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第1話 『無能』な僕

一話目です!

うーん…心理描写難しい…。

あ、一応主人公最強ですが、暫くは最強じゃありませんのでご容赦を……

サギジャナイ……サギジャナイヨ……。

 「へ、うへへへへへへ…………おしゃぁああああ……全キャラコンプポイント上限まで回収終了……勝った……」


 ギシ、と軋みを上げさせながら、僕、真月介斗は疲弊しきった勝利の勝鬨を上げ、ヘッドホンを力なく脱ぎ捨てると椅子の背もたれに全体重を掛けた。


 今僕がやっていたのは『モンスターズコレクター』というオンラインゲームだ。ゲームの特徴としては出てくるキャラがファンタジーに出てくるようなモンスターばかりであり、人の形を模したキャラクターも出てくるが、それさえもモンスターという、モンスター一色に染め上げられた素晴らしいゲームだ。


 仕様はと訊かれれば特筆するようなものはなく、それらの登場モンスターを集め、育て、強力な敵に打ち勝ち、仲間にして育てていく、というごくありふれたものだ。


 僕はふと、傍らに置いてあった携帯端末の電源を入れ、現在時刻を確認する。そこには大きく五月二十四日午前七時十分と表示されていた。


 少しだけ、先に僕の話をしておくと、僕このゲームを効率最重視とか、そういった特別なプレイスタイルらしいものは持っていないが、完走だけはしたいというスタイルで進めていた。


 この『モンスターズコレクター』で開催され、今日の七時半で終了となる今回のイベントで、イベント限定で手に入れられるモンスターやアイテムをコンプリートするために二日前から睡眠さえ削ってプレイしていた。


 このゲームは所謂スタミナ制で、プレイのためには一定のスタミナを消費する必要があり、時間経過でスタミナは回復していく。そのため、スタミナを完全に消費させた後、全快するまでの時間である約二時間という間隔を設けて、回復するまで睡眠するという行為を何度も繰り返していた。そのため本来の使われ方と異なる使われ方により、体が驚いてしまったらしく、家から一歩も出ていないというのに体育祭で出ずっぱりだったかのような疲労感を覚えている。

 

 だが、今週は仕方がなかったのだ。まさか今自分がプレイしている『モンスターズコレクター』、これを含む四つのオンラインゲームで同時にイベントが発生し、完走しなければという強迫観念に近い思いに駆られた結果、こうして体に鞭打ってゲームをすることになった。


 モンスターズコレクターのみならず他のゲームでも現実世界でのお金を払えばスタミナを瞬時に回復できるアイテムも手に入れることもできるが、僕にとってはそれを利用するために二つの障害が存在する。

 

 一つ目は、そんなお金は僕には無いということ。僕は一応はまだ高校生だし、バイトなんてやっていない。自由にできるお金など一銭も持ちえていないのだ。


 そして二つ目は、僕は一歩も外に出ていないということ。というより、出られない。つまりは引きこもりだ。


 だから課金するためには何れにしろ外に出なければならないのに、まず外に出られない。その為収入源も何もなく、こうして死人のような姿を晒しているというわけだ。

 

 再び端末の時計に眼を落とす。七時十分。顔を洗って朝御飯を食べて、支度を済ませて家を出れば、学校に丁度良い時間に着くような頃合い。けれど――――。


 「…………寝よう」


 言って、僕は椅子から立ち上がり、携帯端末を放り投げて、ベッドに腰を下ろし、布団を被ろうとする。と、その時だった。


 『介斗。起きてる?』


 ノックと共に、母さんの声。疲れと、悲哀の混じったような声に聞こえたのは、恐らく気のせいじゃないだろう。


 『朝御飯、できたんだけど、食べない? お父さんも一緒に食べたいって言ってるんだけど……』


 その言葉に、胸がチクリと痛くなる。父さんは学歴、職歴全てにおいて一流で、正義感に溢れる人。こんな僕でも、学校に行かなくなると何度も怒鳴りつけ、叱ってくれて、道を示そうとしてくれた人。尊敬する父親。


 母さんも、父さんと同じ大学に通っていて、忙しい父さんに代わり日々の世話から勉強まで面倒を見てくれた人。尊敬する母親。


 一つ違いの妹もいて、喜ばしいことに僕とは何もかもが違い、才能に恵まれている。中学模試では常に上位。進路先の全国有数の進学高校だって、教師全員から勧められる程だ。ちょっと口は悪いけどそれは父さんと同じく僕の身を案じてくれているからこそ、厳しく接してくれている人。尊敬できる妹。


 僕の家には、とても良い人たちしか居なかった。そして何より――――。


 『そうそう、今日はね、匡也君と雪姫ちゃんも来てくれてるのよ』


 僕が返事を出来ないでいると、ふと母さんがそんなことを口にした。僕はというとまるでアレルギー症状が出たかのように全身が震え始め、春先だというのに背筋に氷が充てがわれたかのような冷気が走った。


 『介斗』


 聞き慣れたよく通る声に、僕はとうとう堪えきれず逃げるように布団を頭から被ってしまった。


 柊匡也と、一条雪姫。二人共、僕の幼馴染だ。匡也君は僕の一歳年上で、雪姫ちゃんとは同い年。


 家が近所で匡也くんの両親が僕の両親、雪姫ちゃんの両親と仲が良く、家族ぐるみでの交流が盛んだった。


 小さい頃から弱虫でいじめっ子達に虐められていた僕を庇ってくれた二人。雪姫ちゃんだって、僕のように弱虫ではなかったものの、争い事を好むような性格ではなかったにも関わらず、僕を庇って前に立ってくれた。


 それに、二人共とても勉強もでき、スポーツも万能で、皆で中学校までは同じ学校に通っていたが、その時の二人は本当に凄かった。


 匡也くんは中学から野球をやり始めて、僕達が入学する頃には二年生になったばかりだというのに既にサッカー部を引っ張るキャプテンになっていて、それまで地区予選止まりだったうちの中学の野球部を全国準優勝にまで連れて行った。


 雪姫ちゃんも、部活には所属しなかったものの、昔から習っていたバイオリンのコンクールで賞を総なめするなどの偉業を達成していた。おまけに二人共読者モデルとして雑誌の表紙を飾れそうなほど、とても端正な顔立ちをしていて、勉強だって二人のツートップだったから、回りの生徒たちも、そして何よりずっと一緒にいた僕自身が、本当に同じ学生なのか疑ったものだった。

 

 そう、僕の回りにはすごい人しか居なかった。語彙不足で、うまい言葉が見つからないが、強いて言うならキラキラしている人。燦然と輝いている人しか居なかった。だから、匡也くんが卒業する頃、二人が付き合うことになった時、それが自然だという思いと、祝福以外の感情が浮かび上がってこなかった。


 僕だけ、だった――――。


 僕だけは、何をしても、どれだけ頑張っても、ついぞ何も見つけることも、得ることも出来なかった。


 いくら二人に、父さんにも母さんにも勉強を教えてもらっても、どんな教科もこなせない。どれだけ走っても伸びないタイムに、どれだけ蹴っても伸びないリフティングの回数。二人に付きまとっていた僕がそんなに鈍臭ければ、クラスで浮くのは必至なわけで。


 常に周りに怯えながら過ごすしか出来ず、虐められても守ってもらってばかり、雪姫ちゃんが危ない目にあっていたらお前が守れと父さんに教えられたのに、先に匡也くんが卒業した後、結局僕は雪姫ちゃんに守ってもらってばかりだった。


 『あんまりおじさんたちに心配ばっかり掛けるなよ』


 家族にも、幼馴染にも迷惑を掛けてばかり――――。


 『外に出てないんだって? 折角学校に行かせてもらってるんだ。行かなきゃ損だぞ』


 外に出るという行為に恐怖しか持てず――――。


 『ほんのちょっとでいいんだ、ほんの少しだけ、一歩を踏み出す勇気を出してみないか?』


 皆のお荷物になるくらいならと死んでしまう勇気もなく――――。


 『少しだけ、もう少しだけ、頑張ってみないか?』


 頑張ることに、一人で勝手に疲れてしまった――――。


 僕は、屑だ。


 声が止む。その代わりに、床が軋む音が聞こえてくる。


 『カイちゃん』


 鈴の音のような透き通った雪姫ちゃんの声がする。だけど、その鈴は、何処か錆びているかのようにくすんだ音色を奏でていた。


 『朝御飯、一緒に食べよう?』


 ――――――――。


 僕を気遣う、控えめなその言葉に、僕は結局布団の中で震え上がることしかできないでいた。



――――――――――――――――――――――――――――――


 

 「……はぁ」


 体の震えが収まり、ようやく溜息を吐く程度の心的にも身体的にも余裕が出てきた。


 耳を澄ませば、階下の楽しげなやり取りが聞こえてくる。


 『すみません、力及ばず……』


 匡也くんの声だ。


 『いやいや、気にすることはない。寧ろ息子のためによく来てくれて、感謝すらしたいところだよ。だがやはり一度くらいは無理にでも引っ張りだして、一発くらい殴ってやらんと目も覚ましてくれんものかな……』

『い、いや……殴るのは流石に可哀想ですよ……』

『なーに言ってんの!! 雪姫ねぇ優しすぎ!! あのバカ介斗はそうでもしないとつけあがって引きこもったまんまだって。生きてんだか死んでるんだかわかったもんじゃないよ!! あーあ、いっそ居なくなってくれないかなー。あんなのに居られても不愉快だし』

『ハハ、冗談きついなぁ玲ちゃん。流石にそれは可哀想だろ。介斗だって介斗なりに頑張ってるんだろうし』

『はぁい、二人共、朝食できたから、よかったら食べていって? お礼としてはちょっと不足かもしれないけれど……』

『不足だなんてとんでもないですよおばさん! 寧ろ介斗を引っ張りだすほうが半分くらいついでになっちゃってますもん。俺』

『あらあらまぁまぁ。お世辞が上手ね。さ、食べて』

『――いえ、私はもう失礼します。お力になれず、ごめんなさい』

『あ、おい雪姫!! すみません、俺もこれで!!』



 ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきて、食卓には静寂だけが残った。

僕は聞き耳を立てるのを止め、寝返りを打って天上を仰いだ。


 僕のせいで、朝から皆に嫌な思いをさせてしまった。僕のせいで、皆から大切な時間を奪ってしまった。ふと、先程の妹の玲の言葉が蘇る。



 なぜ、僕はここにいるのだろう?――――



 人は、何がしか意義を持って産まれると、父さんは言っていたし、僕もそう信じていた。僕はおもむろに棚へと手を伸ばし、飾られていたフィギュアの一体、モンスター好きならば知る人ぞ知るアニメ『触手de魔女っ子☆テンタちゃん!』のヒロイン、テンタちゃんを手に取り、眺めた。


 僕がここにいる理由はなんだろうか。そう思いながら、今時のオタクたちが喜びそうな典型的な二次元の萌えキャラにアンバランスなほど生々しさを追求した血のように赤い触手が背中から生えている女の子のフィギュアを見つめる。


 引きこもりが行き着く先はほぼ決まっており、僕も多分に漏れずアニメやゲームなどに強く影響されるようになった。全国の健全にそれらを楽しんでいる人には申し訳ないけれど。その結果、僕は普通の可愛い女の子ももちろん好きだが、それ以上に魔物などの人外に興味が有ることがわかった。


 中でも触手は特に好きだ。うねる触手も愛らしくて可愛いし、その上、アッチの方でも万能の性能を見せつけてくれる。まさに男のロマンとも言うべき存在に、僕は完全に胸を打たれていた。


 けれど、それが何だというのだろう? 触手も、女の子も、それらを不自然に融合させた魔女っ子も、全ては架空の世界のこと。僕の生きる世界には全く関係がない。


 答えのわかりきった問答に、僕は辟易して、溜息を吐いたところ手を滑らせてテンタちゃんフィギュアを取り落としてしまった。もう棚に仕舞おうと、フィギュアを取ろうと手を伸ばす。その中で、何故僕はここにいるのか、それについて自分がどう思っているのかを整理する。

 


 『少なくとも、生まれるべき世界を間違えた、だなんてそんな大それたこと。生まれて一度も考えたことなんて無い』



 手がフィギュアに届きそうになる。



 『でも、産まれたことそれ自体が間違いだったと、そう考えたことなら何度もあった――――』。



 「だったらアンタが生まれてくることが、間違いじゃない世界に生まれてみる?」



 そんな誰のものともわからない声が聞こえた時、僕の意識は暗闇の中へ引きずり込まれていた。


読んでいただきありがとうございます!

とりあえずこの章(?)はもうできてるのでどんどん上げてきます!

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