表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオイソラ  作者: 朔良こお
第一幕/偽りの皇女
12/59

幕間(2)心の支え

「帰ったぞ」

「お父様!!」


 皇女一行と共に王都へ行っていた父レオナルドが帰館し、アリシアはお帰りなさいの言葉ではなく、ずっと気になっていた事を真っ先に口にした。


「皇女様のご様子はいかがでしたか? お加減は良くなったのですか?」

「おいおいアリシア、それよりも先に私に言う事があるのではないか?」


 んん?――と、片眉を跳ね上げる父に、アリシアは居住まいを正し「お帰りなさいませお父様」と、父の頬に頬をくっつけた。なんともおざなり(・・・・)な感じのそれに、彼女の父親の後ろに控えていた婚約者の青年は苦笑する。


「遠くから見た感じでは、大丈夫そうだったが……」


 ムウッと唇を曲げる父のその返事に、アリシアは苛立ちを露にする。もう結構ですわと、父を押しのけ婚約者の前へと行った。


「お帰りなさいクラエス」

「ただいまアリシア」


 こちらは父の時とは違い、唇と唇をしっかりと重ね合わせる。レオナルドの頬がひくりと引きつるものの、お邪魔虫扱いされるのは嫌なため、疲れたから寝ると言って私室へと行ってしまった。アリシアは居間へクラエスを引っぱっていくと、長椅子に彼を座らせてその横に自分も腰を下ろす。そしてきゅうっと眉根を寄せ、右手を胸の前で握りしめた。


「わたくし、心配なの……」

「ん?」

「ウルリーカ様が……とても……。だってエンマったら酷いんですもの。あと二日くらい、ここで休んでいったって良いじゃない? それを無理矢理……」

「ああ――」


 そうだな――と、クラエスは同意するように頷くと、口をへの字に曲げているアリシアの、両方の手を優しく……愛しげに……そっと握った。


「おそらくあの侍女殿も、本心はきみと同じだっただろう……。だがあれ以上遅れては、陛下の不興を買うと判断し、無理をさせたんじゃないのかな? 実際、皇女殿下がヨーテに滞在している時、時間稼ぎをしているのではないかと言う貴族もいたらしい」

「どういうこと?」

「殿下がここにいる間に、帝国はファラフと敵対している国と同盟を結び、王都へ攻め込んで来るんじゃなか――って、そう邪推していた人間がいたってことだよ」

「んまぁ酷いっ!! ウルリーカ様は本当に、本っっっ当に、お体の具合が悪くていらしたのに!!」


 その貴族、馬鹿なんじゃないの――と、アリシアは眦を吊り上げ、感情に任せて床を踏んづけた。


「王都へ向かう間も、殿下は馬車から出てくることは殆どなかったよ。出てきても決まりとかで、薄布を頭からすっぽりと被っているから、顔色はまったく判らなかったけど……少し足もとがおぼつかなかったかな?」

「なんですって!!」


 青褪めるアリシアにクラエスは、翌日の大広間での様子を一部始終話してあげた。最初は険しい表情だったアリシアだったが、口づけの長さに呆れながらも、ウルリーカを抱き上げ後宮へ向かうくだりになると、きゃあきゃあと歓声をあげて己の事のように喜んだ。


「ねぇクラエス」

「なんだい?」

「大丈夫……よね? 陛下とウルリーカ様……」

「それは……どうだろうね。残念だが、断言はできないよ。ただ……」

「ただ?」

「ただ……できることなら殿下には、陛下の心の支えになってもらえたらとは思う」

「心の支え?」

「ああ。陛下を支える方は多くいらっしゃるが、心が安らぐ……心を預けられる……そういった相手となると話しは別だ。今の陛下には、そういった心を支えてくれる方がいない」


 だから皇女殿下には、そうなってもらいたいんだよ――と、クラエスはやんわりと口端を上げた。アリシアもそうねと頷く。


「ねぇクラエス」

「なんだい?」

「わたくしは貴方の……心の支えになれていて?」

「ああ。もちろんだよアリシア」

「良かった……」


 安心したように微笑むと、アリシアはクラエスともう一度唇を重ねた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ