第15話 静かな夜
本作ヒロイン(?)クルスくんとの語らいです!
短めです。
いつものようにユーリさんに一言断ってから、僕はクルスに会いに行くべく夜の森へと足を踏み入れていた。はじめは魔避薬があったとしてもビクビクしていたものだったが、今では気軽にここまでこれてしまっている。全く慣れというのは恐ろしいものだ。
「という感じで、今日はそんなことがあったんだよ~」
「んー」
僕は木の根から伸びているクルスの触腕に枕のように頭を乗せて、にへら~、と緩んだ頬で持ってきた粘魔宝珠を空にかざしながら眺めていた。木々の隙間を縫って見える満天の星空の一部に、宝珠が透けて見え、さながらアパタイトのような輝きを淡く放つそれに、僕は見惚れてしまっていた。
「なんていうかさ、嬉しかったよ。どういう風にかは、上手く言えないんだけどさ」
「んー」
「今まで誰かにに感謝なんてされたこと、認めてもらえた事も無いから、ちょっと照れくさかったりもするんだけどね」
「んー」
しかし、僕が話しているというのにクルスは無反応でこそ無いが、かなり上の空な返事しかしてこない。加えて、僕の方を全く向かず、何事かもそもそと勤しんでいる。まぁ、何をしているのかは僕もわかっているのだが、少しばかりムッとしてしまう。
「クールース! 聞いてるのー!?」
「あにゃああああああああああああ!!??」
僕がクルスに抱きつくように覆いかぶさると、必然クルスの体も大きく揺れる。そして、クルスはそれまで積み上げてきた何かを一瞬で無に帰されたような、悲哀と憤怒の混じったような妙な奇声を上げた。
「カイトー!!!! 何してんだよ!!?? 何してくれてんのよ!!?? オレ様、もう少しでこの面クリア出来てたんだぞ!!?? わかる!? ねーどんだけのオレ様の努力と根気とストレスを奪ったかわかってる!!??」
「ストレスを僕が奪えたんならいいんじゃないかな?」
「そうじゃなーくーてーだーなー!!!!」
クルスがギャーギャー喚き散らしながら僕に差し出してきたのは、また僕が貸していた端末だ。それも、また例のゲームアプリの画面が表示されており、黄色く点滅している文字はデカデカと『GAME OVER』と書かれていた。どうやら本当にお気に召したらしい。
「知ってるよなぁ!? このゲーム負けたら最初っからなんだぞ!!?? どーしてくれんだよもー!!!!」
「もちろん知ってるよ。でもそんなこと言われてもねぇ……。僕の話も聞いてよ。あとそろそろ返してよ。電池もう切れそうでしょ?」
ふと眼をやれば、電池残量を示すランプが赤く点滅している。クルスもそれはわかっているようで、渋々僕に端末を返してくれた。まぁ電池が回復する確認も取れたし、また来た時に貸してあげよう。
「ったくよー……。話なら聞いてるっつの。スライムからアイテム奪って冒険者連中に感謝されたって話だろ?」
「全然聞いてないじゃないか……。それじゃあ完全に盗賊か何かだよ……」
「つったって冒険者なんてそんなもんだろー。魔種を狩って、程々に人助けして、金を貰って生きる。人間にとっちゃ当たり前のことだろ―よ?」
クルスは普段幼ささえ感じるような言動しか取らないのに、時々、どこか達観したような事を言う。僕だってそれはわかる。魔種への脅威という一定以上の需要があって、それを仕事にしたのが冒険者。なら、その腹を満たすために、冒険者がすべきこと、そして力のない市民たちが自分たちの平穏を保つために冒険者達に望むことは、同じく魔種を討伐することで、それは当たり前の事なのかもしれないが。
「それでも……それでも、だよ、クルス。僕、知っちゃったからさ」
魔種も同じ。意志があり、家族があり、そして何より情があった。愛があった。そこに人類との差は何も無い。ただ姿形が違い、意思の疎通が難しいだけ。ただそれだけのことなのだけど、その壁がとてつもなく巨大で分厚いから、これまで魔種に意志があるか、なんて考える余地も出来なかったのだろう。
「もう、魔種だからってだけで、魔種を傷付けるようなことは、僕にはできそうもないよ」
弱々しく呟いて、クルスに再びもたれかかる。クルスは何も言わず、浮かせていた体を僕が転んでしまわないようそっと地に下ろして、呆れたように問いかけてくる。
「自分が死ぬってなってもか?」
「死にたくは、ないかな流石に。でも、だからってだけで相手の魔種を殺すようなことは、多分僕には出来ないと思う」
「はー。お前、冒険者全然向いてねーわ」
「あはは、自分でもわかる」
「だったら何で冒険者になろうなんて思ったんだよ」
「んー……」
クルスの疑問を解決するための答えなら、僕は既に得ている。けれど、それはまだ、クルスに言うべきでは無いとも思える。もう少し、本気であることをクルスが認めてくれる位になるまでは。だから僕は少しだけ、人差し指で口元を押さえ、誤魔化すに留めた。
「まだ内緒」
「なんじゃそりゃ」
「あはは。でもいつか絶対話すよ」
「へーへー」
クルスの期待はしねーよ、とばかりに気のない返事。けれど何となく、クルスがそわそわしているような、その時を楽しみにしてくれているような、そんな気がしたので、僕は勝手に舞い上がってクルスにぽすん、と身を預けた。
「ところでその宝珠、売らねーの?」
「売らないよ! 売っちゃダメって言われたって言ったじゃないか!? ほらやっぱり話聞いてない!!」
「なんだよ……金にしてエロ本でも買ってきてもらおうと思ったのに」
「そんな罰当たりな事が出来ますかこのドスケベ触手!!」
あとこの二週間で、わかったのは、クルスがとんでもないスケベ触手だということ。王道といえば王道のキャラ付けではあるが、持っている性癖が常人が聞けばドン引き間違いなしのオンパレードだったのは記憶に新しい。まぁ、人のことは言えないけどね。僕の性癖だって大概だし。
そういう点でも、僕とクルスは意気投合できた。本来ならば悲しむべきことなのかもしれないが、それさえも、喜んでしまっている僕がいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
キャラクターやらの問題でまだまだ発揮できてませんが、このコンビ、特にカイトはオタクを変な方向に抉らせているため性癖がかなり『ヤバイ』です。その辺りも含めて今後書いていけたらと思います!
あ、この章では残念ながらそう言った話は無いです……申し訳ありませんが……。え?いらない? ソンナコトイワナイデ……。