第39話 教えて! ルーン先生!
今回はちょっと設定(?)の話です!
まだ結構粗が残ってるので、追々調整していきたいと思いますが、概ねこんな感じです……。
ピピ、と端末にセットしておいた目覚ましが鳴る。この音が聞こえて来る度に現実世界での日常が想起されるのだが、瞼を開けるとファンタジーな世界の中にいるというギャップに、未だに慣れというものがやってこない。そろそろ体内時計のような物を作って、これ無しでも起きれるようにしなければ。そんなことを考えながら、右手で瞼を擦った。
「クルス……おはよー」
「おう、おはよー」
「おはようございますわ。その端末、音も鳴るのですね。驚きました」
「あーはい、おはようございます。これですね、時間をセットするとその時間に今みたいなって何やってんですか!!!!」
目が飛び出るかと思うほどの衝撃的な出来事に、僕は一気に左側を向いていた。薄手のネグリジェに身を包んだルーンさんが、僕の隣で添い寝をしていらっしゃられる。これは……あれか。僕はやってしまったわけかってんなわけあるか!!!!
「あら、何と言われましても……クルスと少しでもお話がしたかったので、一緒にベッドに入り込んでお話をしていたのですが……」
「何怒ってんのコイツみたいに言わないでくださいよ!! あ、ちょっと!!!! 今体動かしたら――――」
「あら♪」
「うわぁ……」
暴れようとする僕に抵抗するように、もぞもぞと身じろぎしていたルーンさんの手が、寝起きの男の子の一番触れてはいけないところに触れてしまう。当のルーンさんは実に意味深な笑みを浮かべ、クルスは同情するように小さく呟き、そして僕は顔を真赤にさせて「ぴぃ」と声にならない悲鳴を上げて――――。
「カイトの身体は、朝から既に上も『下』も元気なのですね♪」
「出てってぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
「でてけー」
「やーん♪」
僕は半狂乱になりながらクルスにお願いして、ドアの外の放り出すようにルーンさんを追い出した。家主に対しての礼儀がどうとか、そういう問題ではなかった。僕は暫くの間、「おムコに行けない……」とすすり泣きながらクルスに慰められ、その間ずっと動けないでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「カイト、そろそろ機嫌を直してくださいませんか? ね? 私が悪かったですから……」
「うぅ……酷いよルーンさん……」
僕らの異変を察知したフラァルさんに訝られながらの朝食を終え、僕らとルーンさんは食後の運動を兼ねて周辺の森を散歩していた。結界の影響で霧は濃く、あまり前は見えないが、それでも外を歩くだけでも、いい運動になったりする。ゲームがないこの世界だからこそ、気付けたことかもしれない。
今現在、ルーンさんは今朝の事をまだ根に持つ僕の機嫌を直そうと、あの手この手で迫ってきた。さっきなんか「背中を流して差し上げますから」とか言われ、なんかダメな方向にエスカレートしている気がした。
「んーっ! 分かりましたわ! かくなる上はこの操、貴方様にお差し上げ――――」
「それ一番ダメだから!! もう良いよ分かったよわかりました!! もう気にしませんから……」
「まぁ! ありがとう、カイト」
うん、やっぱりダメな方にエスカレートしていく一方だった。それに僕もどちらかと言えば怒っているというよりは恥ずかしさと気落ちの方が大きかったし、何よりキラキラとした笑顔を見せられてしまっては僕としても許さざるを得ない。現金な話かも知れないが、それぐらい魅力的なんだよくそう。
因みに、村から外に出るときはやはり翼はドレスの上布に擬態化させるらしい。万一にも無い話だが、万が一彼女と外部の存在――人類にせよ魔種にせよ――と出くわした場合、混血故かサキュバスにしては珍しい赤黒い翼を持つ彼女は、それだけで様々な危険を呼び寄せてしまう。そう言った危険を排するための、配慮なんだそうだ。
「提案呑んどけよー。『童貞』捨てるチャンスだぜ?」
「あのねぇ……こういうのは適切なプロセスを踏んだ上でだよ? お互いの気持ちってやつを確かめ合ってですねぇ……」
「あら? 私、カイトの事は憎からず思っていましてよ?」
「そこ、自分の好意と貞操を大特価バーゲンセール対象商品みたいに軽く言わない」
「ハゲー?」
「バーゲンつってんだろ!! 誰がハゲか!!!!」
聞き慣れない単語に、きょとんとするクルスとルーンさん。けれど、僕の言葉に偽りはない。僕らが大人の階段を上るには、プロセスが最も重要なんだ。重要なの!! それに僕はハゲではない!! ちょっと抜け毛は気になるけれど、断じて!!
「にしても、おっかねーねーちゃん何処行ったんだ?」
唐突にクルスが疑問の声を上げる。僕らが散歩に行くと言った時、てっきりフラァルさんもついてくるものだとばかり思っていた。けれど、「野暮用がある」とかなんとかで僕らにルーンさんを任せて一人で何処かへ行ってしまっていた。もちろん、僕らに対して「下手な真似をすれば殺す」という凄まじい眼光を浴びせた上で、だ。
「あぁ、湖の方ですわね。昔私と母とフラァルの三人で行っていた小屋があるのですが、定期的にお掃除をしに行ってくれているのですよ。私もお手伝いしたいのですが、フラァルが中々許してくれなくて……。もうかれこれ二百年は行っていませんわね」
「にひゃ……」
何でも無いことのように言っているが、そのスケールの大きさに僕は閉口してしまった。やはり魔種は一個体が強い力を秘めているというだけあって、人間とは比べ物にならないほど寿命が長いのだろう。淫魔族に関してはほとんど人間と言っていい程の姿形をしているものだから、その感覚も曖昧になってしまうが。
「んー? ルーンはいいのか? 行けなくて」
「そうですわねぇ……」
クルスは何かとルーンさんに対して言葉を掛けている。昨日の夜クルスにルーンさんとお話してくるよう提案したのは僕だったが、こうしてみるとどんな話をしたのか気になるところではある。けれど、クルスのそういう『変化』とも言えるものは、きっと悪いものではないだろうと思えるので、今は何も言わないでおこうと思う。
「まぁ、少し寂しくはありますけれどね。でも、フラァルの考えていることもわからなくはありませんし、ここは彼女の気持ちを尊重しようかと」
「ふーん。そっか」
それだけ聞いて十分だと、クルスは再び口を噤んだ。サクサクと雑草を踏みしだく音だけが周囲を支配して間もなく、ルーンさんは難しそうな声を上げた。
「しかし、それにしてもクルス、いえ、この場合カイトでしょうか?」
「「はい?」」
唐突な声に、僕はクルスとハモって返事をした。するとルーンさんはクルスの方を見つめて、その先を続けた。
「いえ、昨日の戦闘なのですが、見たこともないような形に変形していましたわね? あれはひょっとして、カイトの世界の?」
「あぁ、はい。本当は僕の世界にも無くて、クルスなら実現できるかなって」
「いやー、震えたわ。最初に聞かされた時は」
「「ねー」」
男の子な僕たちは、ロマン武器の話題になってわいのわいのと盛り上がる。しかし、やはり男と女というのは相容れないものなのか、訳がわからないと口をへの字にするルーンさんは、おほんと僕らが展開し始めた世界から僕らを引っ張りだした。
「えーと。つまりはクルスが魔法の発動まで行っているということでしょうか?」
「おうよ。なんか使えるみてーだから使ってみた」
「うーん……やはり不思議な触手ですねクルスは。いえ、今は置いておきましょう。気になったのは、貴方の魔法の『陣』です」
「んー?」
「陣?」
聞き慣れない単語に、僕はクルスと一緒になって首を傾げる。ルーンさんは、まさかと怪訝そうな表情で、僕らを問い質す。
「あの……お二人は魔法についてはどの程度まで?」
「あ、あはは……。教わりはしたんですけど、教えてくれていた先輩冒険者があんまり魔法を使えないっていうのと、僕が魔法適正を持ってないので……、軽くしか」
「オレ様、記憶喪失」
「なるほど……それでですか……」
ルーンさんは無理した笑顔を向けながら、頬杖をついていた。すると、仕方がないといったように小さく息を漏らし、両手を合わせた。
「では、よろしければ私が指南させて頂こうと思いますが、如何いたしますか?」
「おー、是非是非ーセンセー」
「僕もお願いします!! 先生!!」
「はい、喜んで♪」
というわけで、きっとテレビ番組の企画の一つとして名付けるならば『教えて! ルーン先生!』みたいな名がついたであろう空気が、その場に流れ始める。ルーンさん……先生も楽しそうなので、何よりだ。
「ではまず魔法のお話をするまでに、魔力属性のお話をする必要がありますね。冒険者のカイトくん、わかりますか?」
「はい! よくわかりません!」
「はい、内容は大変よろしくないお返事、元気があって大変よろしい♪」
「いやどっちだよ」
ルーンさんもノリノリなようで、そのテンションにクルスが思わず突っ込みを入れたが、軽くスルーしてしまうルーンさん。なるほど、中々にタフだ。
「いいですか、この世界には『火』、『水』、『風』、『土』、そして特殊な『天』という、五つの属性の魔力が存在しています。これらの魔力と、詠唱、あるいは魔法陣を媒介として生み出される特殊な力、それが魔法です。この世界に生きる者は必ずその身に魔力を宿しています。そうですね、生命の源泉とも言い換えて良いでしょう。そして、体内に流れる魔力は、必ず何かしらの属性を持ち、これを魔力属性と言います。と言っても、これそのものにそこまで大した意味はありません。水の属性を持った者は、水属性の魔法しか使えないということはありませんから。わかりやすく言えば、魔力属性は自分の得意な魔法の属性、系統はどれか、という一種の指標ですね。ここまでで何か質問は?」
「ハイ!!」
「はいクルス君早かった♪」
笑○かよ。
「特殊なその……『天』属性? ってーのは何なんだ?」
「『天』属性は……そうですね。先程も話した火、水、風、土の四属性、これらは相剋の関係にあります。火は風に強く、風は土に強く、といった具合ですね。しかし、実はこれも例外があったりします。冒険者で言えば、赤以上、紫級の実力を持ったソーサラーともなれば、流石に敵の攻撃まで利用できるかは不明ですが、相克関係にある火属性と風属性を融和させ、相乗効果をもたらす事も出来ますからね」
「? すみません、その赤とか紫って何なんですか?」
「あら? ご存知ないのですか?」
僕の質問に、ルーンさんはやや驚いたような調子で尋ね返す。なにそれ、一般常識だったりするのだろうか? 僕はコクリと頷くと、ルーンさんは掻い摘んで説明してくれた。
「冒険者の強さ、名声。要は冒険者の『格』を表すためのものです。五段階に色事に分けられていて、低ランクから緑、黄、青、赤、紫という並びで、一般的に緑は駆け出し、黄で一人前、青となれば十分一流で、赤はそれ以上の実力者という具合だそうです。これはフラァルからの伝聞ですので、詳しくは彼女に訊いていただきたいのですが……」
「そ、それじゃあ紫は……?」
何故かはぐらかされたように、一般的な紫級の実力の話がなく終えられそうになり、余計に気になってしまう。僕が追い打つように訊ねると、ルーンさんは誤魔化すように笑みを浮かべて、観念したように吐露した。
「一般的……と言いますか……逸般的と言いますか……」
ねぇ今凄い当て字されなかった?
「とにかく、紫級の冒険者、というか人類は、はっきり言えば『人外』です。英雄一歩手前、あるいは同等であると、世界に認められた化物達。フラァルも直に一度会ったことがあるそうですが、彼女曰く、『何で人間の皮なんて被ってるんでしょうか?』だそうですよ。冒険者の総数は二万人程度と言われているそうですが、紫ランクの冒険者は二十人に満たないとか……」
「……ウワー」
「カイト……口が固まってんぞ……」
何というか、僕の中の大地が割れる程の衝撃を受けて、全身に嫌な汗が流れ始める。確かに、化け物じみて強いとは思っていたが、本当に化物認定された人だったとは……。しかも僕、そんな凄い人のことを『可愛い』とか言っちゃってるんですけど!? え!? もしかして次ユーリさんに顔見せたら僕死ぬんじゃないの!?
辛い現実から逃げるように、視界をホワイトアウトさせる。けれど、そんな僕の都合はお構いなしに、ルーン先生はこほんと上品に咳払いをして話題の方向性を修正した。
「少し話が逸れてしまいましたね。それで、天属性の話でしたわね。えぇ、天属性には、先程言った四つの属性に対する不利がありません。寧ろそれらの属性に対して同等、あるいは優位に立てます。しかしこれは神族であればほぼ有していますが、魔種は絶対に発現せず、人類もごく一部、それこそカイトのように『英雄候補』認定をされた人類、その中でも一握りの人間だけが所持していると、聞き及んでいますね」
「あっ、分かります。RPGとかで言う光属性とか、その辺りですね!」
「? そのあぁるぴぃじぃというのが何なのかは分かりかねますが、カイトが理解できるならそのイメージでいいと思いますよ」
「お前の世界ってさー、もしかしてお前とおんなじ様にこの世界に呼ばれて帰ってきた奴とかが居たりすんの?」
「あはは、かもしれないね」
あまり笑えないレベルで、僕の世界のファンタジー系RPGの設定がこの世界の仕組みと似通っていることについては、疑問を抱きたくもあるが、今は感謝をすることにしよう。お陰で頭の回転がよろしくない僕でも、どうにか付いて行けているのだから。
「あ、そういえばさっき、魔力属性は魔法の行使自体にはあんまり関係がないって言ってましたよね?」
「ええ。消費する魔力が上下するというのと、制御が難しくなるという問題はありますが、行使するだけであれば問題はありません」
「したらよー、天属性の魔法も普通に使えんのか?」
「いえ、天属性は本当に『特殊』で、天属性魔法は天属性の魔力でしか行使し得ません。そういう厳しすぎる条件を持っていますが、天属性の魔力を持つという条件をクリアするだけで通常の四属性魔法を凌ぐ魔法が、天属性魔法には多々ありますし、それだけに重宝されるのですよ。特異な属性である分、異端視もされる危険性があるようですが……」
少しだけ辛そうに、ルーンさんは目を伏せた。それで彼女の言っている事の本質を理解してしまい、僕も内心複雑な心境になってしまう。誰かと『違う』ということは、それだけで色々な齟齬やすれ違いを生じてしまう。僕がそうであったように、ひょっとしたら、ヴァンパイアとの混血であるというルーンさんも――――。
意図せずして沈んでしまった空気をクルスが読み取って、触手の先から空気を吐き出しながら、プゥ~、なんて間抜けた音を出して場を和ませ、クルスは先を促した。
「んでんでー? 最初の方に言ってた詠唱やら魔法陣やらってのはなんなのよ?」
ナイス過ぎるクルスのフォローに、僕は内心彼に向けて親指をぐっと立てていた。
「あぁはい。そうですね、魔法にも階級がありまして、それらを行使するためにはより複雑な『工程』を、先ほど言った詠唱、あるいは魔法陣を使って踏む必要があるのです。魔法の階級は、この工程数によって定められ、必要工程数が一から四工程までが下級魔法、五から六までが中級魔法、七から八が上級魔法、九から十が最上級魔法といったように。当然工程数が多くなればなるほど魔法の効力は凄まじい物になります。しかし、上位の魔法になればなるほど、習得も容易ではなくなります。例えば、とある魔道書に、十工程魔法の詠唱呪文、あるいは魔法陣が記されていたとしましょう。では、その魔導書を読めば誰でもその十工程魔法を使えるようになるのか? 答えは残念ながらNOなのです」
「? どうすれば使えるかはわかってるのに使えねーのか?」
「大変良い質問ですクルス。ここが魔法を学ぶ上で肝要となる部分です。魔法の習得には、『どうすれば使えるか』ではなく、『どういう使い方をすべきなのか』を理解する必要があります。私達のように魔法に深く携わる者は、この段階を『魔法の記憶を解く』と言っています」
「魔法の記憶、ですか?」
不思議な響きの言葉に、僕は思わず聞き返してしまった。
「えぇ。この世界に存在する魔法は、誰かの手によって開発されたのではなく、概念の一種として世界が生み出された時から存在したと言われています。私達魔法使いは、それらの概念を、必要量の魔力と複雑な工程によって一時的に呼び出しているのです。殆どの第八工程魔法までの記憶の基礎は、大戦時に名を馳せたとある大賢者によって紐解かれました。なので、第八工程魔法までであれば熱心に取り組めば誰でも使う事はできるのです。使いこなす事ができるかどうかは、またその魔法に対する理解の深度によっても変わってきますが。しかし最上級魔法となると話は別。件の大賢者も行使は出来たようですから、理解はしていたようなのですが、誰かに伝えるのが困難を極めたのでしょう。幾つかそれらの最上級魔法に関する魔導書を残したとも言われていますが、それらは禁書指定されたり、紛失したりで、今では一つの伝説にさえなってるとか」
何というか、想像していたよりも遥かに複雑な魔法に関する知識に、僕の頭はショート寸前だった。クルスが冷えた触手を僕の額に当ててくれるのがとても心地いい。
「そうですね。では簡潔に纏めましょう。魔法を習得する上でも、行使する上でも、何より大事なのは『理解』。そして次に大事となるのが詠唱の仕方、あるいは魔法陣の構成。魔法は一つの曲のようなものなのです。例えるなら、詠唱は歌、魔法陣は楽器、と言ったように。どちらを使って行使するかは、その魔法使い次第。魔法に対する正しい理解を深めた上で、最もこれが適していると自分が考える詠唱、陣を以って魔法を行使する。これこそが魔法を行使するものとして最大の壁であり、同時に腕の見せ所なのです。なので優れた魔法使いが二人いれば、その二人が同じ魔法に対して同じ詠唱をすることは、ほぼ無いと言われていますよ」
魔法は曲であると言われ、魔法使いが同じ歌を歌う事はないと、そう言われた瞬間、僕は何だか妙に落ち着いた気分になれていた。寧ろ、不思議とふわふわとした、妙に心地いい感覚さえ覚えている。この世界の魔法は、何というか――――。
「なんか、綺麗ですね」
「……あらあら」
満面の笑みを以って返された言葉は、何故か僕の胸にすとんと落ちてきて、僕は身体の芯から納得できていた。
「因みによー、ルーンはどっちなのよ?」
「どっち、と言いますと?」
「詠唱が得意なのか魔法陣が得意なのか」
「あぁ、私が『詠派』か『陣派』か、という事ですね?」
「ヨミだかジンだかよくわかんねーけど、多分そう」
多分、さっきルーンさんも言っていた、歌を使って曲を奏でるのか、楽器を使って曲を奏でるのかというところだろう。それは僕も大いに気になるところではあるが、しかしルーンさんはケロッとした様子で、結構とんでもないことを口にし始めた。
「両方ですわ」
あっけらかんと、なんでもないことのように、いつもの朗らかな笑顔で。
「はい?」
「ですから、両方ですわ。時間短縮のためにも。私、アビリティのお陰で第七工程以下の魔法は詠唱も陣も無しで行使できますし、流石に第八工程の魔法はどちらか一方に頼ったのでは時間が掛かってしまいますしね」
「クルス、僕ちょっとこの人が何言ってるかわかんない」
「落ち着けカイト。一応人じゃない上にわかりやすく言うとだな。ルーンはすげーって事だ」
「ですの。私、『すげー』んですのよ♪」
「NARUHODO。説明にならない説明をありがとうございます……」
お陰で更に自信がなくなりましたと、誰にも聞こえないように一人呟く僕。しかしなんだなぁ……クルスといい、ユーリさんといい、ルーンさんといい、僕の回りにいる人で普通な人って全然居ないなぁ……。いや、退屈しないからいいんだけど、もうちょっと気分的にまったりさせてくれる人が欲しいよニア……。一応は皆キミの子供たちみたいなものでしょなんとかしてよ。
声にならない悲鳴は、決して届くことはなく、ルーンさんは尚も消沈する僕に構わず両の手を合わせた。
「この他にも『原典魔法』という、特殊な魔法もあるのですが……」
また新たな知識を伝えようとするルーンさんから、くきゅるるる、と可愛らしい音が聞こえてきた。見れば、気恥ずかしそうに頬を上気させながら、お腹を擦るルーンさんが誤魔化し笑いを浮かべていた。
「ご飯に致しましょうか。お恥ずかしながらお腹が空いてしまいました」
切れ長の眼に豪奢な装飾の眼帯。初対面の人が見れば確実に近寄りがたい人物として認定されるであろう彼女の顔立ちから放たれるそのなんとも言えない笑顔は、僕の疲弊した心のオアシスとなって、僕の足取りを軽やかなものに変えてくれていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!! ブクマ等々もありがとうございます!!
今先の方を手元において書き進めているのですが、修正箇所というか肉付けしたい箇所が出てきまして、この投稿までに間に合ってよかったなぁと……えぇ……。
プロット立てるの下手くそ過ぎるんですよねぇ……。ホント日刊ペースでほぼ完璧に仕上げてこられる方々スゴい……。