前日の会話
8月の半ば。
世間は夏休みだと言うのに、オレは毎日バイトに明け暮れていた。
恒陽の勧誘から1週間がたち、今日は土曜日。
バイト先が「盆休みだろう」と珍しく休みをくれたので、久々の休日の土曜日。
「変わり者の安坂が…マジックショーだなんて」
大学でも有名な生徒。安坂 夕凪。
オレと同じ学科で、成績優秀。
定期テストは常に上位をキープ。
毎日誰かに注目されて、オレとは全くの正反対。
見た目も結構なイケメンで…いつも女子に騒がれている。
それなのに、彼女はなし。
と言うより、自分の回りに人を寄せ付けなかった。
それこそが…安坂が「変わり者」と言われる由縁だった。
「なんで…人が『嫌い』なんだろう?」
こんな事を考えながら、オレはテレビを見ていた。
今見ている番組は、芸人たちがコントを見せる、ありふれたバラエティー番組だった。
「しかし暑いなぁ…」
天気予報では「今日も猛暑日になるでしょう」と、連日騒いでいる。
「明日のマジックショー…南都美も行くかな?」
テーブルの上に置いてある携帯電話でメールを作成する。
『明日の予定空いてるか?恒陽が、マジックショーのチケットくれたんだ。3人で行かね?』
送信ボタンを押す。
すると返事は5分も待たずに返ってきた。
『いいねそれ!わたしも明日ひまだから、一緒に行きたい♪』
「よし。んじゃ、恒陽に電話しますか」
続けて、今度は電話をかける。
「……」
出ない。
あいつはなかなか出ないからな…。
諦めて電話を切ろうとした矢先
(おう!なんか用か?)
恒陽の声が聴こえる。
人が集まっているのか、電話の向こうは騒がしい。
「えらく騒がしいな」
(盆休みだろ?今、親戚が家に集まってるんだよ。んで、なんの用?)
呑気に話す恒陽の声を聴くと、少し笑えてくる。
「明日のショーだけどさ。南都美も連れていって良いか?」
(ああ。良いぞ。人数の多い方が、あいつも喜ぶ。それにしても…前日にお誘い)
「どうだ?羨ましいか?」
恒陽の反応に、オレは軽くドヤ顔をする。
と言っても電話なので、見えるはずもないが。
(ははは。リア充…爆発しろ)
「うっせばーか」
やつの一言に苦笑いしながら、恒陽の返事を待った。
「で。どうすんだよ?」
(チケットは、夕凪に言って調達しとく。明日の朝9時。いつもの場所に集合な!)
突然電話が切れる。
向こうは向こうで忙しいのだろう。
『明日9時に中央広場に集合』
この文章で、南都美にメールを送る。
すると、またすぐに返事が返ってきた。
『わかった♪じゃ、その時間にね』