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第22話 JackPot 最強の触手 

戦闘パートです!ようやく(仮)が外せるかなぁ……

あとすみません……ミノくんの心理描写で誤りがあったと思うので21話の一部を修正します……

これがあるからなぁ……反省します……。活かせるかは……期待せずご期待くださいませ。

「お前さぁ、オレ様の話聞いてたかよ?」


 開口一番、クルスの反応はそれだった。完全に呆れきった、僕をバカにしたような溜息さえ吐きながら。


 「いいか? 何かしらに寄生した魔種は、宿主にせよ自分の自我にせよ、結局はどっちかがどっちかを殺して一つの身体を奪い合うしかねぇんだよ。加えて、宿主に人間を選んだ場合は最悪だ。あの本にだって書いてあったろうがよ」


 言われて、視界の端に止まった分厚い本に視線を移す。僕はそれを手に取ると、そのページを探しながら、クルスへゆっくりと語りかける。


「それなんだけどさ、クルス。本当に、人に魔種が寄生したら、宿主も、寄生した魔種も、本当に死んじゃうのかな?」

「……どういう意味だ?」


 クルスは怪訝そうに、低い声を僕に投げかける。僕はお目当てのページを見つけ出し、それをクルスに見せながら言った。

 

「例えば、なんだけどさ。この寄生実験って、一体どれくらいの宿主に選ばれた人間と実験に連れてこられた魔種がお話できたのかな?」

「……は?」


 クルスの調子はずれな声。それもそうだろう。あまりに突拍子も無い事。一体なぜ、今魔種と人間の意思疎通の話が出てきたのか、クルスには理解できていないようだった。けれど、僕は単なる勘だけど、確信めいたものさえその手に握っていた。どうせ他に道もない。なら僕は、それを信じて突き進んでみるだけだ。


「『寄生』って、その名前の通り魔種が何かに寄生して、そこから力を貰って生きるための手段だよね。それってつまり、その魔種と人間が同じもの、一つの生命になるってことなんじゃないのかなって。だったら、お互いの得体が知れない、なんて、怖くて仕方がないと思うんだ。自分の中に異物が入ってくる。自分が異物の中に入られる。そんなの、お互いにとって怖すぎてうまくいくわけがないと思うんだ」


 そう、つまり僕が言いたいことは――――。


「つまり、お互いが仲良くしねーと、『寄生』は成立しないってか?」

「そういうこと、かな?」


 僕は本を閉じ、お前アホなんじゃないかと呆れ返るクルスに向き直る。クルスは腕組みをするように触手を絡ませると、やはり呆れた声で僕をバカにしたように言った。


「脳味噌お花畑のメルヘン野郎」

「さ、最近よく言われております……。一日呼ばれたこともありましたとも」

「だろーな。誰が聞いたって頭おかしいって思うもんよ。くくっ」


 呆れ返ってはいるが、嫌いではないとクルスは小さくクスリと笑んだ。そういえば、クルスが笑ったのは初めてじゃないかと、そんなことを考えながら彼の目と鼻の先でしゃがみ込んだ。


「クルス、僕と賭けをしよう」

「賭け?」


 ユーリさんとの一件と言い、僕は案外、博打が好きなのかもしれない。社会貢献できない身で、博打好きなど、タチが悪い事この上ないことだが、と心の中で戒めるように苦笑して。


「僕が勝ったら、僕の言うことを一つだけ聞いて欲しい。キミが勝ったら、キミの言う事を何でも一つだけ聞くからさ」

「……賭けの内容は?」

「『寄生』に成功するか、しないのか」


 成功とは、無論二人の自我が生きている状態で、クルスが僕への寄生に成功すること。失敗は即ち僕かクルス、あるいは双方の死を意味する。どうせこのまま何もしなければ死ぬのだから、どれだけリスクがあろうとも、試す価値は十二分だ。それに、僕の気分は晴れやかだった。何故か僕の胸の内は自信で満ち溢れていた。失敗するだなんて、微塵にも思わないほどに。

 

「……は。お前、バカだな」

「うん、大バカだと、自分でも思うよ」


 それでも、クルスは僕の右手に再びしゅるしゅるとその触手を巻きつける。その熱が、伝わる鼓動が、とても頼もしく感じられる。

 

「言っとくが、もしオレ様だけ生き残るような結果になったら、死ぬまでこの場所から動かねーからな。お前はバカだったって、一生恨み続けっからな」

「そう言うって事は、じゃあクルスは失敗に賭けるんだ?」

「バーカ」


 クルスの触手に込められる力が強まる。僕もそれに応えようと、クルスの触手をぎゅ、と握りしめる。



「僕が賭けるのは――――」

「オレ様が賭けるのは――――」



 わかってるさ、僕らはどうやら似た者同士だ。考えることなんて、二人一緒に決まってる。



「「『成功』だ――――!!!!」」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


 「ブゥルォオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ミノタウロスの斧が、獲物の逃げ込んだ大樹に亀裂を走らせる。

 

 硬化の魔法でも使用されているのか、それとも憤怒と憎悪に塗れた己の技量が些か劣化しているせいか、中々に亀裂は穴へと転じない。だが、確実にダメージは与えている。その手応えは、何よりも暴走した中であってもミノタウロス自身が感じ取っていた。


 もう少し、もう少しで我が同胞の仇を討てる――――。


 その一念を糧として、ミノタウロスはとうに体力の限界を迎えていながらも全力以上の力を振り絞って斧を振り回す。あの時、僅かな正気を取り戻した間隙に、夥しい血の海に沈む仲間達を見て、既にミノタウロスは狂乱していたのだ。それこそ、『真の仲間の仇が誰であるか』、それが判断付かないまでに、狂化したミノタウロスは、偽りの仇へ向けて、許さぬ殺すと憎悪を放つ。


 一際大きく、メキメキと音が鳴った。それが意味するところは、樹に穴が開いたということで、事実後一撃でも加えれば樹をなぎ倒せるであろう程に大きな損傷を与えることに成功していた。ミノタウロスは狂喜し、同胞の仇がようやく討てると喜び勇んで、その斧を高々と振り上げる。



 だが、その瞬間だった。



「グルォッ!!??」


 即座に飛び退いたのは、未だミノタウロスに残されていた本能的な勘によるものだ。果たして、その行動は吉と出たか凶と出たか。


 開いた裂け目から、空気が破裂するような音と共に高速で何かが飛来する。槍のように長く鋭く伸びる『ソレ』は、ミノタウロスの手に握られる斧を弾き、飛び退いたミノタウロスの着地点のはるか後方へと落下した。


 一体何が起きたのか、それを知るべくミノタウロスは己の武器を弾き飛ばした何かを確認すべく、樹の方向を注視する。すると、武器を弾き飛ばしたであろう薄桃色の何かがするすると亀裂の中へと戻っていき、次に変化が現れたのは、先程斧で切りつけようが拳で殴りつけようがビクともしなかった、同じく薄桃色の壁が地中に消えていったことだった。


 その中から現れたのは、ミノタウロスが仇と誤認している冒険者の少年、カイト。だが、どことなく落ち着かない表情を浮かべたカイトは、むず痒そうに右腕に視線を落とした。


「う、上手く行っちゃったねぇクルス……。はは、あはははは」

「笑ってる場合かよカイト。あー気持ち悪かった。なんかこう、生暖かくて柔らかいのが全身に纏わりついてくる感じ? もう二度となんかしらに寄生すんのはゴメンだわ……」


 二人は会話をしている。だが、寄生に『成功』したクルスは今やカイトの一部であり、カイト自身であり、それでいてカイトとは全く異なる極めて異質な個体となった。その為、その声はカイトの脳内に直接向けられたものであり、ミノタウロスには届いていない。

 

「そう? 僕はね……なんていうかこう……確かに気持ち悪いかなぁって感じはしたんだけど、もう一回くらいやってくれたら多分癖になっちゃいそうな気が……」

「やんねーよ? ぜってーやんねーからな?」


 カイトはやや恍惚としたような表情を浮かべ、クルスは混乱したように喚く。まるで拙いコントのワンシーンのようだ。そんなあまりにも余裕綽々とも言える獲物に、ミノタウロスはバカにされていると憤怒を更に猛らせる。筋骨隆々とした巨体を震わせ、大音響の咆哮を撒き散らしながら、武器など不要と拳で殴りかかる。


 その判断は狂気に飲まれているとはいえ正しいと言えた。相手は先程まで自分から逃げまわるしかできなかった程度の実力者。であれば、身体能力のみで十分に粉砕することができると判断した。実際に、その判断は正しかった。ただし『寄生』に成功した今、その獲物が『先程までの獲物と同じであれば』の話だが。

 

「……! クルス、ゴメン!!」

「あいよー」

「くれぐれも、お願いね……」

「わってるって。任せときな」


 その時、カイトの右腕に変化が生じる。袖の下でカイトの腕が不自然に隆起したかと思うと、ビリビリと袖が破られ、その腕から大小複数からなる薄桃色の触手が踊るようにうねりながら生えてきていた。触手は迎撃の準備を整えたのか、鎌首をもたげた蛇のようにその先端をミノタウロスに向け、宙を舐めずるようにゆっくりと動き続ける、が――――。

 

「あーーーー!!!! コラーーーークルスーーーー!!!!」


 カイトが大声を上げると、クルスはびくぅっ、と驚きを露わにし、ミノタウロスまでもが呆気にとられたように一瞬その動きを止めた。その触手を全てカイトの顔へと向けると、カイトはその声から察された通り、カンカンに怒っているようだった。


「ダメじゃないか!! この服ユーリさんからもらった大切なモノなんだよ!!??」

「え? い、いやゴメンて……、って今それどころじゃ無くないか?」


 クルスの言葉通り、巫山戯るなと怒りに震え、すぐさま突進を再開するミノタウロス。ものの数秒足らずで二十メートル程の距離を詰めたミノタウロスは、同胞の命を奪った上、自分を虚仮にしたカイトを、尚許せんと眉間にいくつも青筋を浮かび上がらせる。


 マグマのように煮えたぎる瞳と、カイトの瞳があった瞬間には、既にミノタウロスの巨木の如き大腕が振り下ろされていた。


 殺った、とミノタウロスは確信した。相手は自分よりも遥かに格下。何をしたのかは不明だが、その腕から生えてきたと言っても所詮は触手。自分の障害とは成り得ないと、ミノタウロスは完全にそう思い込んでいた。


 事実、触手という魔種は、魔種の中でも最弱の一種として数えられる。対してミノタウロスは魔種全体の中でも中位の魔種として数えられる種族だ。中でもこのミノタウロスは、その種族の中で決して低くはない力を所有している。それ故に、振り下ろされる腕とは『別の何か』を見て、驚愕の表情を浮かべたカイトの姿を捉えながら、ミノタウロスは勝利を確信していた。



――――だが、ミノタウロスはすぐに知ることになる。いかなる場合においても、『例外』は常に存在するという事を。



 バオンッ、という破裂音。だが、それはカイトの頭が柘榴のように飛び散ったがための音ではなく。


「ブォ?」


 今度は、ミノタウロスが間の抜けた声を上げた。見れば、ミノタウロスの腕は、何者かに『弾かれた』ように明後日の方向を殴り飛ばしていた。


 何故、一体何が。そう思い、状況を把握しようと周囲に眼をやる。そこで、ミノタウロスは気付いた。クルスの触手の内の一本が、元あった場所から一メートル弱程度移動していることに。


 すると見られていた事に気付いたように、その触手の先端がミノタウロスの方へ向き、まるで人差し指で手招きならぬ指招きをするように、チョイチョイ、と動いた。

 

「どしたどした? オレ様今ちょっと楽しいんだ。もちっと遊ばせてくれよ」


 その言葉に、ミノタウロスの何かの袋の緒が切れた。

 

「ブォォオオオオオオオオオ!!!!」

「うわわわわわぁあああああああ!!!!????」


 ミノタウロスはその両腕でラッシュを繰り出し、怒涛の連撃にカイトは恐怖のあまりすっぽ抜けた調子の声を出してしまう。だが、この連撃によって今何が起こったのか、ミノタウロスは知ることになった。


 腕が振るわれる毎に、発生する破裂音と、それに伴う衝撃波。そしてその正体は、クルスの触手が突きの形で振るわれる、まさにその瞬間に起こるものだった。


 頂点のない円錐状の形を取り、目に見えるほどの衝撃となったそれは、ミノタウロスから振るわれるあらゆる豪拳、その尽くを打ち払う。音速を超えたクルスの突きによって生じる衝撃波が、凄まじい速度で放たれる拳のカイトの元への到達を許さない。


 触れていないのに、己の拳が外されていく。その異常事態に、ミノタウロスは焦りさえ感じ始めていた。そして何より、ミノタウロス自身が、この自分より弱いはずの触手が、魔種のパワーカーストの最下位に位置するはずの触手が己よりも『格上』であると、その異常を肌身でひしひしと感じ取っていた。


 だが、ミノタウロスとても退けない。退く訳にはいかない。目の前に同胞たちの仇がいる。ならば、ここで退いては仲間たちに顔向けできぬと、怒りだけでラッシュを継続する。

 

「んー悪かねぇんだけど、いまいちおっせーな。ちょっと疲れてきたし、もー帰ってくんねぇかな」

「く、クルス! 前見て前!! 集中してよ僕死んじゃうよ!!」


 既に退屈そうにすらしているクルスと、自分の対処しきれるレベルを遥かに超えた次元での戦闘に、一杯一杯なカイトは悲痛な叫び声を上げる。しかしクルスは更に一本、極小の触手を生やすとカイトの前でひらひらと振った。


「いやー、へーきへーき。このくらいなら寧ろこんなことだってやってられるわ」


 言うが早いか、クルスは単調に突くのをやめ、回避のための突きと同時に、更に四本ほどの触手を追加させて無限軌道を描くようにやたらめったらに振り回し始める。

 

「なははは、当たるなよー? 当たると酷いぞー?」

「どう酷いの!? 殺しちゃダメなんだからね!?」

「だからそういうのじゃねぇって。単に」

「単に!?」

「一週間くらいどんだけ洗っても消えないくらいの激臭のする液体がくっつく」

「何それすっごいやだ!!」


 目の前で行われるやりとりは、やはり見るに耐えない三文芝居。激昂したいミノタウロスだったが、先程までの突きに比べれば十分遅いものの、鞭のようにしなる触手もまた驚異的なスピードで振るわれるため、回避しながら攻撃ができているのが不思議なほど、ミノタウロスは追い詰められていた。


 だが、それでも攻撃はやめない。攻撃をやめる時は、即ち自分が事を成せなくなった時のみだ。だから、前へ、一歩前へ。そして――――。


 びちり、と跳ねる水音。それと同時に、クルスもまた口を開いた。

 

「あ、当たり」

「ブォオオオオオオオオ!!!!」


 鼻腔を貫く激臭に、ミノタウロスは呻き、よろめく。そして相対するカイトもまた、そのあまりの悪臭に顔をしかめ、鼻を抑えていた。

 

「く、クルス!! もうちょっと臭いの加減してあげてよ!!」

「いやー、なんつーか……前に出てくるとは思わなかったからさ……その、ごめんな?」


 哀れみさえ感じさせるその声。だが、ミノタウロスは自棄糞と言わんばかりに更に戦意を高揚させて更に距離を詰めてくる。

 

「お、おお?」


 それに、クルスは驚いたような声を上げ、振り回す触手の範囲を狭めていく。もう当たってしまったのだ。後はどうにでもなれと、激臭に耐えながら怒りだけでミノタウロスが距離を縮める度に、クルスの攻撃の範囲も狭く、より狭くなる。


 そして――――。

 

 


「ごめんカイト」

「な、何!?」

「からまった」

「…………アホーーーーーーーー!!!!」




 クルスの触手が、ものの見事に絡まり合って団子状に固まっていた。うぞうぞと蠕動するそれは、傍から見ればパニックホラー系作品に出てくるクリーチャーの一種のようにも見えるが、しかし今はそんなことはどうでもいい。


 問題なのは、これによってクルスの触手が暫くの間完全に使えなくなったということ。そして、一瞬あればミノタウロスにとっては十分だったということ。

 

「ブォォォォオオオオオオ!!!!」


 本能的に勝利を確信し、ミノタウロスは今ある力の全霊を込めて拳を繰り出す。


 連撃ではなく、全てを賭した一撃。間違いなくこれまでの攻撃の中で、最強にして最速の一撃。狙いは正確無比に、カイトの頭部に命中し、木っ端微塵に破裂させる。


 これで同胞たちの仇が取れる。そう確信した瞬間、ミノタウロスはいまだかつて無いほどの高揚感に包まれていた。そして、その一撃は遂に――――。



 

 ―――――バチチチチチチィッ!!!!




 触手の塊から放たれた薄紫色の雷撃によって、カイトに命中することはなかった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

ようやくクルスちゃんと本格的にイチャコラできるかなこれで……。

あ、これ以降戦闘パートはないです。ゲソでも片手にまったり楽しんでいただければ幸いです。

しかしあれですねぇ……寄生……喋る触手……右手……。

ミッ○ー?(すっとぼけ)

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