成金親父の名声
いつもありがとうございます
「何の御用でしょうか」
ここは寮の中庭。アーデルヘイトは成金親父に向き合っていた。
「貴様のせいで恥をかいたわ」
どうやら制服のことでフェーレン家に話がいったらしい。恥をはいたとは、アーデルヘイトに制服を渡さなかったことに由来するようだ。アーデルヘイトの制服もコーデリアが持っていったあたり、かなり悪意を感じる。
学校側とて、ギリギリまで動かなかったのだから同罪だとアーデルヘイトは思う。
そんなことを言って成金親父を喜ばせる趣味はない。
「それから、孤児院に顔を出しているようだな」
「そのことですか。アルバイトみたいなもんですけど」
「アルバ……? 何だそれは」
しまった、とアーデルヘイトは思った。さすがにこの世界にアルバイトなんて言葉はない。
「手伝いです。慈善活動だと思ってください。私がやればフェーレン家でやったことになるんじゃないですか?」
慌ててアーデルヘイトは言い直した。
ほとんどの貴族が何かしらの慈善活動をしている中、フェーレン家では全くやらない。「貧乏人にやる金も労力もない」と公言してはばからない家なのだ。
その分、収賄には糸目をつけない。そんな家だ。
成金親父が少しばかり考えていた。
「旦那様」
家令が成金親父に耳打ちした。
そして、アーデルヘイトの孤児院通いは親の公認となった。
アーデルヘイトと成金親父の会話を「聞いて」いた者が数名いた。
イザークとヴァイス、そしてヘルマン。
それだけではない。
エトウィン・ラウ・ヴェータ・ビュルシンクとクラウディア・ボー・ヴェータ・ビュルシンクの双子、それから学園の数名の教師、守衛などかなりいたのだ。
アーデルヘイトは「誰かしら聞いているだろう」という思惑だけで話したのだが、成金親父と家令は気がついていなかったようだ。
勿論、そこまで聞いている人数がいたとは知らなかったが。
この一件はひっそりと社交界で噂され、成金親父が気付いた時にはフェーレン家の家名は地に堕ちていた。
捕捉として。
アーデルヘイトは「聞かれている」のを承知で話しています。
寮の中庭で話してれば、誰かしら気付くというのがアーデルヘイトの考え。
それに対して父親であるルーベルトは「人払い」をしたから誰もいないという短絡的な考え。
王侯貴族の子息たちを預かる手前、学校側とて神経質になります。学院長がアレだとしてもです。
人払いしたふりをして、当然会話を聞いているわけですよ。