変わり者なんて…
盆休み中間の日曜日。
普段でも人が多いこの街は、盆休みと日曜が重なったおかげで更に人が多い。
通りは人でごった返していた。
まだ朝の9時前だと言うのに、日は高く昇り気温が高い。
「きのうと言い今日と言い…なんでこんなにも暑いんだ?」
夏だから、当たり前と言えば当たり前の話。
一体何を考えているんだ…オレは。
頭がショートしたように思考が回らない。おまけに、体調は最悪だった。
「あっ…海!こっちこっち」
向こうで、南都美が手を振っている。
なんであんなに元気が良いんだ?
「おはよ。珍しいね…いつもは時間前にはくるのに?」
南都美は何気ない質問を投げ掛けてくる。
「ちょっとな。最近暑いから」
夏らしい白のワンピースに、肩掛けのバッグ。メイクの仕方もいつもと違う。
かなり気合いが入っているらしい。
「そっか。海は確か、暑いの苦手だったっけ?」
その質問に、オレは小さく「うん」と答えた。
「そう言えば…恒陽は?」
誘ってきた当の本人がいない。
まさかの遅刻か?
「すまん。遅れた」
噂をすればなんとやら。
まるで時間を計ったかのように、恒陽がやって来た。
その隣には、白いスーツのような…変わった服装の男が一人。
「遅いぞ…恒陽。それより、そっちは?」
「あっ!紹介するよ。こいつが安坂夕凪だ」
夕凪と呼ばれた白いスーツの男が、こちらに向かって微笑む。
「どうも。3人と同じ『神坂短期大学』の建築科に在席してる、安坂夕凪です。よろしく」
話してみれば、意外と気さくな性格。
彼のどこが変わり者なのか…?
「俺…敬語使うの苦手なんだ。タメ口でもいいか?」
「ぜんぜんいいよ!よろしくね安坂くん」
南都美とは早速打ち解けている。
「よろしく…安坂」
オレも、自分の手を差し出す。
「俺と同じ学科の。名前は確か…」
「有藤だ」
「そうだった!悪いな。忘れてたわけじゃないんだが」
安坂は、少し落ち込んだような表情を見せる。
「いや、いいよ。気にすんな」
「悪いな…ホント」
まだ表情は沈んでる。そんなに気にすることもないのに。
「…じゃあさ、代わりに飯おごれよ」
「えぇ!それはないよ!」
「はは。冗談だよ」
変わり者と言われる安坂。
最初は警戒していたが、まさかこんなに付き合いやすいやつだなんて。
警戒していたオレがばかだったかもしれない。
噂だけじゃ、本当のことはわからない。
「そろそろ時間だぜ?そこのお二人」
恒陽が声をかける。
時計を見れば、時間は9時半を過ぎていた。
「本当だ。会場に行かないと」
南都美がオレの手を引っ張る。
「よし!それじゃ、俺が最高のショーを見せてやるよ」
安坂の一言に押され、オレたちは会場へ走っていった。