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第31話 『無能』、迷った

お久しぶりです皆さん。この面下げて帰ってまいりました……(どのツラだコラ)。

いやー大変申し訳ありません! 「あ、こいつエタらせる気だな」と思われてしまうのも怖さ半分申し訳無さ半分ですので、恥ずかしながら帰ってまいりました!

活動記録の方に謝罪やら諸々も書いてありますので、お手間ではありますがよろしければ覗いていただければと思います……


それでは、新章やっていきたいと思います!

 ここは、ファズグランを王都とし、中央大陸のほぼ全域を領土とする大国、ニルバジア王国西部に位置する、とある森。ただし、ただの森ではない。


 木々一本一本の太さはまだしも、全長は有に五十メートルはあるだろう。加え、この森に群生する木々はまるで傘のように葉を茂らせる上に木々の感覚も枝の伸びる範囲に比べて狭いため、ほとんど陽光を通さない。


 たとえ日中であろうとも、曇天の日和の如き薄暗さを纏い、加えて、更に視界を遮るのは常に漂う霧だ。三メートルも先になれば全く視界が効かず、森に慣れた熟練冒険者さえ立ち入ることを躊躇う。


 まるで外界から切り離され、あらゆる他者の侵入を拒むかのようなその森は『霧の森』、またの名を『迷いの森』と呼び、数いる冒険者にとって立ち入り禁止区域の一つに指定されている土地だ。


 僅かに聞こえる川のせせらぎ以外に、あらゆる生物は存在し得ないかと思われたこの森を、一つの足音が揺らしていく。足音はまるで急かすかのようにスタスタと、迷うことなど有り得ないと、自信に満ちたようなその足音の持ち主は、苛立たしげにその声を張り上げた。


「ちょっとー!? バカイトー!? いるんでしょー!? 返事しなさいよダメカイトー!!」


 足音の主は全統神ゼニアグラスこと、ニアだった。本来ならこのような場所に来るような存在ではないし、来なければならない事情も無かったのだが、それでもこの場にやってきた理由は、彼女が張り上げた声が如実に語っていた。


「おっかしいわねー……確かにこの辺に居るはずなんだけど……。鈍ったかしら?」


 ニアは自分の身体の周囲を、さながら衛星軌道のように周回する二つの光球を光源としながら、その小さな首を傾げた。


 ニアは全統神であるが故に、この世界の何処に誰が居るか、何が起こっているかを見渡す事ができる。その力により、お目当ての少年が何処に居るかを突き止め、この場にやってきていたのだった。少年に会いに。その理由は、二つほどあるのだが――――。


「もうっ!! いないのカイトー!? カーイートー!!!! ひっ!?」


 苛立たしげに少年の名を呼ぶニアが一際大きく張り上がったと同時、突如としてニアの目の前の地面がモゴッ、という音とともに隆起したのだ。突然のことに、ニアも思わず引きつった悲鳴を上げ、一歩後退る。すると、キュイイイイイイイイイ、という何かが高速で回転するような音が聞こえたかと思えば、その盛り上がった土を中心に、周囲の土がボガン! と舞い上がった。


「わひゃあ!?」


 一体何が起きたのかと、パニックに陥るニア。しかしそれが何であるかは、彼女は自身のトラウマとともに、すぐに理解することになった。


 高速で回転していた『薄桃色』の三角錐状の物体は、徐々にその回転を弱め、姿を露わにしていく。しかし、色合いといい、彼女のトラウマレーダーが敏感に察知していた。『これは触手だ』と。


 全く触手などに見えないというのに、それが触手だと分かってしまう程のトラウマとは、一体どういうものか。気になるところではあるがその答えを知るのはこの場においては未だ当人一人のみだ。


 そして、その三角錐の回転が完全に停止すると、肉肉しく波打つようにその形を崩していく。やがて、それが一本の触手の形状となった頃、そこには一人の少年が立っていた。ただし、真新しい服は土だらけ、目元にはクマのような黒ずみが出来ており、ニアの見知った少年とはほとんど異なる姿をしていた。そして、ニアは気に留めないように無意識の内に意識していていたので気付かなかったが、クルスもまた同様に眼にクマ、どころか眼球が萎んでさえいた。


「カ……カイト……よね?」


 恐る恐る声を掛けるニア。その声に反応を示し、顔は痩せこけ、さながらゾンビのような様相を呈しているものの、紛れも無くニアの探し求めていた少年、カイトは、光を失った瞳でニアを視界に収めると、その瞳に僅かに光が戻った。


「二……ア?」

「えぇそう……アタシ、だけど……その、わかる? カイト……」


 ニアは見知った少年のあまりの変わりように、いつもの尊大な態度を潜ませ、真に彼の身を案じている。そして、非常にフレッシュなゾンビと化したカイトは、その眼に段々と正常な光を灯し出し、クルスはと言うとしぼんだ風船に空気を入れなおしたように眼球が元に戻り、瞳にハイライトが戻った瞬間、二人は滝のように泣きながらニアに抱きついた。


「ニ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

「ひゃうっ!? あっ、ちょ、ちょっとカイト!! 何抱きついて!!」

「こ゛わ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」

「あーもうわかったわかった! 怖くなーい怖くなーい! もう怖くないわよー! だからいい加減……」

「お゛れ゛さ゛ま゛も゛こ゛わ゛か゛っ゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」

「ぎゃあああああああああ!!!!???? 触手!!?? 触手来んな!! くーんーなー!!!! こな、来ないで……来ないでってばぁ!!!! うぇええええええええ!!!! やぁよぉぉおおおおお!!!! 触手嫌いよぉおおおおおお!!!!!!」


 泣きつくカイトをあやそうとして、クルスにも抱きつかれ自分まで泣き出してしまうニア。一切の生物の気配がない森は、三人の泣き声によって一瞬にして騒々しい森へと変貌してしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――



「それで……アンタ達何やってたのよ……」


 一番早くに立ち直ったのはニアだった。ニアは何事か唱えると魔法でクルスを弾き飛ばし、「いつまでも泣いてんじゃないわよ!!」と僕に肘打ちをかましてきた。お陰でどうにか正気に戻ることが出来た僕は、ニアの前で正座をさせられ、自分だけ抱擁が拒否され、ショックを受けて涙ぐんでいるクルスの頭を撫でてあげていた。


「はぁ……それが……話せば長いことになりまして……」


 僕は、何故僕らがここにいることになっているのか、その顛末を可能な限り詳細に語り、そのダイジェストが次のようなものだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「クルスクルス」

「んー?」

「そっちじゃないでしょ。街道沿いに進めばいいと思うんだけど……」

「いやいやカイト。地図ではこっちだって書いてるだろ。その通りに進もうぜ」

「そっかぁ。そういえばクルス、地図読めたっけ?」

「おー。読めねー」

「ワハハ」

「ワハハ」

「クルスクルス」

「んー?」

「霧が濃くなってきたね」

「そーだな。カイト、コンパス出してくれ」

「コンパスねぇ。なくした」

「そっか。まぁ地図読めねーし、変わんねーか」

「ワハハ」

「ワハハ」

「カイトカイト」

「なぁにクルス?」

「迷った」

「ガッデム」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 とまぁこんな感じの経緯だったと、包み隠さず話す僕とクルス。するとニアの愛らしい顔はまるで苦しむようなヒクつき歪んだ笑顔と、額には大きく青筋が浮かんでいる。どうやら、大変にご立腹なご様子である。


「つまり何……? アンタ『方向音痴』であることも忘れて、ソイツに地図の読み方も教えず、コンパスも無くして、挙句道に迷ったと、そう言いたいわけね?」

「あはは、そうなるね」

「黙れ、笑うな。ついでに息もするな」

「大変シャッシャッシタ!!!! マム!! 息の方は三十秒と持ちません!!」

「オレ様五分間いけるぜ」

「お、凄いねークルス」

「嘘なんだぜ」

「嘘かよ」

「アンタらちょっとそこに直れぇぇぇえええええええい!!!!!!」


 あまりにフリーダム過ぎる僕らに、とうとうニア火山が噴火した。その後、一時間に渡り正座で説教された後、クルスはニアから怒涛の地図の読み方講座五分コースを受講させられていた。無論強制である。


 ただ、ニアの教え方が上手かったということと、クルスの飲み込みも非常に早いことで、五分コースは一分コースに早変わりしたというのは、ニアのクルスに対する評価が少し変化する一因ともなったのだが、ニアの触手嫌いとそれは別問題で、ニアに近づきすぎていたクルスは、またもニアの魔法によって吹き飛ばされていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 皆の精神状態がようやく安定期に入ったのを確認し、僕らはお腹が空いていることに気付いて食事にすることに決めた。光の当り方が朝から昼間では殆ど変わらないため、今何時かは僕の端末が頼りだった。ちなみに、現在時刻は僕の世界で言うところの八時半。朝ご飯時としてはちょうどいい時間帯である。


 僕はニアへのお礼も兼ねて、ニアにも朝ご飯を用意することにした。迷い込んでから数日が経っているので、もう慣れたものでクルスには魚を捕まえてもらい、その間僕は焚き火の為の薪を集めてくる。不思議な事にちょうど良い程度の薪を拾い終えて帰ってくると、クルスは欲しいだけの魚を捕まえてくれているので、とても助かっている。


 僕は薪を置いてクルスから魚を預かると、もう慣れた手つきで腹を裂き、ワタを抜いて、S字型になるよう串に見立てた棒に突き刺していく。その間クルスは魔法で火を付け、火の番をしてくれていた。その様子を見て、ニアが意外そうな声で「アンタって生き物殺せるのね」なんて言われ、僕はただ「人は生きるためにも最低限の殺しをしなきゃいけないって学んだんだ」と答えた。その時の僕の顔がどんな風に映ったのかは分からないが、ニアの引いたような、同情するような反応を見れば、多分相当酷い顔をしていたのだろうとは予想がついた。


 もちろん、必要以上に殺すような真似はしないし、殺した以上は、魚であれば頭から尾びれに至るまで余すこと無く頂いてきた。元の世界にいた頃は言葉の上でしか理解していなかった『自然と命への感謝』という概念も、ここへ来ることで理解から実感へ変えることが出来たと思っている。

 

 そんなこんなで全ての魚を串に通し、火に当てていく。その間は待つだけなので、僕らはニアとの談笑に興じた。


「じゃあ、見ててくれたんだ」

「まぁね。アンタ方向音痴だったし、行き先が『迷いの森』に逸れてって何考えてんのかしらって思ってね。何か考えがあるのかと思ってそこに入ったのかと思ったのに、アンタ達一向に出てこないんだもの。アタシが連れてきたわけだし、そんな下らない理由で骨になられても困るのよ、こっちとしても」

「へー。便利なもんだなー。まーでも、オレ様達を助けてくれたのに変わりはねーし、あんがとな、チビ神様」

「ちっ、チビですってぇ!?」


 どうやら、ニアは僕らがその方向へ進むのかを見ており、僕らがどうにもおかしなルートを通ろうとしていたので、もしやと思い来てくれたのだという。本当、ニア様様女神様という思い出いっぱいだ。


 しかし、クルスもクルスでまだ根に持っているのか、ややニアをけなすような言葉でお礼を言うと、それだけは我慢ならない! とニアは立ち上がり、きょとんと見上げるクルスをビシィ! と指差した。


「誰がチビよ!? そんなこと言ったらアンタの方がチビじゃない!!」

「ほー? オレ様がチビと? カイト、もっと身体出してもいいか?」

「ひっ!! あ、アンタはチビだけど、身体出すのはやめなさい!? 出したら泣くわよ!!?? 神様泣かしてただで済むと思ってんの!?」

「あっはは。防犯ブザー持ってたら完璧だね」

「何の話よ!!??」


 二人の愉快なやり取りに、思わず僕も乗ってしまった。しかし、現実にクルスと相対したニアが防犯ブザーを鳴らした場合、クルスが捕まる可能性は二百%は堅い。その光景を想像すると、実にシュールで笑えてしまう。ちなみに、確率の内訳は普通に逮捕される可能性が百%、再犯防止の為に再逮捕される可能性が百%だ。悲しい哉、幼女と触手の相性は絶望的に悪いのだ。主に条例的な面で。


「もう!! 何よ何よ何よ!!」

「あーはいはい、ゴメンってば。僕が悪かったからさ、はい、ニーアー」

「む、何よ?」


 僕は晴れやかな笑顔を浮かべて、膝をぽんぽんと叩く。すると、恨みがましそうだったニアの表情に、わずかに期待の色が浮かんだ。


「約束、でしょ? それとも要らない?」

「……ふ、ふーん! バカイトの癖に殊勝じゃない!! いーわよ乗ってあげる!! あ、勘違いしないでよ!? 乗ってあげるんだから!! 乗りたいわけじゃないんだからね!!??」

「ふふ、はいはい」


 もはや風化したかと思われていたツンデレのテンプレートはしかし見た目幼いニアが繰り出すことによって、萌えという境地ではなく和みという境地に僕を立たせてくれた。僕はこの現象をツンデレではなくツンナゴと名付けたい。うん、ナイスツンナゴ。


 ぽすんと、僕の膝の上に腰掛けて、ジト目で僕を見上げるニア。そんな彼女ににこりと微笑み掛けると、ニアは僅かに頬を染めてぷい、とそっぽを向いてしまった。だが、中々に上機嫌になってくれたらしく、すぐにニアは鼻歌なんて歌いながら楽しげにパタパタとその足を泳がせていた。そんな僕らに、妬ましい視線を向ける、一匹の触手。


「仲がいーこって」

「? クルスもおいでよ」

「マジで? いくー」

「来んなクソ触手!!」

「泣いていい? カイト。ってか泣く」


 表情豊かな触手のクルスは、その愛くるしい巨眼を顰めさせて涙を流している。確かに、ニアが拒否する以上はまた吹き飛ばされかねないし、僕はこの場は苦笑するに留めた。後でいっぱい慰めながらぷにぷにしてあげよう。


 しかし、クルスの一言も、気になるところではあった。


 確かに、ニアは僕と――本当にそうかは分からないが――仲良くしてくれている、というか懐いてくれている。ユーリさんとも親しげではあったけれど、それでもここまででは無かった気がする。しかし、これといって心当たりもないので、ものは試しと直接訊いてみることにした。


「ねぇニア」

「んー? 何よ?」

「ニアは、どうして僕に対して、その……仲良くしてくれるの?」

「は、はぁ!? べ、別に仲良くなんかしてないわよ!! アタシはアタシの愛する全ての生命に等しく愛を向けて接してるわよ!!」

「でも、ユーリさんに『膝を貸せ』、なんて言わなかったよね?」

「うぐっ……! そ、それは……」


 何故か、言葉に詰まるニア。心なしか、顔もどんどん真っ赤になっていっているような気がする。どうしたのだろうか? 何か不味いことでも訊いてしまったのだろうか?


 僕がそんな風に気を揉んでいると、魚をひっくり返していたクルスがけろりと言い放った言葉が、ニアを硬直させた。


「そらーお前アレよ。お前が引っ叩いて、それが気持ち良かったってんでお前に懐いたってヤツよ」

「んなっ!!!!????」

「え、そ、そうなのニア……?」


 思いがけないクルスの推測に、僕もどもった声を出してしまう。ニアの肩がプルプル震えているが、もしかして、相当お怒りなのではないか?


 しかしそんなことは知らんとクルスは魚をひっくり返しながら尚もさらっと続けた。


「いやーしかし、チビでマゾか。流石神、進んでんなー」


 心の底から感心するような声。それが尚の事、ニアの怒りに油を注いでいるとも知らずに。


「し……」

「ん? なんよ? 聞こえねーぞ?」

「死ねーー!!!! この変態クソ触手!!!! 女の敵!! 不届き者――――!!!!」

「ふん。効かぬわ」


 先程と同じように、ニアが手を翳すと、またもその手が輝いて、クルスを弾き飛ばした衝撃波のようなものを飛ばそうとする。しかし、クルスは二度もその攻撃を食らっている。対処法はわかりきっていることに加え、クルスのスピードであるならば、ニアの魔法が発動する前にニアの手を弾き、その軌道を逸らすなど造作も無いことだった。


「ムキーーーー―!!!! 邪魔すんじゃ無いわよアンタ!! ってか勝手に触ってんじゃないわよ祟るわよ!!??」

「祟るな祟るな。それにオレ様は女の敵ではない、断じて違うぞー」


 そんなことをしながら、ドカンボコンと魔法を明後日の方向に放つニア。そして、被弾した樹からはじけ飛んできた細かな木片が焚き火に落ちた時、僕は両手を勢い叩き合わせていた。


 パァン! と乾いた音が森の中を木霊する。それにともなって、ニア達も我に返り、僕の方へと眼を向けてきた。


「二人共、ご飯前だよ。お行儀よくしなきゃ」


 僕はそこまで怒った風を見せなかったけれど、二人も自分が悪いことをしたと分かっているのだろう。すぐにしおらしくなり、謝罪の言葉を呟いた。


「「ご、ごめんなさい」」


 それを見て、僕は一度にこりと笑むと、気を取り直す意味で再びパンと控えめに拍手をした。


「ねぇクルス、そろそろいいんじゃないかな?」

「んえ? お、おうそうだな。ん、いけそうだぜ」


 クルスは器用に二本の串を巻き取ると、僕とニアに向かって魚を渡してくれた。僕は素直に、ニアは戸惑いながら、クルスの触手に触れるのを恐れるようにしながらも、無事彼の手から受け取って、小さく「ありがとう」と呟いた。


「それじゃあ、いただきます!」

「おー、いただきます」

「? い、いただきます……?」


 僕らの食事前の礼に、ニアは戸惑いながらも合わせてくれた。僕はカバンから多めに持っていくよう言われていた塩を取り出すと、僕の分、差し出されたクルスの分、そしてどうやって食べればいいのかとマジマジと魚を観察しているニアの分に少し掛ける。魚はまだ熱々のままで、小さく音を立てながら吹き立つ泡と、ほんのり立ち上る香りが食欲を誘う。


「ニア、あふっ、あふっ! ん、熱いから気をつけて食べてね?」

「? ……熱っ!」


 注意喚起したものの、ニアは僕の見よう見まねで一気に大口で魚に齧り付き、案の定その熱さに驚き、驚きと痛みで涙目になっていた。


「あはは、気を付けなきゃダメだよ。ほら、貸して?」

「ん……」


 僕は左手でニアの魚を受け取ると、二度、三度と息を吹きかけ、唇で温度を確かめた。


「んんっ!?」


 その瞬間、ニアがぼんっ! と音を立てて顔を真赤に染めていたような気がしたのだが、魚を冷ますのに夢中で気付けなかった僕。やがて、ちょうどいい温度にまで冷めた魚を、ニアに手渡した。


「はい、どうぞ」

「ん……! んん……」


 ニアの動きがぎこちないが、まだ熱くないか疑っているのだろうか? それにしては顔がやたら赤い気がするが。


 やがて、食うべきか食わざるべきか悩む素振りを見せていたニアは、キッと魚を睨みつけ、ままよと魚に齧り付いた。すると今度はやってきたのは熱さではなく、別のものであったことに、眼を丸くするニア。きっと彼女の口の中では、焼けた川魚の身と程よく熱された脂に、カリカリの皮の食感が加わり、塩のアクセントが効いてその美味しさがまんべんなく広がっていることだろう。僕も食べて思ったが、この川の魚は美味しい。ここに醤油とおろし大根が無いのが残念どころか無念に思えてしまうほどには。


「おいしい……おいしい!」

「よかったね」

「んー!」


 ニアは満面の笑みを浮かべて、パクパクと魚を頬張っていた。あまりにいい食いっぷりなので、何だか僕も気持ちよくなってくる。


 久々の、クルス以外の誰かを交えての食事。こんなに賑やかなのはファズグラン以来か、なんてことを考えながら、僕も自分の分を頬張っていた。その視界に、不貞腐れるクルスの姿を捉えながら。


「この際ノケモンなのはいい。ただ、なーんか爆発させてーんだよなー……」


 実に物騒なことを呟きながら、クルスは文句を垂れるように、串に使った木の棒を焚き火に投げ入れていた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!!

いやー、読み返してみると結構プロットと違っちゃってるなぁとかいうところもあり、恐怖しながら投稿しております……はい……。

そういうことが無いように、とは心がけさせていただきますが、内容の修正、結構細々とやらせていただくこともあるかと……。

えぇ、言い訳です。すみま(パン)

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