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第12話 初めてのクエスト

自分は大嘘つきです……。戦闘まで行く前に切ってしまいました……。

『僕は悪く無』いいえ自分が悪いのです。すみばじぇん!(鼻声)

 「流石に話し込みすぎちゃったかな?」


この世界に来てから明日で二週間。もはや習慣となったユーリさんとの訓練を終え、クルスとの談話につい熱中してしまい、切り上げてファズグランへ戻った時には月も西の夜空のかなり深いところまで沈んでいた。明日も早い。早く戻って明日に備えよう。そう思い、僕は歩調を早めようとして、視界に捉えた人物を判別すると、咄嗟に近くの茂みに隠れてしまった。


 「ディムシーさん……?」


 王都の正門前から少し外れたところ、疲労で船を漕いでいる衛兵を起こす心配が無さそうな場所で、ディムシーさん達と、それにあれは、東地区の酒場の店主だろうか、が何やらやり取りをしていた。一度街案内ということでユーリさんに「街の道という道にキミの足跡を残していけ」とまるでマーキングさせるかのように練り歩かされた時に、一度会っており、その顔は記憶に新しい。


 流石に僕からも距離が離れすぎているので、どんなやり取りをしているのかまではわからないが、老店主は僅かに困惑と怯えが混じったような表情でディムシーさんと相対していた。すると、何事かディムシーさんが話し、その傍らに置かれた荷車の上に載った三つの大樽の中身を彼の仲間たちが確認すると、ディムシーさんは満足したように茶色がかった、おそらく貨幣の入った麻袋だろう、それを老店主に手渡すと、仲間たちに荷車を引かせて王都の中へと戻っていった。老店主は終始その意図が掴めなかったと言わんばかりにディムシーさんの背を首を傾げて見届けると、そそくさと自分も東地区の門へと戻っていった。


 「何だったんだろう?」


 酒場の店主が扱うものだから、恐らくは酒なんだろうが、四人で飲むにしては明らかに多いし、酒を飲むなら酒場にでも行けばいいだろうし、そもそも夜も遅いこんな時間からあの量の酒盛り? 

  

 色々な疑問が頭を巡り、その結果、僕は一つの仮定を立てて落ち着くことになった。

 

 「何か大きな仕事でも成功させたのかな?」


 祝いの酒で、他の親しい冒険者にも声を掛けて酒宴を開くならば、どうにか納得できるだろうか。どうにも腑に落ちないことだらけだが、しかし今の僕にはそんなことを考えている時間はない。


 「帰ろう」


 僕は茂みから出ると、最近ユーリさんの扱き関連ですっかり顔なじみになったうたた寝衛兵さんの肩を軽く叩き、差し入れにクルスの為に持って行った干し肉の残りを彼に渡して別れを告げた。結局その日は、ディムシーさんの一件が気になってあまり寝付けなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 朝を迎え、ユーリさんとの訓練に向かうべく、僕はいつもの訓練着に亜麻色のジャケットを羽織って階下の酒場へと向かう。若干の睡眠不足のせいで、顔を洗った今でも欠伸さえしてしまう自分に活を入れ、階段を降りた。


 「おはようござ、いま……す?」


 階段を降りると、そこには普段からは考えられないような光景が広がっていた。酒場の席が満席なのだ。しかも、全員が万全な装備をしてきた冒険者達。日も昇って間もない時間だというのに、神妙な面持ちで何かを待っているようで、妙にピリピリとした空気を漂わせている。


 何かあったのだろうか、そんなことを考えて、カウンター席の端でやはり難しい顔をしているユーリさんの元へと駆け寄った。


 「ユーリさん」

「あぁ、おはようカイトくん」

「おはようございます。あの……どうかしたんですか?」


 僕は一瞬だけ背後の冒険者達に視線を投げて、ユーリさんに尋ねると、すぐに質問の意図を理解してくれたのか、僅かに緩んだ表情筋を再び引き締めて、冒険者のユーリさんが答えてくれた。


 「うむ。キミが起きてくる少し前にね、ギルドからの緊急招集がかかった。この意味、わかるね?」

「ええと……、大多数の冒険者で対処に当たらないといけないような事が起こってるってことですか?」

「あぁ、何が起こってるかは本部に行っているらしくてね。詳しいことはメリゼ待ちだ」


 そんなことを話していると、慌しい様子でカウンター奥の扉から駆け出してきたメリゼさんと目があった。メリゼさんは小さく会釈をすると、自分を注視する冒険者達に向き直り、そして言った。


 「皆さん、集まっていただき、ありがとうございます。あまりのんびりもしていられませんので、簡潔に。先程、軍からギルド当てに緊急救援要請が届きました。内容は、『王都より南方、魔種の集団が出現。凶暴化の兆し認む。至急援助されたし』」


 メリゼさんが読み上げた内容に、冒険者達がどよめき出す。僕自身も、驚きを隠せないでいた。ファズグラン周辺には生息していてもスライム等の戦闘能力の低めな魔種がほとんどで、彼らは街道などに仕込まれた魔避薬や結界の類を嫌い、姿を見せることは無いはずだと教わった。しかし、軍からの救援要請、ということはそれなりの数が一気に現れ始めたのだろう。そんなことがこれまでにあったのか、それは動揺を隠せずにいる回りの冒険者達の反応を見れば一目瞭然だ。


 「現在出現が確認されている魔種はやはりこの近辺に生息していた魔種ばかりで、現在は正門前に出現した魔種を、軍が殲滅しました。しかし、どうやらまだまだ遠方から迫ってきているようで、軍だけでは対処しきれないとのことです」


 淡々と状況の説明をしながら、メリゼさんは手に持った紙をカウンターに並べていく。そこには恐らく確認されているであろう魔種の詳細が書かれていた。


 「今回は皆さんに討伐クエストを発注させてもらいます。報酬は歩合制。狩れるだけ狩り、退けられるだけ退けてください。ただし、いつもの様に、無茶はしても無理だけはしないようにお願いします」


 その一言に、強面の冒険者達は各々の相好を崩して、カウンターにある魔種の詳細を確認してから慌ただしく酒場から出て行った。「お先」と陽気に声を掛けながら、バルザさんもその集団に続いた。


 それと入れ替わるように、見覚えのある巨漢が大欠伸をかきながら仲間を連れて酒場へと入ってくる。ディムシーさんだ。


 「ふぁ~あぁぁ。なんだぁ? やけに騒がしいじゃねぇか。なんか祭りでもやってんのか?」

「おはようございます。大遅刻とはいいご身分ですね? まだ寝ぼけているのでしたら気付けにお酒でも飲んでいかれます?」

「おーおー。相っ変わらず口だけは達者なガキだなぁ。もーちょい揉めるもん増やしたら相手してやるよ、って何だよ『青狼』サマ。お前は祭りに参加しなくてもいいのか?」

「緊急事態だ。不謹慎だぞディムシー」

「へーへー、相変わらずお堅いこって。おい、お前ら、行くぞ」


 ディムシーさん達はニタニタと品のない笑みを浮かべながら酒場を後にする。出入り口に立ったところで、最後っ屁のように挑発的な言葉を残して。


 「じゃーなぁ『青狼』サマ。精々テメェが見込んだもやし坊主のお守りでもしてやるこったな。まぁそれ以前に? 使い物になればいいがなぁ? ギャハハハハハハ!!」


 それだけ言うと、今度こそ店から出て行くディムシー一行。姿の見えなくなった彼らに、今にも唾でも吐き捨てようかという険しい表情で、メリゼさんは毒づいた。


 「いっそミノタウロスの群れに巻き込まれて死ねばいいのに」

「個人的になら理解はしてやれるが、ギルド的にその発言はタブーだメリゼ。性格には難があるが、アレはアレでこの街の重要な戦力だ。立場を悪くしたくなければ、あまり大声では言わないようにな。さて」


 まるで妹の粗相をしょうがないと許してしまう姉のようにやんわりと諭すと、ユーリさんも立ち上がった。


 「では、我々も行こうか。南門ではなく北門に」

「あ、はい。いってらっしゃい……はい?」


 聞き間違いだろうか? 今ユーリさんは我々と言わなかっただろうか。ああいや、もしかするとメリゼさんのことを指していたのかもしれない。メリゼさんはまだ過去を隠し持っていて、表向きはギルドの職員だけど実は結構強くて、有事の際には「仕方ありませんね……」なんて言いながら前線に立つ裏方ベテラン冒険者。うんそうだ、きっとそうに違いない。


 分かってますってユーリさん。皆まで言わなくてもお約束ですもんね。だからその指下ろしてくださいよ何で僕を指差してるんですかHAHAHA。


 「何を言っているんだ。キミも来るんだよカイトくん」

「「はいぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!????」」


 驚きの声は、僕だけのものではなく、メリゼさんまでもが甲高く悲鳴にも似た声を上げ、僕の声と被さりお粗末なハーモニーを奏でた。


 「ちょ、ちょっと待って下さいユーリ姉様!! カイトさんも連れて行くって、正気ですか!?」

「もちろん正気だ。一体何のために鍛えてきたと思っている?」

「カイトさんは筋力値諸々が不足しているから『装備不可』のバッドアビリティまで持っているんですよ!? 武器はともかく、防具もなしにクエストなんて、自殺しに行くようなものです!!」


 興奮気味のメリゼさんを窘めるように手で制すると、ユーリさんは一拍置いて彼女の思惑を説明してくれた。


 「何、だからこその北門なのだ。あくまで巡回目的でな。確かに南門側では複数の冒険者達や軍によってある程度の混戦もありうるだろう。流石にそんな場所へ防具も経験もない初心者を連れて行くのはカイトくんを魔種の餌として背負っていくようなものだが、報告では、北門からは魔種はまだ確認されていないのだろうが、出てこないとも限らない。なら、誰かしら一組くらいは向かっておいた方がいいし、少なくとも南門のような混戦になることは無いと考えていいだろう。今回のクエスト受注はあくまでカイトくんの経験値が目的だ。ステータス用ではなく、実戦用の、な」


 唐突な思い付きのようでいて、しかししっかりと考えているユーリさんに、メリゼさんはぐぅ、と呻きながら引き下がる。だが、僕としても不安はあるわけで、心中穏やかではいられない中、僕は挙手をして命乞いをするようにユーリさんに訊ねる。


 「ま、まだ早くないですか? その……色々と準備とか」

「いいかカイトくん。人が訓練をし、体を鍛えるのは安全にレベルを上げ、ステータスの向上を図るためだ。そして、キミはすでに上限に達してしまった。故にこれ以上、安全圏で訓練をするメリットは実戦経験に比べて遥かに薄い。それに、今だからこそ言うが、私はな、人に物を教えるのは苦手だ。兎にも角にも実行するのみ実践あるのみ。習うより慣れろこそが私のモットーなんだよ」


 ユーリさんはここぞとばかりにその秀麗な容姿に笑顔を咲かせる。その美しく並ぶ白い歯も、ひょっとしたらキラーン、と輝いたかもしれない。ひどく絵になるクールビューティーな笑顔なのだが、事ここに至っては不安の種にしかならない。項垂れるように、僕が俯いて、初めての、予想よりも早すぎた実戦の不安に押しつぶされそうになっていると、ユーリさんが柔らかな微笑を浮かべて僕の肩に手を置いた。


 「カイトくん。今一度よく考えて欲しい。キミは一体何のために冒険者になる、と言ったんだ? まさか日がな一日街を走り回り、振れない剣に振り回され、私のデカイ声で無理やり知識を頭に入れていくためではあるまい?」


 その一言にはっとなり、ふとクルスの事を思い出した。そうだ、僕は、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ。僕は気合を入れなおして、不安に緩みきった顔を引き締めて、改めてユーリさんを正面から見据えて頭を下げた。


 「お願いします!! 師匠!!」

「ふふ、良し!! よく言ったカイトくん! だが、勘違いはしないで欲しい。今回のクエストも、あくまで一歩踏み込んだ程度の訓練の一環だと考えてくれ。運次第では戦闘は起こらないかもしれないしな。だがもし、戦闘が避けられないような状況になったその時は」


 ユーリさんは、何時になく真剣な表情で、僕に告げた。


 「ひとまず戦闘は私に任せてくれ。だが、戦闘に身をおくことで、何かしらの『きっかけ』が得られるかもしれない。どんな些細な事も見逃すな。キミの素質が何なのか、可能ならば見極めるんだ。キミが冒険者として行動するのならば、キミの中に眠る素質が何なのか、それを見極め使いこなし、ステータスの圧倒的不利を埋めていかなければならないのだからな」


 ユーリさんの言葉は、全くもって正鵠を射ていた。確かに、ステータスが誰よりも劣る僕だからこそ、僕なりの生き残り方というものを見つける必要がある。


 そして、本当にそんな素質が僕の中に眠っているのか、それはユーリさんと、そして僕を選び、ここに連れてきてくれたゼニアグラスを信じる他ないだろう。


 全く、ユーリさんはこんな見ず知らずの僕のことを本当によく見てくれている。感謝の気持ちで頭をいくら下げても足りないくらいだ。だからせめて、感謝は言葉などではなく、結果で示そう。僕を信じてくれた恩師に、少しでも恩返しをするために。


 「では行くぞ。出立は五分後。装備が出来ない分、アイテムはしっかりと持ってくること。いいな?」

「はいっ!!!!」


 気合を入れて返事をする僕と、それを満足そうに見つめるユーリさん。メリゼさんは溜息を吐きながら、やはり仕方ないと苦笑しながらギルドを後にする僕らの背を見送ってくれた。


 こうして、僕の初めてのクエストが始まった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

次こそは本当に初めての戦闘シーンです!

といっても、カイトくんが戦うのは暫く先なんですけれどね……(目逸らし)

てか毎回話数書き忘れてるのアホでしょとしか言いようがありませんね……反省。

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