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第34話 淫魔の村にて

ブクマありがとうごじゃいます!!(噛み噛み)

皆様のお陰で5000PVを突破することが出来ました……感謝の念に堪えません……。


投稿一日開けてしまいすみません。一応春休みの筈なのですが、研究室イソガシイネー……(現実逃避)

 霧の深い森の中を、僕らはリューネイジュさんの後をなぞるように歩いていた。彼女曰く、この森に張った結界とやらは、それほどの敵意は無かったらしく、『淫魔以外が立ち入れば、森の中を彷徨うことになってしまう』という代物であったらしい。侵入者が迷いこむようなことになった場合、同じ場所をぐるぐる回り、餓死寸前、一切の希望が潰え、心が折れ掛けるその瞬間になって、初めて森の外に放り出される、という仕様だったらしい。なるほど、敵意はともかくとして、害意はマンマンというわけだ。


しかし、僕の記憶が正しければ同じ場所をぐるぐる回った、という覚えはなかった。そこで、ふとニアに教えてもらった、『魔種親和性』のアビリティを思い出す。推測だが、これで僕は『淫魔』の性質を持つことになったがために、この結界をスルーしていたと考えるべきなのだろうか。となると、このアビリティ、魔種にとって厄介極まりないのではないだろうか? 僕としては大助かりすることこの上ないので何も文句はないが。しかし、トラップに掛かってないのに森の中を迷う僕って……。いや止めよう。ネガティブになったところでいいことなど何一つ無い。


 しかし、何故そこまでの気合の入った嫌がらせトラップを張ったのかと尋ねれば、『二度と手を出そうなどとは思わないように、可能な限りの自衛の手段を講じるのは種として当然』とのことだった。


 確かに自衛は大切だが、ただの自衛としては単純に人を傷付けるよりもやり過ぎな気もして、どことなく引っかかってしまった。そんな僕の疑念を見抜いたように、リューネイジュさんが語って聞かせてくれたのは、彼女達淫魔族そのものだった。


 淫魔族は、幻術や魅了、結界等のいわゆる『搦手』を最も得意とする魔種で、『天覇戦争』という三千年程前に起こった当時の『英雄』率いる人類と神族の連合軍対『魔王』率いる魔種の軍勢が争ったという大戦時において、魔種側にとっての戦力を削る、あるいは引き入れる役割を担っていたため、大変に重宝されたという。その為、繁殖能力は人間と同等か、それよりもやや劣る程度でありながら、当時は相当な数が居たという。それでも、戦争自体はは人類神族連合軍が辛くも勝利する、という結果に終わったようだが。


 大戦後、全体的に見れば力を失った魔種であったが、しかし、戦闘は不得手であることからほとんど表立って動かなかった淫魔族は、それほど衰退しては居なかった。その状況を、あまり他の魔種は快く受け取れなかったのだろう。統率者である『魔王』の死、命を掛けて戦った末に得られた敗戦という結果に摩耗した精神。正常な判断などできる筈もない。加えて、相手は『相手の弱みを握る』ことに卓越した技量を誇る淫魔。放置すれば淫魔が魔種を統べてしまうのではと、当時の魔種は彼女達を恐れたのだという。


 大戦終了から五百年程が過ぎた後、その恐怖の結果は、彼女達が戦闘には不向きであるのがこれ幸いと、殆どの魔種達は淫魔族を追い立ることとなった。それはほぼ、『虐殺』という形で執り行われた。魔種の側という、それまでの自分たちの住処を追われ、敵だらけの世界に放り出されることとなった淫魔族。戦えば弱いという彼女達が、どのような道を辿ることになるのかは、火を見るよりも明らかだった。


 とは言え、まだ大戦の傷痕が深く残る中、彼女達も魔種の一種。明確な敵意と殺意を向けられるのは同じ魔種からだけではなかった。あるインキュバスは冒険者に殺され、あるサキュバスは奴隷商に捕まり、ある時は数十名が一度に捕まり、『見せしめ』と称してインキュバスは『スプラッターショー』に、サキュバスは『便所』にされた後首を撥ねられた。


 涙を飲み、恨みが募り募って、誰を恨めばいいのかもわからなくなり、やり場の無くなった負の感情は彼女達を急速に疲弊させ、恨む気力すら失わせたという。そうして、更に約千五百年。気が遠くなるような旅の果てに、淫魔達はその数を数百程までに数を減らして、ようやくこの森に安住の地を築き上げられたのだという。


 僕の些細な疑念から発展した、彼女達の歩んできた重く苦しい歴史。僕もクルスも、完全に言葉を失っていた。言葉に詰まっていると、リューネージュさんは僅かに苦笑して僕らのフォローに回ってくれた。


「気にする必要はございませんわ。確かな歴史ではありますが、所詮歴史は歴史。過去も大事ですが、それ以上に今をどう生きるか、それが大事だと思っておりますので」


 ちょっと刹那主義が過ぎますわね、なんて冗談めかして笑みながら、リューネイジュさんは軽やかな態度とは裏腹に、堅く貫く芯のようなものを抱いているのが垣間見えた。


 だからこそ、だろうか。得体のしれない余所者に過ぎず、更にはただのノリで結界を破壊したのだ。そんな僕を迎え入れるなど、到底考えられないことだろうに、リューネイジュさんは事も無げにそれをした。


 けれど、本当に大丈夫なのだろうか? 彼女個人が良いと言っても、それが必ずしも村全体の総意となる保証は何処にもない。非常に不安になってきたので、僕はリューネイジュさんにそのことをそれとなく尋ねてみた。すると、返ってきたのは予想外であり、そしてある意味正論とも言える答えだった。


「確かに、村の皆は初めはカイトの事を怖がるでしょうが、大丈夫ですわ。特に人類を害していない以上、私達淫魔族が冒険者達の討伐の対象になる可能性は低いですし、私の結界を無効化する、なんて反則な力を持った方が入ってきたかと思えば、普通に森の中で迷ってしまうようなおばかさんなんですもの。危険なんてありませんし、私からも口添え致しますので、安心してくださって結構ですわ」


 にこやかに、優雅に、しれっと軽く毒を吐いて、リューネイジュさんは割りと直球で僕の事をバカ扱いする。いや、別に本当のことだし、それで淫魔の皆様に敵意がないことを分かってもらえるのなら僕としては願ったりなんだけれども、やっぱり多少は傷ついてしまうものだ。がっくりと項垂れる僕を、クルスがよしよしと撫でてくれる。


「なー、まだつかねーの?」


 不意に、クルスがやや不満そうな声を上げる。確かに、もうかれこれ三十分は歩いている気がする。だが、外敵から身を守るために、奥地に住むというのは自衛の為仕方のないことといえるだろう。だが、そんなクルスの不満は、すぐに晴れることとなった。


「ご安心くださいな。もう見えて参りましたよ」


 言われ、示される方を目を凝らして見ると、霧の奥にいくつも揺らめくオレンジ色の灯りが灯っているのが見える。加えて、更にその奥に薄っすらと見える、堂々とした威容を見せる巨大な影は、お屋敷だろうか? 恐らく、殆どの人の洋館の典型を、若干幽霊屋敷風にアレンジした、荘厳ながらどこかオドロオドロしい雰囲気を醸し出す洋館は、まさにモンスターの住まうお屋敷というにふさわしく、僕は人知れずその瞳をキラめかせていた。そして、何事かに気付いたように、指を一本立てながらリューネイジュさんが僕に振り返った、その刹那の間に――――。


「あぁ、一つ言い忘れておりました。あぁもう、フラァル、お待ちなさい」


 それは一瞬の出来事だった。リューネイジュさんが何事かを伝えようとした瞬間に、彼女の脇を一陣の風が吹き荒び、彼女の柔らかそうなアメシストの髪が強かに舞い狂う。かと思えば、僕は首元に触れる冷たい感触に気が付き、見れば首元に一本の短刀が押し当てられていた。一人の『メイド服を着て犬のような耳と尻尾を生やした女性』によって――――。


 どうやって、いつの間に? そんなことは今の僕にとっては些細な事だった。会いたかったよケモミミ娘!! やはり会えたかありがとうファンルシオン!! そんな感動に咽び泣き、今直ぐにでも隣りにいるクルスと抱き合い喜びを分かち合いたいほど感動しているというのに、身体は生命の危機に瀕して本能的に小刻みに震えだし、膝は笑い、両手はゆっくりホールドアップ。完全に無数の銃口によって鎮圧された銀行強盗のごとく、僕は一瞬にして無力化されてしまっていた。


 感動か、それとも恐怖か。涙を浮かべる僕に向かって、リューネイジュさんは一言、天使のような笑顔を浮かべて僕に謝罪の言葉を放った。


「申し訳ありません。私共の番犬、猛犬につき、ご注意をお願い致しますね」

「猛犬どころか狂犬だろこりゃー……」

「わぁぁぁぁぁああ!!!! クルス余計なこと言わないで!!?? チキって言ったチキって言ったよぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 僕の喉元で鳴る刃物の音。更には、僕の声が不快だと言わんばかりに、ケモミミ娘の視線が一層鋭くなる。喚き散らしながら、どうするべきかと負け犬根性で手をホールドアップし続ける僕。そんな様子を、リューネイジュさんは愉快げに眼を細めて傍観するのみだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 リューネイジュさんの、「お客様です。無礼ですよ」という声に従い、犬耳メイドのフラァルさんは、渋々と言った様子で僕から短刀を離してくれた。クルスがすぐに薬効体液を塗ってくれたので、すぐに痛みは引いたが、その冷たさは未だに張り付くようにして喉元に残っていた。


 リューネイジュさんは、身を包むロングドレスの上から偽装を施していたらしい蝙蝠のような赤黒い翼を、んっと伸ばしてから数度羽ばたかせて、やっぱりあるんだという視線を向ける僕に謝罪の言葉を述べた。


「申し訳ありません。私のメイド長は、少々やんちゃが過ぎまして」

「は、はぁ……やんちゃ……ですか」

「なんか言いたいことでもあんのか?」

「無いです何も!! ハイ!!」


 しかもこのフラァルさん、死ぬほど口が悪かった。というか、口調がとても乱暴だったのだ。とても一人のお嬢様に仕えるメイド長とは思えないほど。ただし、彼女の主、リューネイジュさんに対してはその限りではなかったが。


「お嬢様……何故人間など……」

「あらフラァル? 先程の一件で、彼は敵とならない事は分かったのではないの?」

「脅威の有無を尋ねたつもりはありません。ただ私は……」

「フラァル。彼は私のお客様。それに、彼ならば心配無用と、私はそう言いました。フラァル? 私の言葉が信用なりませんか?」

「――――申し訳ございません。過ぎた口を」

「いいえ。貴女の忠義、いつも感謝していますよ」

「身に余る光栄」


 恭しく、左胸に手を当てて小さく一礼するフラァルさん。その様を見ていると、何だかもっと厳かになったユーリさんとメリゼさんを見ている様だった。となれば、配役はメリゼさんがフラァルさんに当たるのだろうが、メリゼさんと決定的に違うところはフラァルさんにはヘッポコ要素が皆無だということ位だろうか。



「へぷし!」

「メリゼ、風邪か?」

「いえ……そんなことは無いと思うのですが……」



 メリゼさんがくしゃみをしたような気がしたが、きっと気のせいだろう。この場はそう強く思い込むことにする。


 しかし、「わかりました」と言っても、未だ殺意すら篭った鋭い視線で僕を睨みつけるフラァルさんと、遠巻きに僕を見続ける淫魔族の皆様方は、リューネイジュさんの言った通り、僕を恐怖の対象としてチラチラと様子を伺っている。その瞳には、恐れ以外にも、猜疑の色が浮かんでいるようにも感じられた。


 何が何だかわからず、僕は思い切ってリューネイジュさんに問いかけてみることにした。


「あの……リューネイジュさん……」

「様だアホ」

「フラァル」

「……は」

「それで、如何致しました? カイト」

「あはは……えと……何だか村中がピリピリしてるような気がするんですが……どうしてでしょうか?」

「おー、それオレ様も気になってた」


 言うと、クルスもひょっこりと顔を出す。その様を見てすぐに警戒色を強めたフラァルさんを、リューネイジュさんが諌めた。


「そうですわね……。実は最近、困ったことが起こっておりまして」

「お嬢様!!」

「言って、何か問題がありますか? フラァル」

「それは……」


 リューネイジュさんの穏やかな圧力に、フラァルさんは何故か悔しそうに歯噛みして口を噤んだ。


「あの……言い難いことだったら別に……」

「いえ、聞いていただくだけでしたらタダですし、もしよければ、お手伝いしていただければとも思っておりますので」

「お手伝い……ですか? まぁ、僕に出来る事なら……。クルスは?」

「右に同じく。できることならなー」

「ありがとうございます。詳しいことはまた中で。今は、掻い摘んでお話させていただきましょうか」


 そう言うと、リューネイジュさんは重苦しく口を開き、悲しむように、悔しがるように、穏やかな口調の影に負の感情を隠しながら、淡々と語り始めた。


「実は、ここ最近妙な魔種が攻めてくる様になりまして」

「妙な魔種、ですか?」

「えぇ、まるで生き物のように動くのに、その動きはとても単調。まるでおもちゃか何かのようなのですが、しかしこれが厄介極まりないのです」


 言うと、リューネイジュさんは何かを確かめるように、自らの掌を眺め始める。


「一つは、あらゆる攻撃手段がほとんど通じないということ。この村において、物理的に戦えるのはフラァル、魔法でまともに戦えるのは私。けれど、フラァルの打撃、斬撃攻撃は一切通用しているようには見えませんでした。加えて、私も魔法の扱いには多少の自負がありましたが、一体倒すのにもかなりの魔力を消耗致しましたし、それにある契約のもと、私共よりも遥かに強力な『ある御方』に助力を願っていたのですが、その方でも撃退が精一杯でした」


 自らの力不足を責めるように、リューネイジュさんはその手を固く握りしめる。ここからではどんな貌をしているのかはわからないが、肩の震えからして、怒りか、悲しみか。それ以外にも、リューネイジュさんの言った『ある御方』というのも気にはなるが、しかしその前にリューネイジュさんがさらに言葉を続けた。


「それにもう一つ、彼らはとても厄介な力を持っておりまして。それが私達の目下の最大の悩みの種となっております」

「厄介な力……ですか?」


 リューネイジュさんは、自らの罪を責めるように、今は見えない敵を睨むように、強く真っ直ぐ前を見ながら、自分自身に言い聞かせるように、リューネイジュさんは言葉を紡ぐ。それは、私の負うべき罪だと言わんばかりに。


「仲間同士で、殺し合わさせる力、ですよ」


 ざわ、と流れる生暖かい風。何故訊いたと、非難するようなフラァルさんの瞳。僕も訳が分からなかった。だから、僕がどういうことかを訊ねようとした瞬間――――。



――――――村の中に、絹を裂くような甲高い絶叫が鳴り渡った。



「キャァアアアアアアアアッ!!!!!!」


 その声に、僕も、フラァルさんも、リューネイジュさんも一斉に反応する。声のした方は村の外れ。たしか小さな井戸が見えた場所だった。すると、誰より早く行動に移ったリューネイジュさんが、誰よりも早くその場からかき消えていた。


「この話は後ほど。失礼致します」

「ッ!! お嬢様!!」


 フラァルさんがその声に気づき、彼女の居た方へ素早く視線を移すも、その姿はまるで霞のように消え去ってしまっていた。フラァルさんは油断したとばかりに舌打ちをし、粗野な言葉を僕に放つ。


「オイクソ野郎!!」

「ハイッ!! 僕ですか!?」

「テメェ以外に誰が居る!? いいか!? テメェはお嬢様がそう言う以上は客だ!! だから、ここで大人しく待ってろ!! いいな!?」

「あ、あのっ!! 一体何が!?」


 僕の声に、彼女は苛立たしげに足踏みをしながら、僕の胸ぐらを掴んでさぞ鬱陶しそうに言い放った。


「さっき言った『敵』が来た。それだけだ。いいか? 他所モンが首突っ込むんじゃあねぇぞ?」


 逆らえば殺すと言うように、犬歯を剥き出しにして威嚇するように吐き捨てたフラァルさんは、僕を放ると凄まじい脚力で有に三十メートルは放物線を描いて跳躍していった。


 その場に残された僕は、尻もちをついて、胸ぐらを掴まれて咽込みを抑えてると、すぐさま立ち上がり、クルスに語りかけた。


「けほっ……クルス」

「あぁ……。全然ケースがちげーが、なーんか臭うぜ?」

「……行こう!」

「おうよ。力になるって言っちまったしな」


 力強く頷くクルスとともに、僕は駆け出す。途中転けそうになるのをクルスに引っ叩かれて調整されながら、僕らは騒ぎの中心へ向かって駆けていった。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!

段々と投稿ペースが落ちていきそうなのが心苦しい……。

読んでくださっている皆様のためにも、まだまだ頑張って参りますよ!!

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