第23話 牛人の涙
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「バカバカバカバカー!!!!」
目の前にプスプスと所々が焼け焦げ、大の字になって倒れたミノタウロスの前で、僕はクルスの触手に泣きながら何度も何度もチョップをかましていた。ちなみに、あの悪臭はもうしていない。幸か不幸か、雷撃によって定着する前に蒸発してしまったのだろう。しかし、クルスの触手は僕の手刀が当たる度にぶにょ、と柔らかく変形するため、全くと言っていいほど効果は無いと言えるが、それでも僕は止めようとはしなかった。
「おうなんだなんだ? 今度は何が悪かったってんだよ?」
「色々とバカ―!!!!」
「色々のトコ大事だニョ」
未だ無駄と分かっていながらも続けていたチョップのタイミングとクルスの発音のタイミングが完全に一致したせいで、クルスに変な語尾がついてしまった。だが、僕はそんなことお構いなしにクルスを捲し立てた。
「彼が死んじゃったらどうするのさ!!??」
「あ、そっち? いや……加減はしたって……」
「何度も言ったでしょ!? 僕は少なくとも会話ができて相手に意志があるって分かるなら殺しはしたくないし、クルスにだって殺させたくないの!!」
「いや、それは聞いたけどよ……。相手が強い上に殺す気満々だったらどうすんだよ。むざむざ殺されればいいってのか? オレ様にも死ねと?」
「うっさい!! その時はその時!! それにクルス強いんだから何とかなるでしょ!!」
「んな無茶なー……。完全に他力本願じゃねーかよ」
「僕は弱いんだからその辺りはクルスに任せるしか無いんだから仕方ないでしょ!! そんなことより最初のあれは何!!?? 何ですか!!?? 完全に遊んでましたよねクルスくん!!?? パパ知ってるんですからね!!!!」
「お前もうなんか色々と……無茶苦茶だな……ってか誰がパパじゃい」
「誰がパパじゃい!!!!」
「オメーが言ったんだろーがよ!!!!」
ギャーギャーとお互いに騒ぎたて、とは言っても騒いでいるのは主に僕なわけだが、どうやらクルスも自身に秘められていた力がここまでだったとは想定しておらず、先程の触手絡まり事故も、複雑な触手の動作に慣れていないが故の事であり、遊ぶように戦っていたのも自分の力に興奮気味だったからということらしい。確かに、その気持を理解できないこともない。僕だって、もしもいきなりチートみたいな力を振るえるようになったら、興奮して試したくもなると思う。
そんなわけで、これ以降は戦いで無闇に遊ばない、もう少し触手の動作の訓練を積む、という形で講和を結ぶこととなった。
「にしても……本当に殺したりしてないよね……?」
「ホントだって。そんなに疑ってんなら脈でも取ってやるよ」
言って、クルスは一本の触手をミノタウロスに伸ばすと、その首元へと押し当てようとする。そして、後数センチで触れようかというところだった。ミノタウロスの口や眼、頭部のあらゆる穴という穴から黒い靄が吐き出され始めた。間違いない。ミノタウロスを暴走させたあの黒い靄だ。
「うひゃあ!?」
「何だ!? まだなんもしてねーぞ!?」
クルスも即座に触手を引き、警戒を強めて僕を守ろうと全ての触手を靄へ向け、硬質化させる。更に、先程ミノタウロスを撃退するために使用した薄紫色の雷撃を触手に纏わせている。
やがて、その全てが吐き出され、数秒間中空に浮遊していた靄。次は僕らに襲いかかるのかと思いきや、靄は見る見るうちに消え去っていき、まるで最初からそこに存在していなかったかのごとく霧散した。
「な、何だったんだろう……」
「さーなー……。なんにせよ、オレ様達にまで取り憑こう、なんて事にならないでよかったじゃねーの」
「それも、そうだね」
クルスの言葉に、素直に頷く僕。しかし、この後のことはノープラン、というか、多少考えなければならないところに立たされていた。
勿論、クルスのお陰で生き残ることができたのだから、一刻も早くファズグランへ戻り、ユーリさんに顔を見せなければならないだろう。この時の僕は、僕もどうにか生き残れたのだから、ユーリさんも生き残っていると、酷くお粗末な根拠を元に確信さえしていた。
だが、目の前に居るミノタウロスを放置するわけにもいけないとも感じていた。
もしもミノタウロスがまだ僕達を襲ってくるようなら? ミノタウロスと意思疎通が出来るのかもわからないのに? 危険要素は数多くあるが、それでも、僕はここに残り、このミノタウロスから話を聞くべきだと考えていた。勿論、できればの話であるが。
「どした? 帰らねーのか?」
「いや、彼をほっとくわけにもいかないでしょ?」
「おま……今の今までお前を殺そうとしてた奴だぞ?」
「それは、多分だけどあの靄のせいじゃないかな。その前は、どうだったのかよく分かってないけど、今みたいに彼が暴れ始めたのもあの靄を吸い込んでからだし、無関係とは考えにくいと思うんだ。ちょっとだけ理性的になってたような気もしたけど……」
「もし違ったら?」
「その時は……、クルスに守ってほしいなー、なんて……。あはははは」
その時クルスは、多分ダメだこりゃって思っていたのだと思う。彼の触手が、左右にねじり回されていたから。けれど、不快に思っている風ではなかった。ただ仕方がないから付き合ってやると、口には出さずその触手を僕の周囲に守るように回す。そして――――。
「ん、んぁ……?」
ミノタウロスの眼が覚めた、と同時に、声も聞こえてきたと思う。それを察知したクルスが素早く警戒態勢を整える。やがてミノタウロスは上半身を起こすと、茫洋と地面を見つめていた。
「あ、あのー」
恐る恐る、声を掛けてみる。すると、ミノタウロスと僕の目が合い、暫くの間沈黙が流れる。何となく、気まずい空気。それを打開すべく、更に声を投げかける。
「大丈夫、ですか?」
僕の眼を見て、二度三度と眼をパチクリさせたミノタウロスは、恐ろしい速度で飛び起き、身構えた。
「にっ、にににに人間っ!!?? どうして!? オラ達普通に川に水を飲みに来ただけだべ!!??」
やはり声が聴こえる。スライムの時と言い、何やらおかしな訛りになっているのは、僕の方に何か問題があるからなのだろうか? とは言え、意思疎通に支障をきたす程ではないので、なんら問題はなさそうなのが幸いだが。
「あの、ちょっと話を……」
「はっ!? さては人間!! おめぇオラ達を罠かなんかにハメたんだべな!!?? 仲間達も見当たらんし、仲間をどこさやった!! 話さねんなら殺してでも探しに行くべや!!」
言って、ミノタウロスは威嚇のように雄叫びを上げる。しかし、その雄叫びは怒りというより警戒の色が強い。何より、先程までは怒りや憎しみ、それもドス黒い部類の感情しかほとんど感じ取れなかったのが、今では様々な感情さえ見て取れる。
つまり、先程までの暴走は黒い靄の影響であり、それももはや残っていないことが確認できたので、僕は一先ずの安堵を覚えながら、興奮気味のミノタウロスを宥めようとする。
「いやっ……えーと。とりあえず少しだけ落ち着いてお話をさせてもらいたいんだけど……」
「何が話か!! 問答無用だべぇ!!」
「おいコラ」
「あひぃっ!?」
僕の説得虚しく、問答無用で殴りかかってきたミノタウロスに、紫電を纏わせたクルスの触手が彼の足元の地面をスパァン! という凄まじい音が出るほどの勢いで叩き、それに驚いたミノタウロスは変な声を上げて飛び上がってしまった。
「んなっ!? 触手!? どうして人間から触手が生えてんだべ!? さてはおめぇ、呪われただかなんだかの人間か!!」
「いや、こいつはフツーに人間だし、オレ様もフツーに触手だよ。とりあえずこいつが話がしてーんだとよ。聞いてやれよ」
「ハンッ!! くだんね!! いきなりでビビっちまったが、よわっちい触手なんかに遅れを取るわけもねぇべやひっ!! ひぃっ!?」
「聞くか、聞かねぇのか、決めろっつの」
「あっ、やめ!! ごめっ!! ごめんなさい!! ごめんなさいだべぇぇぇええええ!!!!」
よわっちい、という言葉が聞き捨てならなかったのか、クルスは触手に雷撃を纏わせながら、触手を鞭のようにしならせてミノタウロスの足元を八つ当たりするように何度も何度も左右に叩きつける。すさまじい威力を持つことはミノタウロスもわかっているのだろう。クルスに当てるつもりが無くとも、本人に伝わらなければそれは脅威にほかならない。ミノタウロスは触手を避けるべく右へ左へ飛び回りながら、泣きながら許しを乞うていた。
「あ、あははは……」
そんな中で、僕はただ呆然と立ち尽くし、苦笑を浮かべることしかできなかった。
「ほんっとに、申し訳ねぇでした……。カイト様とクルス様の温情にはなんとお礼を言ったらいいか……」
その後、どうにかクルスの怒りが一通り収まり、正座をしながら深々と頭を下げてくるミノタウロス。クルスによってできてしまった火傷やら裂傷やらがあまりに痛々しかったため、ご機嫌斜めのクルスに傷薬を塗ってあげるよう説得するのに若干の時間を要した。それでも、クルスはやっぱりいい人、ならぬいい触手で、少し説得したらちゃんとミノタウロスに傷薬を塗りたくってくれた。最後にパシン、と小気味のいい音で叩いてはいたが。
「お礼なんてそんな……。僕らは少し聞きたいことがあっただけなんだ。だから少し、質問をしてもいいかな?」
「へぇ。ちぃとばかし記憶が曖昧ですが、お答えできることでしたら何でもお話するべ」
「ありがとう」
ちなみに、クルスは今はその辺に手当たり次第に触手を伸ばしている。多分寄生していた大樹から移動して、それに新鮮味を感じているのだろう。景色そのものは見慣れたものでも、どこか違って映るのかもしれない。それに、僕にとってもそれは望ましいことだった。実際のところ、クルスの全身、とでも言えばいいのか、どの程度までクルスの触手が伸びるのかわからない。そういう意味でも、彼に自由に動いてもらうのは今後のためにもなるだろう。
「それで、いきなりなんだけど、今日はどういう事をしていたか、教えてもらえないかな?」
「どういうこと、だべか?」
「覚えている範囲でいいんだ。今日の朝起きてから、今まで何をしていたかを教えてほしいんだ」
そう言うと、ミノタウロスは考えこむように俯くと、ほそぼそと話し始めた。
「今朝は、普通に起きて、飯を食べて、昼飯のための木の実やら狼やらカエルやらをとっ捕まえにいく連中と、水の蓄えが無くなったからいつもの川に水を調達しに行こうって連中に分かれて行動したんだべ。オラ達は水汲み側だった。んだけど、水汲んで、オラ達も喉乾いてたもんで、川の水を飲んだんだべさ。したら、そっから記憶が曖昧でなぁ……。こっからはあんまり話せることねぇべさ。申し訳ねえです」
「ううん、十分だよ。ありがとうね」
やはり、彼らは川の水を飲み、そして意識が弱まり、暴走気味な行動を取るようになってしまった。スライムの時と一緒だ。やはり、川に異変が起きていると考えるのが自然だ。それが、自然由来の事故のようなものなのか、それとも人の手によるものなのかは不明だが、どちらも考慮しておくべきだろう。と言っても、この場合悲しいことに、殆どが後者であるのが世の常だが。
「ねぇ、ミノタウロスって魔種は、種族的に人間を好んで襲ったりするものなの?」
「ミノタウロスはオラ達以外にもいるだろうからなんともべが、んだけどオラ達は人間を好きで襲ったりなんかしねぇべ。出くわした時なんかはもちろん身を守るためにも戦うけんど、自分から戦いに行くなんてこたオラ達はできねぇし、近付こうとも思わねぇ。したって得はねぇべよ」
「その、変なことを訊くようだけど……人のお肉を食べたりとかって……その……しないの?」
「とんでもねぇべ。人の肉食い散らかすのなんか本能だけの肉食魔種か猛獣くらいだべ。オラ達は雑食だけども、人の肉なんて食えたもんでもねぇし、よっぽど食うに困ってないんなら食わんべよ」
僕は苦笑いをしながら、嫌な汗を垂らす。その後、必至に目の前のミノタウロス君に「カイト様を食うだなんて恐れ多いことはしねぇべよ!!」というフォローに、なんとか平静を保つことができたが。
しかし、そうなると川に流れている異物は、体内に入ってくると、その魔種を特定の場所に誘導することが出来る類のものなのだろうか。そんなことを考えていると、おずおずとミノタウロス君が僕に訊ねてきた。
「あのぅ……カイト様」
「? どうしたの?」
「お恥ずかしながら、オラの仲間が何処に言ったかご存知でねぇべか? どうもはぐれちまったみたいでよ……」
「……っ」
その言葉に、僕はなんと返すべきなのか。言葉が出ない。
皆死んだ。キミが殺した。とでも言えばいいといいのか? そんな度胸、僕には持ち合わせがない。けれど、いずれは知らなければならないことだ。いずれは知ってしまうことだ。そう思えば、僕が果たすべき最善は既に決まっているようなものだった。
「カイト?」
いつの間にか、僕の傍らにクルスが戻ってきていた。僕の内心の異常を感じ取ったように、案じるように見上げてくる。
「クルス、移動するよ」
「? おー」
「それとごめんね。ちょっと、嫌なものを見せることになると思う」
「?? そっか。準備しとく」
それだけ言って、何を準備するのか、クルスはそのまま僕の首周りに巻き付いた。それが意味するところは不明だが、触れた肌から彼の熱が伝わる。その熱が、何となく僕の背中を押してくれているような気がする。
「行こう、キミの仲間が、待ってる」
クルスに後押ししてもらって、ようやく絞り出せたのは、その一言だけだった。
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「――――」
僕先導のもと、方向音痴故に何度も迷いそうになりながら、どうにか僕らはあの場所にたどり着いた。僕の傍らで、ミノタウロスの彼は立ち尽くしている。やがて、よろよろと不安定な足取りで彼らの元へ歩み寄り、黒ずんだ血だまりの中で崩れ落ちた。
「アグ……、ボルク……、ロクタ、コム!!!! なんで!! いってぇ誰が……あぁ!!!!」
かつて仲間たちだった残骸を拾い上げ、大事そうに抱きしめる。その瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ち、あらん限りの声で心痛の咆哮を上げる。
「オォ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
その震えから伝わる、彼が感じている悲しみに当てられ、僕は歯噛みして、目を逸らしてしまった。一度に仲間が何人も死んだ。そんな悲劇の当事者となった彼の胸の中に溢れる哀しみが如何程のものかなど、僕にとっては知る由もなかった。無論、それはクルスにしても同じことだった。
「クルス、平気?」
「それ、オレ様に訊くことじゃねーだろ」
言われて、クルスの触手が僕の右腕から伸び、そっと僕が左腕を掴んでいた右手をゆっくり解いた。見れば、自分でも気付かないうちに爪が食い込むほど力を込めて握りしめてしまっていたらしく、つつ、と血が涙のように流れていく。あまりにも悲しすぎる光景。だというのに、僕の眼には涙の一滴も流れていなかった。
「僕って、冷たいね」
「泣けるってことだけが、情ってわけじゃねーだろ。知らんけどよ」
「だと、嬉しいな」
クルスは慈しむように僕の傷をなでてくれる。不思議な事に、クルスの体液が無くとも既に傷口は塞がり、痛みはすでに無かった。クルスが寄生した事による影響なのだろうか、それはまだ定かではないが。
「なぁ……カイト様……正直に言ってほしいべ……」
不意にぽつりと、そんな言葉を投げかけられる。ミノタウロスの彼は俯いたまま、僕に声を掛ける。その声に、怒気はない。あるのはただ虚無と、寂寥感だけだった。
「これをやったのは、オラなんだべ……?」
「…………」
声が、出せなかった。この事態の核心を突いた彼の言葉に、掛けるべき言葉が見当たらない。そんな僕を気遣ってか、それともこんな情けない僕に見切りをつけたのか、独白のように彼は呟き続ける。
「わかってるべ。オラだってミノタウロスの戦士の一人だ。傷の見分けくらいつく。こんなデカイ斬り傷、カイト様にゃあつけられねぇべし、クルス様ならこんな傷付ける必要もねぇべ。こんなことが出来る人間なんてこの辺じゃあ聞いたこともねぇし、わかりきったことだべ……」
その声が自責の念に染まるまでに、時間は掛からなかった。
「オラが……殺したんだなぁ……。お前らんこと……オラが」
自分の心にナイフを突き立てるように、彼は自分を責めるように言葉を連ねる。そう、彼が殺した。それは紛れも無い事実だ。けれど、もう一つの事実を、僕は知っている。それもまた、変えようのない、一つの真実だったから。
僕は彼の傍らに歩み寄り、うずくまる彼のすぐ近くの、ミノタウロスの死体のまぶたをそっと閉じ、黙祷を捧げる。クルスもそれに倣って、見よう見まねで触手を合わせて黙祷を捧げるようにしていた。
「さっきの、彼らの名前かな?」
そう尋ねて、同じように他の死体も瞼を閉じさせ、黙祷を捧げていく。見慣れない死体。冷たくなった肉塊に、普通ならば嫌悪してしまうのだろう。死そのものを目の当たりにしているのだ、それくらいは普通のことだ。
けれど、不思議と僕にはそれが無かった。確かに、死体は怖い、あまり見ていたいものではない。その感情は心の何処かで確かに感じているだろう。けれど、それ以上に、死体は丁重に扱うべきだ、そう思考が働いて、彼らに触れることさえ、さも当然のように行えた。もしかしたら、僕は本当に壊れてるのかも知れないな、なんてことを頭の片隅で考えながら。
「……? あぁ、今カイト様が拝んでんのがボルク……。その前の奴がアグ……、その隣がロクタで、オラの目の前に居るのがコムだべさ……」
「どんな、人たちだったの?」
「アグは……とにかく食い気が強かったべさ。ボルクは……、口汚ねぇけど、根はいいやつで、ロクタは寝るのが好きだったべな……。コムは、とにかく不思議なやつで、とうとう何考えてたんだかわがんなかったべ……」
「そっか」
最後に、彼が抱えているミノタウロス、コム君の瞼を閉じ、また黙祷。その中で、僕は更に続けた。
「そういえば、キミはなんて名前なのかな?」
「……ゴレイ」
「そっか、ゴレイ君か。キミは、彼らのことが、大切だったんだよね」
「……」
「仲間を殺したって、キミは言ったね。確かに、僕は見てたから分かる。彼らを斬りつけたのは紛れも無くゴレイ君、キミだ。だけど、だからこそ僕はキミを信じられるし、好きにもなれるんだ」
「……?」
僕の意図することを図りかねたのか、ゴレイ君がこちらへ視線を移す。僕も、黙祷を終えて彼の眼をまっすぐに見返した。
「キミは自分のしてしまったことに、きちんと向き合った上で、仲間の死を悲しんで、自分に責任を感じてる。それは強い人が出来ることだ。強くて、優しい人が出来ることなんだと、僕は思ってるんだ。そんな優しい人が、自分の大切な人を殺すなんて、例え誰が認めても、僕は絶対認めないよ」
「……う、ぉぉ……!!」
「友達の死を本気で悲しめる人が、友達を殺すわけなんて、ないんだから」
「おぉぉ……」
そう、そんな悲しいこと、あって良いわけがないんだ。だから――――。
「自分のためにも、皆のためにも、今はもっと、泣いておこう」
「オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
ゴレイ君の、一際大きな咆哮が、大気を揺らす。それは天高くまで響き渡って、もしかしたら彼らの元へと届いたかもしれない。
「カイト」
「ん?」
ふと、クルスが僕の服を引っ張った。
「お前は良いのか?」
「僕は遠慮しておくよ。僕の出番でも無いしね」
「そっか」
それだけ言って、クルスはくるりと僕の首元に巻き付いた。そして、二人で涙するゴレイ君をじっと見守っていた。
「それじゃあクルス、申し訳ないんだけど、もう一仕事、付き合ってもらえるかな?」
「んー?」
そう言って、僕は死体の一つ、アグ君と呼ばれたミノタウロスの側でしゃがみ込む。
「彼らを、家に返してあげないと、だからね」
「……任せろ」
クルスは頼もしく頷いて、僕らとゴレイ君で協力し、彼らをミノタウロスの村へと送り届けた。その間中、ゴレイ君すすり泣きだけが、ずっと僕らの耳に届いていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
もうこの章も終盤にさしかかり、前半に比べて進みがちょっと急過ぎてないか心配です……