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第41話 犬耳姉御と湯けむり事案

こんなアホみたいなミスするなんて……と思いながら頂いた指摘を元に修正をさせていただきました……今後も気をつけていきたいと思います……。すみません……。


あ、ブクマもありがとうございます。何ですか皆さんは? そんなに嬉ションする私……見たくないですね。ごめんなさい。


 屋敷に戻り、夕食中もかなり上の空だった僕は、ルーンさんに何を訊かれても生返事しか返さないことや、ルーンさんに心配を掛けてしまったことを度々フラァルさんに怒られ、その都度彼女に謝罪していた。しかし、一向に態度が変わらない僕にとうとうルーンさんもフラァルさんも首を傾げて怪訝そうにすることしかできなくなっていた。僕も、今日の料理もさぞ美味しかったのだろうが、味は殆ど覚えていなかった。


 夕食を終えた僕は、屋敷の端にある大浴場でお風呂を頂いていた。僕の長風呂は先日の一件で判明したので、二人にはもう既に入ってもらっていた。なので今はある程度気兼ねなくお風呂に浸かれる状態となっているわけだ。いつもの僕ならば喜んでいたのだろうが、今はそんな元気もなく、ぶくぶくと泡を吹きながら身に沁みる温度のお湯に身を任せ、ただぼーっとしていた。


「カイトー」

「ブクブクブク……」

「どうしたんだよ?」

「ブクブク……」

「おっかねーねーちゃんの事か?」

「…………」


 クルスに図星を突かれ、僕は何も言えなくなってしまった。別に、何が気になっているというわけではないし、フラァルさんと僕はそんなに親しい間柄などではないということだって自覚している。けれど、それでも漠然と、何故か気になって仕方が無かったのだ。


 胸のモヤモヤが晴れないまま、またぼーっとし始めて頭を沈めようとする僕。丁度その時、外がドタドタと騒がしくなった気がした。


「? クルス、今何か聞こえなかった?」

「んにゃ? なんも」


 僕よりも遥かに周囲に敏感なクルスがそういうのだから、恐らく僕の気のせいだろう。そう思い直して、僕は気晴らしに冷水にでも当たろうかと浴槽を立った。その時だった。


「オラァクソ野郎!! どこだァ!!??」

「ひぃぃぃいいいいいいいい!!??」

「んー? ……んー」


 借金の取り立てに来たヤクザのように、勢い良く扉が開け放たれながら、指でも詰められてしまうのかと本気で思ってしまうほどの声での罵声が浴室内に響き渡る。僕は当然ながら心臓が飛び出るかと思うほどびっくりし、クルスはと言えば何だお前かとでも言うように、我関せずと再びお湯に浸かり直した。


「ふ、フフフフフフフラァルさん!?」

「ア!!?? 何気持ち悪い笑い方しながらアタシの名前呼んでんだ!!?? 喧嘩売ってんのか!?」

「笑ってませんし喧嘩も売ってませんしそもそも僕もまだ入ってます!! もう一風呂入りたい気持ちはよくわかりますのでもう少し待っててもらえるとってか待っててくださいよ!?」

「テメェと一緒にすんじゃねぇ!! 二度風呂なんざ要るかってんだよ!!」

「じゃあ何しに来たんですかー!!!!」


 わけも分からずフラァルさんにブチ切れられながら、ズンズンと鬼の形相で歩み寄ってくるフラァルさんに対し申し訳程度に腰布を巻いて隠すべき場所を隠す。しかし、フラァルさんはむんずと僕の首根っこを掴むと、そのまま浴槽から引っ張りあげ、洗い場の椅子に乱暴に腰を下ろさせられた。


「ふざけんじゃねぇぞ!! 何でアタシがテメェの背中なんざ流さにゃならねぇんだよ!!!!」

「えぇ!!?? なんで僕怒られてるんですか!!??」

「知るかよ何もかんもテメェが悪いんだ!! そら! んなモン巻いてねぇでとっとと座りやがれってんだ!!!!」

「うわわわわわ!! ちょちょちょちょっと!!!!」


 理不尽な怒りを僕にぶちまけながら、フラァルさんは次に僕から最終防御壁である布を外そうと掴んできた。


「あんだよ!! 抵抗なんざしてんじゃねぇ!!」

「だだ、ダメですぞ!! 一応僕男なんです故、女性であるフラァルさんにこんなもの見せるわけにはゆかぬのですぞ!!!!」

「ハッ!! フニャチンがいっちょ前にアタシの心配たぁいい度胸じゃねぇか、よっ!!!!」

「キャーーーーー!!!!!!!」


 しかし、僕の抵抗も虚しく、フラァルさんの怪力に引っ張られ、僕の最後の砦は虚しく宙を舞うこととなってしまった。あぁ……色々とさようなら……。これで僕はもう、お婿には行けません……。お父さん、お母さん、不出来な息子をお許し下さい……。


「諦めんのはまーだはえーなー」

「ハッ!? その声は――――って何やってんのクルス!!!!」


 クルスの思わせぶりな台詞に、一縷の希望を見出した僕。しかし眼下に広がる光景を見ては、そうツッコまざるを得なかったのだ。


 確かに、僕のモノは白日の下へは晒されず、フラァルさんという一人の女性にモノを見られるという事はなかった。代わりに僕の腕から身体を伸ばしていたクルスが、ソレを隠してくれているからだ。


 しかしその隠し方が問題だった。クルスは形状を小型のクルスバンカーに変えて、それをケースにするようにして僕のモノを格納してくれていた。しかし、先端がえげつない形になっている以外は、クルスの色合いといい、完全に『アウト』だった。そして続くクルスの言葉もまた、完全に『アウト』だった。


「カイトの真似ー」

「クルスゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!!!!!!」

「テメェらいい加減にしろやオラァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!」


 この夜のフラァルさんの咆哮は、全ての淫魔達の耳に入っていたという。久々に聞いたフラァルさんのマジギレシャウトを、村の人々は感慨深そうに聞き入っていたというが、それが僕らの耳に入るのは、暫く経ってのことだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 結局、僕――いや結構理不尽だけども――とクルスはフラァルさん直々にゲンコツを頂き、深く反省の意を表する共に頭に大きなコブを作りながら二人揃って涙目になっていた。なんかデジャヴを感じるなぁと考えるも、フラァルさんはそれ以上叱りつけるようなことは決してせず、何故か僕の背中を流してくれていた。一応既に洗い終えた後だったが、取り付く島も無かったので、僕は彼女のなすがまま、じっとすることにしていることにした。


 後は、何故僕が入浴中であるにも関わらず彼女が突入してきたのかを聞くと。


『遅ぇ。あとお嬢様に言われたからだ』


 とのことだった。何となく声がどもっていたような気もしたが、きっと風呂場の環境のせいで声が反響してそんな風に聞こえたんだろうということで納得することにした。


「ったく、昨日も思ったがお前、何処をどう洗ってたらこんなに時間掛かんだよ」


 悪態を吐きながらも、しかし丁寧に、最適な力加減でゴシゴシとタオルを擦り付けてくれるフラァルさんに、僕は申し訳無さそうに笑った。


「あはは……ごめんなさい……。洗うのはすぐなんですけど、その……お風呂が気持ちよくってですね……。すぐ出るのは勿体無いかなぁと……」

「それであの長っ風呂か。なら、アタシがここに来なかったらどれっくらい入ってるつもりだったんだ?」

「えーと……どうでしょう? たまーに気持ち良すぎてお風呂で寝ちゃうこともあるので、長い時は四時間位入ってたことも……」

「アホかお前」

「はは……すみません……。好きなんですよ、お風呂」

「ま、アタシらに迷惑がかからねぇんなら何でもいい。あそこまでお嬢様が気に入るとは思ってなかったし、それに確かにお前らには借りがあるわけだからな。おし! オラタコ助! 身体寄越しな。洗ってやるよ」

「んお? ほーい」


 バシンと僕の背中を勢い良く叩いて、フラァルさんはクルスを呼び寄せた。


「おほ、おほー。きもちいー」

「そうかい、良かったな」


 フラァルさんの邪魔にならないよう、クルスが上機嫌にニコニコと眼で笑顔を作りながら、くねくねと踊るように動く。フラァルさんも、そんなクルスにまんざらでもない薄い笑顔を浮かべて、優しく、ゆっくりと腕を動かしていた。


 こうしてみると、ラウゼルさん達が言っていた悪い人ではないという言葉の信憑性が高まる。きっと、結構世話好きだったりするのかも知れない。そんなことを考えながら、洗われるクルスを見ていると、ふとある物が目に入ってしまった。


 フラァルさんの腕。柔らかそうなスベスベとした薄い褐色の肌にいくつも見える、古傷の痕。


『元は奴隷だったとかで』


 ふとそんな言葉が脳裏を掠めた。が、そんな僕をピシャリと咎めるように、フラァルさんが冷たく言い放った。


「人の許可無く肌を見るたぁいい度胸だな? ガキんちょ」

「べ、弁明のしようもございません……。すみません」

「ハ、別に。見られて困るような大層なもんでもねぇよっと。ホラ。タコ助終わったぞ。後は適当に流して上がってきな。あんま長風呂すんじゃねぇぞ?」


 それだけ言って、自分の持ってきた布に付着した泡を洗い流すと、フラァルさんはスタスタと去っていってしまう。しかし、それは納得行かない。より正確にはいくつかの事で納得が行かず、僕はややムキになってその場からガバッと一気に立ち上がった。


「ちょ、ちょーっと待ったー!!!!」

「いんっ!? っるせぇな、何だよ」


 僕があまり大きな声を上げすぎたせいか、ちょっと可愛らしいなと思ってしまう声を上げながら、次の瞬間には前も隠さず苛立たしげな声を視線を僕に叩きつけた。


「七対三です!!」

「は?」


 言いながら、僕は彼女に近付いていく。七対三とは、僕を尻込みさせる要素の割合だ。三は彼女の威圧感。七は、湯けむりに隠れきれず時折見えそうになってしまう女体の神秘達だ。


 勝手にDT総代表を名乗らせて頂きたい僕にとっては、その七はあまりにも驚異的すぎた。しかし、個人的に納得が行かないという思いだけで、僕はその七を乗り越えるのではなく無視することにしたのだ。七をどうにかできるならば、残る三をどうにかするのだって容易いと、自分でもよくわからない理論で心を武装して、僕はフラァルさんの腕をガシっと掴み、洗い場まで引き戻した。


「うわっ!! ちょ、おい!! なんだってん……だよ!」


 半ば無理矢理に椅子に座ってもらうと、噛みつかんばかりの険相でガルル、と唸り声を上げてくるフラァルさん。しかし僕もそこで怖気づくわけにも行かず、ピッと人差し指を押し当てて、喚き散らそうとするフラァルさんを抑える。


「いいですか? 僕はまだフラァルさんにお礼をしてません!」

「おー、オレ様もー」

「はぁ? 何のだよ」

「身体を洗ってくれたことについてです!」

「あぁ? そりゃ別に気にするこっちゃねぇだろ。アタシは言われたからやっただけだ」

「だまらっしゃい! どう捉えるかは僕らの自由だと思うんですそうなんです!」

「そーそ。まーこうなったらコイツ梃子でも動かねぇから、大人しく恩返しされてろって」

「わっ!? お、オイ!?」


 言い終える前に、クルスはしゅるしゅると彼女が動けなくなるように腹回りのあたりをホールドし、布を使って彼女の腕を洗い始める。僕も、先程してもらったように、彼女の古傷だらけの背中をゴシゴシと洗い始めた。


「かかか痒いところはございませんかー?」

「せんかー?」

「はぁ……何なんだよお前ら……。てかガキんちょ、お前は恥ずかしがるくらいならやるなっつーのに……」


 僕らの行為を、奇行と見たか。フラァルさんは結局クルスのホールドに抗うのも面倒くさいと諦め、今度は逆に彼女が僕達にされるがままとなっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そんなこんなで、フラァルさんに対する恩返しを終えた僕らは、再びお風呂に入っていた。もちろん、フラァルさんも一緒だ。浴槽にはマナー的にも布を入れることが出来ないので、僕らはお互いに素っ裸。クルスもいやん、なんて言いながらくねくねしていたが、彼は常時全裸のようなものなのではないのだろうか? いや、細かいツッコミはするまい。ていうかクルス、実は結構恥ずかしがってるだろキミ。


 最初はある程度お互いの距離が離れた位置でお湯に浸かっていたわけだが、途中からフラァルさんが挑戦的な笑みを浮かべてちょいちょいと指で近くに来いよと挑発する。流石にそれは不味いとは思ったのだが、「触れるまでしておいて、見るのが怖いってのは道理が通らねぇよなぁ?」なんて言われてしまってはぐうの音も出ない。僕は諦めて立って、は流石に不味いので、泳ぐようにして彼女の元、隣へと移動した。


「あん? 何でそんなに顔赤くしてんだよ?」

「や、だ、だだだだってお互い裸で……」

「裸っつったってよぉ、お前のナリはアタシの好みじゃねぇし? お前だって好きゃしねぇだろ? こんな薄汚ぇ身体」


 自嘲気味に、フラァルさんはその傷だらけの腕を湯から出して見下ろしていた。そんなフラァルさんに、僕はカチンときて、先程までのムカムカが再度燃焼を始めた。


「そう、フラァルさん! 僕はそれも怒ってるんですよ!」

「は?」


 僕が眉間にしわを寄せて、なけなしの威圧感で彼女に詰め寄り、そしてそっとその手を取った。


「フラァルさんは綺麗です! 汚くなんかありません! 古傷だって立派なチャームポイントで、僕の世界の一部の男たちにとってはそれは魅力足りえるんです! それに分かってますか!? それ以外にもフラァルさんは犬耳犬尻尾、褐色に男勝りな口調なんていう、『萌え』ポイントをいくつも持った十分ヒロイン狙えるキャラなんですよ!? いいですか? 超可愛いんです!!」

「は、はぁ!? 何言ってんだわけわかんねぇよ!! モエだの何だの意味の分からねぇ話すんじゃねぇ!! それに、こんな身体が綺麗だと!? ありえるわけねぇだろ!! 女として綺麗な肌ってのはなぁ、お嬢様みたいな肌のことを言うんだよ!!」

「あーもうわからない人ですねぇ!! じゃあ傷口しゃぶらせて下さい!! 全部!!」

「はぁぁぁ!!?? 何だ!? 何でそうなったんだ!!??」

「おー、飛ぶ飛ぶ」


 お風呂のせいか、やけにヒートアップしてしまった僕は、自分でも不味いんじゃないかと思うほどの訳の分からない事を口走ってしまう。しかし、ここまで来てしまっては後には引けないし、異世界セクハラ実行犯になることを覚悟の上で、ノリと勢いに任せて強行突破するしか無い。そう考えた僕は、僕らのことなどどこ吹く風であるかのように装い、恥じらいを隠すために風呂場で水鉄砲を作り遊ぶクルスを横目に、赤くなり始めたフラァルさんを更に捲し立てた。


「汚いと思うものを積極的に口にする人間なんて居ません!! いいですか!? しゃぶりますよ!? 夜な夜な悪夢でうなされるぐらい徹底的に、全ての傷がふにゃふにゃになるまで!? ジュルジュルしゃぶっちゃいますよ!?」

「オイタコ助!! お前の相方が変な方に走ってんぞ!?」

「あー、カイトなぁ、変なスイッチ入っちゃってるしムリムリ。オレ様も止めらんねー。それにオレ様も別に傷がどうこうとか思ってねーし、ねーちゃんも綺麗だと思うから止める気もねーし」

「何なんだよお前らァ!! わかったわかった認めるよ!! 別に汚くなんてねぇ!! だからしゃぶんな!! 放せっつの!!」


 本人からの言質も取れ、今にも本気で吸い付こうと口を開けて顔を腕に近づけていた僕は、一瞬呆けたように赤面するフラァルさんを見上げ、すぐ満足気に彼女の腕を解放した。一方フラァルさんはと言うと、どっと疲れたように浴槽の淵に頭を載せて、呆れたような声を漏らした。


「ったく……何なんだよお前らは……」

「そ、そんなに言うこと無いじゃないですか……。確かにちょっとやり過ぎちゃったかなぁって反省はしてますけど……。いや訂正します。やり過ぎてます! 女性の肌に吸い付こうなど、紳士(DT)の風上にも置けぬ所業!! 大変申し訳ございませんでしたが、しかしながら御身が汚い等とは到底認め難くありますです!! どうか!! 何卒!! エクスキューズミー!!」


 言いたいことがまとまらず、やはりのぼせてしまっているのかまたも意味不明な言動を取る僕。しかし何となく言いたいことは伝わったのか、フラァルさんはまたほんのりと頬を赤らめながら僕の方をじとりと見た。


「ど、どうかしましたか?」

「…………っはぁ~。自覚なしか」

「はい?」


 参ったと言わんばかりに手で額を押さえると、フラァルさんはクルスに問いかけた。


「オイタコ助。お前の相方、何人の女を泣かせてきたんだ?」

「ちょっ!? 人聞きの悪い事言わないでくださいよ!?」

「オレ様が知るだけでコイツの師匠の冒険者一人と、全統神。だがオレ様の見立てじゃもう一人か二人は泣かしてるなこりゃ」

「おいそこのゆでダコ!! 勝手で余計で有る事無い事言うんじゃありません!!」

「何だそりゃオイ!! タコ助!! 神を泣かせたっつったか!!?? 面白ぇ!! もっとよく聞かせろ!!」

「おー、いいぜいいぜー」

「やめてよ!! やめてくださいよ!!?? 僕が女の敵にされちゃうやめてぇ!!!!」

「あれはまだカイトがオレ様の膝くらいまでしか無かった頃だなぁ」

「一気に三つくらいツッコまなきゃいけないような適当言ってんじゃねぇですわよこの捏造触手野郎!!!!」


 フラァルさんは野次馬根性で眼をキラキラさせながらクルスの妨害をしようとする僕を妨害し、クルスが話を暴走させてしまうのを許してしまった。なので、僕からも観念して僕らの素性を話すことに決めた。もちろん、僕も自省を兼ねて、フラァルさんやクルスにも、正確に泣かせてしまった女性の人数や、回数に至るまでをキッチリと話すことにした。


「だーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!! こいつは傑作だ!!」

「カイト……女の敵は嫌いでも、お前のことは好きだからな……」

「何でだろう……涙が血の味がする気がする」


 僕はほぼ正座で、ドン引きするクルスと膝をバシバシと叩いて大層愉快そうに笑い飛ばすフラァルさんの板挟みに遭っていた。流れる涙は、きっと血でできていたに違いない。


「ひー……。しっかし、あの『青狼』を何回も泣かすたぁなぁ……。おまけにゼニアグラスに体罰かまして泣かせるたぁ。ハハッ、お前の評価、改めねぇとなぁロクでなし?」

「うう!! 生きててすみません……!!」


 カラカラ愉快でたまらないと消沈する僕の頭をバシバシ叩きながら笑い続けるフラァルさん。そんな彼女に、流石に僕もいい加減ムッとして、ほぼ衝動的にその話題を振ってしまっていた。


「ぼ、僕だけじゃあ不公平です!! フラァルさんもしてくださいよ、自分語り……」

「んー?」


 言って、僕は少しだけ後悔してしまった。フラァルさんの笑顔が薄れ、未だに残るその微笑は、虚しさと寂寥感を湛えていたから。けれど、僕を見下ろして鼻を鳴らす。ただ、興味本位とはまた違う何かに後押しされて、僕は更に一歩彼女の内側へと踏み込んでしまった。


「その……元は奴隷だったと……」

「…………誰から訊いた?」


 その声に、怒りは無い。あるのは変わらず虚無感と寂しさのみ。そんな普段の彼女からは想像もできないほど、しおらしい声が、滴る雫のように僕の耳を揺らす。


「あ、えっと……」

「いや、言わなくていいや。どうせルシエラんトコだろ。口の軽い嫁に、何処か抜けた夫。あいつらくらいしか考えられねぇわ」


 その予想は見事なまでに的中しており、しかもその原因まで突き止めている。それは多分、フラァルさんがしっかりとこの村の淫魔達の事を見ていたからで――――。


 すぅ、と息を吸うと真剣な眼差しで僕を見たフラァルさんは、その瞳に威圧感も込めながら、僕を射抜く。僕はお湯に使っているというのに、胃に氷柱が刺さったような、そんな感覚に見舞われていた。


「いいか。この話は他言無用だ。もし誰かに、特にお嬢様には知られたかねぇからな。もし話そうもんなら――――」


 その時は最悪殺す。一切遊びのない瞳が、言外にそう告げていた。けれど、その程度の事であれば問題なく守れそうなので、僕は自分に危害が及びそうもないことに安堵しながら、笑顔で答えた。


「はい。もちろん言いません。自分の過去なんて、自分で言わなきゃ意味がありませんから。ね、クルス」

「お前まだ根に持ってるだろ。けどまーそうだな。カイトの言う通りだ。オレ様も他言したりしねーよ」

「は。食えない奴らだなホント。まぁいい、そんなら話してやるよ。ただ、一つ言っとくがアタシのはお前らのと違って笑い話にもならねぇし、寧ろ胸糞悪くなる話だ。それでも――――」

「お願いします」

「頼むわ」


 今度は彼女が言い終える前に、僕とクルスがほぼ同時に返答する。フラァルさんは呆れた笑いを漏らして、何で話しちゃうかなぁ~なんて言いながら、過去を遡り始めた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!! ブクマ等々もありがとうございます!!


最近執筆する時間帯は午前0時くらいからなんですが、テンション上がっちゃって6時くらいまで書いちゃったりするんですよ?

すると何が起こるって、眠くなるんですよ(当たり前)


はいスミマセン……その通り言い訳です……。細かな点とか、頭の悪いミスとかがあったら、どしどし感想などで教えて頂けますと非常に助かります……。

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