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第40話 淫魔の村での一時

またブクマ増えてきて、嬉しいような怖いような……!

いえ嬉しいです!ありがとうございます!!

 今日も今日とて胃に沁みる昼食を頂き、僕もクルスも大変にご満悦だった。


 その後、僕らはクルスの魔法、特に『クルスバンカー』に使っていた加速用の魔法を行使するために使用していた魔法陣が全てバラバラで、加速の開始時間や加速時間に誤差を生じさせてしまっている――と言っても気付けないほどごく僅かな差異しか生まなかったようだが――という指摘をルーンさんから受けた。クルス被告も「適当にやってた」という自白をしたので、それが事実であることは確認済みだ。


 なので、『エクスプロージョン』、『イラプション』の魔法陣の組み方を幾つかアドバイスしてもらい、ルーンさん監視の元、それらの練習を行っていたのが先ほどまでの事。


 今、僕は適当に外をぶらついていた。というのも、途中まで僕らの魔法を見てもらっていたが、フラァルさんが呼びに来て出かけて行ってしまったのだ。「また夕食時に」なんて言っていたので、それなりに時間の掛かる用事なのだろう。


 さてどうしたものかと思案した結果、流石に森に出たら散歩で死が確定しそうな気がしたので、村の中を歩くことにした。クルス愛食のはちみつバッタに二人で齧り付きながら。途中出会った子供の淫魔達にも上げてみたが、これも中々好評だった。その満足そうな顔に僕は別にゲテ好きではないという僅かな安心感を覚え、子供たちに別れを告げ、さてどうするかと再び思案にふけっている時だった。


「おや、カイト様、クルス様。お散歩ですか?」


 非常に爽やかな声で、背後から声を掛けられた。振り返れば、そこには薄い紺色の髪をした、長身のインキュバス、ラウゼルさんが居た。


 先日、僕らに特にお礼を言いに来た淫魔の一人で、聞けばヴォイドに拉致され、操られていたのだという。他にも三人程操られていた淫魔が居たが、その間の記憶は全員無いらしく、残念ながら事の真相にはこれ以上近づけそうもなかった。


「あぁラウゼルさん。はいちょっと」

「暇なんだよなー」

「はは、この村には何もありませんからね。申し訳ありません」


 ラウゼルさんは、この村でもかなり若い感じのインキュバスだ。それだけに、風貌のみならず、纏う雰囲気も若々しさに満ちている。整いすぎていると評して丁度いいくらいの爽やかおっとり系イケメン顔も、あざとさというか、幼さが感じられる。


 と、そんな彼が申し訳無さそうに頭を下げると、その時になってようやく彼が引いている荷車の中に転がっている何かに気付いた。


「それは?」

「え? あぁこれですか? 実は私、とある石を掘っていまして、これはその石が掘り終わった後の、言ってしまえば廃棄物ですね。これから捨てに行って、またもう一回掘り出して、今日のノルマは完遂という形になります」


 気さくに笑うラウゼルさん。もしかして、件の結界のあった場所に転がっていた石はこれだろうか? その考えに至ると、僕は嫌な汗が流れだすのを感じていた。大丈夫ですかと心配そうに声を掛けてくれるラウゼルさんに、ぎこちなく笑いながらなんとか返す。


 あまりにも暇すぎたので、何か手伝わせてくれませんかと訊ねると、暫くラウゼルさんは恐縮して断ろうとしていたが、それでも食い下がる僕らにラウゼルさんも折れ、まだ残っている分の廃棄石を載せた荷車を出され、行動を共にさせてくれるという運びになった。そして、晴れて仕事を与えられた僕はといえば――――。


「ふんっ!! ふん~~~~~~!!!!」

「が、頑張ってくださいカイト様!! 少し!! 少し動きましたよ!!」

「んぐ~~~~~~~!!!!」

「カイト。はちみつバッタ食う?」

「い゛い゛~~~~~~~~!!!!」


 載せられた石の重さで、荷車はびくともせず、僕はただその場で顔を赤くするだけという、滑稽極まりない醜態を晒していた。暫くして僕が諦めることになり、代わりにクルスが引っ張ってくれるから、僕が先導するように先を歩けばいいだけになり、結局はただの散歩になってしまった。一方ラウゼルさんはというと、流す汗すらキラめかせて、軽々と僕が運ぶはずだった量の倍以上の廃棄石を積んだ荷車を軽々と引いていた。くそう……この筋力ステータスの差……。これが顔の差と言う奴かそうなんだな?


 違うわと自分の邪念に突っ込みを入れながら、ボリボリとはちみつバッタを食べながら何の苦もなく廃棄石を載せた荷車を引っ張るクルスに恥じらいと申し訳無さを感じながら、それでも食べ過ぎだったのではちみつバッタを取り上げた。残りは夕食後と言うと、しゅんとしていたクルスはすぐに元気を取り戻してくれた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 廃棄場で石を捨てた僕らは、今度は反対方向に位置する、森の中の洞窟の中に入っていった。その洞窟は、全体がお目当てのフィルストライトという鉱石の採掘場所となっているらしい。このフィルストライトを採掘するのは代々ラウゼルさんの家系のインキュバスのみであるらしいが、それでも千年近く掘り進んでいっても鉱石が尽きる様子はほとんど見受けられなかったという。ラウゼルさん一族の見立てでは、最低でも後千年だってずっと採掘できる、との見立てなんだそうだ。


 ラウゼルさんは、普通にピッケルを使って掘り進め、僕はクルスにお願いし、クルスの触手の操作練習と『五感共有』のアビリティを試してみようと、クルスの触手でガンガンと掘り進めていった。人間では味わえない、八本の腕が苦もなく岩を通り抜けていくような、なんとも不思議な感覚に包まれながら、手応えが変わった瞬間にその触手を止める、と言った感じで採掘を進めていた。最初はお目当てのフィルストライトを途中まで貫いてしまうというミスを犯してしまったが、クルスのおかげもあって、数回もすれば段々と僕にも採掘のコツが掴めてきていた。


 それから、必要量だけ採掘すると、僕らはまた荷車を引いて、ラウゼルさんのお宅へお邪魔することとなった。なんでもこの場所こそが、ラウゼルさんの作業場にもなっているらしい。と言っても、ラウゼルさんが行うのはフィルストライトに付着した余計な石を叩き落とし、大き過ぎたらカットする程度とのことらしい。そのままだと尖っていて危ないので、多少研磨は掛けるらしいが。


 そうして、加工の終わったこの石を、淫魔達は外へ持ち歩き、愛用しているとの話を訊いた僕は、この石の使い道について訊ねると、ヘラのような工具と金槌を上手く使いながら、石を綺麗にそぎ落としていくラウゼルさんはにこやかに答えてくれた。肩幅は広いと思っていたが、顕になった上半身は苦境な冒険者もかくやという程のモリモリで、童顔なだけに非常にシュールではあったが。


「あぁ、このフィルストライトはですね。魔力を溜めておくことができる石なんですよ。ただ、それだけなら私たちにはほぼ無用の長物なんですが、妻がこの石に魔法を組み込んでくれるんですよ。魔力を魔力の前段階、生気に還元するための、濾過のような事をしてくれる魔法を、ですね。私達淫魔は、もちろん普通の食事も取りますが、それ以上に人間から頂く生気を主なエネルギー源とします。ですが、私達は淫魔。人間に追い立てられれば、命の危険にさえ晒されます。そんな危険性を可能な限り排する為にこの石を使うんです。生気は食事中にも、吸収できない分は外へ漏れてしまいますからね。それを捨ててしまうのは勿体無いと、この石に吸収させるんです。そうして、今度は外へ出ず、石に溜めた生気を食らう。一度の食事で二食分を稼ごうと言う事で、これを作ったんです。いやぁ、先人の知恵には感謝ですね」

「あ……あの……、生気と言うのは……」

「え? あぁ」


 ラウゼルさんは、不安そうに問いかける僕に、その顔の理由が分かったと、笑いながら僕の疑問を解消してくれた。


「確かに、生気とは生命エネルギーに他なりませんが、別に寿命を食らっている訳ではありません。人は、いえ、人だけではない。全ての生命が何か事を成そうという時や、何かしらの感情が高まった時、そういったごくありふれた事をするだけでも、生気は放たれるのですよ。特に、命の営み、要はセックスですね。これをする時、人間は最も大量の生気を放出します。子供と言ってしまえば大したことは無いと思われるかもしれませんが、何十年と生きる、膨大な生命エネルギー源なのですよ? それを生み出そうと言う時ともなれば、当然それ相応の生気が発生する。私達はそれを食わせて頂く。そして気分が昂ぶれば昂ぶるほど、その量も質も上がっていく。つまりはそれこそが私達が淫魔と呼ばれる所以。どうでしょうか? ご理解頂けましたか?」


 なるほど、確かに理にかなった話ではあった。僕の世界では淫魔は快楽を与える代わりに、寿命を吸い取る、みたいな描写が数多くされていたから、こっちでもそうなのかなと思っていたが、どうやら杞憂に終わってくれたようだった。説明が面倒だったのか何だったのかは不明だが、途中ストレートな物言いをされてしまい、何となく気まずい感覚になってしまったが、ラウゼルさんがけろりとしていたので僕も気にしないように努めていた。流石は淫魔といったところだろうか。


「でもさー。そのふぃるすとらいと……だっけ? を使えばいいんだったら一回掘り出せばいいんじゃねーのか? なんで千年以上も掘ってんのよ?」


 確かに。クルスの言うことも一理あった。けれどそう上手くは行かないのだろう。ラウゼルさんは軽く笑うと、ならいいんですけどねと続けた。


「残念ながらそうは行かないんです。このフィルストライト、魔力やら生気やらを溜め込むまではただの石なのですが、それを取り出すには砕かなければならないのですよ。そして、砕いてしまったフィルストライトは、本当の意味でただの石になってしまう。ゴミになってしまうわけですね」


 少しばかり残念そうに苦笑するラウゼルさん。そんな話を聞いていて、僕はふと、何かに引っかかりを覚えて、「あ」と声を上げる。そんな僕に試験的に形成してみた、『クルスドリル一号』のドリル部分を研磨のためにヤスリ状にした研磨ドリルを止めながら、クルスはこっちを見て、ラウゼルさんもどうしました? と僕の方を見てきた。


「あ、あの~これって……もしかしてフィルストライト……ですか?」

「え? あ~! はい、その通りです!」


 僕が差し出したのは、左腕のバングル、その上に鎮座する極小の身元証明書にして救援信号発信機、『証明石』だ。砕くと十数万ゼニスが吹き飛ぶ魔の石を、まるで日用品のごとくゴロゴロと採掘している場所を見つけてしまった。


 さてここでクエスチョン。今の僕の顔は①これでうまくすれば金儲けができるぜグヘヘ顔、②ルーンさん土地の利権も持ってるだろうから凄まじい資産家でもあるんだなグヘヘ顔のどちらでしょう? 正解は一瞬でも人のお金に眼をくらませるなんてとんだクズだな死ねよ顔でした。皆さん、本当にごめんなさい……。僕は悪い子です……。


「カイト」

「何さ」

「欲望は持っても溺れんなよ」

「…………精進します」

「え? 何の話ですか?」


 無理ないことだが、恐らく人類の扱う物品の価値などに疎いであろうラウゼルさんは、僕の揺れ動いた内心がどれほど乱れていたかを理解できず、ただ僕とクルスを交互に丸めた眼で見やるのみだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 暫くすると、外に出掛けていたラウゼルさんの妻、ルシエラさんが帰ってきた。二人は熱い抱擁と濃密なキスを交わし、ルシエラさんが顔を赤くしている僕に気付くと、これまた手厚い歓待を受けることとなった。しかし、お礼にお礼にとは言っているが、何かにつけてセクハラまがいの事をしてくるルシエラさん。気持ちは嬉しかったのだが、その……ルーンさん以上に『経験者』という雰囲気を全身の色香によって醸しだす彼女の絡みは、童貞の僕には非常に厳しい試練となった。しかも既婚者。イカンぞカイト。フーリンなんてしたら罪深さがカザンになってしまうぞ。


 最終的にルシエラさんは僕が頑なな態度を取るものだから諦めたのか、「お茶くらい」ということだったので、僕もそれくらいならとありがたく頂くことにした。ほんのり温かい、苦味も少ない飲みやすいお茶を飲み干して、十分が過ぎた頃、ルシエラさんが戸惑ったような声を上げた。


「あ、あら? カイトくん、身体はなんとも無いの?」

「へ? はい、なんとも……ありませんけど」

「ルシエラ……もしかして……」

「うーん、人間が飲めばすぐヤッちゃいたくなるくらい興奮する興奮剤と、全身スゴい事になっちゃうくらいの効き目の媚薬、結構大量に混ぜておいたんだけれど……」


 一切悪びれる様子もなく言うルシエラさん。青ざめる僕の隣で、クルスがハイハイと手を上げた。


「なんかヤバイ量の変なの入ってたから、カイトが吸収する前にオレ様が中和しちゃった。そっか、あれ薬だったのか。ゴメンなねーちゃん」


 なんでもない事のように言って、クルスは再びフィルストライトを削りだす作業に戻った。僕もラウゼルさんもルシエラさんも口をぽかんと開けることしかできないでいた。いやもう、このチート触手はホントありがとう。キミのおかげで僕これからも暗殺されずに済みそう。少なくとも毒殺は。


 その後、ラウゼルさんにこっぴどく叱られたルシエラさんだったが、純然たる彼女なりの好意と感謝の表れから来ていた行為であるという話だったので、僕も怒るラウゼルさんを宥め、こういうのは遠慮させてくださいという意志を了承してもらった上で改めて深くお礼を言われた。それから彼女もラウゼルさんが言っていた石に魔法を組み込む作業に参加して、本日のノルマが残り僅かとなった辺りで、ルシエラさんが興味深そうに尋ねてきた。


「カイトくんとクルスくん、今はお嬢様の所で過ごしているんでしょう?」

「え? あぁはい。お世話になってます」

「ベッドフカフカで気持ちいいんだわこれが」

「フフ、でしょうね。どう、あの子は?」

「とてもよくしてもらってます」

「色々話もしてくれたしなー」

「あら、そう。フフ、なら良かったわ」


 ルシエラさんは相も変わらず、妖艶に微笑を浮かべる。けれど、何となく細められた眼の奥に、寂しそうな色が浮かんだような気がして、僕は思わず尋ねてしまっていた。


「あの、ルシエラさん。どうかされました?」

「え? どうしたって、何が?」

「何というかその……寂しそうといいますか……」

「あら、意外ね。バレちゃってたんだ。でも、顔の作り方には自信あったんだけどなぁ。童貞クンの癖にちょっとムカつく♪」

「うっ……ご、ごめんなさい……」

「フフフ、冗談よ。ごめんなさいね、そんなつもりはなかったの。うーん、そうねぇ」


 ルシエラさんは手を止めて、何事か思案するように宙を仰ぎ見た。そして、「この子ならいいか」と一人呟いて、ルシエラさんは語り始めた。


「お嬢様、あの子は、あんまり人と接そうとしないのよ」

「え? そうなん、ですか?」


 寂しそうに告げるルシエラさんの言葉に、僕は耳を疑った。


「この村の、いえ、お嬢様の話は何処まで?」

「一通り、と言って良いのかは分かりませんけど、『契約』なんかの話は……」

「そう……。なら、先代様の、彼女の母親のことも」

「亡くなられたって……」


 ルシエラさんは小さく頷く。そして、過去を懐かしむように目を細め、訥々と語り出した。


「お嬢様は、昔はとても人懐っこくてね。危なっかしいくらいだったの。誰に対しても太陽みたいに笑っていて、まるで小さくなったソニア様のようだった。けれど、そんなあの子は、ソニア様が贄となられて変わってしまった。それまで通り笑いもするし、話しかけたら普通に返してもくれる。けれど、それでも変わってしまったの。どこかよそよそしい感じに、ね。少なくとも、アタシたちに対してはそんな風には接してくれなくなってしまったわ。貴方達のように、気楽におしゃべりしたり、なんて事はね。正直、羨ましいとだって思っちゃうわ」


 誤魔化すように笑って、ルシエラさんはそんなことを言った。ルシエラさんの言っていることに偽りはないのだろう。けれど、同時に俄には信じがたい話だった。昨日の僕らに対するルーンさんの接し方は、ルシエラさんがそんな風に言うようなものだったとはとても思えなかったから。


「ごめんなさい。愚痴みたいな事言ってしまって」

「い、いえ……」

「ふー! 吐くモノ吐いたし、お仕事お仕事! とっとと終わらせてダーリンとお楽しみしたいしね♪ なんなら、カイトくんもどう? なんなら、クルスくんも。歓迎するわよ♪」


 淫靡に口元に指を這わせて、滑らかに僕らの方に差し出された指を順々に折り畳む。行動の一つ一つが男を手球に取れるだけの魅力を秘めているとは言え、真面目な話からいきなりシモな話に持って行かれてしまったというのにドキンとしてしまったのは情けないことこの上ない。


 僕は両手を上げてご勘弁を、とポーズを取り、クルスはクルスで何でもない風を装いながら、しかし右腕がゆでダコのように赤く染め上げられてしまっているので、バレバレである。


 しかし、どうしても気になることが僕にはあった。口にすべきかどうか、一瞬だけ戸惑って、結局は躊躇いがちにルシエラさんとラウゼルさんに尋ねてしまっていた。


「ならその……お二人はあの人のことが嫌いになってしまいましたか……?」


 本音を言えば、あまり訊きたくはなかった。それは二人のルーンさんへの気持ちに土足で踏み入るようなことだと思っていたから。けれど、そんな僕の感情は、軽やかに放たれたルシエラさん達の言葉によって霧散した。


「どうして? アタシ達が、ううん、アタシ達だけじゃない。村の皆があの子を嫌いになる要素、何処にも無いでしょう?」

「だね。カイト様、貴方の尋ねたいことも分かりますし、それを尋ねてしまうのも仕方のないことだとは思います。けれど、如何にあの方が私達から距離を置こうとも、私達のあの方に対する気持ちは変わりませんよ。長として、この村を守るために心を砕いて下さっていますが、例えそれが無くとも」

「それに、なんとなーくあの子がアタシ達を避ける理由も、わかるからさ」

「損な性格だと思いますけれどね。そんなところまでお母様に似ずとも良かったと思いますが、血は争えないということでしょうかね」


 二人はにこやかに、そんなことを話す。彼女がいくら自分たちを突き放しても、心は彼女と共にあると、穏やかに、ほんの少しの恥を含みながら。それはきっとこの二人が、この村の皆が――――。


 一瞬の静寂が流れ、ルシエラさんは唐突に手を叩き、場の空気を一度リセットした。


 「ハイハイやめやめ! それよりもカイトくん。あの人、大変じゃない? 平気?」


 半ば強引な話題転換ではあったが、あの人、と言われてすぐに僕らは思い当たった。多分彼女が言っているのはフラァルさんの事なのだろう。


「あ、アハハハハ……。ちょっと怖いですけど、怒られるときは大抵僕が何かしでかした時なので……」

「ハハ、わかりますよ。確かに怖いですよね、フラァルさん。とても良い人なのですけれどね。私共にも良くして下さりますし」

「そういえば、フラァルさんは皆さんと同じ淫魔族なんですか?」


 思い、そう尋ねてみる。僕のよくわからない、魔種限定『看破』アビリティでは種族まではわからない。ただ、流石に見た目が違いすぎるのと、フラァルさんには淫魔族特有の、人を絡めとるような気配がまるでなく、寧ろ近づくもの全てを切り裂くような、そんな感覚しか覚えられなかったから。


 すると、やや複雑そうに顔を顰めたラウゼルさんとルシエラさんは、まぁいいかと答えてくれた。


「えぇ、そうよ。フラァルは淫魔族じゃあない」

「それじゃあ、何であのおっかねーねーちゃんはこの村にいるんだ? 余所者厳禁みたいなトコだと思ってたんだけどな」

「フラァルさんは、先代様がお連れになられた方なんですよ。何でも、元は奴隷だったとかで」

「え……?」


 ラウゼルさんの最後の言葉に、僕は驚き、声を漏らしてしまった。意味深なため息を吐いたルシエラさんが、その先を続けた。


「私達が知っているのはその程度よ。それに、そんなのは大事なことじゃないわ。今彼女は、私達皆の隣人で、仲間で――――。これだけ分かってれば後は気にする必要なんて無いわ」


 ルシエラさんは僕を諭すように言うと、僕も心のなかに張られた靄が、少しではあるが晴れたような気になれた。しかし結局僕はフラァルさんのことについて色々な事が気になってしまい、どこか上の空でその後の時間を過ごしていた。


 今日の分のラウゼルさん達のノルマが終わった頃、いい具合に時間を潰せたので、夕食のお誘いを「先約があるので」と断って僕は屋敷へ戻る事にした。その間、僕はクルスに話しかけられても終始空返事で、何度かクルスに脇腹を突かれてしまっていた。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!! ブクマ等々もありがとうございます!!


手前の都合で、ちょっと駆け足で書いてしまったのでところどころ修正するかもしれません。申し訳ないです……!


今日から恐怖の研究室生活……しにたい……

というわけで、これから打ち合わせなるものに行ってまいります!次の話以降の更新も、暫くは日刊ペースで進められそうですので、気長にお待ちいただけますと幸いです!では!

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