、何より自らに課せられた使命を重んじていた。この村を治め、この村を、村の皆を守る。彼女の母親が通ってきた道と同じ道を歩めることを、彼女は何より誇りを持っていた。だからこそ、彼女は今まで自分を殺してきた。村を守るためには、自分を殺さねばならぬと、欲も出さず、文句も言わず、自らのすべきことだけをこなしてきた。それが例え、ヴォイドの襲撃によってしなければならなくなった、何より自分が最もやりたくなかった、仲間であった者達を殺す事であったとしても――――。
二百年だ。二百年以上も続けてきた。ならば後一日程度どうということはない。今まで通り、自分を押し殺し、最低限の意味を持った命を全うしよう。そう考えて、彼女は再び笑顔の仮面を被る。気分も偽り、舌は軽やかに。
「色々あって疲れてしまいましたわね。少々早めですけれど、晩御飯に致しましょうか。もう、フラァルは何処に行ってしまったのでしょう。困った人。仕方がありません、今夜は私がお料理を致しましょう! 最後の晩餐、というものですからね、張り切って参りますよ!! ふふっ!」
努めて平常に、彼女は笑みを浮かべてカイトの隣を通りすぎようとする。しかし、彼女は目の前に立つ少年のことを全く知らない。今彼女が被る事を決めた|仮面(笑顔)は、この少年も被る|仮面(偽り)であることを。
丁度彼女がカイトの隣を通りすぎようとした瞬間、カイトの右手がルーンの腕を掴む。常の彼の女性への対応の仕方からは想像もできないほど力強く。
「? カイト、放して下さいませ。ちょっと痛いですわ……」
「ルーンさんは、それでいいんですか?」
「……」
カイトは尚もその力を緩めず、彼女に問う。本当にそれでいいのかと。それが貴女の望んだことなのかと。
「もう、決まったこと、いえ……私が決めたことです。いいに決まっているでしょう?」
「お母さんのことも、海も、知りたいことがまだまだ残ってるんじゃないんですか?」
「いいんです。諦めなら、とうにつきました」
「村の皆の事で、何か心残りはないんですか?」
「えぇ、何も。彼らとは距離を置こうと誓い、その誓い通りに事が済む。彼らを悲しませずに済む。それは私の理想とも言えます」
「本当にそう思っているんですか? 本当に、何も無いんですか??」
「えぇ。ありませんよ。心残りも、後悔も。何もありません」
「だったら――――」
カイトは何かを告げようと、その表情に悲哀を織り交ぜて、彼女に何かを語りかけようとする。だが、その寸前の事だった。
「だったらんなツラぶら下げてんじゃねーよ」
声とともに、カイトの右腕が彼の制御を離れ、『本来の意志』の元に動き出す。荒々しく振りぬくようにルーンの身体を回転させ、手近な壁に押し付けると、そのままクルスはルーンの胸ぐらを掴みあげた。
「けふっ……! い、痛いですわクルス! 一体何を!?」
「さっきから聞いてりゃーこれでいいだの理想だの言ってるくせによ。何だよそのツラ笑わせんじゃねー。本当にそれが望み通りってなら『笑え』よバカにすんじゃねー」
「わ、私は笑っているでしょう……? 今の私の言葉に嘘偽りは一切ありません!」
「バカにすんなっつってんだよ。生憎なー、こちとらその『ブッサイクな笑顔』なんてなー俺の相棒も大得意でよ。すぐに分かるっつってんだよ。だから笑えよ本当にそれでいいならよー。昨日の夜みたいに、一昨日の夜みたいに、もっと笑えよ普通によ」
カイトは一瞬だけ、いつも気怠げで、抜けたようなマイペースを貫くクルスの変貌ぶりに驚いていた。それはまるで、彼がディムシーの説得に失敗した時と同じような、クルスが本当に怒った時のものだった。静かに、しかし気圧すように、威圧感さえ滲ませながらクルスはルーンに詰め寄った。
「だ、だから私は普通に笑っているではないですか!! これ以上はいくらクルスでも怒りますわよ!?」
「上等だよこちとら既にブチ切れてんだ。さっきから聞いてりゃワタクシワタクシと、じゃあ訊くけどよ、お前の言ってる『私』って誰だよ?」
「な、にを……」
ルーンはクルスの質問の意味がわからない『振り』をして、しかし目を逸らせずにクルスの瞳を見つめ返し続ける。
「分からねーなら教えてやるよ。お前の『私』ってのはなぁ、責任背負って、他の淫魔達の為に犠牲にならなきゃ、なんて考えてる、いっちばんつまんねーお前のことだよ」
「!!!! つまらない……? それの……何処がいけないっていうんですの!!??」
「別に良い悪いの話なんてしてねーよ。ただ、つまんねーっつってるだけだ」
「お黙りなさい!!!!」
「っと」
ルーンは憤怒で歪んだ鬼のような形相で叫び、そして次の瞬間にはカイトもろともクルスを覆うように暴風が発生した。それを予期したクルスはカイトを覆うように自らの身体を展開して真っ向からそれを受け止める。クルスは難なく反応したものの、カイトにとってはあまりにも唐突過ぎた出来事であったため、吹き飛ばされるまま勢い良く後ろに倒れこんでしまった。
「わり。カイトへーきか?」
「いつつ……うん。大丈夫だよ」
頭を強かに打ったカイトは、後頭部を擦りながらクルスを手で制する。それと同時に、肩で息をするルーンが再び声を荒げた。
「なんですか!? 何なのですか!? つまらないって何ですか!!!! 良い悪いの話じゃない!? だったら一体何が言いたいんですか!! 答えて下さいクルス!!!!」
「べっつにー。てか難しい話でもねーだろ。オレ様はただ単に本音で話せっつってんだよ」
「だから!! さっきから言っていることは私の偽らざる本心です!!」
「んー……まだオレ様にゃー早いんかなぁ……。カイト、バトンタッチしてもいいかな?」
「いいの?」
「おう。多分オレ様なんかより、ずっと得意だろ? こういうの」
言葉って難しいなー、なんてポリポリと目玉を掻きながらクルスは先を譲るようにカイトの前から横に逸れる。
カイトは小さく控えめに「じゃあ、任されるね」と立ち上がって、未だに興奮状態にあるルーンに向かってゆっくりと歩み寄る。誰も警戒しようとも思えないような、隙だらけの歩き方と、隙だらけの笑顔のままで。
「違うんですよルーンさん。ルーンさんが嘘をついてないのは、僕も、クルスだって分かってます。ルーンさんはこの村の長で、皆を守らなきゃいけない。ルーンさんも、この村の皆さんを守りたいと思っているし、その為なら自分の身を犠牲にすることだって構わないと本気で思ってるのも、僕は分かってるつもりです」
「だ、だったら――――!!」
「でもそれは、『ロードノート』としての貴女の本心ですよね?」
「!!!!」
言葉を連ねるカイトとは対称的に、ルーンは絶句していた。その反応はまさしく、彼女の本心をカイトが言い表したという証左に他ならなかった。ルーンはたじろぎ、後退する。やめて、来ないでと、カイトとクルスの到来を恐れるように、あからさまな恐怖の色でその美貌を染め上げながら――――。
それでも二人は止まらない。今はただじっと見つめるだけとなったクルスも、彼女に大丈夫と語りかけるように優しげに微笑むカイトも、決して止まらない。このまま行けば、この村を守る『使命』を背負ったリューネイジュという女性は壊れてしまう。けれど、それで良い。彼らにもそんなことはわかっている。それこそが彼らの狙いなのだから。
「クルスが聞きたいのは、貴女自身の本音ですよ『ルーン』さん。たかだか十数年程度、クルスに至ってはよく分かりませんけど、特に大きな責任も何も負わずに生きてきたような子供が、何を偉そうにって話ですけど、僕ら、知らないふりを続けるには知りすぎちゃいましたから。ルーンさんはよく笑って、綺麗って言ったほうが良い美人さんなのに、中身はすっごく可愛い系で。怒るとたまーに怖いけど、それでもお茶目な人で。だから、僕達が聞きたいのは『ルーン』さんの言葉なんです。徹頭徹尾わがままになって、『本心』じゃなくて『本音』が聞きたいんです。ルーンさん――――」
「ゃ……っ! いやっ!!」
それは恐らく、『リューネイジュ』が咄嗟に働かせてしまった防衛本能だったのだろう。ほぼゼロ距離から、彼女の得意とする水系統の魔法によって、小さな氷の礫が生成され、凄まじい速度で飛来する。だが問題はない、クルスの反応速度とクルス自身の触手の速度であれば問題なく防げる一撃。けれどそれは――――。
「ぁ……」
重く、鈍い音を立て、カイトの額に真っ向から当たった。カイトの額には途端に鮮やかな赤が一条走りぬけ、それを見てルーンはそのアルビノのような透き通る白い肌を、更に白くさせていた。
「ぁっ……ご、ごめ……な」
「――大丈夫です」
それでも、カイトは微笑み掛ける。そっと彼女の手を取って、流れる血も意に介さず、彼女をやや見上げるような形であやすように微笑む。
「こんなの、へっちゃらです。ルーンさんが苦しんできた痛みに比べれば、こんなの痛くもなんともない」
「わた……わた、くし、は……」
「ルーンさん。ルーンさんは本当に『いい子』だったんだと思います。でも、少しくらい『悪い子』にならないと、見えないものだってあると思うんです」
「――――――」
「それに、親っていうのは、多分子供が元気で居てくれるなら、それで幸せだと思うんです。だから――――」
その手を優しく包み込むように握りしめながら、カイトは彼女に最後の問を投げかけた。
「ルーンさん、生きたくは、ありませんか?」
その言葉に、彼女の『殻』に亀裂が走る。二百年以上に渡って保たれてきた、彼女の心を守護するための硬く分厚い、『リューネイジュ』という『殻』が。
なんと不思議な少年なのだろう。どうして彼は知っているのだろう――――。
――――母の最期の言葉と、彼女の――――。
「なールーンよー」
衝撃を受け、言葉を失っているルーンに、クルスも再び口を開く。そこから紡がれたのは、いつか彼らが語らった時の、彼女にまつわる昔日の事。
「かーちゃんに言われたんだろ? 海は綺麗だったとか、色んな事を学べだとかさ」
何を言い出すのかと、ルーンは無言でクルスを見つめ返す。カイトもクルスが何を言おうとしているのかは知らない。けれど、何を言わんとしているのかは何となく伝わっているようで、瞼を閉じるとクルスにその先を委ねた。
「それってさー。『土産話』だとか、『この村を守る使命の為』ってのとかもあったと思うんだけどさ、やっぱりお前には外に出て、見てもらいたかったんじゃねーのかな? かーちゃんも感じた……なんてんだろな……『感動』? とかさ。上手く言えねーけど」
眼を逸らすクルス。けれど、それで限界だった。二人の目が離れている中で、ルーンは声も上げず、宝石のような涙が滑らかな頬を伝って落ちる。
「学べってのは、いつか外に出る時のための準備しておけーとか、そういう意味だったんじゃねーかな? もしかしたら、かーちゃんはそういうのしなかったから、苦労する羽目になったとか? なんでそう言わなかったのかはわかんねーけどさ。…………あれ? ひょっとしてお前のかーちゃん結構ポンコツ……むい。いひあいあにふんはお」
「一言多いよ。クルス」
クルスから放たれた最後の方の言葉は、その口元を両脇からむにむにとカイトに押されたため、妙な声で発せられることとなってしまう。けれどカイトもカイトで怒っている様子など微塵にも感じさせず、にこやかにクルスの口元を押さえていた。
「それでも……ダメなんです!!!! 無理なんですよ!!!! 私が生きるという道は、つまり淫魔が滅ぶという道に他なりません!!!! 賢龍様から逃げる!? 逃げられたとしてその先は!? 誰が私達を守ってくれるというのですか!!?? 私達は弱い……!! 賢龍様のように力のある御方に縋ることでしか、生きていけないのです!!!! それに、賢龍様からは逃げられません!! 逃げようとすれば、確実に賢龍様は私達を食い殺す……!! 相手は魔種最強と謳われる龍種、神話の中の存在とだって言えるのです!! そんな方と仮に戦いになったとしても、仮にお二人が助力してくださるとしても、いくらクルスが強くとも敵うわけがありません!!!! ほら、結局どうしようもないんです!! だから良いんです!! 私一人の命が、皆の未来を作れるのならば、それで――――」
いいんです、と。続く言葉は発せられなかった。発したくなかった。今までずっと考えないようにしていたのに。今までずっと、なんでもない事だとねじ伏せ続けてきたというのに。貴方達が下手に私を突いたりするから。
死ぬの、怖くなっちゃったじゃないですか―――――。
ルーンは啜り泣く。やはりどうしようもないのだと。怖くなってしまった死を、受け入れたくなくとも受け入れるしか無くなってしまって。今までずっと苦でも何でも無かった使命を、今となっては受け入れたくないとさえ思ってしまった使命を、それでも受け入れなければならなくなって――――。
「確かに、僕らにはどうしようもありません。僕は何も出来ませんし、龍種が、賢龍様がもしかしたらクルスよりも強いかも知れなくて、もしそうでなかったとしても、立場的に貴方達を本当の意味で助けることは、僕達には出来ません。けど――――」
「!? きゃ!! か、カイト!?」
カイトは身を翻し、ルーンの手を握ったままで歩き出す。それに引っ張られるようにして、ルーンもまた危なっかしく歩き出す。
「僕達には出来なくとも」
『皆』なら、『皆』でなら――――。
少年は歩く。ルーンが歩みを止めようとしても、半ば強引に。けれど待ちわびるようにして。そして急ぐ、彼がしようとしている、一つの大きな『賭け』に出る為に。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あぁ……!! お嬢様!! それにカイト様!!」
ルーンが連れてこられたのは広場だった。カイトの言が正しいとするならば、先程告げるべきことを告げた時から一時間は経過しているというのに、淫魔達は皆、広場に留まっていた。屋敷からルーン達が出てきたことに気づくと、誰かの声を境に続々と彼らの元へ淫魔達が集まってきた。
ルーンは自分たちの周りに集まってきた淫魔達を見回し、そして申し訳無さそうに俯いた。カイトの額の傷に気付いたインキュバスが大丈夫かと声を掛けたが、カイトはそっと手で制した。
「皆さん、ご存知だとは思いますが、明日の晩、ルーンさんは贄としての責務を果たすことになりました。これは決まってしまったことです。反故にしたら、恐らく皆さんもルーンさんも殺されてしまうでしょう」
いきなり何を言い出すのか。カイトはその場にいる全員に語って聴かせるように、静かに言葉を走らせる。
「でも、一つだけ方法があります」
カイトから放たれたその言葉に、その場が色めきだった。それは無論、ルーンも例外ではなかった。
「といっても、上手く行く確証なんてありません。それにとても危険な、『賭け』とだって言っていいくらい、大きなリスクが伴います。それを成功させるには皆さんの協力が不可欠で、でも僕の見込みでは協力してくれたとしても、皆さんの中で半分程の人が死んでしまうかも……いえ、下手をすれば全滅だって在り得ます。そんな無謀な、作戦とも言えないような事です。だから、僕は皆さんに訊いておきたいことがあるんです」
淫魔達は、少なからず驚愕する。彼らの知るカイトという冒険者は、優しいけれどなよなよとしていて、一見して冒険者が似合わないような、そんな少年だった。しかし今、その少年の口からは、冷えきったナイフの如く、冷酷なまでに淡々と事実だけが述べられていく。まるで、別人のように。だから、続く言葉にも不思議な引力があった。聞き逃してはならないと、何故かその場に居る全員が、そう思ってしまうほどに。
淫魔達は、神経を尖らせて彼の言葉を待つ。そしてそれはルーンにとっても同じことで、彼女もまた彼の言葉が告げられるのを、只管に待ち続けていた。
「皆さん、ルーンさんのことは、好きですか?」
だから、その場の、ルーン含む全ての淫魔達はきょとんとしてしまう。あまりにも場違いとさえ言えるような、軽い言葉に、しかしカイトはそれこそが最も大切なことだと、何度も何度も念を押す。
「皆さんは、ルーンさんのことをどう思っていますか? 皆さんは、ルーンさんの事が大切ですか? 皆さんは、ルーンさんの為に……死ねますか?」
カイトの質問に、その場の淫魔達は黙りこむ。その様子を見て、ルーンもまた、表情を暗く翳らせていた。
こうなることはわかっていた。その為に、彼らに対して必要以上に距離を縮めようとはしなかった。関わろうとしなかった。全ては彼らが、そんな気を起こさない為に――――。
『リューネイジュ』は安堵する。自分の行いは無駄ではなかったと。自分の愛する者達を悲しませずに真実守り切れると、確信を懐きながら瞳を閉じた。だが――――。
「えーと、それじゃあ全員一人ずつ言ってく?」
不意に、そんなことを言い出しながら前に出てきたのはルシエラだった。彼女はまるでこっ恥ずかしいと言うような苦笑いでキョロキョロと周囲を見渡し、ルーンの目の前に立った。そして、彼女のそんな言葉に、その場に居た全ての淫魔達は様々な笑顔を浮かべていた。ある者は照れ隠し気味に、ある者は茶化すように、ある者は囃し立てるように。重苦しさとは無縁の、さながら宴会を開く音頭を取る為の席で放たれるように、気負わない暖かな空気。
「いーよ。全部お前が言っちまえ。どうせ皆思ってることは一緒だろうしな」
「ルシエラ姐さん! おねがーい!」
「頼むよ。僕らの想い、一緒に届けてくれ」
「はいはいダーリン。任せなさいな」
そんな言葉に背中を押されるようにして、ルシエラがルーンの前に立った。ルーンは何を言われるのかと戸惑い、恐れ、いつもの毅然とした態度を取れないでいた。そんな彼女を、優しく見守るような視線を向けて、ルシエラはカイトに向かって笑みを浮かべた
「ありがと、カイトくん。サボってた分、とっとと済ませちゃうね」
カイトはにこりと微笑むと、彼らの輪の中からそっと身を引いた。あとに残された淫魔達、特に、ルーンとルシエラの二人の空間には、なんとも言えない間が流れていた。
「あの……えと……」
「お嬢様さ、本当に大きくなったよね。あんなにちっちゃかったのに、今はもうちょっと見上げないとなんだから」
「へ!? あ……えとその……」
「……ふふ」
ここ二百年余り、ルーンが絶対に見せなかった、慌てふためく彼女の表情。ルシエラはその表情に、懐かしささえ滲ませて、ふわりと笑んで彼女をそっと抱きしめた。
「あ……! ルシ、エラ……?」
「でも、おっきくなっても、まだまだ線は細いね。肩だって小さい……。力だって強くなさそうだし、打たれ強そうにだって見えない……」
ルシエラは、ぎゅう、と彼女を抱きしめる力を更に込める。今までそうできなかった分を、ここで取り返すと言うように。
「ごめんね。お嬢様。今までずっと押し付けてきて……。貴女がどれだけ辛くても、苦しくても、アタシ達には何も出来なかった。お嬢様は私たちに気を使わせまいとしてくれてることにだって気付いてたのに、それに甘えて何もしてこなかった……最低だよね……アタシ達」
「っ! そんなこと……!」
「ありがと。でも、恥を承知で言わせて欲しいのお嬢様。アタシ達の本当の気持ち。今までの謝罪も込めて、本当のこと、言わせて欲しい」
そう言って、ルシエラは抱きしめていた彼女から一歩下がる。それは、今まで見てきた彼女の顔の中でも、比べ物にならないほど情愛に満ちていて、それと同じだけのぬくもりも、魔種全員から伝わってきてしまって――――。
あぁ、やめて。『私』が壊れてしまう。今までずっと頑張ってきたのに、このままでは折れてしまう。やめて。やめて、やめて――――。
「お嬢様の為に死ねるか、なんて言われたら、絶対に無理。だってそんなことしたら、お嬢様は絶対に悲しんじゃう。そんなのダメ。許さない。お嬢様を悲しませるような輩は、例え誰であろうともアタシがぶっ飛ばしてやるんだから。もちろん、アタシ含めてね」
壊れる。音を立てて、私の殻がどんどん崩壊していく。駄目だ駄目だ。そんなこと。だってそれは望んではいけないこと。それを望んでしまえば、自分も、母も、何もかもを裏切ることになってしまう。そう堅く信じ続けてきたから、だから――――。
「ムシの良すぎる話だってのは自覚してるし、勝手なやつだって言われたらその通りだから、そう思ってくれても、言ってくれても構わない。でもね、お嬢様はアタシ達にとって――――」
やめて。
「大切な家族」
優しくしないで。
「だから大好きだし」
もう私はいいから。
「だから大切」
もう希望を持ちたくないの。
「それだけよお嬢様。何か文句、ある?」
「大あり、ですよ……」
勝った。耐え切った。殻の自分は瓦解寸前、あと一押しでもあれば即座に崩れてしまうだろう程満身創痍なれど、どうにか耐え切った。崩れてしまわないように必死になって支えて支えて、だからこそ、私は彼らを救うことができるのだ。
「私が贄とならなければ、カイトの言ったことが本当でも、貴女達が死んでしまう」
守るのが使命。それこそが私の生きる意味であり、幸福。
「それに、私は貴女達の事など……」
弱い私。皆を守る為の嘘だというのに、それでも言い淀んでしまう。
「だからどうか私のことは――――」
どうか私に優しい言葉を掛けないで。捨て石にして。踏み越えていって。貴女達の未来を切り拓く礎にならせて。どうかお願い皆。生きて、生きて、生きて、いきて――――。
「どうかお願いです…………お願いですから…………」
あと一声。あと一言放てば終えられる。だから私、もう一踏ん張りだ。何も余計なことはするな考えるな。お母様の事など思い出してはいけない。だから――――。
――――ルーン、貴女は――――
――やってしまった。思い出してしまった。優しかった母の顔を、その声を。二百年間封じ込めて、二度と思い出さないようにと心掛けていた物を、こんな場面で思い出してしまった。
しかも、あぁカイト、クルス。これが狙いだったというのですか? だとしたら意地悪な人達。よりにもよってあの人の『最期の願い』を思い出させるなんて。これでは、私が――――。
――――ルーン、貴女は――――
――――生きて――――
「――――――――――――――――たす、けて……」
壊れてしまった。弱いルーンを支え続けた『殻』のルーンは、呼び起こされてしまった母の遺言に、『生きて』という母の遺した想いに、彼女達の言葉の前に、完全に瓦解した。
ルシエラは、懐かしむように目の前の『少女』の顔を見る。そこには、力の無い自分たちに代わり、あらゆる痛み、あらゆる苦悩を背負い続けたリューネイジュというサキュバスの長の姿はなく、ただひたすらに『生きたい』と願い、赤子のように顔をしわくちゃにして涙を流す、彼女達が愛した一人の女の子が泣き続けていた。
「うん。助けさせて。おかえりなさい、私達のルーンお嬢様」
そのままルシエラに抱きしめられ、ルーンは箍が外れたように、ぼろぼろと泣き崩れてしまう。そして、彼女達を囲むように、淫魔達は鬨を上げた。これ以上は無いというくらい盛大に。自分たちの愛した女の子の帰還を祝福して。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「クルス、何が見える?」
その様子を、少し離れた所で穏やかな顔で僕は眺めていた。クルスは、相変わらず読めない表情で、ただじっと彼らを見つめ続けると、やがてポツリと呟いた。
「やっぱ勝手だなーと」
「はは、そっか」
「でもさ」
「うん?」
「嫌いじゃねーわ」
「……それは良かった」
クルスはぶっきらぼうに言って、僕は満足気に頷いた。
ちなみに、僕らがしていた『賭け』というのは、今みたいな、それこそ自分たちが死ぬような状況に置かれても、尚ルーンさんの事を助けると言ってくれるかどうか、主な点はそれだけのことだった。けれど、失敗した時はそれはルーンさんの犠牲がより確実な未来にしていただろう、賭けるにしてもかなりハイリスクな目にベットするような真似をしていた。その他にも、色々と大きな問題を残してはいたが……。
「まぁでもさ、正直ホントに危ない橋ではあったんだよね……。僕の作戦で二、三十人は死ぬー、なんて話をしておいてさ、信じてもらえなかったらそれまでだし、どういう作戦かなんて訊かれでもしたら終わってただろうし……」
「グダグダじゃねーか」
「う……ぐうの音も出ません……」
「ご都合主義な世界に感謝だな」
「……メタじゃないよね?」
「何のことやら」
っと、無駄な事を考えるのはよそう。ルーンさんは殻を打ち破り、ようやくスタートラインに立てたんだ。なら、後はゴールに向けて突っ走るだけ。急ごう。もうそれほど猶予は無いのだから。
「カイト様!! クルス様!!」
僕らは次の行動に移ろうとして、しかしそれは淫魔達の輪を抜けだして駆け寄ってきたラウゼルさんによって止められる事になってしまった。
「ラウゼルさん。どうかしましたか?」
「いえその……お二人には、なんとお礼を言ったら良いのか……」
「あーダメダメ。そういうのは全部終わってからだっての。それにオレ様達特になんもしてねーし」
至極最もなことを言って、クルスは頭を下げようとするラウゼルさんを止めた。ラウゼルさんはしかし、と不満そうにしながらも、僕の言葉を聞いて納得して引き下がってくれた。
「クルスの言う通りです。これからが本番ですからね」
「……はい」
力強い光を灯した瞳で、僕らを見据えるラウゼルさん。それが僕には少しばかり眩しすぎて、思わず瞼を薄く閉じてしまう。
「それじゃあ、ラウゼルさん、いえ、皆さんに一つお願いがあるんですが、良いでしょうか?」
「なんなりと! 我々、既に命を賭す覚悟も終えております。お嬢様を救うためであれば、どのようなこともさせて頂く所存です!」
「頼もしい限りです。それじゃあ、淫魔の皆さん総出でフィルストライトの採掘、加工をして下さい。時間が許す限り、最大限の量を」
「はい! ……は?」
意外そうに、ラウゼルさんは鳩が豆鉄砲を食らったように目をパチクリとさせ、僕の言葉を疑った。けれど、僕は至って真面目な話をしたわけで、確かに僕は『命を賭けろ』だなんて言って挑発まがいのことをしてしまったわけだが、僕が誰かに命を賭けろとか、そんな事を言えるほど度胸のある人間に見えるのだろうかチクショーめ、と心のなかで少しばかり逆ギレをしてみる。
しかしあんなことを言った手前、そう取られてしまうのも無理からぬ事だ。身から出た錆、甘んじて受け入れることにしよう。僕は気を取り直して、ラウゼルさんを正面から見据えた。
「お願いします。まだそれが有効な一手になるかは分かりませんが、現状打てる最善手です。それ次第では、結果は大きく変わってきます。なのでどうか、よろしくおねがいします」
「!! わ、わかりました!! 大至急取り掛からせて頂きます!! それで、カイト様達は何をされるおつもりで?」
「え? 僕達ですか? そうですね、現状では打つ手無し、八方塞がりですので」
ラウゼルさん達淫魔にとって、そんな不吉極まりない事をけろりと言ってしまった僕。しかし青ざめるラウゼルさんに気付かずに、僕はクルスと目を合わせて、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「なので、八方の内、一方くらいは突破口を開けられたらなぁと」
言いながら、僕は左手首に輝く石、『証明石』を指差した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!! ブクマ等々もありがとうございます!!
いよいよ二章も終盤戦ですが、やべぇよ……リアルが謎の忙しさを見せている……。
皆様には大変申し訳無いのですが、投稿ペースが早くても二日に一話とかその辺になってしまいそうです……本当にスミマセン……。最低でも週一ペースは維持したいと思います……。
というわけでして、今後の更新は気長に待っていただけたらと思います……。ホント皆様申し訳ないです……。