第16話 蠢く夜、胎動する悪意
ブクマ、評価……感謝感激でございます……。
ちょっと勘違いをしていたようなので、書き方を僅かに変えさせて頂きました……。
「」って、冒頭空白置かないんですね(無知)
「クソッタレが!! あいつら調子に乗りやがって!!」
深夜、ディムシーが川の畔で焚き火をしながら悪態を吐く。夜行性の魔種以外は完全に寝静まり、月明かりと焚き火の火のみを光源とし、少し進めば
その周囲には、当然の如く彼の仲間たちの姿もあった。
「運が良かっただけっすよ兄貴!あんなんマグレっすよ!」
「ケッ! ったりめぇだろ!! だが他のバカ共はあのガキが『英雄候補』だからって理由でアイツがやったことだって認めちまってやがる!! クソが気に入らねぇ!! 苦労も知らねぇどこぞの小僧がよ!! ふざけたツラぶら下げて結果的に俺らよりも遥かに稼ぎやがった!! クソッタレめ!! 何のために稼ぎ口を『コイツ』で仕入れたと思ってんだ!!」
苛立たしげに、足元に転がる樽を蹴飛ばす。そんなディムシーに、仲間たちは誰一人として口を挟めず、怒りと恐怖がその場を支配した。
――その矢先、だった。
「随分とご立腹だな。ディムシー」
闇夜が声として漏れでた様な、暗く響く声。その声がした途端、ディムシーの仲間たちは一斉にキョロキョロと怯えるように周囲を警戒し始め、やがて暗闇から這いずり出たかのように、全身黒尽くめの人間がその姿を表した。ローブを目深に被っており、その顔を窺い知ることは出来ない。分かることは背丈と肩幅、声の低さからしてそれが男性であろうということ位なものだった。
その姿を見たディムシーが不敵に笑むと、立ち上がって黒衣の男の方へと歩み寄った。
「おお、アンタか。なぁに、ちょいとムカつくことがあってなぁ」
「ふむ。早速やっているようだな」
黒衣の男はディムシーにまるで興味が無いように視線を焚き火の中心、熱されてコポコポと泡を吹く赤い液体に視線を注ぐ。
「あぁ、アンタに教えてもらった『コレ』な。効果はいい感じだったぜぇ? アンタの言うとおり、魔種が暴走し始めてよぉ?」
ディムシーが愉快げに語るのを見て、黒衣の男は小さく頷いた。
「それは何より。問題なく作れているようならばいい。ではな」
そう言うと、黒衣の男はディムシー達に背を向ける。ほっとするような仲間達だったが、しかし、ディムシーがその男を引き止めた事により、三人の表情は驚愕に染まることとなった。
「おう、ちょいと待ってくれよ」
「なんだ?」
「へへっ、そう大したことじゃあねぇよ。俺は金を、アンタは研究結果を、それぞれ要求してる。アンタの研究のデータ取りとやら手伝う代わり、俺はアンタから大金を得る為の手段を貰ってる。ウィンウィンな関係ってやつだ」
「それがどうした?」
「あぁ、ところがだよ。ちょいと困ったことに俺には商売敵がいてよぉ? そいつがいると雑魚魔種じゃあ話にならんし、もしかしたらこの手口もバレるかもしれない。そこでどうよ? もういっちょ手ぇ貸しちゃくんねぇかな? 俺は手柄を持っていかれる危険性を、アンタはここいらでこれ以上実験ができなくなる心配が無くなる上に、もっとマシなデータが手に入るかも知れない。どうだい? コイツもウィンウィンな関係にならねぇか?」
「…………」
男はディムシーの持ちかけた取引を吟味しているのか、僅かに逡巡する素振りを見せた。
ディムシーは冒険者となって相当な年月を過ごしてきた。その中で、特に『金を稼ぐ』為に何をすれば効果的かを、この男は深く弁えていた。例えば、『研究内容は知らないが、多少の労を費やせばその研究をより効率的に進められる状況であること』を素性も目的もわからない男から読み取り、ほぼディムシー自身の金儲けの為の取引に乗せる。それは紛れも無く彼の手腕によるものであり、こと金儲けの話となれば、ファズグランの冒険者の中で彼の右に出るものは居ないだろう。
やがて、男は「ふむ」と頷くと、懐から取り出した黒い硝子でできたような球体をディムシーに渡した。暗くてよく見えないが、内部で何かが『蠢いている』のを見てしまった仲間の一人が、ぎょっとして一歩後退る。そして、何事か耳打ちをすると、ディムシーは気が狂ったようにその場で笑い始めた。
「――ははっ、はははははははははははははははは!!!!!! なるほどなぁ、こいつはいい。だがよぉ、アンタが何処まで知ってんのか知らんが、あの女はそう甘かねぇぜ? アンタの言ってることが事実だとしても、だ。あのアマをぶっ殺すにゃあ足りねぇよ」
「その点は心配いらない。最近一緒にいる小僧が居るだろう? アレを上手く『使え』」
黒衣の男の『使え』というニュアンスを一間置いて理解したディムシーが、「なるほど」と不敵な呟きと共に、その口元を三日月に大きく歪める。
「なるほどなるほど。いいなアンタ。実にいい。オーケー、お互いの利益のためだ。俺から提案したことでもあるし、一つアンタに乗せられてやるさ」
「それは良かった。ではな」
言って、黒衣の男はディムシーたちに背を向ける。ディムシーが笑い転げながら仲間達に何やら捲し立てるのを聞きながら、再び闇夜に溶け込む寸前、フードの下に隠れた口元が、不気味に弧を描いた。
「期待している」
呟かれたそれは、一体誰に宛てたものか。ディムシーか、それとも――――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
ようやくそれらしいのが出てきたと言いますか……。
この調子でどんどん投稿していきます!
一章分は既に出来ているのですが、投稿途中で見直しやら微調整やらをしているので、ペースが遅いのは何卒ご勘弁をををを……。