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第11話 決意

今回もクルスとのお話回です。

「とまぁ、今日はこんなことがあってねぇ」


 夜。ユーリさんに断りを入れて、僕は再びクルスから貰った魔避薬と魔晶を使ってクルスの森に来ていた。もちろん、行き先や目的までは話せていないが、機を見ていずれは必ず話そうとは思っている。僕は今日一日の出来事をクルスに話し、クルスの触手にしなだれかかった。ツヤツヤの肌触りと、ぷにぷにした感触。ほのかな温もりが実に心地いい。


 「んー」


 しかしクルスは聞いているのかいないのかわからないような気のない返事をするにとどまり、僕はクルスを突き回した。


 「クルス聞いてるの?」


 ぷに、ぷに、ぷに、ぷに。


 「ねぇクルスってば~」


 ぷに、ぷに、ぷに、ぷに。


 「あ゛~!!!! やめろカイトこのバカ!!!!」


 クルスはぐいん、と威嚇する蛇のように触手をもたげると、その先端を僕の顔の目と鼻の先に突きつけた。そこ、僕が貸し与えていた端末が握られ、画面には『GAMEOVER』と表示されていた。


 「今いいトコだったんだぞ!! オレ様十五面まで行ったんだぞ!!」


 今クルスがやっていたゲームはアプリゲームの『マッハストレス! クイック棒さん』だ。このゲームは定番の『イライラ棒』を模した、というかもはや丸パクリなゲームだ。設定された制限時間があまりに短く、そして通さなければならないコースも複雑過ぎて序盤からクリアすることが困難を極めたため、いわゆるクソゲーに認定されたのだ。やり方を教え、端末を貸し与えてプレイさせてみたところ、物珍しさからか、かなりどっぷりハマったらしく、かれこれ一時間以上も僕そっちのけでゲームに集中していた。つまり、一時間以上も放置され続けていた僕はかなり退屈していたのだった。

 

 ちなみにこのイライラ棒、ゲームオーバーになると最初からになり、しかも一面からやたらと難易度が高いのでまさしく『マッハストレス』という名に相応しいゲームだった。僕はというと、難しすぎて三十分で諦めてしまった。


 「十五面も行ったの? すごいじゃないかクルス」

「そうだよオレ様すごかったの!! それを邪魔しやがってぇ……。ぐずっ……」

「あー泣かないで泣かないで。また貸してあげるから。ちょっと充電厳しいから今日はもう無理だけど」

「ぐす……ほんとか?」

「ほんとほんと。嘘つかないよ。だからそれ、返してくれる?」

「うん……はい」


 ぐずるクルスから端末を受け取って、それをポケットに仕舞う。クルスには悪いけれど、今日は我慢してもらうしか無い。


 「それでー? 結局何でまた冒険者になろうなんて思ったんだ?」


 クルスにいきなり核心を突かれ、僕はぎくりと肩を強張らせる。けれど、なんとなく『クルスに恩を返したいから』とは言い出せず、結局適当にはぐらかすことにした。


 「いやまぁそれは……心境の変化、かな?」

「なんだそりゃ?」

「まぁまぁ。それよりもさ、クルスはどこか行きたいところとかって無いの?」


 それとなく尋ねる僕。その答えにはそれなりに期待していたのだが、しかし好奇心の旺盛なクルスとは思えないほど、素っ気のない返事が返ってきた。


 「別にねーな」

「え? 嘘?」

「嘘吐いたってしゃーないだろ。っていうか、オレ様の場合、行きたいとか以前に、動けねーんだよ」

「な……どうして?」


 クルスの言葉に、僕の胸に冷たい何かが突き刺さる感覚を覚えた。嫌な予感に不安を募らせる僕を他所に、クルスは淡々と事実を連ねていく。


 「単純な話だよ。オレ様達みてーなのは特殊でな。『寄生』っつって、そのまま自分自身を何か別の生命体に預けるか、あるいは乗っ取るかしなきゃ生きらんねー。一部しか繋がらねー『契約』とは訳が違う。ほとんど別の誰かに取って代わるのと同義だ。『同化』って言い換えてもいーかもな。んで、今オレ様はこの木を依代にして寄生してるワケ。こんだけデカい木だ。オレ様がただ生きていく為には十分なエネルギーがあるから、お陰でオレ様は日々を過ごせてるっつ―わけだよ」


 クルスはまるで何でも無いことのように、そんなことを言った。僕はその事実が受け入れられず、更にクルスに問いかけた。


 「そ、それじゃあつまり、クルスが別の生命体とかに寄生すればクルスは自由に動けるようになるんだよね?」

「んー? まーそうなるけど、そう上手くもいかねーらしい」


 言うと、クルスは大樹の根の隙間から一冊の本を取り出してきた。年季を感じさせる古ぼけた本には、『魔種族生態全書』と書いてある様だった。なんでそんな本がクルスの手元にあるのかについては、まぁ察して欲しい。暇と機会があればきちんとお返しするつもりだ。


 「えーと、あったあった。ほれココ。過去にも触手みてーな寄生が必要な魔種で家畜とか使って寄生に関する実験をしてたみてーだけど、結果はダメダメ。寄生させても拒否反応が出てお互いが死滅したり、どっちかがどっちかの自我を殺して乗っ取ったり生き残ったり、みたいな結果しか得られなかったらしい。人間でも一応試してみたらしいけど、こっちは特に酷かったっぽいな。実験の結果、出来上がったのは体から寄生体が出てきたえげつない死体の山か、ぶっ壊れた怪物だけだったってさ」


 クルスは本をパタンと閉じると、その本を再び樹の根元へ仕舞った。僕はというと、真っ白になった頭で呆然と宙を見ていた。おぞましい結果に当てられた、というのも無いことはない。だがそれよりも、クルスが動けない。予想だにしなかった事実に、僕は今まで感じたことがないほどの無力感に苛まれていた。


 確かに、僕は彼のような触手の魔種についてあまりにも無知だった。彼が動けるかどうかもわからない段階だったというのに、勝手な願いを持ってしまっていたのは、完全に僕のミスだ。


 だが、だからと言ってこの状況を認められるかと言われれば、それは無理な話だ。僕は彼に恩を返したい。彼のために出来ることを、やれる限りしたいのだ。

 

 結局、僕は何も出来ないのだろうか。折角出来た友達に、命を助けてくれた恩人に。何も、報いれないのだろうか。


 「? 泣いてんのか?」


 そんな事を考えていると、僕を心配するように、クルスは触手を僕の顔の前に持ってきて、覗きこむような仕草を取った。僕は慌てて袖口で涙を拭き、何でもないと無理矢理に笑顔を作った。


 「ごめん、何でもないんだ。じゃあさ、クルス。もしも、例えば僕に寄生とかして、僕の体を使ってどこかに行けるとしたら?」


 そんなことを、クルスに尋ねてみる。僕の訊いているもしもの話は、とどのつまり僕を殺して自由を手に入れるとしたらどうするか、そういう話だ。けれど、クルスはぷいとそっぽを向くと拗ねた子供のようにぷりぷりと怒りだした。


 「はっ!! やだねー!! 確かにオレ様、見たい景色が無いわけでも、行ってみたいどっかが無いわけでもねーが、少なくとも今のオレ様にとっちゃお前以上の価値があるとは思えねーもん。お前を殺さなきゃ手にはいらねーんなら要らねーよ」


 その言葉に、僕は言葉を失った。クルスは言外に僕が大切だと、そう言ってくれた。それは多分、クルスが――――。



 「友達は大事にしろ、なんて当たり前のこと、他の何忘れてたって忘れやしねーよ」



 僕を、『友達』だと本気で想ってくれているから――――。



 僕は、また目頭が熱くなって、どうせ隠すのであればクルスとは反対方向でも向けばいいものを、クルスの触手に顔を埋めてしまった。


 「クルスは、優しいね」

「そうかー? 普通だろ」

「普通に『普通の事』ができるのは、優しい人だけだよ」


 優しくて、強い人だけが。


 あぁ、彼はなんて大きいのだろう。大きくて、強くて、とても温かい。


 そんな彼だから、そんな彼と友だちになれたから、だからこそだろう。僕は心の中で、折れかけた自分を奮い立たせる。


 絶対に諦めない――――。


 そんな言葉を決意表明のごとく胸に深く刻み込み、決意を今一度。

 

 僕は顔を引き締めて立ち上がる。弱虫な僕だから、きっと些細な事でこれからも泣いてしまうのだろうけれど、それでも、絶対に諦めたりはしない。


 「もう、遅いから帰るね」

「おー、そっか。んじゃこれ持ってけ」


 昨日貰った魔避薬を受け取り、同じものを今度は霧状にして、帰り道用にクルスに全身に掛けてもらう。


 「ありがとう。また明日ね」

「訓練キツイんだろ? 無理して来なくたっていいんだぜ?」

「無理でも来るよ」


 せめて、クルスと旅ができる日が来るまで、泣き虫は休業だ。


 「クルスともっと話したいことがあるから、ね」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


 その後、僕はひたすらユーリさんの訓練に勤しみ、そして空いた時間はクルスの『寄生』について調べられる限りのことを調べた。


 しばらくするとレベル上限の低さから、ステータスが限界まで達してしまい、なんとも貧弱なステータスで落ち着いてしまう。

 

 それからはひたすら実践と座学の時間だった。冒険者として必要な教えをユーリさんから乞う傍ら、どうにかしてクルスと旅をする方法を模索し、夜はクルスとおしゃべりを楽しむ。そんな、今までの僕からすれば十分に激動の日々が続き、二週間が過ぎた頃。


 僕は、初のクエストに参加することになった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

次回は初クエストです! 戦闘シーンまで行く……と思います。

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