第3話 出会いとハウツー・ファンルシオン
説明回(?)です!
というかこの章基本設定の7割8割を入れちゃってるのでちょいと長めかもです……申し訳ありません……。
女の子、というか女性キャラ出ます!
例えばの話をしよう。僕は別に漫画や小説、アニメにゲーム種類は問わず、物語というものが大好きだ。
その中には今の僕のようにそれまで普通に過ごしていた主人公が異世界に送り込まれる、という設定は珍しくない。昨今において、それは寧ろ一つの王道でさえある。
何処かしらの街に飛ばされ、装備を整えて、現地で知り合った人から助言を貰ったり、あるいは助っ人になってもらったりして、それが果てには仲間になって、世界を救う旅をする。
さて、そんな彼らと似たような状況に陥る僕ではあったが、ではそんな僕の話をさせてもらおうか。
僕は今、重度のホームシックと命の危機に晒されていた。
「ひっ!! ひぃっ……!! びゃあああああああああ!!!!」
情けない声を撒き散らしながら、僕は命懸けの逃走劇に身を投じていた。
「待てオラァ!!」
「身包み置いてけやクソガキィ!!」
青いバンダナを巻き、動きやすそうな軽装に身を包み、手には陽光を反射して煌めく小さなナイフ。
これはもう確定だろう。彼らは盗賊だ。異世界ファンタジーもののロールプレイングゲームで言えばスライムとかゴブリンとか倒して多少レベルが上ってから対処する筈の敵キャラに当たるものだ。
システムにも少し慣れてきただろう? なら次は状態異常とか激しい攻撃に対応してみようみたいなチュートリアル用のキャラの筈だ。ごめんなさい僕まだ慣れるどころか戦闘経験皆無なんですけれども!?
「なんでいきなりこんなのなのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
あぁ、ゼニアグラス様、何故僕を盗賊の出る森のど真ん中へ飛ばしたのでしょうか? まずは体を鍛えろということでしょうか? ハハハ、中々にエクストリームですね。
「って笑ってる場合じゃないよこれぇぇぇぇぇええ!!??」
捕まったら不味い。本能がそう告げている。だけど悲しいかな、僕は一年近く家の中で引きこもり、ひたすらゲームをしていただけの貧弱なゲーマーなんだ。おまけに運動音痴と来ている。
「あっ……」
こうして木の根に気付かず蹴躓いて、転んでしまうのはある意味当然の事だった。
「いててて……! はっ!?」
痛みに悶えながら、急いで振り返ってみれば、もう手遅れだった。十人近くから成る盗賊は僕を囲むように扇状に立ち塞がり、その内の一人がニタニタと恐怖を煽る笑みを浮かべながら、警戒する必要が無いと判断したのだろう。ナイフを弄びながら無造作にこちらに近づいてくる。
あぁ、これで終わりなのか――――。
もう少し拒絶するかと思っていたが、思いの外あっさりと諦め、自分の死を受け入れようとする。
そもそも僕は、向こうの世界では何度も死ねたらと考え、結局自殺する勇気すら無かったから生きてきただけだ。だから、こうして人の手によって殺されると言うのは、怖くないといえば嘘になるが、救済の一つだと心の何処かで考えてしまっているのかもしれない。
これで終われる。そう考えているから、諦めも付くのだと、僕はそう解釈して、目の前に立った盗賊がナイフを振り上げるのを見届けて、震えながらゆっくりと眼を閉じた。
「がぁっ!?」
しかし、訪れたのは僕の死などではなく、鈍い音とともに閉じた眼の向こう側で上げられる盗賊たちの短い悲鳴だった。
「テメェ、『青狼』!!」
「なんでこんなところに!?」
「ギャアアアア!!」
幾つもの鈍い打撃音と、時折金属同士がぶつかり合う甲高い音。目の前で何が起こっているのか、恐ろしくて眼を開くことも出来ず、ただ僕は縮こまることしかできないでいた。
やがて、響く音の感覚が広くなっていき、しん、と静まり返った頃、僕は恐る恐る瞼を開けた。まず目に入ったのは、ナイフを振り上げていた盗賊だった。気を失っているのか僕の足元すぐ近くで横たわっていた。
更に視線を動かしていくと、あれだけいた盗賊が一人残らず気絶させられており、その中で。
「やぁ、怪我は無いかな? 少年」
木々の隙間を縫って流れてくるそよ風のような声が、僕に向けられていた。
声の主である女性は、盗賊たちの中心から微笑みを浮かべて僕の方へと歩み寄ってくる。清流のように流れる透き通った青さの長い髪。青い眼と高い鼻、無駄な肉を落とし、シュッとした締りのある顔のライン。まるで氷細工のように透き通った美しさをまとった美人だったが、暖かさに溢れる笑顔は、冷たいイメージを払拭するに十分なものだった。
今この場に立っているのは彼女しかいない。となれば、彼女一人で全ての盗賊を戦闘不能にしたのだろうか?
見たところ女性は軽装だった。胸に装備している鉄製と思しきプレートを除けば、少々露出の多い服以外に彼女の身を守っているものは何もない。あれだけの人数を一人で相手取るにしては、不用心に過ぎる装備だと思うのだが。
「え……あ……えと……」
女性から、混乱と人相手で緊張してしまっていることと眼のやり場に困っているという理由で眼を逸らしてしまい、受け答えもまともに出来ないでいると、女性は訝るように首をかしげて僕の目の前で屈みこんだ。
「どうした? どこか怪我でもしたのか?」
「い、いえ……大丈夫で、っつつ~~!」
先程盛大に転んだ時に擦りむいたのだろう。膝から血がにじみ出てそれが傷口に沁みていた。
「ふむ、ちょっとじっとしていろ」
女性はそう言うと腰に巻きつけているポーチから緑色の液体が入った瓶を取り出すと、それをそのまま僕の膝へと流した。
「っでぃっだ!?」
「はは、我慢しろ。男の子だろう?」
まるであやすようにそう言われ、奇声を上げてしまったことと言い、気恥ずかしくなってまた眼を逸らしてしまった。顔に熱がこもり、耳まで赤くなっていっているのがわかる。
そして、まさにその時だった。正確にはその女性が液体を取り出した時に、僕の視界に変化が現れたのだ。
「えっ……?」
そこには、まるでゲームのポップアップウィンドウのような窓が立ち上がり、さながら図鑑のように、そのアイテムの隣に文字が並べられていった。
『ポーション:回復アイテム。傷を直す効能があり、擦過傷程度ならばたちまち完治する』
そんな奇妙な光景に、僕は次の瞬間に起こった驚くべき光景にも、既に驚いていたからか、さして驚かずに要られた。傷口から蒸気のような煙が立ち上るのを見て、驚いて膝に視線を落とすと、ドクドクと流れ出ていた血がもう止まり、数秒もすれば僕の膝は転ぶ前に戻っていた。
「これでよし、と。さて、治りたてで悪いんだが」
女性はそう言って立ち上がると、茂みの方まで歩いて行き、そこから麻袋のようなものを取り出す。麻袋から小さな石を取り出したかと思うとそれを空へ向けて勢い良く放り投げる。
すると、ヒィィィ、と鳥の鳴き声のような音を上げながら石は上昇していき、パァン! と乾いた衝撃音と共に緑色の発光を周囲に撒き散らした。それを確認した女性が今度は麻袋からロープを取り出した。
「少し手伝って欲しい。こいつらを縛っておく必要があるからな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから僕達は盗賊達を縛り上げ――ほとんど縛り上げていたのは彼女だったが――彼女の上げた信号に気付いてやってきた兵士達の馬車に乗せてもらっていた。
聞けば、僕を助けてくれた女性は、ファズグランという場所を拠点に活動する冒険者という職に就いているらしい。
冒険者とは、ほとんどが町や国を転々とするというわけではなく、クエストと呼ばれる様々な依頼をこなしていく、所謂便利屋的な職業のことらしい。舞い込んでくる依頼は護衛だったり、討伐だったりと物騒なものからアイテムの素材になるアイテムの採集など、様々なんだそうだ。
「ところでキミは――――」
「ひゃいっ!? なな、なんでしょうかっ!?」
「ハハ、そう身構えないでくれ。別に取って食ったりはしないよ」
「ご、ごめんなさい……」
冒険者さんの優しさが辛い。恥ずかしさのあまり頭が沸騰してしまいそうだ。
「そういえば、まだお互いに名乗っていなかったな。私はユーリ、ユーリ・スラチカという」
「はい!! まむっ……真月介斗と言います……こ、この度は危ない所を助けて頂き、感謝の言葉もございません!! かくなる上はとりあえず身ぐるみを剥いで頂いてでもお礼をしたく!! ささ、いざ参られませぇい!!」
「ははは、とりあえずで身ぐるみを剥ぐのは今お縄になっている連中だけで十分だろう。それとも、キミは私がそんな人間に見えるのかな?」
「めめめ滅相もございません!!」
「ならいいんだ。はは、キミは面白いな」
そういって破顔するユーリさんの顔に、一瞬見惚れてしまいながらも僕も照れくさそうに笑って返した。
「ところでカイトくん。いきなりですまないが、キミはもしかして、『英雄候補』としてゼニアグラス様から召喚されたのではないかな?」
「え、あっはい! そうです、けど……」
「あぁ、やはりか。道理で」
ユーリさんは納得したように、僕の姿を吟味するように見つめてくる。
「いや、済まない。何、少々見慣れない格好をしていたものでね。もしやと思ったんだが……」
「あ、はい。違う世界から連れて来られてしまったので……」
「何? 違う、世界から……?」
僕はユーリさんに事のあらましを話した。全てを話し終えた時、ユーリさんは難しい顔を浮かべていた。
「そんなことに……。キミも大変だったな。だが、そういうことになっているのなら、今後は自分の素性をあまり軽々しく口にするんじゃないぞ? 一体誰が敵なのかもわからないし、もしかしたら私が敵、ということもありうるのだからな」
言われて、僕はようやく気付き、青ざめる。割りと真剣に恐怖していたので、そんな調子を面白がったらしいユーリさんに笑われてしまった。
「ん、はは。大丈夫だ、私は敵ではないよ。次から気を付ければいいことだ。今回は運良く次があるのだからな」
それは、普通は次がないということを暗に示した言葉だった。先程の手洗い歓迎からしても分かることだったが、僕はとんでもない世界に来てしまったのだと、改めて理解し気を引き締める。
「き、気をつけます……マム」
「うむ、良い返事だ。えーと……」
ユーリさんは何か言おうとして、そのまま止まってしまった。僕はそれで自己紹介がまだだったことに気付き、慌ててユーリさんに自己紹介をする。
「ま、真月介斗です! よろしくお願いします」
「あぁ、カイトくんというのか。よろしく、カイトくん」
にこやかに差し出される手を握り返して、僕は恥かしくなって目を逸らしてしまった。僕のようなチェリー……DTが対面するには、ユーリさんは美人過ぎる。
そんな僕に首をかしげるユーリさん。僕は手をそっと引っ込めると、誤魔化すように別の話題を振った。
「そ、そういえばユーリさん、さっき僕に掛けて貰った緑色の薬なんですけど、あれってポーションっていうんですか?」
「? あぁ、そうだが」
やはり、どうやら僕には見たアイテムの能力やらがわかり、なんとなく使い方もわかるようになるようである。これが、ゼニアグラスの言っていた僕の『素質』というやつなのだろうか?
期待していたよりも地味なもので、内心落ち込む僕。そりゃあ、僕なんかが英雄としての力を解放! とか、魔法の素質があってドカーン! とか、そんなのは望むべくも無いとは思うけど、夢くらい見たっていいじゃないか! 僕だって男の子だもん!
そんなくだらないノリツッコミを頭のなかでしていると、急に馬車の床に小火が起こり、僕は若干のパニックに陥ってしまった。
「うぇえ!!?? なんで火!? 火ナンデ!?」
「落ち着けカイトくん。これは……」
ユーリさんに手で制されると、その小火はすぐに収まり、代わりに焼け跡が文字になっていることが見て取れた。そこには、こんな言葉が書かれていた。
『せっかくアタシがあげたアビリティを地味とは何よゴボウニート!!』
こんな文を送りつけてくるなど、更にはこんな手品じみた事が出来る相手には、すぐに行き着いた。ゼニアグラスである。
僕の考えなど、簡単に見透かされていたようで、ひどくご立腹のようである。というか、『アタシがあげた』ということは、つまり僕はいつのまにやらゼニアグラスからアビリティを受け取っていて、それは僕の『素質』とは異なったわけか。プラスに考えれば僕には他の素質があるということであって、僕の望む可能性がまだ残っているわけだが、マイナスに考えれば、凄い能力であることに代わりはないので、ちょっと残念という気もする。
しばらくすると不思議な事にすぐに焼け跡は消えていき、代わりにまた小火が起こる。
『ユーリ。悪いんだけど、そこのゴボウニートにこの世界のこと、色々教えたげて。アタシが説明すんのも面倒くさいからさ』
「はは、承知いたしました」
言いたいことだけ言って、その焦げ跡は消えていった。僕にはまだ文句があったと言わんばかりに、僕の近くの焦げ跡は恨みがましく暫く残っていた。
「ゆ、ユーリさんはゼニアグラスとお知り合い……なんですか?」
「ん? あぁ、少しばかり、ね。さて、ゼニアグラス様からの頼まれごとだ。キミさえ良ければ、この世界について簡単なことをレクチャーさせてもらうが?」
「お願いします……」
深々と頭を下げる僕に、ユーリさんは頷くと何処から話したものかと口元に手を当てた。
まず、この世界ファンルシオンには『人類』、『魔種』、『神族』と、様々な動物たちが生きているということを聞いた。動物は僕の元いた世界にいるような動物がほとんどだという。
三つの種族のそれぞれの相関としては、人類は魔種と生存圏が重なり、殆どの種に対して意思疎通が困難であることから、ほぼ対立関係にあると言っていい。神族も、魔種と対立関係にあると言っていいくらいで、人類に対してはまだ協力的だという。
それでも、生存圏が天界という、僕らが今いるこの場所とは異なる場所であるために、基本的には傍観者としての姿勢であると聞いた。この世界は、ゼニアグラスを含む六柱神によって創造され、『神の掌』なんて言う人もいるらしい。ここまでがまず一つ。
次にこの世界は西方大陸、北方大陸、東方大陸の三つの大陸とから成り、僕らの目的地であるファズグランを王都とするニルバジア王国や、東方大陸のエルゴン帝国を始め、大小様々な国家が存在しているが、近年は政治関係も落ち着いているらしく、国家間で戦争が起こったりという事になってはいないらしいということ。さっきの騒動でも十分死にかけたのだ。戦争なんか起ころうものなら僕などひとたまりもないだろう。人類同士はひとまず平穏であることに、僕はほっと胸を撫で下ろしていた。これが二つ目。
最後に、この世界にはあらゆる生物にはレベル、ステータス、アビリティという物があるということ。これを聞いた時、胸を踊らせなかったといえば、まぁ嘘になる。
僕の世界でのRPGと似たようなもので、自身の成長の度合いを表すのがレベル、自身の能力を具体的に表すのがステータスで、アビリティは自分の技術や才能の種類やレベルを表したものであるという。
レベルが上昇すればステータスも上昇するが、ステータスの上昇の仕方も人によって差があって、同時にレベルには限界値というものがある。名前の通りそれ以上成長が見込めない、自身の才能の限界とも言えるものが存在する。これは個々人によってかなり差があるらしいが、一般的に三〇〇、多少の才能がある人間で五〇〇前後、英雄として申し分ない才能を有していたとしても七〇〇程度であるという。
更に、先にも言った通り個人によってステータス上昇には偏り、差があり、一概にレベルが全てとは言い切れない。また、魔種は基本的に人類よりも高いステータスを誇ることが常なので、魔種のレベルは種族によってほぼ定められているようだが、同等のレベルだからといって安心はできないらしい。寧ろ相手のほうがステータスでは優っていると考えるのが普通らしい。
ステータスはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの五段階の『ステージ』毎に、D、C、B、A、Sの五つの『ランク』によって、計二五段階で評価される。単純に言えばステージVのランクSが二五で、ステージIのランクDが一のように評価され、『ステージ』が二段階も違えば、そのステータスでは勝負ができなくなる程差が開くらしい。
アビリティは、その個人が持つ特別な力だったり、その人の技術を表したもので、それらの評価はEからSSSで分けられる。Eはほとんど使い物にならない程度で、実践で使い物になるのはBランクから。Sランクともなればそのアビリティで暮らしに困るようなことはない程で、SSSランクともなればその恩恵は計り知れない程であると言われているらしい。更にはこのアビリティによっては特殊な技術を扱えるようになるもの以外にも、ステータスに直接影響を及ぼすものもあるらしい。
結局のところ「案外適当なものなんですね」と言ってしまった僕に、ユーリさんが放った「目に見えるものだけでは測りきれんさ」という一言が全てを物語っていた。
他にも色々と話すべきことはあったようなのだが、馬車が目的地に着いてしまったらしく、ひとまず中断する運びになってしまった。
そして、今まで見たこともないほど巨大な城門と、他の冒険者や行商人らしき人達を見て感嘆の息を漏らし、僕は再びとんでもない世界に来てしまったと認識するのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!!
タイトルをツーにするかトゥーにするかで結構悩んだ……。