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第28話 意外と『普通』な彼ら

おいやべぇぞ!!

前の話で多分この主人公方向音痴設定殺しやがった!!

申し訳ありません……急ぎ修正させていただきます……。

 「うーん、思ったより時間かかっちゃったね……」


 空の色が深い鼈甲色に染め上げられた頃、そうごちながら、僕はピーちゃんと共に集落の奥、妖精族の研究施設から出て、ユーリさんの居るであろう集落の入り口付近に向かって歩いていた。


 昨夜、ピーちゃんが睨んだ通り、川の水に含まれていた薬品は『ノファルの迷酒』で当たりだった。川の水から取り出したそれを、僕が見て『全統神の知慧』が反応。『ノファルの迷酒』という名称のアイテムであることが分かった。


 その効果は単調なもので、『これを服用した魔種をワラグリの実の臭いのする方向へおびき寄せる』というものだ。ワラグリの実とは、『ノファルの迷酒』を作るために必要な木の実で、これとバリカラという酒を加熱して調合することで出来上がるという。


 その為に、メリゼさんには今これらの取引がされていないかを確認してもらうようお願いしたのだ。その流れが確認出来次第、運が良ければ犯人見つけ出しを、運が悪くても国内に犯人が居るかいないかだけでも判明する。


 けれど、内心では確信に近い予測は立てられていた。いつかの夜、それらしい樽を購入していた姿に加え、あんなものを見せられたのだ、恐らく犯人はディムシーさんだろう。けれど、証拠がなければ、推測はただの推測でしか無い。ユーリさんはディムシーさんが犯人だと断言しているが、それでもまだそうでない可能性だって当然ある。


 だから、決定的な証拠を掴むまでは、僕の中ではあくまで『容疑者』で通すつもりだ。理由なく疑われ、決めつけられる辛さは、自分なりに分かっているつもりだから。

 

「ぴぴ、でもまぁ、ちょうどいいくらいなんじゃないのかなー? クルちゃん、そろそろ起きたんじゃない?」

「そうだね、クルス―。起きてる?」

「んぁ……あともーちょい……」

「そっか。晩御飯時までには足りそう?」


 足りそう、と言うのはクルスの睡眠時間のことだ。バッドアビリティの『要睡眠』とあったように、やはりクルスは強制で一日に六時間は睡眠をとる必要がある。これは人間で言うところの睡眠、というよりは重要性的には呼吸に近いものだった。前に森でクルスが寝ると言った時は、単に眠くなったからと思っていたが、もっと重い意味を持っていたことを、この時になって知った。


 一度寝始めると、クルスはその間起きることはなかった。呼びかければ一瞬だけ起きはするのだが、その後またすぐに寝入ってしまうのだ。そして、六時間分の睡眠を終えて、ようやくそこから十八時間の行動が出来る、ということだった。


 ちなみに、これまた人間と同じようなもので寝溜めという器用な事もできないらしい。一日当り六時間睡眠。十八時間連続で寝ることは出来ないらしく、その為三日連続で動き続ける、なんてことは出来ないらしい。これは絶対であり、崩れることは許されない。もしも崩れた時にどうなるかなど、想像もできないし、したくもなかった。何かとてつもなく良からぬことになるだろうということは目に見えていたし、そもそも崩すことなど出来ないだろうと思っていたから。


 つまり、一家に一体、最強便利超触手な彼にも、致命的な弱点があるということだ。今後のためにも十分に留意しておく必要がある。それでも不幸中の幸いとでも言うべきか、割りと好きなタイミングで寝入る事が出来るらしいので、起きていられる時間帯の調整は効きそうだということだった。


 例えば、寝溜めは出来ないと言ったが、ある一日の最初の方に十八時間行動させて六時間睡眠、その日の必要時間分の睡眠から目覚めた後、すぐさま次の日の行動の為の六時間睡眠を取る、といった具合に、擬似的な十二時間連続睡眠を取るといった事は可能なわけだ。この事も、今後のためにちゃんと頭に叩き込んでおこう。


 ちなみに、今クルスが眠っているのは今夜に備えての事だった。今夜、僕は妖精族と協力して夜通し貼りこみをするつもりだ。そして、何があるかわからない以上、何があってもいいように、クルスが十全に動けるよう、今のうちに寝てしまってもらおうということだった。

 

「おう……足りる足りる」

「わかった。それじゃあもうちょっとおやすみ」


 それだけ言うと、クルスの意識が右腕から消える。この時の喪失感に似た何かが、僕は何とも言えず苦手なのだが、慣れていくしか無いだろう。

 

「ぴ? おんや、あれは」


 歩いて行くと、ピーちゃんが何かを発見したらしく、物珍しそうな声をあげる。僕も彼女の視線を追うと、そこには子供のミノタウロスや妖精に囲まれ、楽しげに笑い合っているユーリさんが居た。

 

「随分懐かれてますね」


 僕はそれが嬉しくて、そう声を掛ける。僕に気付いた子どもたちは「あー! カイトだー! こんにちわー!」と元気よく手を振ってくる。僕もそれに応えながら、困ったように笑うユーリさんと目が合う。

 

「はは、ちょっとな。しかし、言葉がわからなくて難儀しているというのに、一向に離してくれなくてね。困っていたんだ」

「ははは、それは……大変でしたね。皆、ユーリさんはどうだった? 優しかった?」


 僕が屈みながら子どもたちにそう問いかけると、ユーリさんの手を握っていた女の子のミノタウロス、ムウちゃんが元気よく手を上げた。

 

「惚れたべ!!」

「へっ!? ほ……ほ?」


 僕が困惑してどもっていると、他の子達も自分たちのユーリさんへの感想を述べていく。

 

「男前!」

「イケメン!」

「カッコいい!」

「あたしユーリのお嫁さんになるべー!!」


 妖精、ミノタウロス問わず、大人気のユーリさんだった。まぁ確かに、そんじょそこらの男、少なくとも僕なんかよりはずっと男前だなぁとは思う。顔とかも美形だけど、そこではなく行動や言動それ自体が。


 あぁ、誤解を招かないように断っておくと、彼女の回りには女の子しか居ない。まさに百合の花園というわけだ。

 

「異種百合……これはまた新たな境地」

「変なことを言ってないでくれるかカイトくん。一体この子たちはなんて言ってるんだ?」

「あ、あははぁ……ユーリさんの事が大好き、って」


 嘘は言っていない。ただ、その大好きをどう捉えるかはユーリさん次第だ。ユーリさんはというと、やはりというべきか、僕の大好きを子供が親に向けるそれだと受け取ったらしく、嬉しそうに目を細めて子どもたちに微笑み掛ける。

 

「そうか、嬉しいぞ。私もキミ達のことは大好きだ」


 ズギュン、という音が聞こえた気がする。ユーリさんのイケメンスマイルと、甘い言葉に、子供たちが悩殺(ノックアウト)されていく。


 剣を持たずとも相手を無力化するとは、ユーリさん、やはり恐ろしい人!

 

「それで、キミはどうするんだ?」

「僕ですか? うーん、お願いしておいた身としてはバルザさんとメリゼさんの事が気になりますけど、今日はここに泊まらせて貰おうかなって考えてます」

「そうか、では私も……」

「いえ、ユーリさんには先に戻っておいて欲しいかなぁと思ってるんです……いっ!? け、けど…………」


 僕の言葉に、ユーリさんの目が鋭く光る。まさかまた危険に巻き込まれに行くつもりじゃないだろうなと、釘を刺しにかかる。

 

「ち、違いますよ。今回はクルスも居てくれますし、皆にも協力をしてもらうつもりです。危険な目にあったとしても、この間みたいな無謀なことにはなりませんよ」

「……む。しかしだなぁ……」


 まだ納得がいかないようで、ユーリさんも食い下がる。僕は頭を掻きながら、ユーリさんを説得すべく更に続けた。

 

「あの、ユーリさんにはお二人のことを、それに出来る限り、寝るまでの間出来る限りでいいんです。街の方を見ていてほしいんです。大丈夫だとは思うんですけど、万が一に備えて」


 病み上がりですいませんが、とユーリさんに詫びながら言う。ユーリさんはしばらく納得ができなさそうに唸っていたが、犯人がおそらくファズグランにいると考えられる以上、街に危険が無いとは限らないと考えてくれたのか。しばらくすると冒険者として理知的な判断をと思ってくれたらしく、僕の言葉に頷いてくれた。

 

「はぁ~~~~。わかった。但し、次は血まみれで帰ってくるんじゃあ無いぞ? そんなことになったら承知しないからな?」

「ありがとうございます!」


 僕はユーリさんに頭を下げると、ユーリさんはやれやれと肩を竦め、群がる子供たちに別れを告げた。

 

「それじゃあ、一先ずお別れだ。私はそろそろ帰らなければならない」


 ユーリさんの言葉に、子供たちが寂しそうに彼女を掴む手に力を込める。

 

「はは、何。もう来ないと言っているわけじゃあない。キミ達の事も気に入ってしまったし、また来させてもらうさ。勿論、キミ達が歓迎してくれるなら、な?」


 それを聞いた子供たちが、ぱあっと表情を輝かせた。それを聞いていた大人のミノタウロス達は渋そうな、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていたが、ここでは気にしてはいけないだろう。


 安心した子供たちに解放されると、彼女たちに手を振り、ユーリさんは振り返る。その途中、ゴレイ君と目が合ったユーリさんは、意味ありげな笑顔を彼に向け、その青髪を翻しながらその場を後にした。


 すると、子供たちの痛々しい視線が僕に突き刺さる。あれ? 今ので僕何かしたっけ?

 

「何やってんだべ!」

「な、何って何も……」

「それが何やってんだべって言ってんだべ!! さっさと追いかけるべー!!」


 恐らく一番ユーリさんに懐いていたムウちゃんに後ろから押され、僕はユーリさんを追いかける。見送ってこいと、そういうことなんだろう。


 僕は自分の気の回らなさを自嘲気味に笑いながら、先を行くユーリさんを呼び止めた。

 

「ユーリねーちゃんも大変ぴー……」

「カイトのことも好きだべ。でもカイトには負けんべー!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 集落を出て、森の中を二人で進む。クルスは既に必要な時間分の睡眠を終えているが、別に僕らの会話の邪魔をする必要はないだろうと判断したためか、右腕に引っ込んだままだった。


 特に何を話すでもなく、黙々と薄暗い森のなかを進んでいく僕ら。その中で、何か話題を振らなければと勝手に焦りだす僕を他所に、ユーリさんがぽつりと独り言のように呟いた。

 

「彼らは、案外普通なのだな」

「…………えぇ。普通ですね」


 今までに聞いたこともないような、不思議な声色で話し始めるユーリさん。その声には、若干の迷いのようなものも感じ取れる気がする。

 

「きっと普通に食事を摂り、子供たちは普通に遊んで、私と同じように甘いモノが好きで――――」

「喧嘩したりして、珍しいお客さんに心を開いたり怖がったり、仲間が死んだら弔って、悲しんで、それでも前に進んで。えぇ、普通ですね。彼らも、僕らと一緒で、生きてるんですよね」


 そう、『生きている』。彼らもまた、僕らと同じように、生きたいから生きている。何も難しいことはなく、それだけに僕らの間には、ひょっとしたらさしたる違いなど無いのかもしれない。

 

「あの子達は、よく笑う」

「はい」

「けれど、私達と彼らはこんなにも似ているのに、決定的に違う」

「そう、かもしれませんね」

「将来、あの子達も、もしかしたら誰かを傷つけるかもしれない。見知らぬ他人や、大切な誰かを。あの子達も魔種で、私たちは人間だから」

「……無いとは言い切れませんよね」

「もしその時、あの子達を殺せというクエストが来たら、私はそれを受けられるだろうか。あの子達を殺せるだろうか……」

「それは…………ユーリさんがどうしたいか、だと思うんです」


 僕の言葉が意外だと言わんばかりに、ユーリさんが目を見開いてこちらをじっと見つめる。

 

「ユーリさんの意志も、ユーリさんの力も、結局は全部ユーリさんだけのものです。あの子達を斬れるか、なんて最終的にはユーリさんがどうしたいか、だと思うんです。それに、斬れるか斬れないかで言えば、斬れませんよ。ユーリさん、優しいですし」

「…………そう、だな。優しいかどうかはさておいて、私では斬れんだろうな」


 ユーリさんの声は少しだけ気が晴れたように軽やかになる。ユーリさんは肩を竦めると、まぁ無理だろうが、と鼻で笑いながら。

 

「まぁ、精々『そう』ならないように、私は私の振る舞い方を考えておくことにするよ」

「あはは。ですね」


 そんなことを話しながら、僕らは森の外へと出られた。辺りは完全に陽が沈みきり、遠くからファズグランの灯火が見える。


 そこでユーリさんと僕は別れ、僕もさて戻ろうと、踵を返した。ただここで問題が一つ。


「ところでさ、クルス」

「ん~?」


 僕は嫌な汗をどばどば流しながら、クルスに一つ尋ねた。

 

「村、どっちだったっけ?」

「…………」


 バッドアビリティ『方向音痴』。それまで特に迷うことも無かったものだから、完全に失念していた欠陥人間である僕の欠陥の一つ。ユーリさんとの会話に没頭していて、すっかり失念していたアキレス腱。


 その後、心配して迎えに来てくれたゴレイ君が来てくれるまで、僕はクルスと一緒に樹に手をついてひたすらブルーに陥っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

あらゆる叱責、この身に受ける所存……。

ホンット申し訳ありません……。気をつけてはいるのですが……。

ひとまず、今日はこのくらいにしたいと思います。続きはまた明日に。

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