あの夏と、あなたと
お題:夕涼み・星が流れる理由を答えなさい
冬の夜は長い。日が傾いたかと思いきや、あっという間に街の景色は夜のものとなる。日が落ちれば、当然気温も下がってくる。そんな中、琴美は小さく身震いをしながら何かから逃げるように校門を後にした。顎下できっちりと切り揃えた真っ直ぐな黒髪が、掛ける足との振動に合わせて小刻みに揺れる。
校門を出て、暫くすると琴美の足どりは次第に緩くなっていく。呼吸を整えるように、何度も深い息をはいた。琴美はそこで、頬をつたう冷たいものに気付き、指先で頬を拭った。
「ばかだな。別に付き合ってたわけでも、ないのに」
呟きは弱々しく、こごえそうな大気の中に溶けて、消えた。
高校最後の夏休み。仲間たちと花火大会に出かけた琴美は、人混みに紛れるうちにみんなとはぐれてしまっていた。不安げにあたりを見回すも、見覚えのある顔はどこにも見当たらない。
諦めたように肩を落とした、その時
「琴美」
少し慌てたような口調の言葉が、琴美の背後から聞こえた。琴美が、その声に弾かれたように振り返ると
「一樹」
一際背の高い、短髪の、少し鋭い眼差しが、琴美を見下ろしていた。
「やっと見つけた。お前小さいから、捜すのひと苦労だったぜ」
そう言うと、安心したように肩を落とす……一樹。琴美は申し訳なさげに両手を合わせた。
「ごめん。香奈の後ろを歩いてるつもりだったんだけど、いつの間にか違う人になってて」
「ああ、ここだとまた流されちまう。少し道から外れよう」
琴美の声に軽く頷きながら、一樹は琴美の背中を強引に押す。背中に感じる一樹の大きなてのひらの感触に、琴美の胸の鼓動が一つ、鳴った。
一樹と琴美は、一年の時からずっと同じクラスだった。学年で一番背の低い琴美と、一番背の高い一樹。でこぼこコンビの二人は、一年生の時に担当した委員会活動が一緒だったことがきっかけで、三年間つかず離れずの微妙な距離感の中にいる。
けれど、いつの頃からか、細身で小さな琴美は、大きくてがっしりとした体格の一樹に憧れのような恋心を密かに感じていた。
「ちょっとした夕涼みだな」
人並みから少し外れた場所で、空を見上げながら一樹が笑った。申し訳なさげに俯く琴美を気遣う言葉だったのだろう。その声に、琴美が一樹を見上げた。
「ごめんね。折角みんなとの夏休み最後の思い出作りだったのに」
「そのうち見つかるだろ。気にすんな」
そう、軽く言ってのける一樹の表情が、夕焼けのオレンジに染まる。眩しげに瞳を細める一樹を、琴美は眩しげに見つめていた。
秋。琴美と一樹は、放課後、図書館で勉強するのが日課になっていた。そんな二人の中に入って来たのは、琴美の中学からの友だちの香奈。
「だって、琴美勉強教えるの上手いんだもん。一樹くんが琴美を独り占めするの、ずるい」
そうして、二人の時間は三人の時間となった。
秋から冬。季節は静かに色を変えていく──。
そして今日。
おそらく、その時間が終わりを迎えたのだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
下校時間のチャイムが鳴り、帰り支度を終えた琴美は、そう言って二人から離れた。
暫くして、戻ってきた琴美の視界に映し出されたのは、抱き合う一樹と香奈の姿だった。
立ち尽くす琴美と、一樹の視線が重なる。
琴美は、慌ててその場を立ち去った。
「だめだな。受験前なのに、しっかりしないと」
琴美は、自分を奮い立たせるように、声を出す。
遠く見つめた先は、夜の景色。星が煌めいていた。
「……星が流れる理由を答えなさい」
不意に、琴美が呟いた。
呟いて、ふ、と小さく笑う。酷く寂しげに。
「その星は、きっと私のなみだかな」
その時。
「──違う」
背後で、声。
弾かれたように琴美が振り返る。
一際背の高い、短髪の、少し鋭い眼差しが、琴美を見下ろしていた
フリーワンライ7回目
やはり一時間は厳しい。
今回、物語は割とすんなり全体像を描けたのですが、問題は遅筆で。
最後まで描ききれていません。
文章も、あらすじのような説明が多過ぎる。
これはひどい。
本当は「ラーメンはまだ伸びる」も入る予定でしたが、全く時間が足りませんでした。
途中で方向変えようかとも思ったのですが……。
私、ハッピーエンドが好きなので(笑)
そこは、どうしても貫きたかった。
しかし成長の欠片も無いな私。
このままで大丈夫か?(^_^;)