第33話 紫宝の麗人
やべぇよ……またブクマ伸びてるよ……
ありがとうございます!!!!シャオラッ!!!!
女の子を……と言うか人の顔を上手く表現できるようになりたいっすね……。
ごきげんよう、と。青と黒という落ち着いた彩りの華やかなドレスを纏ったその女性は、薄っすらと口端を上げ、目は細く艶やかな笑みを浮かべてくる。
正直に言えば、僕はこの時飲み込まれていたのだと思う。彼女の引力さえ感じるような美貌に。
薄暗い森の中で、尚光沢を放つ腰まで伸びる流麗なアメシストカラーのストレートヘアー。細長い輪郭に、切れ長の金色に輝く右の目。左目はそれぞれが不思議な光を放つ三つの宝石と銀製のアイアンクロスの様な意匠の装飾と、外枠を蔓の様な細やかな金製の装飾が成された黒の眼帯よって隠されており窺い知れないが、瑞々しい唇は両目との位置関係が黄金三角形を形成し、その中心に位置する鼻は細く高く。その肌は果てしない雪原の如き白さで、アルビノを疑うほどの透明度さえ持っていた。
背は僕よりも高いくらいだが、高すぎず。体のラインは美しくS字を描いており、全身が『女性らしさ』の権化とも言えるようなグラマラスな体型だった。
おおよそ美人が美人であるために必要な要素を、全て兼ね備えた上でそれらを究極まで洗練した、魔的なまでの風貌。とっさに傾城傾国なんて言葉が思い浮かべられるが、そんな言葉すら生優しい。もしも彼女がその美貌を力として振るうことがあれば、世界すらも滅ぼしかねないとさえ考えてしまうほど、一種の『呪い』じみた魅力をその女性は醸しだしていたのだから。
その女性は、瞼をそっと閉じると、僕の方へ向かって歩いてくる。一歩、二歩と。その度に、僕は心臓が掴まれたような思いになり、鼓動がどんどん早くなる。
彼女が後一歩で僕に僕に触れられる、そんな位置に来た時には、僕の心臓はさながら機械のエンジンのように凄まじい速さで鼓動を刻んでいる。そして、女性の手が伸ばされる。
『触れられれば死ぬ』。そんな気すらしていた。
果たして、僕に触れ、僕を殺すかと思われたその手は――――。
「……?」
スタスタと僕の隣を通り過ぎる女性とともに、横を流れていった。そんな彼女の背中を未だしゃんとしない頭で追いかけると、不思議な現象が起こった。
しゃがみこんだ女性が地面に向かって手を翳すと、そこからまるで『魔法』のように先程と同じような岩石が出現したのだ。そして、まだ何か宙に手を走らせながら、何事か女性が呟いている間、僕は『驚く事が出来たから』一瞬だけ正気を取り戻す事ができていた。
「カ、カイト……?」
僕の身を案じるように、いつの間にか僕の腕の形状に戻っていたクルスが呼びかける。けれど、僕はそれにロクに反応も出来ず、今どういった状況が起こっているのか、それさえ把握できず、今度は膨れ上がる焦燥感の中に身を置いていた。
また『囚われる』。次に囚われれば『もう無い』と、僕の本能が盛大に警鐘を鳴らしていた。そして、なけなしの正気が削られ切る前に、僕は――――。
「そういえば貴方達は――――」
「ご、ごめんなさいでございましたぁぁぁあああああああ!!!!!!」
「はー!!??」
「あらあら」
全力疾走。女性が何事か言い切る前に、僕はクルスの疑問も置き去りにして、即座に全力で走りだしていた。あんなにも立派なドレスを纏っていれば、動きにくくて追いつけないだろうと言う目算とともに。
「なんで逃げてんだよカイト!?」
「ダメダメ!! ダメだよあんなの!!」
「ダメって何だよ!?」
「人間が許容できるのはAPP十八までなの!!!! あんな二五以上ありそうな美人さん、怖すぎてSAN値直送されちゃうよぉおおおおお!!!!」
「色々と何言ってるかわかんねーよ!! てかホントの事言え怖かねーだろ!?」
「ホントはこの童貞の身にあのお方の色香は刺激が強うございますぅうううううううううう!!!!!!」
そんなことを喚きながら、一目散に逃げる僕。ロクに前を見ずに走ってしまったからだろうか、ばよん、と、弾力のある何かにぶつかり、そのまま僕は抱き止められる形で急停止を余儀なくされてしまった。
「あっ……!! す、すみません!!」
「本当ですわ。いきなり逃げ出してどういうおつもりですの、人間さん?」
まるで氷鈴が鳴っているかのような、透明な声。それは鼓膜を揺らすのではなく、脳髄に直接囁きかけるような、蕩けさせるような、突き刺さるような、回避不可能の魔性の声。
反射でつい普通に謝罪してしまいながら、その声に僕はハッとなって頭を上げると、今僕の背中に手を回し、親しげな笑みを浮かべて見下ろしているのが誰なのか、即座に認識してしまった。
あの女性だった。先程まで、僕の走っていた方とは真逆の方向に居たはずの女性。だというのに、彼女は僕を追い越した風でもなかったというのに、僕の行く先に先回りし、そして僕を止めていた。
一体何が、そんなことを考える以前に、僕は先程とは比べ物にならない程の早さで心臓の鼓動が高まっていく。抜けだそうにも力が入らない。媚毒のような、理性をかき混ぜるような背徳的な香気と共に、あの『声』が襲ってきたから。
「いけない人ですわ。ねぇえ? どうして私から逃げようとしたのですか?」
「はひっ……あわ、わわわわ……」
「答えて、くださいます……よね?」
この世で最も男が見てはいけない笑顔を浮かべて、女性がどんどん顔を近づけてくる。その瞳から目が離せない。黄金色の瞳が輝き、僕の瞳を絡めて離さない。
段々と、視界がぐるぐるしてきた。世界が歪み、頭はガンガンと揺さぶられる。そして――――。
「ね? 人間さん?」
耳元ゼロ距離で発せられた、この世ならざる至極の魔性にあてられて、僕は完全にオーバーヒートしてしまっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あら」
その女は実に意外そうに、彼女から放たれていた『力』ではなく、単なる『恥ずかしさ』が極まって気絶してしまった少年を見下ろす。その顔は、困惑と、恐怖と、そしてそれらを飲み込んでしまうほどの幸福感に満ちたような表情を浮かべて、両目に大きな渦を作っていた。
「ふふっ。本当に可愛らしい人」
暫く呆気にとられたように自らの腕の中で気を失っている少年に微笑を送ると、今度は目を伏せながらこの場で一番敵に回してはいけない、『右腕』の彼に『普通に』話しかけた。
「ところで、そのように無粋な真似をなさるのはやめて頂けますか? 触手の方?」
「そりゃーお前さん次第よ」
クルスは既に、カイトの肩を経由して女性の首元に触手を這わせていた。それは、カイトに危害を加えようものなら、即座に『無力化』するという意思表示であった。
女性も、自分が圧倒的に不利な状況に立たされているのが分かっていながら、しかしその優雅な態度は依然として崩さずに、クルスに語りかけた。
「淑女の柔肌にいきなり手を触れるなど、色々と不躾であることはこの際流しましょう。ですので、その手を降ろしてくださいませ。私としても、この方に手を出すつもりは毛頭ありませんよ」
「……そいつはよかった。ゴメンな、オレ様もいきなり触っちって。あれ? オレ様女の子に無断で触ってたの? 嘘やべー。めっちゃ恥ずかしくなってきた!!」
クルスはその目玉を二本の触手で挟みながら、悶えるように右へ左へ身体をうねらせる。その様子を見ていた女性は、またも一瞬だけきょとんとした顔を見せた後、またも歯を見せず、上品にはにかんだ。
「ふふっ。貴方がたは、二人共可愛らしいですね」
「おうっ!? いやいや……可愛らしいて……。ってかオレ様達に危害加えないって、んなら何しに来たんだよ?」
「そうですわねぇ」
女性は、その腕の中で眠るカイトに再び視線を落とすと、またも愉快そうに笑んで、再びクルスと向き合った。
「『確認』と、『歓談』で、如何?」
首を僅かに傾げながら、クルスに訊ねる女性。クルスはというと、しばしの間、彼女の言葉を吟味するように、顔を顰めながらメトロノームのように左右に目玉を振り続けていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『……で……』
『あ…………に……し……………』
声が聴こえる。意識がまだはっきりしていなくて、何となく遠くに感じるけれど、直ぐ近くから二人ほどの声が聞こえる。
『それ…………あ……』
『……だな…………め……て」
なんだろう、とても楽しそうな声が聞こえる。片方はクルスだろうか? それくらいが判断できる程度には、僕も意識が段々と戻ってきてくれたようだった。
それに、なんだかとても心地いい。額には心地よいぬくもりが当てられ、その上どうやら寝ているらしい僕の頭には、やわらかな感触がある。とても、とても安心できてしまう。
誰だろう、クルス? そう思って、まだ寝ぼけ半分の目をこすり、瞼を開いた僕の眼に飛び込んできたのは――――。
「あら、お目覚めですわね。おはようございます、ねぼすけさん?」
一人の、とても美しい女性がいた。
彼女と目が合う。そして、段々と記憶が元に戻ってくる。僕が気を失う寸前、僕が一体何をして、彼女に何をしてしまったかを、思い出し、僕は顔を真赤にしながらその場を飛び退き、すぐさま地面に頭を擦り付けた。
「大変に申し訳ございませんでしたァァァァアアアアッッッ!!!!!!」
謝罪というより、熱の入り方が命乞いにすら近い。こういう場合、言葉を飾ることに意味は無く、ひたすらに誠意を見せ、それを汲みとってもらうより他にないのだが、それでも僕は沈黙に耐え切れず、言い訳がましく取り繕う言葉を必至に陳じた。
「ああああのあの……! 当方パニックに落ちいててててござい……! まさか目の前にお嬢様がおられるとは露知らず!! しかもあろうことかたわったったたわわに突撃する始末!! 何たる外道!! 許せませぬ!! かくなる上はこの場にてハラキリをばご披露仕り……」
「ぷっ。くすくすくすくす」
「…………はい?」
僕が芝居じみた謝罪文をダラダラと垂れていると、彼女、お姉さんがさぞ可笑しそうにかみ殺したような笑い声を上げていた。その風格に見合う、上品な所作で。
「なー? 言った通りおもしれー奴だろ?」
「えぇ、えぇ……っ。とても。貴方の言う通りでしたねクルス?」
状況が全く読めないが、少なくとも僕が気を失っている間に、二人の仲は割りと進展していたらしい。加えて、僕が気を失う前は一瞬だけ霧が晴れていた気がするのだが、再び霧が濃くなっている。一体僕が寝ている間に何があったというのか……。
そんな僕の疑問を感じ取ったように、お姉さんが僕に再び眩しいまでの笑みを浮かべて来た。僕はそれが、理性が何処かへ行ってしまいそうで恐ろしく、未だ直視はできなかった。
「んー、そろそろ顔をお上げなさいな。冒険者さん?」
「え……? どうして……」
「うふふ。貴方のその左手首を見れば、誰でも分かりますわ」
「あ……」
そういえば、冒険者となった僕の左腕にも、冒険者の証である『証明石』のバングルがあることを忘れていた。
いや、今の今まで『証明石』の存在を忘れていた訳ではない。ただ、『証明石』を割って救難信号を出すと、正規の冒険者として働く為に『証明石』を買いなおさなければならないのだが、希少故にその値段がバカにならない程高い。クルスに預けてある粘魔宝珠を売り払えば普通に買えるが、手持ちの五万グラスだって結構な大金なのに、これでもまだ手が届かないほどだ。
なので、金の無い内に『証明石』を砕いてしまうと、余程運が良くないかぎり、報酬が三分の二にまですり減らされるゲスト扱いでクエストをこなすなりしてグラスを稼がなければならない。場合によってはあらゆる職業よりも稼げる冒険者が、そこまで人数が増えすぎないのはこれが原因の一つでもあったりするらしい。
つまりRPGプレイヤーにありがちな貧乏性が働いたが為に、今の今までこの森の中この石を割らないでいたというわけだ。
「こほん。さて、自己紹介がまだでしたわね。私の名前はリューネイジュ・F・ロードノート。素性は……貴方ならばお分かりになると、クルスから伺っているのだけれど、如何?」
「それは……え?」
どういう意味ですか、と続けようとして、しかしすぐに僕は理解した。僕だけの視覚の中、本来なにもない筈の場所、リューネイジュさんの顔の真隣辺り、半透明の青色の窓が出現し、レベルにステータス、アビリティが表示された。それが意味するところは即ち――――。
「ご理解いただけたようですわね。そう、私は魔種、『淫魔族』の一人にして、『淫魔族』の長を務めさせていただいております。以後お見知り置きを。カイト」
「ご、ご丁寧にどうも……。僕は真月介斗で……あれ? 僕の名前」
「うふふ。彼から伺っておりますわ」
いえい、とクルスは彼女の傍らに立ち、僕にVサインを送ってくる。まぁ、別に僕の素性が知れたところで悪いことなど一つもないので、何も問題はないのだが、クルスがリューネイジュさんに何か余計な事を吹き込んでいないか、それだけが僕個人として心配の種だった。
しかし、いきなりの自己紹介で『淫魔族』、しかもその長ときた。いや、確かに風格やら品格やらは完全に令嬢そのものって感じだし、淫魔族の一番偉い人ですって言われても、確かに信じられてしまうけれども。ただ、淫魔というのだからもっとあはんうふんで淫靡な感じを予想していたのだが、彼女からは気品と優雅さ、その中で顔を見せる爛漫さと、おおよそ淫魔らしい印象は受けられないのだ。
ともあれ、確証やら何やらの話をしだしたらきりがない。僕はひとまずそれが本当であるとして、話を進めていくことにした。
「え、えーと……それでリューネイジュさんは一体どうしてここに?」
「んー、それがですねぇ」
リューネイジュさんは顎に指を当てて、明後日の方向に眼をやった。様になってはいるのだが、どことなくわざとらしいという印象を受けてしまう。
「実は私、ここで結界を張っておりまして……」
「は、はぁ……結界ですか……」
「えぇ……。同じ淫魔族以外の侵入を拒むための、いわばトラップというものなのですが」
「なるほど……」
「それがですねぇ? つい今しがた破壊されてしまいまして」
「…………」
「なんと来てみれば、その結界を張るための魔法陣を刻みこんであった岩が粉々に砕けているではありませんか」
「――――――」
「なので、急いでやってきてみれば、ここにいたのは貴方達だけ。何かご存知ではありませんか? カイト」
血の気が引き、全身からこれでもかと汗が流れる。クルスに、助けを求めるように視線を移すも、クルスはその辺に転がっている石を拾っては眺め、拾っては眺めを繰り返していた。いや君何やってんの?
クルスの助けが期待できない以上、この場をどう切り抜けるかが問題だ。走って逃げる? クルスに穴を掘ってもらえばいけるか? あるいは嘘八百で別の誰かのせいにするか? 実用性はともかくとして、不思議とつらつらと色々な案が浮き上がるものの、最終的に僕がとった行動は――――――。
「大ッ変に申し訳ありませんでしたァァァァアアアアッッッ!!!!!!」
本日二度目となる、盛大な土下座だった。こいつまた土下座してるよとか、言いたいことがあるなら言えばいい。経験上、僕は自分のために吐く嘘にはボロが出る。ボロの出た嘘は、正直に話す以上に悪印象を与えることを、僕はもう学んでいた。
「理由は……っ、お聞かせ願えますか?」
リューネイジュさんが笑いを堪えた気がしたのは、多分気のせいだろう。
「ノリですッ!!!!」
「くっ! ノリ……っ、ですか?」
「徹頭徹尾ノリです!!!!」
「く、ふふ……っ! 何か言いたいことは、お有りですか?」
「最高でしたッ!!!! 良い岩をありがとうございました!!!! 本当にすみませんッッッ!!!!」
ナンダコレ。もはや謝罪でも何でもないじゃないかと思ったが、一切の嘘を吐かないとなれば、自然とこうなってしまう。一応クルスの技の練習という個人的な大義名分はあるものの、その岩をただの岩と考えていた以上、義務感や使命感よりも、その場のノリで岩を破壊したと言った方がより正確だ。もう僕首でも撥ねられるんじゃないかな。
しかし、予想していたリューネイジュさんからの雷霆は一切降りかからず、代わりに荒くなった呼吸を必至に整えようとする彼女の色っぽい吐息だけがその場に流れた。
「ふー……っ!! はー……っ!! うふふっ……! 貴方達は……、私を笑い殺そうと言うのですか? ふふふふっ……」
見上げれば、心底楽しそうに、目尻に涙さえ浮かべながら、それでも歯を見せようとはしないリューネイジュさんが僕を見つめていた。
「はーっ。ごめんなさい。実はそのお話はクルスから既に聞いていたのです。経緯はともあれ、『そうとは知らなかった』と。こちらに害意も無く、反省もして頂けているようですし、もう二度と同じことをしないと約束していただけるのであれば、この件については不問とさせていただきます」
「あっ、ありがとうございます!!!!」
その温情に、僕はまたもごち、と地面に頭を付けて、リューネイジュさんへの感謝の意を表す。これは推測だが、少なくとも、僕の土下座は同い年の中でも群を抜いて美しいという自信がある。全く僕をイジメてくれたイジメっ子達様様だよ。二度と鍛えて欲しいとは思えないし、情けない得意分野だけどねー!! くそう!!
「ふふ。クルスも、よろしいですか?」
「おー。悪かったな」
「いえいえ。ですが――――」
喜ぶ僕らを突き落とすように、語気を強めて、リューネイジュさんは指を一本突き出してきた。僕らは身構えながら、何を言われるのかと恐々として待つ。
「貴方達のお陰で、私は予想外の魔力消費を食いました。そちらの分の埋め合わせを、貴方達にはしていただかねばなりません」
お分かり? と気品たっぷりに首を傾けるが、僕ら、少なくとも僕にとってはその笑顔は恐怖の対象でしか無かった。怒りを覚えた女性の笑顔ほど怖いものはないと、ユーリさんに散々教えこまれたから。
ぶるぶると、震えながら彼女の出す条件を待つ。僅かな間と共に、「なので――――」と彼女が言った時、僕はきっと断頭台が落とされた時と同じ顔をしていたと思う。断頭台を落とされた経験は無いが。
「ふふっ、難しいことはありません。私の、お話相手になってくださいませ。それで、この件は一切のお咎め無し、ということで」
その言葉が意味するところを読み取るまでに、僕は数秒の時間を要し、理解と同時ににこっ、と微笑みかけたリューネイジュさんの笑顔が、鬼瓦から天使のそれへと急変した。
「あ、ありがとうございます!! そのくらいなら喜んで!! ねっ!? クルス!?」
「おー。何話せっかわかんねーけど、話せることは話してやんよー」
「うふふ。ありがとうございます。楽しい夜になりそうですわね。さぁ、こちらへ」
言って、リューネイジュさんが道を促す。どうやら彼女の村――かどうかは分からないが――まで案内してくれるようだ。僕は救われたような気分になりながら、彼女の後についていこうとして、何かを忘れているような気分に陥った。それが何かを思い出そうとして、思い浮かべたのはリューネイジュさんの自己紹介。彼女は言った。確か――――。
「ああああ、あのあのあの……リューネイジュさん?」
「? はい」
「あの……その、リューネイジュさんの言った『淫魔族』って……」
「? えぇ、淫魔ですよ。巷では、男はインキュバス、女はサキュバスなんて呼ばれておりますわ」
「サッキュッキュ!!!!!!」
「えぇ、サッキュッキュですわ」
僕は興奮のし過ぎで、嫌に甲高い声で馬鹿げた呼び方をしてしまった。流石にちょっと恥ずかしかったが、恥ずかしがっている場合ではなかった。
だってサキュバスだよ!? 僕が、いや僕だけじゃない!! 仮に異世界入りしたら男の子が会いたいモンスターベストスリーに入るような存在に、僕は今対面しているのだ!! 会いたかった理由? 察してよ!! 僕も男なんだよ!!
時間差でやってきた驚愕の津波。だが、リューネイジュさんが『そう』だというより、サキュバスに会えたということ自体に幸福感を覚えすぎた僕は、その後暫く妙なテンションで二人について行き、二人はそんな僕が何をそんなに小躍りしているのか、終始不思議そうに顔を見合わせていた。
ここまで呼んで頂き、ありがとうございます!!
うーん、なんと言いますか……間の取り方が絶望的に下手な気がしますね……。精進します。
可能な限り一日一回か二日に一回の投稿ペースを維持していきたいと思います!!