第14話 初戦果
いつの間にか400PV……畜生……前が見えねェ……
ありがとうございます! 今回はそこまで重要な回ではないので、サラッと読んでいただければ。
ギルドへ戻ると、冒険者達が飲めや食えやのどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。きっと、今日の成果が非常に実りのあるものだったのだろう。パーティーごとに座っている冒険者達のどのテーブルの上にも報酬が入っているであろう布袋がでっぷりと膨れ上がってその身を横たえていた。
「よーう、随分と遅いご帰還じゃあねぇの」
その中には、当然の如くディムシーさん達の姿もあった。テーブルの上には豪勢な食事ばかりが立ち並んでおり、その頬を見るとどうやら既に出来上がり気味のようだった。
ディムシーさんはその中の骨付き肉を齧ると、それを行儀悪くユーリさんに向ける。
「聞いたぜぇ? 新人の坊主のお守りのためにわざわざ北の方に行ったんだってなぁ? 『青狼』サマが出てくれなかったおかげでよぉ? こちとら大分苦労したんだぜぇ? ま、その分稼がせて貰ったがなぁ? ギャハハハ!!」
ディムシーは見せびらかすように他の冒険者達と比べても一回りは大きく膨れ上がった布袋を揺らす。なるほど。この街でユーリさんに次ぐ実力者という話も本当の話のようだ。しかしユーリさんは柳に風、とディムシーさんの言を受け流すように、ふっと薄く笑って返した。
「あぁ、見事だなディムシー。こっちは予想通りハズレだよ。大型ではあったがスライム一体しか撃退できなかった」
「かーっ!! 撃退!? らしくねぇなぁ!! たかがスライム、いつものお前さんなら確実に仕留めてたろうによぉ? あ、そっかぁ? お前さん、今回は一つ余計にデカいお荷物抱えてたんだったなぁ? こいつは失敬したぜ、うははははは!!!!」
ディムシーが嫌味ったらしく高笑いすると同時に、愉快げにディムシーの話を聞いていた冒険者達も一斉に笑い出す。全くもって耳が痛い話だ。確かに、僕が止めなければ、ユーリさんは確実にスライムを倒せていただろうし、そもそもここにいる全ての冒険者以上の戦果を上げていたに違いない。ユーリさんに対する申し訳無さと、後ろめたさから、またもこの場から逃げ出してしまいそうになる。
しかし、その爆笑を止めたのは、ユーリさんではなく、ディムシーのテーブルに音がするほど盛大に追加の料理の皿を置いたメリゼさんだった。
「皆さん、少々お静かに、お姉様の戦果報告を聞かなければなりませんので」
蛇のような鋭い目。メリゼさんを怒らせたところで、力でどうこうされることはないとわかっている筈なのに、その場を静まり返らせるには十分な迫力のあるメリゼさんの眼力に、冒険者達は触らぬ神に祟りなしとそそくさと酒や料理に再び手をつけ始めた。ディムシーが舌打ちするのを横目に、メリゼさんがカウンターへと入り、僕とユーリさんを促す。
「ごめんなさいお姉様」
「大きいクエストが入った後のここが騒がしいのはいつものことだ。気にしていないさ」
「ありがとうございます。それでは、スライムの撃退、でしたね。サイズを断定する為の対片などはありますか?」
「いや、残念ながら無いな」
「……あの、お姉様?」
メリゼさんが一瞬だけキツイ眼で僕を睨んで、ヒソヒソとユーリさんに何事か話しかける。
「まさか、カイトさんが何かしでかしたんですか?」
「そんなことはない。カイトくんは私のサポートとして十分以上に働いてくれたさ。いや、寧ろ撃退に貢献してくれたのはカイトくんと言うべきだな」
「は、はぁ!? ですが、もし仮にそうだとしてもお姉様に限ってそのようなミスを……」
あぁ、話の内容から察するに、討伐した証拠を持って帰れないと、こういうところでトラブルが発生するのか。確かに、お金が絡む以上自己申告しただけでは本当に討伐、撃退したかどうかなどわからず、そういったケースの場合、働いていないのに報酬が発生したり、タダ働きになってしまう恐れもある。だからあんなにユーリさんは口を酸っぱくして言っていたのか。
ようやくユーリさんの言葉の意味の理解に追いつき、僕は自分の馬鹿さ加減に嫌気が差してくる。ちょっと考えれば分かることに、僕は結局気付けなかったのだから。
僕が自己嫌悪の中で悶えていると、しかし、とユーリさんが続け、ニィ、と不敵な笑みを浮かべながら、僕の肩に手を置く。僕ははっとして、バッグから『粘魔宝珠』を取り出した。
「きちんと撃退した、という証明は、これで十分だろう?」
机の上に転がった澄んだ青の宝珠、それを見たメリゼさんの顔色がみるみる変わっていき、そして――――。
「はあああああああああああああああ!!??」
震天動地。メリゼさんの絶叫に、酒場に居合わせた全ての冒険者達の視線が僕らに集まる。そして、何処からとも無くやや千鳥足でやってきたバルザさんがひょい、とそれを持ち上げると、ほー、と感心したような吐息を漏らした。
「こいつぁすげぇな。相当な上物だ。しっかし、スライム狩る時はいっつもミンチにしてるお前さんがよくこんなバカでかい宝珠を持って帰れたな?」
「あぁ、何せそれをスライムたちから手に入れたのはカイトくんだからな」
ユーリさんの言葉に、冒険者達が一気に色めき立つ。それはメリゼさんも同様で、バルザさんだけはヒュウ、と口笛を吹く程度で済ませていた。このちょっとした騒ぎの主犯であるユーリさんは涼しげかつどことなく愉快そうにしているが、期せずしてこの騒ぎの中心に立たされることとなった僕としては、気恥ずかしさと、僅かな恐怖から、逃げ出したくなってしまっていた。穴を!! 穴を掘らせてください!! もしくはおトイレを貸してください!!
やがて満足したのか、ユーリさんが僕を連れて二階に上がろうとする。勿論、宝珠をこっそり懐に収めようとしていたバルザさんの手から宝珠をひったくるように奪還して。
「証明は、それでいいだろう? 後でノーマルサイズのスライム一体分の報酬と一緒に私の部屋まで届けてに来てくれ。さぁ、カイトくん、行こう」
「へっ!? あ、はい!」
したり顔で一瞬だけディムシーに視線を送った、様な気がした、ユーリさんはギルドを後にし、僕もそれに続いた。僕らが階段を登り終えた後で、ディムシーさんが苛立たしく舌打ちしていたことを、僕たちは知らない。
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「ハハハハハ!! 傑作だったなぁ、連中の顔!!」
部屋の扉を閉めた途端、ユーリさんはまるで子供のように心底楽しそうに笑い出し、軽やかな足取りで奥のベッドに腰掛けた。
「な、何がなんだか……」
「ん? はは、そうだな。少し説明をしてあげよう。っと、その前に」
ユーリさんは部屋の隅、水の張られた樽の桶に浮かんだボトルを二本手に取ると、蓋を開けて一本僕に差し出してきた。もしかしてこれ、お酒なんじゃあ……。
「心配するな。酒じゃあ無いよ。私も酒は苦手でね」
キュポン、と小気味のいい音とともに、ユーリさんが持っているボトルの蓋も開けられ、ユーリさんはビンを僕の方へ傾ける。
「初クエスト、お疲れ様。ささやかだが、祝勝会といこうじゃないか」
その意味をようやく理解して、僕は照れたように笑いながら、ユーリさんのボトルと僕のボトルを触れ合わせる。
「か、乾杯、です」
「あぁ、乾杯」
キンッ、と甲高い音。ユーリさんが一気にボトルを煽るのを見て、僕もままよ、とボトルを傾ける。ほんのりとブドウの香りが鼻の奥を漂い、舌の上をさらさらと踊るそれは、甘すぎず、ブドウ特有の渋みも強くなく、するすると喉を落ちていく。そこでようやく自分が喉を乾かしていたことを知り、気付けば一気に飲み干してしまっていた。
「いい飲みっぷりだ」
「おいしいですねこれ」
「私のお気に入りの一品だ。気に入ってくれたようで嬉しいよ」
ユーリさんも一気にボトルを空にしてしまったらしく、再び立ち上がって樽の桶からもう二本同じものを取り出すと、一本を僕に勧めてくる。僕はありがたく頂戴し、再びグラスを合わせた。
「それで、さっきのは一体……」
「あぁ、そうだな。それでは、キミが一体何をしたのか、簡単に説明をしてあげよう」
ユーリさんは軽くボトルを傾け、目元を軽く細めた。あの眼は教鞭を振るう時の眼だ。ここ二週間で、すっかり慣習となってしまい、僕は姿勢を正して一言一句聞き逃すまいと注意を向ける。
「まず『粘魔宝珠』。アレがどういったアイテムか、キミならばある程度理解できているのだろう?」
「はい。力のあるスライムだけが持てる証みたいなものって」
「ふむ……。半分正解で半分誤りだな」
「? どういうことですか?」
ユーリさんは机の上にある分厚い装丁のされた本を手に取る。ここ二週間での僕の勉強用に使われた教本、というより図鑑のうちの一冊だ。
改めて見返してみると、本当に分厚い。ハードカバーであるかどうかを除けば、僕の世界の最近見なくなってしまった公衆電話に備え付けられている黄色いアレといい勝負だ。それが、ユーリさんの背後、部屋の隅に十冊ほど、無造作に山積みになっている。アレを二週間で一通り読破させられたのだから、勉学に対しても鬼教官というレベルではない。
しかも、次の日にはちゃんと頭に入ったかの確認のためのテストも用意してあるという徹底ぶり。間違えればその分だけ街の外周ランニング一周追加の鬼畜メニューだ。加えて、泣きっ面に蜂となったユーリさんの言はこうだった。
『間違えればその分耐性が鍛えられ、少しでも肉体的苦痛から逃れたいと恐怖すれば脳と気合に一気に火が灯る。一石二鳥だ』
超筋肉理論。議論を挟む予知もないほどガッツリとフィジカルもといロジカルな理屈で、完全にこっちの世界の教育機関としてはアウトな考えだった。とはいえ、お陰様で完璧、とは言えずとも最低限の魔種やこの世界でのサバイバル系統の知識は入ってくれたし、ステータスも上げられた。その点に関してはやはり感謝してもしきれない。
そんな濃厚な二週間の思い出に耽っていると、ユーリさんがあるページを開いて僕に差し出してくる。
「この辺りだ。一通り眼を通してみてくれ」
言われるがまま目を通す。どうやらアイテム調合の上位回復アイテムの項だった。エリクシールやらなんやら、聞いたことのある名前に思わず頬が緩んでしまいそうにもなったが、暫く世話になることはないだろうと、ユーリさんが駆け足で進めたので、この辺りの内容はあまり頭に入っていない。
そうして、読んでいくと、やはりというべきか、文字は読めるがユーリさんの言葉通り、行われている工程が全くわからない。かなり専門的過ぎて、技術に関する知識がパーの僕にはさっぱりだった。しかし、ある部分に眼が止まる。それはそのアイテムに必要な素材の項目だった。
「あれ、この『粘魔宝珠』って……」
「そう、キミが入手したソレだよ」
ボトルを傾けて、机の上に置かれた『粘魔宝珠』を指差すユーリさん。更に本を読み進めていくと、次のアイテムにも、そのまた次のアイテムにも、殆どの素材の項目には『粘魔宝珠』の名前が挙げられていた。
「もう気付いたとは思うが、キミが手に入れた粘魔宝珠は上級の治癒アイテムのほぼ全てに必須となる素材アイテムなんだよ」
「? でもこれって、スライムを倒したりしたら入手できるんですよね? だったらもっと店とかに出回っててもいいんじゃないですか?」
ユーリさんの授業で、どの魔種がどの程度力を持っているかは一通り学んだ。その結果、僕の世界……の創作物での扱いと同じように、スライムこの世界でのパワーカースト上においても最下層に位置する魔種だ。少なくともユーリさんが苦戦するような相手ではないし、実際僕が止めなければユーリさんは確実にあのスライム達を無傷のまま倒してしまっていただろう。
だが、ここ二週間で色々街を見まわってもみたが、そういったアイテムを扱う店に上級治癒アイテムが出回っているのを見たことがない。そこでユーリさんが僕を指差した。
「そう。粘魔宝珠はスライムを倒せば手に入る。ただし、問題が二つある」
ユーリさんは指を二本立てる。
「一つは、粘魔宝珠は力がある、というよりは長く生きたスライムが生み出す結晶なんだ。だが、スライムはある程度まで成長すると、そこから先は見分けがつかなくなる。『看破』等の特定のスキルを使えば、魔種のステータスを知ることもできるが、そこに年齢までは含まれないからな。長く生きれば力は蓄えられるだろうが、スライムにも個体差がある。成長速度が早い個体もいれば遅い個体もいる。そういうことさ」
『看破』とは、確か見ただけで視覚情報として見たもののステータスがわかるという、『鑑定』の上位アビリティだっただろうか。ユーリさんの授業の中に、そんなアビリティがあった気がする。
ユーリさんは一息つき、一口ブドウジュースを飲み下す。
「ん。それで、第二に、粘魔宝珠は、スライムの体内にある間は全く見えないんだ。色が同じ、ということもあるのだろうが、スライムの体組織が宝珠を隠すよう働いていると、そういう研究結果も出ている。そして、そんな状態でスライムの核にダメージを与えるため、体を切り刻んでいけばどうなるか? あるいは手っ取り早く弱点である魔法で決着をつけようとすれば、わかるだろう?」
「細切れ、粉々になっちゃいますね……。でも、手に入るには手に入るじゃないですか」
「あぁ確かに。だがなカイトくん、宝石に傷をつければその価値が下がるように、粘魔宝珠も傷をつけるとその分だけ純度が下がるんだ。しかも、もし仮に粘魔宝珠の欠片が見つかったとしても、粘魔宝珠のサイズは多岐にわたる。躍起になってスライムの体を虱潰しに探して、見つかったのは純度の低い欠片だけでした。そんな具合で労力に見合うだけの成果を得られない事の方が圧倒的に起こりうるんだ。小さすぎる粘魔宝珠は全くと言っていいほど使えん、欠片になれば尚の事、だ。だから、一攫千金を夢見る輩以外、高値で売れる状態のいい粘魔宝珠の入手を考えようという奴はいないんだ」
「な、なるほど……そんなに凄いものだったなんて……」
「そう。しかも、キミが手に入れたその『粘魔宝珠』はな、そのサイズでしかもほぼ無傷だ。それならこの街で十年は遊んで暮らせる」
「そんなにですか!!??」
実感を持ちやすい価値を与えられて、ようやく事の大きさを知った僕。そして、それを理解した上で、僕は一気に不安に駆られることとなった。
「そ、そんな凄いもの……僕が持って帰った事にしても良かったんでしょうか……? ユーリさんが持って帰った事にしておいたほうが……っていうかもうユーリさんが持っていてくれたほうがいいような……」
顔を青くしながら、ヘタレた事を言い出す僕に、ユーリさんはカラカラ笑って答えた。
「ハハハ、いやぁ、ここの連中は嫌いじゃないが、キミをバカにしていたという事に関しては腹が立っていてね。そんな連中が『自分の手柄が霞む程の大手柄を、バカにした相手が立てた』、なぁんて時の顔が拝みたくてね。出汁に使わせてもらったんだ。すまない。ハッハッハッハ!!」
すまないとは言っているが、ユーリさんはあまり悪びれた様子はない。案外子供じみた答えに、僕は肩を落とすことしかできないでいた。しかし、一頻り笑いこけた後、ユーリさんはまた瓶を煽って、その底で『粘魔宝珠』を転がした。
「まぁ、そんなに心配することはない。連中は確かに遠慮がないところもあるが、腐った奴らじゃあない。それに、私を敵に回す危険を冒してまでこんな石ころを奪おうとするほどバカでもないさ。ともあれ、だ。これでわかっただろう。キミにはキミだけの素質がある。キミ自身も自覚したと思うし、今ので連中も認めることだろう。マグレでは到底成し得ないことを成し遂げたのだからな」
コンコン。
不意に扉がノックされる音が聞こえた。恐らくはメリゼさんだろう。僕が出ようとして、しかしユーリさんに静止させられた。ユーリさんは扉を開けて、予想通りの訪問者を快く部屋に招き入れる。だが、そこで扉をすぐには閉めず、不敵な笑みをその横顔に浮かべて階段の方を睨みつける。
「聞き耳などすれば、即座に耳を切り落とすからな」
ユーリさんの言葉とともに、ドタドタと慌ただしい音が聞こえてくる。流石はユーリさん。怖すぎです。
ようやく扉を閉めて、メリゼさんとともに戻ってきたユーリさん。僕はユーリさんに借り受けているベッドに移り、メリゼさんの座る席を空けた。
「ありがとうございます。さて、お姉様。確かにスライム一体分の報酬をお持ちしましたけれど……」
メリゼさんは困惑したように僕とユーリさんを交互に見やる。報酬をどちらに渡すべきなのか考えているのだろうか。僕としては、その報酬は勿論のこと、机の上にある『粘魔宝珠』だってユーリさんに所有権が行って然るべきだと考えている。僕と目が合って、それを見抜いたのか、少しの間腕を組んで考えこむ素振りを見せるユーリさん。やがて、「ん」と小さく漏らしながら瞼を開け、メリゼさんから報酬の入った袋を受け取って懐に仕舞い込んだ。
「私が『討伐』報酬分。キミが『交渉』報酬分。それでいいだろう? 役割の分担を考えれば、当然の配分だ、そうだろう?」
薄くウィンクするユーリさんは、男の僕は勿論のこと、女性の心さえ射抜いてしまうほど様になっており、現にメリゼさんは後ろで「はうん!」なんてベタな声を上げてよろめいていた。しかし、流石に納得がいかない。それでは僕の方に配分が偏りすぎている。ほとんど活躍したのはユーリさんなのに……。
僕が不満そうにしているのを見抜いたのか、ユーリさんはやれやれと小さく首を横に振る。
「なら、一つだけ条件を付け加えさせてもらおうかな」
「条件、ですか?」
「あぁ。宝珠は、勿論キミのものだ。だが、大事にとっておいてほしい。確かに売れば大金になる。だがそれほどの宝珠となれば、使うものが使えばそれ以上の価値を発揮する代物だ。だからカイトくん、ここが使い時だと、キミがそう判断した時になって、初めてその宝珠を使って欲しい。それが条件だ」
「……はい!! ありがとうございます!!」
僕は、ようやくまともにユーリさんに返事ができた。正直に言えば、どうしていいかわからないという状況に陥ってしまっていたというのが正しい。
この宝珠が凄まじいポテンシャルを秘めていた、それだけに高い価値を持つことも分かった。それと同時に、途端に僕が持ってていいものかどうなのか、その判断がつけられずにいた。利だけを追求するなら、宝珠を扱う技術を持たない僕にとっては無用の長物。ゲームで言えば換金アイテム扱いと言ってもいい。冒険者としては即座に売り払ってしまうべきなのだろうが、それでもユーリさんに『売るな』と言われて、安心している自分がいた。さっきの感謝の言葉は、そういう意味も込めていた。
「それで……どういうことになったのか説明してもらえますか……?」
僕はメリゼさんは信用できる人として、クエストで起こったことを全てを話した。僕のアビリティが魔種と話せるものであること。この時、メリゼさんとユーリさんの間でアイコンタクトらしきものがあったと感じたのは気のせいだろうか?
それと、そのアビリティによってスライムから『粘魔宝珠』を貰い受けたこと。魔種の様子がおかしかったこと。その結果、メリゼさんは色々と思うところがあったらしく、何事か考えていたが、暫くして僕を胡乱げに睥睨した後、僕に対するあだ名がこの日限り「メルヘンさん」で確定してしまったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
実はちょっとキーワードを悩んでおりまして、章が終わったら幾つか追加、変更しようかと思ってます。「これは違うだろ」的な所があれば、是非是非ご指摘くださいませ。